小説。 | 100. | 最初。

● 始まり  ●

「怖い?」
 さっきから俺の顔を見つづけ、不安そうなヤツが言う。
かたかた震える肩、潤む瞳は、恐怖からじゃないのに。
「兄さんって呼び方だけは……今は止めて」
 俺が涙を零しながら言うと、俺をベッドに組み敷いている男が少し笑った。
「上総……」
「なんでお前が泣きそうなんだよ」
 怖いのも、痛いのも俺じゃないか。
 初めて与えられる愛撫は、恐怖と混乱が入り混じって、A型気質そのものの俺は素直に受け入れられなかったのを、お前は見ているだろうが。
「やっと……手に入ったから」
 図体ばかり大きくて、いつも良い所を損する弟が、こんなに幸せそうに笑ったのを、俺は見たことがあるだろうか。
 否。ないな。
 今がはじめてだ。
「怖くないから、大丈夫だから」
 雄の顔をした弟の手が、再び俺の頬をなぞり、首筋を伝い、胸へと落ちていく。
 心臓が恐ろしいくらい飛び跳ねているのを、こいつは知ってる。
 俺の言葉がただの強がりであるということも知ってる。
 でも、俺は平気な顔をする。
 だって、もし俺がここで泣いたら、止めてと叫んだら、俺が一番後悔するんだ。
「来いよ…」
「上総……愛してるんだ…愛してる」
 餓鬼のように我武者羅に抱きついてくる男の背中に手を回し、俺は涙を流す。
「俺もだよ」
 一線を超える事は、ハッピーエンドではないんだ。
 兄弟で、男な俺たちは。
 これが、始まり…なんだ。
「ぁ……っ」
 二人の涙が溶け合うけど。
 二人の身体が溶け合うけど。
 朝は俺達を無情にも、現実へと連れ戻す。


初めて身体を重ねる弟×兄の話しでした。
エッチする事が、最終目的ではない。
一生一緒に幸せにいられたら良いのに……。
そんな切ない気持ちを書いてみました。
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