●● 始まり ●●
「怖い?」
さっきから俺の顔を見つづけ、不安そうなヤツが言う。
かたかた震える肩、潤む瞳は、恐怖からじゃないのに。
「兄さんって呼び方だけは……今は止めて」
俺が涙を零しながら言うと、俺をベッドに組み敷いている男が少し笑った。
「上総……」
「なんでお前が泣きそうなんだよ」
怖いのも、痛いのも俺じゃないか。
初めて与えられる愛撫は、恐怖と混乱が入り混じって、A型気質そのものの俺は素直に受け入れられなかったのを、お前は見ているだろうが。
「やっと……手に入ったから」
図体ばかり大きくて、いつも良い所を損する弟が、こんなに幸せそうに笑ったのを、俺は見たことがあるだろうか。
否。ないな。
今がはじめてだ。
「怖くないから、大丈夫だから」
雄の顔をした弟の手が、再び俺の頬をなぞり、首筋を伝い、胸へと落ちていく。
心臓が恐ろしいくらい飛び跳ねているのを、こいつは知ってる。
俺の言葉がただの強がりであるということも知ってる。
でも、俺は平気な顔をする。
だって、もし俺がここで泣いたら、止めてと叫んだら、俺が一番後悔するんだ。
「来いよ…」
「上総……愛してるんだ…愛してる」
餓鬼のように我武者羅に抱きついてくる男の背中に手を回し、俺は涙を流す。
「俺もだよ」
一線を超える事は、ハッピーエンドではないんだ。
兄弟で、男な俺たちは。
これが、始まり…なんだ。
「ぁ……っ」
二人の涙が溶け合うけど。
二人の身体が溶け合うけど。
朝は俺達を無情にも、現実へと連れ戻す。
初めて身体を重ねる弟×兄の話しでした。
エッチする事が、最終目的ではない。
一生一緒に幸せにいられたら良いのに……。
そんな切ない気持ちを書いてみました。
-Powered by 小説HTMLの小人さん-