ぎゅっと オトナにおもちゃ。

リーマン。 企画。 小説。



ぎゅっと オトナにおもちゃ。

 有名ゲーム会社「Practice」の社長を勤めているのはこの男、長谷川八重。
 クールな外見、高い身長、何様と呼びたくなる俺様気質。
 世の女性ならば、目があっただけで恋に落ちると専らの噂な男だが、今現在はたった一人の男にそのココロを奪われていた。
「なんだよ八重、今忙しいって言ってんだろ」
 ハチミツ色の髪と、綺麗に整った顔立ちが人の視線をどれくらい集めているか知らない男は、安物のパーカーとジーンズに身を包み、どうどうと社長室のドアを潜った。
 彼の名前は海老名春日。
 ここ「Practice」の制作部門の総責任者であるためこの会社に無くてはならない存在だが、今では八重にとってもいなくてはいけない存在だ。
 まさか自分が男に虜にされる日が来るとは……。
 いつ考えても昔の自分なら大笑いしてしまいそうだが、事実なのだから受け入れるしかない。
「今日は1回もあんたを見てなかったからな」
「アホか。昨日も一昨日もあってるし、その前の日なんて仕事残ってんのに飲みに言ったじゃんか」
 春日の台詞に、八重は肩を竦める。
 見目綺麗で恋愛に苦労してなさそうな春日だけれど、どう考えてもそちらには疎いらしい。今まで何度もキスもしたし、抱きしめたし、デートに誘ってもそれを恋からくる誘いだとはまったく思ってないらしかった。
 先に気付いてしまった自分を慰めるように、八重は苦笑した。
 春日は自分に恋していると、八重は確信ににたものを感じていた。
 それは自惚れではなく、もっとこう……運命めいたもので。
 気付かないのなら、気付くまでまとうと思っていたのだがそれも結構限界のようだ。
「俺はお前に一日一回会ったって足りないんだけどな」
「お前、そういうことは彼女に言えばいいだろ」
 飽きれた春日の台詞に、八重は内心でだけ苦笑を零す。
 今まで女と何人も付き合ってきたが、自分から告白などしたことがなかった。気がつけば周りに女は溢れ、あっちから勝手に身体を近づけてきていたから。
 自分から言うのが気恥ずかしい気も少しはするけれど、言わなければこの人は一生気付かないだろう。
 一生モノに出来ないなんて考えただけで、欲求不満が溢れ出しそうになる。
 実際、ここ一年近く誰ともそういう付き合いはない。
 と言うか、誘いは受けたのだがしている最中にどうしても春日の顔が浮かんできて、抱いている女の前でその名前を呼んでしまってから、諦めてしまった。
 自分はもう……この男ではくては駄目なのだと確信したからだ。
 ただ、春日には俺でなくては駄目だと確信させるすべがない。
 さすがの策略家も少々煮詰まり状態というわけだ。
「じゃあ、俺もう行くからな。四月までに新作出すの忙しいんだっ。じゃな!」
 春日は簡単に踵を返すと、慌しく出ていってしまった。
 いくら同じ会社で働いているといっても、仕事中の春日と会う事はめったにない。八重はこの部屋で社長業務をこなしているし、春日は走りまわって制作にのめりこんでいるから。
 だから、こうしてたまに呼び出すのだが春日は人の気しらずですぐに帰ってしまう。
 あの笑顔が、八重の一日を左右するとも知らないで。
「失礼します」
 軽快なリズムでドアが叩かれ、八重は落ちこんでいた気持ちを振りきるように顔をあげる。
「どうぞ」
 八重が言うと、ディープピンクのメイド服に真っ白いエプロンをつけた秘書課部長本田が優雅にお辞儀をして入ってきた。
 新時代の会社として女性に制服の無いこの会社では、個人の自由を充分に尊重しているがこれほどパンチの強い女性も珍しい。
 全身ゴスロリファッションで、リカちゃん人形のような色に染めた髪と合わさって本当に人形のようだった。
 これで三十越えているというのだから、驚きだ。
「長谷川社長、ごきげんよう。今、ちょっとよろしいでしょうか」
「何か?」
「ふふふ、私、この会社はすばらしいと思いますけど、少し足りないものがあると思いますのよ」
 本田は社長の前だというのにそれを全く意識しない人間ナンバー二だ。
 もちろん一位は春日だが。
「足りないもの?」
 八重が聞き返すと、本田はにーっこり笑った。
「ラブですわ、ラブ」
 ラブが足りないといわれ、八重は人知れずドキリとココロを動かす。
 しかし、本田が言っていたのはそういうことではないらしい。本田は隠していた右手の奥から一つゲームを差し出すと、八重に突き出した。
「……恋愛ゲーム」
「ええ、そうですわ。この会社、まだ手を出していないジャンルでしょう。けれど、これこそ男も女もマニアもはまる最高のゲームだと思いますのよ、私」
 本田は格好を見てもその筋のオタク入っているのだろう、うきうきさせながらそう告げた。それまで恋愛ゲームを販売しようと言う案が会議で出された事がないわけではない。
 ただ、なんとなくお流れになってきてしまっていたのだ。
 新風を生み出すには持ってこいのこの季節を、本田は狙って社長に直訴しにきたらしい。
 八重は本田から渡された男性向けゲームを流し見るように見て、脇に置いた。
「じゃあ、次の販売会議で話しに持ち出してみよう」
 その答えは八重があまり興味を示していない事を表していた。けれど本田はめげる事無くそのゲームを指差した。
「今お時間がおありでしたらそれやってみてごらんなさい。ちょっとだけ……弄ってありますの」
「弄った!?」
 他社のゲームを弄る事はもちろんいけないことだが、まぁこっそり個人でだけ楽しむなら別に問題はないだろう。
 八重が驚いていると、本田はクルクルに巻いた髪をなびかせ高笑いしながら部屋を出ていった。
 残されたのはゲームと八重。
 八重はとりあえずやってみるかと、社長室に備えつけられている大画面テレビに繋がれたゲーム機にそのソフトを入れる。
 それは大人のゲーマーならば一度はやったことある恋愛ゲームで、実際長谷川も何度かやったことはあった。
 王道十八禁ゲームで、お風呂シーンあり、水着あり、エロありのかなり大人用ゲームだ。
 だから、弄ったといわれるとちょっと興味があったのだけれど……。
「……なんだこれは」
 主人公の名前は最初から設定済みで、変更がきかないようになっている。
 主人公の名前は……長谷川八重。
 八重は思わずガクッと肩を落とした。
 そして、しかも出てきたのが……。
「これ……あいつに見られたら怒られるぞ…」
 八重が思わず声を零すのも当たり前。
 主人公の前に出てきた、ヒロイン的存在の少女の名前は海老名春日。
 普通ならばここは女子高生で、セーラー服を着ているはずなのに、画面の中の海老名春日は学ランを着た男の子だ。
 顔は対して似てもいないけれど、髪だけはきっちりハチミツ色だ。
「本田さん……気付いてるのか」
 確かに所構わずキスはするし、一日に何度も春日を社内包装で呼び出したりしてしまうけれど、一応八重の恋愛は秘密の恋愛だ。
 しかし、あの本田だ。気付いていたとしても、おかしくはない。
「って、ちょっと……おいっ」
 普段慌てることなどない八重が思わず社長室で一人焦った声を出す。
 それというのもゲームの進行が弄る前のものと恐ろしくずれていて、ラブシーンばかりを抜擢した究極ゲームになっていたのだ。
 もちろん出てくるのは春日と八重のみで。
 海で、体育会で、旅行中の温泉でなぜだかイチャつく二人。
 恋愛ゲームのほとんどは主人公の顔は出てこない。主人公は自分で、自分の目線で女の子を見て、また女の子もこちらを向いているかのように画面を見るからだ。
 裸の春日が画面に向かって大すきだの、熱いだの愁た声で言って誘いをかける。
 本田さん……。
 八重が欲求不満で毎日過ごしていると言うのに、これは罰なのか褒美なのか難しいところだ。
 さすがに顔が似ていなくても、春日という人物が音声付きで誘いをかけるから居た堪れなくなって切ろうとした八重を止めたのは究極のラブシーン。
「……こんなところまで作ってるのかよ……あの人」
 身体を震わす八重の前に出てきたのは、浴衣を乱して着た春日と八重のベッドシーン。
 実際はフトンだから、寝床シーンとでもいうのだろうか。
『あっ、あん……八重ぇ……』
 画面の中の春日は自らの手で少しだけ胸元の浴衣を開き、綺麗な鎖骨を見せる。
 艶かしく揺らす足は、チラチラと内側を見せ男の欲望を楽しげに弄んでいる。
 春日の声とは全く違うのだけれど、喘いだ声で呼ばれ八重は顔を真っ赤にする。
 ……童貞の中学生じゃあるまいし…。
 自分で自分に言聞かせるが、心臓はバクバク言い続ける。
『……ん、そこぉ……あ、ああ、やあぁん、八重、駄目そこぉ』
 スイッチを切ろうと何度も思うのだけれど、男の性か手がスイッチまで辿りつかない。
 頭の中ではこれが春日じゃないことはもちろん承知の事実なのだけれど、どっかでそう思っていない場所がある。
 自分の欲望がさらけ出されている。
『あ、もっとぉ……』
「……春日…っ」
 自分は春日とこうしたいのだ……。八重は再確認してしまった。
 春日を抱きしめ、今までのと違う濃厚なキスをする。
 舌を絡ませ、唾液を飲みこみ、吸い上げる。歯列の裏まで舐め回し、春日の恥ずかしがる顔を見て微笑むのだ。
『あ、アッ……きてぇっ……八重ぇ』
 服を剥ぎ、身体の隅まで嘗め回し舌で愛でる。春日が達きたいだけ達かせて、それでもなお夜中身体を離さない。
 春日なら嫌がることを夜中しつづけてやるのだ。
 舌を春日の恥部に押し当て開き、潤わす。春日が感じそこが開くまでずっとなめ続けるのだ。どんなに春日が拒んでも、いやらしく笑った自分はそれを許さない。
 慣れてきたら指を一本だけ入れて、春日の感じる場所を探すように弄る。男でも感じるある場所があるというからそこを突いて何度でも春日を泣かせるのだ。
 狂おしい快感を与え、春日が求めるがままに抱く。
 熱く猛った欲望を春日の中に押し込み、春日を存分に味わうのだ。華奢な腰からその中がきゅっとしまって最高の天国を見せてくれるだろう事は妄想済みだ。
 一晩に何度でもその神聖で淫らな行為を繰り返し、春日を自分なしではいられない身体にする。
『八重っ、アッ、もっ、ひゃあっ……っ』
 声が枯れるまで喘がせ、ひたすらに腰を振る。
 春日の身体から溢れる甘い香りを自分だけのものにし、しゃぶりつくす。
『アぁあ――っ』
 画面の春日が一段と艶かしい声を上げ、画面に白っぽい影をつける。
 ここまで事細かに細工できる本田を秘書課にいれておくのはもったいないなと思いながら、八重は汚れた自分の妄想から現実へと戻る。
 欲望に正直な下半身が少々変化しつつあるのに気付き、八重はため息をついた。
 いくら欲求不満だとはいえ、春日とは似ても似つかない春日に名前を呼ばれただけでこうなれるなんて。
 重症だ。
「……はぁ、限界……かな」
 気付かせたい、じゃ駄目だ。気付かせなくては。
 そうじゃなきゃその前に自分が欲求不満でどうにかなってしまう。
 そう思った八重は、再び小さくため息をつきゲーム画面を切った。

 その数日後の販売会議で『恋愛ゲーム』の制作が本決まりになる。
 その制作部門チーフを春日に押したのはもちろん八重だけれど、『恋愛ゲーム』の案を出した本田がこっそり後押ししていたから、やっぱりこの女気付いているなと八重は身構えした。
 自分はいくら気付かれたっていいのだが、春日なら怒るだろうと思ったからだ。
 でも、春日が嫌がるだろうとちょっとは思いながらこのゲームチーフに春日の名前をあげたのには八重の策略もちょっと入っている。
 春日がこの事実を告げられるのは、後数日先のこと。


リーマン。 企画。 小説。

ぎゅっとオトナにオモチャ。
読んでくださってありがとうございました。
いかがだったでしょうか?ただの八重の妄想話になってしまいました。

感想お待ちしてます〜(^^)

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