小説。 | 兄弟。 | 最初。

● バレンタインも君じゃなきゃ嫌  ●

バレンタインと言えば、世の女の子たちが騒ぎたがる日。
 お菓子業界の策略だと言う人もいるが、たいていはその作戦に負けて、売上に貢献してしまうのだ。
 そして、ここ私立森重学園の生徒たちの中でも、みんなソワソワ、ドキドキ・・・。
 男子校なのだけれど・・・。
「はい、蜜葉ぁ、チョコレート」
「葉月っ!」
 森繁学園のアイドルと謳われている瀬川葉月は、自分の似てない兄弟・・・三つ子の一人に毎年のように手作りのチョコレートを作っていた。
 瀬川家の兄弟はこの学園ではちょっとした話題の的だ。
 その話題になる要素の一つに、三つ子ちゃんだと言う事があげられる。
 双子でも十分に珍しいのに、三つ子とくれば、みんながはやしたてるのもしょうがないというものだ。
 しかし・・・・・・問題はそれだけではなく。
 この三つ子、実は一卵性と二卵性が一緒に怒ってしまった三つ子で。
 つまり、一人だけ・・・・・・・・まったく似てないのだ。
 その似てないのが長男、葉月。
 真っ黒な黒髪が映える、透き通る肌ように白い肌。触ればもちもちとも、すべすべともつかない極上のさわり心地をしている。
 黒目の多い大きな瞳は、まるで黒いサファイヤ。その上にかかるまつげは、より一層葉月を際立てた。
 むさいイメージの男子校には不釣合いな位可愛い葉月。その外面以上に、中身はもっともっと清楚で、純情で・・・とにかく極上なのだ。
 その上、頭が良いとかきた。
 新入生代表の挨拶をアドリブでこなしてしまったと言う伝説は、今だ語り継がれている。
 そして、周りからはそっくりだと騒がれる次男、双葉と三男、蜜葉。
 高校一年生にして178センチ同士と言う身長は、今だ成長途上で伸びつづけている。葉月とは約20センチくらいの差。
 そして、女好きするような甘い瞳と、ジャニーズ顔はここ森重学園ですらファンクラブを作られてしまうほどだ。
 これで普通の共学とかに通っていたら、間違いなく双葉は切れていただろう。
 なんていったって、彼らの目には葉月しか映っていないのだ。
 同じ兄弟である葉月に恋をしたのは、二人とも同じ頃。
 いや、多分・・・お腹の中にいる頃から恋をしていたんだ。
 顔がそっくりのライバル。
 お互いにお互いを嫌悪しあっていたのは、言うまでも無い。
 葉月に言わせてもらえれば、三つ子の証でもある同じ容貌をもつ二人が羨ましくて、羨ましくて仕方なかったんだけど。
 それをずっとコンプレックスに思っていた葉月は一人単身でここ森重を受験したんだけど…まぁ、それを許す二人ぢゃないって事だ。
 ちゃっかり受験し、まぁ見事受かってしまったってわけ。
 この………全寮制男子校に。
 激しいラブバトルが、生徒会長である聖司を交えて行われ、今のところ双葉に勝利が与えられている…という感じだ。
 そんな葉月から、思いもよらぬバイレンタインの贈り物に、蜜葉は寮で思わず声をあげた。
「どうしたの?蜜葉」
 けれど、そんな蜜葉の思いなどわからない葉月は、毎年と同じ行為をしただけなので、思った以上に悦んでいる蜜葉を不思議そうに見つめた。
 ああ、もう…こんな所もすごく可愛い。
 蜜葉は改めて自分の兄を見つめる。
 蜜葉もまた、コンプレックスを持って生きてきたから。
 蜜葉が知る限り、葉月以外の人間は必ず蜜葉と双葉を見つけると、同じ言葉を口にした。
『双子?似てるねぇ』
 その度に、頭も胸も締めつけられるようだった。
 同じじゃない。似てもいない。俺と言う人物で見てくれる人はいないのか!?いつまで二人で一人みたいな考えをされなきゃいけない―――?
『双葉は双葉、蜜葉は蜜葉だよ』
 風。
 それはまるで、全ての賎しを取り払うような、神風だった。
 そして、俺にとっての大切なものをくれたのは…いつだって葉月だった。
「いや………ありがと。すごく…嬉しい」
「えへへ、俺もね蜜葉がそんなに悦んでくれると作ったかいがあるよ!」
「手作りなの?どこで作ったの?」
 ここは全寮制男子校で、長期休暇でもない限り皆家には帰らせてもらえない。
 食事もみんな寮の学食で食べるから、チョコなんて作ってる場所ないはずだ。
「あのね、学食のおばさんたちに無理言って台所借りちゃった。だって、やっぱり手作りのがいいでしょ?」
「もちろん!」
 葉月は運動神経がそんなにあるほうじゃないせいか、指先の器用さは兄弟随一だ。
 もちろん料理も上手くて、家にいるときは良く母さんと食事を作っていたのを見た。
 まるで、母娘みたいだって、父さんも笑って言うくらい。
「でも、こんなことしてアイツに怒られない?」
 チョコを貰った瞬間に浮かんできたのは、憎らしい男の顔。
 もう一人の兄の名だ。
「誰?」
 でも、葉月には皆目見当もつかない。
 この鈍感さは、時に罪。
「………昨日の夜、葉月を泣かせてた奴」
「………昨日の夜…?」
 寮での三人の部屋割は、双葉と蜜葉が同室で、その隣の部屋が葉月の一人部屋。
 寮の一つ一つの部屋は、プライバシーを重視していて、ちゃんと防音効果もある。けれど、夜中双葉が部屋を抜けだした事と、それが葉月の部屋に入っていった事を思い出して、ちょっとカモをかけてみたのだ。
 それでも葉月には曖昧らしく、小さな首をひねって考えている。
「葉月の身体の至る所に触って痕を残す、憎らしい奴だよ」
 そこまで言うと、さすがの葉月も気付いたのか、真っ赤になった。
「ちょ、み、蜜葉ぁ…な、何…き、昨日ってなんで…知ってぇ…っ」
 やっぱり昨日もしてたのか。
 語るに落ちている聡明な葉月を、蜜葉はぎゅっと抱きしめた。
「葉月、嫌な時ははっきり拒まなきゃダメだよ。じゃなきゃ、あいつ葉月を壊しかねないからね」
「み、蜜葉…っ」
 ゆでだこみたいに真っ赤になった葉月が、困ったような顔をしている。
 こんな小さい身体なのに、葉月はほぼ毎日あいつの好きなように抱かれているのかと思うと、嫉妬が憎悪に変ってしまう…。
「あ、あのね…俺、平気…だよ?」
 心配をしてくれているようだからと、ちゃんとお礼を言う葉月も葉月である。
 蜜葉はこんなセクハラまがいの言葉で、ちゃんと愛あってしている二人の行為をけなしていると言うのに。
 もし双葉が聞いていたら、間違いなく恐ろしい兄弟喧嘩が繰り広げられていた事だろう。
 ますます葉月が愛しくなって、もっとぎゅっとすれば、腕の中で葉月がビクンと揺れた。
「蜜…葉…あのね…ご、ごめん…ちょっと離れて」
 葉月らしかぬ台詞に、蜜葉は葉月の目を覗きこんだ。
 だって、普段の葉月ならば、ぎゅっとすればもっとぎゅっとして、と言ってくるはずだから。
「どうしたの?葉月」
「あ、あのね…うん…あの…双葉が嫌だって…」
 こんな時に一番聞きたくない名前があがる。
「双葉が?」
「う、うん…あの…蜜葉にね、ぎゅってされちゃ…嫌なんだって…言ってたから…ご、めんね」
 どこまでも従順な葉月は、あんな男の勝手な要望にすら答えるのだ。
 ムカムカムカムカ…。
「葉月……」
「ん?」
「今のところは一応双葉に譲って上げてるけど、俺は葉月を諦めたわけじゃないんだからね」
「ええぇ!?」
 温厚な葉月もこの宣言には驚いたようで、まん丸な目をさらに丸くして葉月は慌てふためいている。
 蜜葉が新たな気持ちを決心し、さらに葉月を抱きしめキスしようとした瞬間……。
「葉月っ!!」
 寮の向こう側から、大きな足音をたてて、猛突進してくる男が一人。
「ふ、双葉ぁっ」
 急いで腕を抜け出そうとするけれど、蜜葉の拘束は思ったよりも固い。
 葉月を奪ってやると決心したことを示すように、双葉に見せつけている……もちろん…貰ったチョコレートも一緒に。
「貴様……葉月を離しやがれっ」
 もともと熱いタイプの双葉は、自分の恋人を自分と同じ顔のやつに抱きしめられて、心底頭にきているようだ。
 すごい勢いで葉月と蜜葉を引離すと、自分の所有物だと見せつけるように葉月を抱きしめた。
「ふ、双葉落ちついてっ」
「落ちついてられるかっ!お前もなんでこいつになんか大人しく抱きしめられてるんだよ…」
「こいつって・・・蜜葉は兄弟じゃないかぁ」
「兄弟!?兄弟も何もこいつは・・・・・・」
 葉月を狙っているのに。
 そう言おうとして、双葉は蜜葉の持っている箱に気づく。
 綺麗にラッピングされたその包みから、連想されるものは一つしかない。
 今日が二月十四日だと言うことを行使すると・・・。
「葉月」
 いきなり矛先がこちらにむいて、葉月は再びビクッとする。
 双葉が恐いわけじゃないけど、なんとなく双葉の声には重圧があるから。
「お前、蜜葉にチョコをあげたのか」
「え?あ、うん。はい、双葉にもちゃんと・・・」
 葉月が双葉の分を取り出そうとすると、双葉はくるりと踵を返した。
「ふ、双葉・・・?」
「・・・・・・・・・いらねぇ」
「えぇ!?」
 双葉・・・?どうしたの?一体、どうしたの?
 いつも一緒に登校したがるくせに、さっさといってしまう双葉の後姿を、葉月は悲しそうに見つめていた。
 せっかく・・・せっかく双葉の為に作ったのに。
 いらない・・・って・・・言われちゃった。
 いらない・・・のか・・・双葉は・・・。
「葉月・・・・・・」
 葉月は、泣き出しそうになるのを必死にこらえて顔をあげた。
「・・・・・・・・・へへ、去年よりへたっぴだから、きっといらないって言われちゃったんだね。あ、ほらもう行かなきゃ・・・ホームルーム始まっちゃうよっ」
「・・・・・・・・・ああ」
 双葉に拒絶され傷ついた心をそのままに、葉月は蜜葉と登校した。

 「ばっかじゃないの、葉月」
 放課後、相談をもちかけ始終を説明すると、大声でそう言ったのは、親友の信吾。
 すっごい可愛くて綺麗な顔しているけど、ちょっとだけ口が悪いところもあるなんだかすごい子なんだ。
 高校に入ってからの友達だけど、すごく頼りがいがあって、今じゃ生徒会の一員だし。
「信吾ぉ〜・・・」
 葉月に泣きつかれて、信吾はハァッとため息をついた。
 そりゃ、好きな子が他の男に自分より先にバレンタインチョコをあげていたら、怒るだろうさ!
 どうしてわかんないかなぁ。
「なんで、蜜葉より先にアイツにあげなかったんのさ」
「そ、それは・・・双葉がたまたまいなかったから」
 本当・・・本当だよ?
 朝起きたらあげようと思ってたのに、部屋にいないんだもん。
 てっきり部屋に戻ったんだとばっかり思ってたから、蜜葉と一緒にあげようとおもったら、部屋にもいないし・・・。
 だから、蜜葉に先にあげる結果になっちゃっただけじゃないかぁ。
「それに、毎年二人ともにあげてたよ?」
「そういう問題じゃない。だって、僕は認めてないけど、仮にもあいつと葉月は恋人なんでしょ。だったら、先に欲しいし、他のやつになんか義理でもあげてほしくないね」
 そ、そういうものなの〜・・・?
 で、でも・・・兄弟なのに。おんなじ三つ子なのに。今まであげてたモノをあげなくなるなんて、俺には出来ないよ。
「どうしたら、双葉・・・・・・うけとってくれるかなぁ・・・」
 机につっぷして、はぁっとため息をついた葉月は本当に色っぽい。
 入学当初は可愛いとか、可憐とかのイメージが強かったが、最近はもっぱら男を誘うような艶かしいフェロモンを撒き散らしまくっている。
 それは・・・・・・あいつのせいかと思うと、腸煮え繰り返りそうだけど。
 でも、親友としてのポジションからして、こんなに困ってる葉月をほっとけないのもあるんだよねぇ。
 信吾は葉月の頭をぽんぽんと叩くと、耳に口を近づけた。
「良い方法があるよ。あのね・・・・・・・・・」
「うん、うん・・・」
 真剣になって耳をすませる葉月の顔は、まるで信号機のように変化した。
 始め真っ青になって、悩んだようになって、そして、真っ赤に。
 うん、太陽もびっくりの真っ赤さだった。
「で、出来ないっ!出来ないよぉ〜・・・」
 一つの机にイスを二つくっつけて座ってしゃべっていたのだが、その机がガタガタ揺れるほど、葉月は動揺して騒いだ。
「うわぁっ」
 イスがガタリと大きく震え、イスからコロンと転げ落ちる。
「葉月、動揺しすぎ。どうせもっとすごい事毎日してるんでしょ」
「し、信吾ぉっ!!」
 あまりの暴言は、純情な葉月には刺激が強すぎた。
 葉月は打ったお尻をさすりながら、なんとかイスに座り直すと、見上げる形で信吾をみた。
「・・・・・・・・・そ、そうすれば・・・チョコ・・・受け取ってもらえる?」
「!!?」
 さっきナイショ話で話したことを言ってるんだろうけど・・・冗談のつもりだったのに。
 まさか、本気でやるの?葉月が?
「僕だったら、受け取るね」
 ってか、その前に僕だったら断ったりしないけどね。
 そう心の中でつけたして…。
 まぁ、今朝の状況を見ると、葉月に悪いところがないと言えば嘘になるけど。僕はアイツが嫌いだから、絶対アイツの見方なんてしないんだからね。
「そう・・・・・・・・・アリガト。信吾」
「別に。これくらの相談くらい」
 ううん、やっぱり嬉しいよ。
 俺、今まで親友とかいなかったから、すっごく嬉しい。
 葉月は目の前の美人な友達に惚れ惚れしながら、ニコッと微笑んだ。
 葉月の笑顔は淫魔もびっくりの魔法だ。
 嫌な事とか、悪いこととか忘れて、これを守りたくなる。
 こんな笑顔をこんな教室でふりまくなんて・・・だから葉月は無防備だって言われるんだよ。
 自分が可愛いって言われている事も全部知って、今まで散々それを利用してきた信吾は、葉月のあまりの純粋さに負けた一人だ。
 だから、そんな葉月を双葉にとられて満足行っていない一人でも在る。
「うん、俺がんばってみるっ」
「・・・・・・まぁ、適当にどうぞ」
 葉月はあげるはずだったチョコの入った紙袋とカバンを持つと、イスから立ち上がった。
 教室から急いで駆け出していきそうだった自分の足をなんとかとどめると、葉月は紙袋の中から、真っ赤な紙に包まれた箱を一個とりだした。
「あ、信吾。はい、これ―――」
 そういって葉月が差し出したのは、紛れも無くチョコレートが入っているだろう箱。
 ちゃんと綺麗にラッピングされているけれど、それはどうみても手作りで。中身も手作りであることがわかる。
 まさか葉月からもらえると思ってなかったから、思わず素の自分になる。
「・・・・・・チョコ?」
「うん。甘いの嫌いだった?」
 葉月は心配そうに信吾を覗き見た。
 嫌い?嫌いなはずがない。
 もし嫌いだったとしても・・・今好きになるよ。
「僕に?」
 なんだか信じられなくて、もう一度聞く。
「うん、信吾にはいっぱいいっぱいお世話になってるから」
 その台詞から言って、義理でしかないんだろうけど。
 葉月にとって、これは義理でもなんでもないたった一つのお礼のチョコなんだろうね。
 まったく…。
「僕にまであげてると、またアイツがきれるんじゃない?」
「アイツ?」
 たま〜に…この葉月の頭の中はどうなってるんだろう、って思う。
 だって、成績は入学以来ずっと首位をキープしてるのに、ものすごぉいニブチンなんだもん。
「あ……」
 一人思い当たったのか、葉月が恥ずかしそうに顔を歪めた。
 そう…たぶん、そいつだよ、葉月。
「で、でも…これはお礼で…」
「双葉のとは違うっていうんでしょ。だったら、それを言ってあげなよ」
「う、うん…わ、わかった」
 その容姿からどう考えても目立っちゃう葉月は、それなのに目立つのが大嫌いで、どうしても大それた行為が出来ないのだ。
 でも、なんだか今日の葉月は………。
 ちょっと大胆っていうか…決心固い?
 そそくさと去っていく葉月の背中を見ながら、親心とも親友心ともちょっと違う切ない気持ちでため息をついた。
 こんな信吾の気持ちなんて、葉月は一生気付かないのだろうけど。

 葉月が寮に戻ろうとして、玄関に行くと、そこには今日遭いたかったもう一人の人物がいた。
「葉月君!」
「聖司先輩っ。どうしたんですか」
 ニコニコと走り寄ってきた葉月に、王子様スマイルを振りまいたのは、ここの生徒会長で、葉月に猛アタックをしていた(いる?)与那嶺聖司。
 双葉も蜜葉も警戒しているんだけど…俺は大好きな人の一人。だって、優しいし、カッコイイし、頭良いし。理想のお兄さんって感じなんだよね。
 俺だって瀬川家の長男なんだし、双葉や蜜葉のお兄さんだから、こういう人になりたいな〜ってどうしても思っちゃうんだ。
「さっき、生徒会室から君が帰るところなのを見つけてね、今日は一度も話してなかったから」
 相変らず物腰の柔らかいしゃべり方は、誰にでもすかれている彼を象徴している。
 葉月は、温かい気持ちになりながら、ニコッと微笑む。
「そうだ、俺、聖司先輩にチョコをあげたくて…」
「バレンタインのかい?」
「はい……チョコレートお嫌いでした?」
 さっきの信吾と同じような反応をしている聖司に、再び葉月は心配になる。
 もしかしてみんなチョコってあんまり好きじゃないのかなぁ。
 あ、それよりも……男の子から貰うってやっぱりおかしいのかな??
 ううん、先輩も信吾ももてるから…もしかしていっぱいいっぱい貰いすぎて、俺のなんか迷惑なのかな…うぅ…そうかもしれない。
「あ、あの迷惑なら…」
 渡したばかりの緑色の包み紙をした箱を再び取り上げようとする葉月の手に上から手をかぶせ、引き寄せた。
「迷惑…?とんでもないっ!!こんなに嬉しい贈り物は久しぶりだよっ」
「せ、先輩っ」
 学校の、しかも生徒が帰宅する時間帯の玄関で抱きしめられ、葉月は懇親の力で振り払う。
「んーっ、離してくださいぃ〜…」
「僕に抱きしめられるのは、そんなに嫌かい?」
「えっ…あの…そじゃなくて…っ」
 潤んだ聖司の瞳に見つめられ、葉月は言葉に詰まる。
 聖司のセクシーボイスが、葉月の耳に直接かかり、頭の中に浸透してくる。
 一学年違うだけなのに、どうしてこうも聖司は大人の男の雰囲気がでているのだろうか。
「……葉月君」
「は、はい?」
 答えに困って黙っていたら、聖司の方から話しかけてくれた。
「そんなんじゃ、つけ込まれてしまうよ?」
「つ、つけ込まれるって…っ」
 今すぐに押し倒してしまいたい…。
 聖司はぎゅっと葉月を抱きしめ、耳にキスをする。
「ふっ…せ、先輩っ」
 首筋に顔を埋めようとした瞬間、ヒンヤリとした空気が聖司を襲った。
 この空気…こんなのを醸し出せるのは一人しかいない。
「てめえっ!!」
 葉月はいきなりきつい拘束から解放され、何がなんだかわからないうちにトンと転んでしまった。
 自分の身の内に起こった事を理解できぬまま、顔をあげれば、自分のすぐ横で聖司が男に胸ぐらを掴まれている。
 聖司は―――至って余裕のようだけど。
「双葉っ…せ、先輩に何して…」
 そう、やっぱりそいつは双葉で。
 葉月の危機をすばやく察知してかけつけてみれば、一度葉月に不埒な事をしたことがある聖司に葉月は丸め込まれているときたもんだ。
 急いで引き剥がし、一発食らわせようと制服の胸ぐらをつかんだ瞬間に、葉月が気付いたのだ。
「ああ、葉月君君は心配しなくても大丈夫だよ」
「当たり前だ。お前ごときに何が起こったって、葉月が心痛める必要なんかないからな」
「双葉っ!」
 もう…双葉ぁ…。
「双葉、帰ろっ」
 葉月は荷物を持って立ちあがると、上履きのまま双葉の腕をつかんでひっぱって外に連れ出した。
「葉月っ…葉月っ?」
 生まれてからずっと一緒にいたが、葉月がこんな強引な行動にでたことなんて、ほとんどなかった。
 あるとすれば、母さんが三つ子なんだからと、おそろいの服を買ってきたのを着るのを嫌がっていた時とか。
 どんなに呼びかけても無言の葉月は、そのまま自分の寮の部屋の鍵を開け、双葉を押しこむように部屋に入れた。
「葉月、どうしたんだよ…」
 朝、怒っていた事も忘れ双葉は葉月の読めない行動にあたふたする。
 一人部屋でも寮というからには狭い。
 整頓された葉月の部屋にあるのは、ベッドと勉強机くらいだ。
 葉月は双葉をそのベッドに座らせると、カバンをガサゴソとやっぱり無言で弄っている。
 双葉も観念し、仕方ないとベッドに仰向けにゴロンと転がった瞬間、とんでもない事が起きた。
 なんと、葉月が双葉の腰のあたりにまたがってきたのだ。
 あの葉月が!
 エッチだって毎日ペースでしているけれど、顔を撫でる事にもまだ慣れず、初々しさ100%の、あの葉月が…だ。
 さすがの双葉も驚くと言うもの。
 身体中に緊張が走って、ドクンと波打つ。
「―――双葉っ」
「んっ…っ!?」
 またがった葉月は、一言双葉の名前を呼ぶと、そのまま双葉の顔に顔を近づけてきた。
 唇の位置を確認すると、勢い良く葉月は唇を重ねていく。
 葉月からキスをすることなんてほとんどない。
 つまり、慣れてない。
 カツン。
 歯と歯があたったのか、そんな軽快な音が響いた。
 双葉はこの意味不明な行動をしかと見ていたくて、目をずっと開けていたのだが、葉月の顔がみるみるうちに真っ赤に火照っていく様を見て、思わずクスリと笑ってしまった。
 そのうちに、口の中に甘い、甘い味が広がっていく。
 葉月から受け取ったキス…だからの甘さじゃない。
 この味は……?
 葉月はソッと顔をあげ、憤って上がった呼吸をはぁ、はぁと言わせていた。
「チョコ………?」
 双葉が囁くと、葉月は目を閉じたままでコクンと頷いた。
「こ、こうすれば…双葉もきっと食べてくれるって………信吾が…」
 純真な葉月の事だ、これくらいの行為でもするまでに多大な決心がいらったであろう。
 双葉は葉月の口元についた、チョコレートを舐めとった。
 甘い、甘いチョコレートが葉月の熱でトロトロに溶けて、おかしなくらい甘くなっている。
 口元から、唇までをペロペロと舐めつづける双葉に、葉月は怖々尋ねる。
「双葉……もぅ…怒ってない?」 
 泣きそうな葉月の声に、双葉は柄にもなく穏やかな顔をした。
「………ああ」
「本当…?」
「本当だよ、ああ、上手いな葉月のは…いつも」
 双葉はベッドサイドにおかれた、残ったチョコを食べて、笑った。
 双葉用にビターチョコレートで作ったそれは少し大人な味で。
 双葉が一番好きな味だった。
「ありがとう、葉月」
 そう言われたとたん、葉月の目からは涙がぽろぽろと零れ落ちた。
 それまで我慢してたというか、せき止めていたものが全て落ちてしまったようだ。
 双葉はそれを舌で舐め取った。
「ふっ…んっ…双葉ぁっ…あっ」
 涙が止まらなくて、舌足らずになっている葉月の声を聞き漏らすまいと、双葉は葉月の腰に手をまわし、もっと自分に近づけた。
「……俺ね、俺ね、双葉は怒るかもだけど…」
「ん…」
「蜜葉…蜜葉とかにね、チョコあげて…お礼…アリガトって言ってもらえてね…嬉しかったんだけど…でも、今双葉に言われたのが…一番嬉しくて…っ」
 それで、なんだか涙がでちゃったんだ。
 おかしい…かもしれないけど。
 葉月は自分で目を擦りながら、ハハって笑った。
 双葉は葉月の身体のどこにも触れず、口を突き出した。
「んっ……っ」
 どこにも触れられていないから、嫌だったら拒めるキス。
 けれど、拒みたくないキスなのだ。
 葉月は自分からもどうにか思いを伝えたくて、必死に双葉の舌に絡めていく。
「っ…ふっ…双っ葉……ぁっ」
 チョコレートの味の残ったキスは、蜜を溢れさせ、葉月の口の端から、光雫が落ちていく。
 双葉はそれすら吸いつけるように葉月の頬を両手で挟み、もっともっと激しい口付けをしてきた。
 上半身がガタガタと揺れ出し、下半身にも刺激が行く。
 葉月にまたがれているなんていう、刺激的な格好のせいで、双葉のソレは既に勃ちあがりはじめていたのだけれど。
 もちろんまたがっている葉月が、それをわからないわけがなくて。
 キスのせいで揺れる体がその突起に当たるたび、切ない声をあげた。
「んっ…ああっ…ひゃあっ…」
「葉月……葉月…」
 双葉は葉月の衣服に手をかけ、少しずつ制服のボタンを外していく。
 葉月のピンク色に染まった胸がだんだんと見えてきて、それにつれて、欲情していく。
 何度葉月を抱いても、何度葉月を泣かせても、いかせても…足りない。欲望はどんどん膨らむばかりで。
 葉月のもっともっとを欲しがってしまう。
 それこそ…壊して一人占めしたいと思ってしまうくらい。
「んんっ…ああっ…双葉…何してっ」
 葉月のベルトを外し、ズボンと下着を膝くらいまで下げたとき、双葉の不穏な手付きに葉月は朦朧とする頭で尋ねる。
「チョコレートは二人で食べた方が美味しいだろ」
 双葉は葉月を支えていない方の手―――左手でチョコレートを数個つまみ出すと、葉月の隠れた奥の蕾に当てた。
 コロコロとした丸型のそれは、葉月の小さな蕾の入り口を遊ぶように動き回り、葉月の淫猥な表情を生み出す。
「ひゃああっん…双葉っ…ダメっ…それダメっ…変になる…」
「葉月…今すっごいやらしい顔してる…」
「い、言わないでっ…あぁん…っ」
 チョコレートはだんだん葉月の熱で溶けはじめ、とろけた温かい液体が双葉の指先を汚す。
 双葉はニヤリとそれを少し舐め取る。
「ふぁ…あっ…ああっ」
「美味い」
 葉月の蕾の周りついたとろけたチョコレートをすくって、双葉はそれを蕾に押しこんだ。
「んあっ…嫌っ…チョコがっ…」
「痛くないだろ、これで」
 痛くないけど…痛くないけどぉ…っ!!
 葉月は涙目になりながら嫌、嫌と首を振った。
 だ、だって自分で作ったチョコが、な、なんでこんなことにぃ。せっかく双葉に食べてもらおうと思って作ったのに。
「も…食べられない…じゃないかぁ…っ…ああっ」
 非難の言葉を浴びせれば、双葉はシレッとして、答える。
「良いんだよ……俺は葉月ごと食べるんだから」
「ああっ!!」
 そんな恥ずかしいセリフとともに、葉月の中に入ってきたのは双葉の熱棒。
 チョコレートの滑りを借りて、ぐんぐんと中に入りこんでくる。
 いつもとまた違った感覚に葉月は身体をくねらせ、大きく自身を波打たせる。
「ああっ…ひゃあっ…」
 入りこんできた瞬間の大きな圧迫を越えると、葉月を次に襲うのは大きな快感。
 もともとストイックな葉月だが、双葉に与えられる刺激にならされてきていて、すぐに喘ぎ声をあげる。
「っ…もっ…ああっ…ひゃあっ」
 言葉にならない言葉をしゃべりながら、必死にしがみついてくる葉月が可愛くて、双葉はますます腰を振る。
 上に乗っかった葉月はそのたびに眉の間にしわを寄せて、可愛い声をあげた。
「葉月…知ってる?これが騎乗位って言うんだよ」
 葉月が可愛くて、可愛くて、誰にもとられたくなくて、葉月の全てを誰にもあげたくなくて、チョコレートくらいでヤキモチやいて。
 双葉は尚も、葉月を言葉で可愛がる。
「し、知ら…なっ…ああっあー」
「葉月っ…」
 ズッと葉月の奥まで突き上げた瞬間、葉月はこれまでに感じた事のない以上の悦を感じ、白濁としたものを放った。
 その時、チョコレートの蕩ける葉月の中で、双葉も絶頂に達したのは言うまでもない。
 二人は、最高のチョコレートの味わい方で最高のバレンタインの夜を過ごした。

 1ヶ月後の3月14日。
「葉月!」
「葉月君っ」
「葉月―っ」
 三人の男が、葉月に貰ったチョコレートの倍以上…いやそれ以上のお返しを持って、葉月のクラスにきていた。
「あ、ありがと…っ」
 冷や汗たらたらで葉月はそれを受け取っていた。
 だって。
 もうすぐ双葉がきちゃうんだもん………しくしく。
 また大変なことにならなきゃいいんだけど…。
 だって、俺はやっぱり…。
「葉月から離れろっ!てめーらっ」
 やっぱり…双葉じゃなきゃ嫌だから…。

完。
小説。 | 兄弟。 | 最初。
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