「もうすぐ誕生日なんだよなー、俺」
語尾を輝かせながら、俺の一応……恋人らしいヤツが言った。
そう言えば、確かにもうすぐ長谷川の誕生日だ。
ちゃんと覚えてて、こんな風に切り出してくれないかなって思っているときに、切り出してくるから、気が利いているんだか、なんなんだか。
「……高いのは無理だかんな」
俺はサイフの中身を頭の中で思い浮かべて、そう言った。
欲しいと思っているものを買ってあげたいって気持ちもあるけど、そこは同じ高校生。
金を持っているか、持っていないかは承知の事実。
しかも、バイトしようとすると何故か長谷川はめちゃくちゃ嫌がるから、この歳になっても1回もしたことがない。
けど、俺の予想に反して長谷川はニンマリ笑って首を振った。
「金はかけないし、モノじゃない」
「へ」
「俺の誕生日までの課題」
「ちょ、おい!長谷川――っ」
誕生日まであと一周間。俺は途方にくれてしまうこととなった。
誕生日に欲しいもの。
うーん、俺なら任天堂DSに、新しいパソコン、ペットのポチの新しい首輪……。
どれもあの長谷川が欲しがっているとは思えない。
長谷川の家は俺より金持ちだから、欲しいと思うものはそれなりに手に入るだろうから、俺に欲しいって言わなくてもいいわけだし。
「うーん……」
俺が悩みに悩んで頭を抱えていると、俺の親友の海里が不思議そうに顔を見てきた。
「なんだよ、どうしたんだよ一体。そんな変な顔して」
「失礼だなー。顔はいつもと一緒だぞ」
「これは失礼、お姫様。表情がおかしかったのですから」
海里は絶対俺を馬鹿にしながら、俺の目の前の席に座った。
「――で、正直何に悩んでるんだよ。ダンナのことか?」
「な、なんだよ、そのダンナって!は、長谷川とは、俺は……」
「そうそう、そうだった忘れてた長谷川だ」
語るに落ちている俺は、慌ててたちあがったのにすべるようにそのままイスに座りこんだ。
「誕生日なんだよ」
「誕生日ねぇ」
次に何がくるかなんてわかりきってるのに、海里は俺の言葉を促すだけだ。
ほんっとーに、良い性格してるよ!
こいつは俺が悩んで、苦しんでいるのを昔っからみるのが好きなんだ。
「プレゼント!やっぱり……準備しなきゃならないだろ…その、一応」
「一応……ね」
俺が目で訴えているのに、海里にはまったくなんにも伝わっていかない。
「だけどさ、お金で買えるものでも、モノでもないっていうんだよ……なんだと思う?」
俺は頭が良くないから、こんなナゾナゾめいたことを出されてもサッパリなんだ。
頭をグシャグシャとかきまわしながら俺が言うと、海里は眉と眉の間にしわをつくって俺を見た。
「お前、一体何を悩んでるんだ」
「へ」
「お前、お金じゃ買えない、しかもモノじゃない。そりゃ一つしかねぇだろ」
なぬっ!!
一つしかないのか!?決まりきっているのか!?
そんなのも解けないようじゃ、また長谷川に馬鹿にされるじゃないか。
俺は海里の方へ身を乗り出した。
「なんなんだっ、それ」
「……お前」
海里の答えはたった三文字の言葉だった。
「……俺?」
「そう」
「……」
「恋人に欲しがるプレゼントっていったら、これしかねぇよなぁ〜」
「……俺?」
「そ」
……沈黙。
ええええええええっ。
「お、お、お、俺って、俺って、えっ、つまり、えええっ」
イスから転び落ちながら、顔がみるみるうちに真っ赤になっててしまう。
そ、それってつまり、えええっ!
けれど、驚く俺よりも驚いているような仕草をとったのは海里の方。
「お前、あの手の早い長谷川と付き合ってて、まさかまだセックスしてねぇの?」
「うわぁあああ!そ、そんな大きな声で言うなよっ、そ、その単語っ」
顔を真っ赤にさせて俺が怒ると、海里は外を見て為いきひとつ。
「お子様」
「な、なんだよっ!」
悪いかよっ。は、恥ずかしいだろ、そういうのって。
って、長谷川が手が早いのは知ってるけど……でも、そういうのってもっと時間をかけてやってくもんじゃ…。
「これじゃあ、長谷川が少し可愛そうだな。きっと手を出したくても出せなかったってとこだろ」
「ぇ……」
そうなのか……な。
男同士の恋愛でもそういう付き合いができるのは、長谷川と付き合ってから雑誌とかテレビとかで見て知ったけど…。でも、長谷川ってほら冗談でキスとかエロい言葉とか言ってくる割に、そんな雰囲気作ってこないから……。
「そういう……もんなのか」
「そういうもん。そういうもん。まぁ、お子様なお姫様にはわからないかもしれませんけど」
海里はまだ半分くらい俺をからかっているみたいだったけれど、俺はその言葉が気になって仕方なかった。
長谷川も俺と……したいのかな。
欲しいプレゼントって……ソレなのかな。
それって、俺が応えた方がいいの……かなぁ。
「お邪魔します」
「あ、う、うん……」
海里と話してからそれしか考えられなくて、俺は今日の当日を迎えてしまった。
上ずった声で長谷川をはじめて俺の家にいれ、部屋を案内する。
今日は家には誰もいない。
べ、別にだから選んだわけじゃないんだけど……。
「は、長谷川……あ、あのさ」
部屋に入って、ジュースもお菓子もそこそこに、俺はいてもたってもいられなくなって話題を切り出す。
「た、誕生日……プレゼントのことなんだけど……」
俺がその言葉を口にすると、ああ、と長谷川は今気づきましたと言う風に言った。
「それなら――」
「お、俺さいろいろ考えたんだっ」
長谷川が何かしゃべりたそうだったけれど、そんなの聞いていたらもっと恥ずかしくなるから、俺は思いきってしゃべり続ける。
「その、俺は女とも男とも付き合ったことなんてないし、長谷川はいっぱいの人と付き合ってきたんだろうし、そういうの慣れてるのかもって思ったりして、なんだか上手く言えないけど、もし、あの、長谷川が俺としたいって思うんだったら、俺…あの、平気だからっ!」
自分がどれだけ大胆なことを言っているかなんて気付かないうちに、俺はそれを全て言ってのけた。
目の前にいる長谷川の顔が真正面から見れない。
長谷川はキョトンとした後、なぜだかイヤラシク笑った。
「実は誕生日プレゼントは、『名前で呼んで欲しい』って言うつもりだったんだけど」
「え」
長谷川の言葉に俺は耳を疑った。
え、それって……つまり。
かぁああああっ。顔がさっきあのド恥ずかしい台詞を言ってのけた以上に熱く火照ってくる。
「君がそんなに僕のことを思ってくれていたとは……嬉しいよ。もちろん、据え膳は食わなきゃ男の恥じだから、美味しく頂くとしようかな」
「ぇ、あ、あの俺別に今日すぐってわけじゃ……」
「問答無用」
「あっ、ちょ長谷川っどこ触って……っ」
長谷川にベッドに押し倒されて、身体中を触られながら、俺は自分の低能さを恨む。
「あっ」
恥ずかしくって、居た堪れなくって見上げた長谷川の表情がちょっと嬉しそうだったので、俺はそれ以上抵抗できなくなってしまった。
終り。
――田中的感想――
モノって聞いて、なんだかものすごーくイヤラシイ話しにしようかなとかも思ったんですが(笑)、とりあえず純愛な二人の初めて物語りになりました。
でも、彼氏にあんな感じで言われたらみんな勘違いすると思いませんか?田中はそうだと思うんだけどなぁ(^^)
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