俺は一つの賭けをしていた。
この日、この時に……全てを託していた。
「ちょっと、待てよ……。俺、もういいんだって」
「そんなこと言わないでさ。きっと間に合うってば」
部屋で暇を持て余すように寝転んでいた親友を強引に引っ張り出すようにして、僕は冬の世界に飛び出した。
その日は例年にないほどの積雪で、銀世界というにはあまりにも残酷な美しさを秘めていて、綺麗だけどそれは綺麗なだけじゃなく。
人生初のデートの約束をこぎつけた親友の両親を事故に追いやり、幸い命に別状はないとわかったのは、デートの待ち合わせ二時間後。
もう約束から三時間はたっている。
「間に合わねぇよ……もう、いいだろっ。お前に関係ないじゃんっ」
「関係なくないっ」
僕は親友の手を握り締め、雪で隠れたレンガの坂を駆け上る。
僕はこの人が好きだった。
ただ、親友には思い人がいて、しかも僕は男で、戦うこともできなくて、伝えることもできない。まして、彼女から奪おうなんて気もなかったけれど、でも、思いがなくなることもなくて、毎日毎日苦しい恋をしてきた。
だから、僕は今日に賭けていたんだ。
もし、今日彼女がちゃんとデートにきて、そのあとコイツが僕の部屋にきて満面の笑みで『デート最高だったよ!』ってセッティングした僕にそう言ったら、僕はこの思いを捨てるつもりだった。
なのに、ちょっと遅刻しただけで諦めるなんて。
僕を中途半端にさせないで。
君の思いがそんなものだったら……今すぐ僕が君を連れ去ってしまいたくなるから。
「あ……」
坂をあがったところにある乙女の像の前で待ち合わせ。
そこは一面の銀世界がつくりあげる氷の祭り開催中で、それを見に行けばって僕が言ったんだ。
僕が一番大嫌いな冬の季節の冬のお祭り。
「美佳…」
僕と彼の繋いだ熱い手が、フワッと離れた。
涙が出るかと思った。
乙女の像の前には冷たくなった手を口から吐き出す息で暖めながら、少々不機嫌顔で待っている彼女がいた。
泣いちゃいけないと思った。
彼が僕に向かって笑って手を振っているのが見えて、精一杯の強がりで手を振り返した。
僕は賭けをしていた。
彼女がもしここにいなかったら、あの手を握っているのは僕だったのに。
それでも彼を応援している気持ちもなくなかったわけじゃない。
でも、やっぱり辛くて。
背を向けて二人が歩き出すまで僕は精一杯手を振っていた。
涙が、どうか彼に見えませんように。
どうか、僕は笑っていますように……。
「馬鹿だよね、ハルキって」
俺は、ニコニコ笑いながらハルキの気も知らないで歩いていく馬鹿っぷるが立ちさった後、そこに立ち尽くした馬鹿で、一途で、叶わない恋をしていたハルキを後ろから抱きしめた。
肩にはほんのり雪が積もっていて、温かいはずの頬や首筋も凍てつくように冷えている。
「ハルキがあいつ連れて来なきゃ、くっつくこともなかったのに」
「……うるさい」
馬鹿なハルキ。
自分が傷ついてもいいくらい好きなくせに、自分を苦しめてまで、そいつの恋を応援するなんて。
馬鹿で、間抜けで、どうしようもないくらい……可愛いハルキ。
大好きな……人。
「……泣くなよ、ハルキ」
声を押し殺して泣くハルキを、俺はよりいっそう抱きしめる。
俺は今日、このとき賭けをしていた。
もし、今日ハルキがあいつに告白したら、俺は潔く諦めるって。
「俺にしとけよ」
何百回とハルキに言った言葉が、何故か今日は重い。
いつもなら軽く馬鹿にして流すのに、ハルキはそんな俺の腕を握って泣いているだけだ。
付け込んでるってわかってる。こんな弱ってるハルキに助け舟のように言ったってしょうがないって思ってる。
でも、俺は天使でも神様でもないから。
隙でもなんでも付け込んでやる。
「……俺はハルキのことが世界で一番好きだよ」
拒否もせず、受け入れもせず、ハルキはただ俺の腕を握り、やっぱり声を出す事は泣くまるで降り積もる雪のように泣いていた。
俺はハルキを愛している。
だから、待っていたんだ。ハルキがちゃんとアイツのことを諦められるまで。
もう遅いとか言わないで。
間に合わないとか、ないよな。
「……わかってる……から」
いつも誤魔化すくせに、いきなりそんな泣き声のハルキに真剣に答えられて、俺はどうしようもない気持ちで、雪振る空を見上げた。
終わり。
★★★★田中的感想。★★★
さて、いかがだったでしょう?「間に合わない」です。
ややこしいですが、一方通行気味の三人を書いてみました。ハルキと「俺」はくっついたのでしょうかね?また機会があれば、100のお題の中ででも披露したいですね。
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