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● 12、音楽  ●

音楽

 「ふっ……っ……や、やだっ……ダメェ」
 頭ではダメだって思っているのに、身体はなんて正直なんだろう。
 触れられるたび、キスされるたび、好きだと囁かれるたび、僕はどうしてもこの人を好きなんだと嫌でも思わされる。
「何が、ダメ、なの」
「……こんな……の……いやっ」
「こんなのって?」
 僕の僕すら触れられない場所を、彼が触り、彼の欲望と成り果てた指が奥の奥の蕾を乱暴に、そして恥ずかしく開いていく。
 そんな、なんだか、人様にはいえない行為なのに、僕の興奮は募る。
 ダメ、ダメなのに。
「もうっ……や、やあっ」
 防音になっているこの部屋は、僕らの響き渡るような声を吸い取っていく。
 誰にも聞かせない。
 誰にもばれない秘密の歌声が、この部屋では響き渡る。
 誰も知らない秘密の恋。
「うそつき」
 少しだけ焦ったような、イラツイたような彼の声は僕の言葉を咎める。
 言葉と同時に、彼の指が僕の一番のポイントをわざと外すように痛めつけて、怒っているのが痛いほどよくわかる。
 でも、でも、ダメだよ。こんなの。
「ああっ」
「お前はこんなに……俺を欲しているのに。何が「ダメ」だ」
「……っ……ふぅ、ふっ」
 恥ずかしい。
 恥ずかしい。どうして、僕は、こうなんだろう。
 こんな関係やめよう、やめなきゃって、そう言おうとしてここまで来たのに、結局彼の手中に落ちてる。
 自分の意見を1つも言えないで、彼の与えてくれる快感に酔い痴れてしまう。
 彼が好きで、好きで、どうしようもない。
「好きじゃない……嫌い、嫌いっ」
 やっと言えた言葉は、彼を傷つけるしかない台詞。
 一瞬彼の目に、何ものにも帰られない光が見えた。
 情熱的で、感情的な彼の目に、一瞬だけど……まるで大人しい犬が捨てられたような、そんな色が。
「俺なしじゃ生きられないくせに」
「あぁっ、や、それ、やっ……」
 彼はそれだけ呟くと、僕の身体を反転させ、顔を壁に押付ける。
 彼が見えない中で、彼の声だけが耳に響いて、心も、身体も、痛くなる。
「こわい、こわっ……やだぁっ」
「黙れ」
 刃物のような彼の声は、彼の本性そのものだ。
 どきどき、僕だけに見せるすごく優しい表情も……彼のそれなのだけれど。
 僕は身体が硬直するように硬くなり、さっきまで与えられていた甘いような、快感が身体から抜けていってしまう気がした。
「気持ちよくしてあげるよ」
「ひっ……」
 身体の一部のように僕の中を蠢いていた指が抜かれ、それよりも情熱を放つ彼の欲望があてがわれる。
 囚われる。
 僕は、彼に囚われる。
 恐怖とともにくるこの高揚感。
 僕は狂っているのかもしれない。
 彼がくれる愛情と、快感と、恐いほどの束縛を、欲してしまっている。
「お前が、逃げ出したくなくなるようにね」
「っ……ぅあぁっ……ひっ……んっ」
 何度も、何十回も、何百回も味わった欲望を身体に受ける。
「うっ……んっ……あっ」
「気持ちいい?気持ちよくないわけがないよな……お前はこれが好きなんだから」
「ぁ……いやっ……」
 彼を傷つける言葉を発するたび、僕が傷つく。
「好きだよ」
「!……っ……」
「好きなのに、なんで……君は、いつも……っ」
「っふぅ……んんっ」
 好きだなんて、言わないで。
 僕だって、好きなのに。
 好きって、言いたくなるよ。
 ダメ、なのに。
「愛してる……」
「あああっ……」
 無理に首だけ動かされて、身体も繋がっているのに、口さえも奪われる。
 ねっとりとした愛液のような唾液が混ざり合って、世界が壊れればいいのにと本気で願った。
 本気で、恐いくらいに思った。
 僕はこの人が好きで、彼も僕を好きで。
 でも、僕はこの人を……苦しめる。
 僕は、なんで、彼と出会ったんあろう。
 僕は、なんで、彼を愛しちゃったんだろう。
「……愛してる、愛してる」
 まるで彼の書いたあの名曲のような、優しい言葉で、彼は僕を溶かす。
 身体とか、固体とか、個性とか、1人とか、そんなのなくて。
 まるで、子どもみたいに身体が溶けて、僕らは汚く、我武者羅にお互いの身体に交わろうと、必死に抱きつづけた。

「待てよ」
「!」
 彼が起きないうちに、僕はここを出ようとしていた。
 ううん、むしろ、もう彼の前から消えようとしていた。
 昨日の彼の言葉だけで、僕は生きていける。そう思えたから。
 けど、やっぱり彼は僕の一枚も、二枚も上手で、僕が立ち去ろうとした瞬間、眠っていたと思っていた彼の腕に捕まれる。
 その手は、逃がさない、と語っていた。
「お前が俺から逃げられると思うのか」
 涙が出そうになるけど、僕は相変わらず、ポーカーフェイスで首を振った。
「でも、ダメだよ」
「お前はいつもそれだっ!親の顔や、周りの目ばっかり気にして……っ。どうしてお前の言葉を聞かせてくれない……」
「……僕は……遊里のおかげでここまでこれた。僕は、遊里の邪魔はしたくない」
「邪魔なんてしてないだろ」
「……じゃあ、何……っ」
 もう駄目だ。
 みんなが言うんだ。
 お前は遊里なしじゃ何もできないくせに、って。
 そうだよ、僕は遊里なしじゃ何もできない。
 彼のつくりだすメロディーに、僕は彼への思いを載せる。
 僕の書く詩は、全部彼へのラブソングだ。
 彼の手も、歌声も、顔も、音も、身体も、誰にも見せたくはないけど。
 本当は僕の方が独占浴が上なのだ。
 彼に好きって言ってもらいたくて、わざと突き放す。
「地獄までついていくよ」
「……っ」
「お前が逃げるなら、どこまでも、ね」
 彼の音楽が僕をつくって。
 僕の詩が彼を狂わす。
 一生、僕らは僕らのためだけに曲を作るのだろう。
 それがミリオンセラーになろうとも、僕らは気にしない。
 それは、僕らのためだけの音楽。

@田中王国国王中田@感想。
あああ、すいません。なんだか暗くなっちゃった。
明るくエッチなの書こうと思ったのに、どうしてこうなったのか。プロットとか何も考えずに書くからこうなるんですよね(― ―;)
作曲家×作詞家って感じでした。
けど、お互いお互いが好きすぎで、うまくいかないと言うか。
もう、勝手にしてくれ〜って感じですけどね。
たまにはシリアスもいいですか?(^^;)
今度はちょっとお馬鹿な感じで書こうと思います。
ちなみに、20万ヒット記念でした。いかがだったでしょうか。
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