小説。 | 100. | 最初。

● それだけは勘弁してください。  ●

 『愛してるよ、蓮見』
 テレビから流れてきた声に、俺は食べかけだったコロッケパンを口から落とす。
「あらやだ〜……英君ってテレビに出ても男前ね、蓮見ちゃん」
 おいおいおい。この乙女チック母よ。
 さっきこの男が吐いた、おっそろしい言葉を聞いていなかったのか。
 いや、もしかしてさっきの声は俺にだけ聞こえた幻聴とか!
『きゃーっ!英喜君ーっ』
 テレビの中の少女達が、いつもの黄色い歓声では無く、恐ろしい嫉妬の声を出している事で、俺はそれが現実だったのだと思い知らされる。
「馬鹿か……」
 テレビに向かって呟いた瞬間、家の玄関からリビングに繋がる廊下がドタバタと鳴る。
「蓮見――っ」
「蓮見さんっ」
「あら、いらっしゃい。英喜君。山田さんも」
 入ってきたのは……先ほどテレビで俺に愛を囁いた男と、その馬鹿の管理を任される苦労性なマネージャーさん、山田さん。
 本当……可愛そうだなぁこの人も。
「蓮見さん!どうにかしてください。て、テレビでこの人ってば貴方に迷惑のかかるような…ああ、それだけじゃないわが社にだって…」
 泣きつかんばかり……というか、既に泣きついている山田さんの頭を俺は可愛そうになり、撫でると、それを英喜が引き剥がす。
「お前が蓮見に触るな!俺だってずっと触れてないんだぞ」
「止めろ」
 俺は冷たく英喜に言葉を投げつける。
 止めてくれ……俺の親の前で。
 いくら親公認で、幼馴染だって言ったって、俺らは男同士なんだから。
「なんだよっ。なんで蓮見まで不機嫌なんだよ」
 不機嫌にもなるって言うもんだ……。
 全国ネットの、ゴールデン番組『ミュージックバスステーション』で、あんな事を言うなんて。
「そうですよね!怒られますよね!ほら、だから言ったじゃないですかっ」
「なんだよ蓮見は俺と、日本国民公認の恋人になりたくないのかっ!」
「……なりたくない」
 頭の中に花が咲いていて、一年中春で、発情期なこの男には、今の現状がとても幸せで、楽しくて、嬉しくて仕方がないらしい。
 俺だってそれは一緒だけれど、こいつみたいに認められたいとか、言いふらしたいとか言う可笑しな性癖はない。
「……蓮見が冷たい……山田!お前のせいだぁっ」
 このところ仕事が増え忙しくなったせいで、なかなか会えなかったから、とうとう英喜は壊れたらしい。
 山田さんにまで迷惑かけて……。まったく。
「ほら、ちょっと来いよ。英喜」
「あら、行っちゃうの?蓮見ちゃん。あ、お部屋にお茶持ってくわ」
 残念そうにこちらを見ているのは、お茶を出し損ねた母。
 この人は自らの息子より、英喜を大切にしてるくらいのファンなのだ。
 まったく……。
「いらない」
 残念そうな声を出した母を慰めているのは、さっきまで泣きべそかいていた山田さんだ。
 マネージャーって本当大変だなぁ。

 俺は部屋に英喜を連れこむと、英喜をベッドに座らせ、俺は勉強机――既にマンガ本だらけだけど――のイスに腰掛ける。
「なんだよ急に……あんな事しやがって」
 アイドルにとって危険なのはスキャンダルだ。
 俺は英喜にちゃんとアイドルとして売れて欲しいし、仕事をして自我と言うものを育てて欲しいから、スキャンダルだけは避けろとキツク言っていたのに……。
「だって」
 英喜は唇をとがらし、いつもテレビで、お茶の間のお嬢様方に飛ばすクールビューティーな笑顔はどこふく風といわんばかりの顔で、呟く。
「だって、最近蓮見……冷たいから…会えないの拗ねてるのかなっておもって」
「……俺はそういうキャラじゃないだろ」
 誕生日に歳の数だけのバラの花束や、夜景の見えるホテルのレストランで君の瞳に乾杯などといわれ、喜ぶのはうちの母の方だ。
「ごめんね、会えなくて」
 アイドルとして売れると思ったのは俺だ。
「なんで謝るんだよ」
「……好きだから?」
 なんで疑問系なんだよ。
「寂しい思いさせてるから」
「……寂しくない」
 今度は俺が顔を背けて言えば、いつの間にかたちあがった英喜が、座ったままの俺を背後から抱きしめる。
「……週刊誌のあの記事は嘘だから……俺が好きなのは蓮見だけだから」
「……」
 三日前発売された週刊誌で、英喜は今ドラマで一緒の大物女優と一緒にホテルに入る写真を載せられた。
 打ち合わせだったって事を俺は知ってる。みんなも一緒にいたんだって事も。だって、その雑誌を見てから、毎晩のように山田さんと英喜から電話を貰ったから。
 信じてる…信じてるけど、さ。
「愛してるんだ……お願いだから別れるとか言わないで…」
 懇願めいた英喜の言葉に、俺は言おうとしていた言葉を飲みこむ。
 別れた方が良いってのがわかってるのに、別れられない。
 それくらい惚れてるのは俺の方だって、コイツはわかってるのかな。
「わかってるよ、そんなの」
 恥ずかしくて、本当は嬉しいのに諦めたように呟けば、後のヤツの表情がパアッと変わったのがわかる。
「愛してるよ〜!蓮見」
「はいはい」
 さっきのテレビ放送では、俺の名前は女みたいだし、苗字にもとれるからそんな大きなスキャンダルにはならないだろう。
 その事はチャラにしてやるよ。
 少しだけ……嬉しかったから。
 大好きなコロッケパンを落としてしまうほど、嬉しかったのは確かだから。
「じゃあ、今度は紅白で告白するね。どうせなら蓮見の写真も持っていこうかな★」
「………」
 ……それだけは勘弁してくれ。


終わり。


あとがき。
芸能人の幼馴染攻め(最強へたれ?w)×クール受け。
田中にしては純愛でした〜!田中は、馬鹿なくらい受けにゾッコン(古い)な攻めが大好きです。
金持ちで、権力あって、性格最悪ならもっと良いのですがw、今回はちょっとお馬鹿で明るい感じの攻めでした。
ちなみに、芸能人になるとガラッと性格変わるらしいですね。
お茶の間のアイドルです。奥様方に人気です。英様とか呼ばれてますw
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