11、答え

最初。 小説。 100.



僕は、禁断の恋をしている。
 
 放課後の教室。
 三年生はほとんど部活を引退しているから、この季節こんな時間に教室に残っている生徒は少ない。
 上総は一人で夕日にくれていく教室を見ていた。
「おお、待たせたな。葉山」
 いかにも高校三年生の担任を受け持っていますというような、自分のクラスの担任が教室に訪れ上総は微笑を浮かべ、示された席につく。
 丁度先生と向かい合う姿勢となるこの座席は、少々苦手だ。
「――で、葉山のところは両親が忙しいんだったな」
 本当なら三者面談の予定だった。
 しかし、上総の隣に準備された二つのイスには誰の姿もない。
「はい、父は出張パリにいますし、母はアメリカの方に。進路は全般的に僕に任せるといってくれましたから」
「難儀なもんだな。まぁ、葉山の成績と性格を知っているからこそ……ってことか」
 先生は同情のような表情で、深くため息をつき、成績などが書かれているシートを開いていた。
 外では1年生や2年生が部活に走る声が響いている。
「――で葉山の進路は……」
 先生が口を開いた瞬間、教室の後ろの戸が開いた。
 ガラッ。
「失礼します、先生」
「……おお、葉山総太か」
「総太っ」
 上総は慌てて振り返ると、そこには弟の総太が学生服を乱暴に着こなし、カバンを肩にかけ突っ立っていた。
 ――総太……。
 上総は言いようのない気まずさから、顔を先生へと戻した。
「どうした。兄貴の面談が気になったか」
 他のクラスの生徒からも評判は良い教師は、まるで自分の教え子のように総太に声をかけた。しかし、総太は小さく頷いただけで空いていた上総の隣の席に座った。
「家族なんだから、ここにいてもいいよな」
 先生に聞いたのか、それとも上総に聞いたのか。
 総太は二人の返事を待つことはせず、机に肘をつき上総を見ないようにそっぽを向いて座っている。
「ああ、じゃあ……進めるか。――で、葉山の進路は」
「はい、今までと変わりなくそのとおりです」
 上総は迷うことなく、弟の顔を気にすることなくそうハッキリ答えた。
 総太は、ギリッと二人に聞こえないように歯軋りをしてなんとか自分を抑えこんだ。
 上総の進路は、二人が住んでいる県をずっと離れた東京の有名私立大学。
 それは、誰と言わず学校中の噂の的だった。
 本校始まって以来の秀才が、学校の代表としてそこを受けてくれる……と。
 誰も、誰も……上総と総太のことなんて知らないからお構いなしに。
 有名進学校であるこの高校で首席を保ちつづけてきた上総にとって、それは普通のことで、仕方がないのかもしれないけれど、総太には諦めきれない理由があった。
「そうか、もったいないな」
 もったいない?
 教師の呟いたホンネに、総太は上総を見た。
 総太の視線に気づいているはずなのに、上総は総太とは目線をあわさず教師をただ見つめ、姿勢良く綺麗な声でゆっくりとけど確かにそう言った。
「はい。県内にある国立大を目指します」
「国立大だって……っ」
 教師の声を阻み、総太は上総に襲いかからんばかりの勢いで机を叩き立ち上がった。
「どういうことだよ……上総」
 大好きな上総は、自分を置いて遠くへ行ってしまうとずっとずっとそう思っていた。
 弱音もはいた。
 文句も言った。
 そして、覚悟も決めた。
 なのに、どうして……。
「僕がやりたいことは遠くへいかなければ勉強できないことではありません。それに、僕はこの町に大切なモノがありますから」
 上総は何も言わないけれど、それは確かに総太に伝わった。
 合格確実な有名私立大への切符を捨ててまでこの兄貴は、自分を選んでくれたのだ。
「そうか」
 教師は諦めたように呟き、校庭を見た。
 夕日は既に暮れ始め、少し肌寒い空気が教室を包んだ。
 
 「上総っ……」
 後ろを追いかけてくる総太の声に、上総は足を止めはしない。
 呼ぶくらいなら、追いついてみろ……っ。
 上総の背中はそういっているようだった。
「上総」
 急に声が近くなって、耳元のすぐ傍で聞こえたと思ったら、身体全身がぎゅっと温かな温度で包まれる。
「上総……上総っ」
 答えはもうずっと前から決まっていた。
 こんなに愛しい人を置いてどこかへなんていけない。
 まして、それが一生続くかわからない……禁断の恋ならばなおさらだ。
「どこにも行かないで……絶対。離したくなんかない…から」
 行き過ぎた兄弟愛なのかと思っていた自分の思い。
 両親が家をあけがちで、足りない愛情を二人で補ってきたせいなのかと思い込もうとしていた。
 けど……。
 総太に思いをぶつけられた瞬間、愛していると言われた瞬間、身体を繋いだあの瞬間、答えは決まったんだ。
 傍にいられる限り、傍に居るって。
「早く追いついてくれよ……な」
 一生ありえない願いを口にしながら、上総は後ろの男に背伸びをしてキスをした。

 終わり。


最初。 小説。 100.

第一話の「始まり」以来の登場となりました。
兄弟モノで総太(弟攻め)×上総(受け)です。
何かの答えを出すって本当に難しい事です。
でも、こんな風に、
絶対に変わらない答えが見つけられたら最高なのだと思います。
純愛系・切ない系で突っ走るこの二人。
またいつの日か出てきますのでよろしく!


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