小説。 | 100. | 最初。

● りんご。  ●

【楓バージョン】
 幼馴染で、同級生で、家が隣って……。
 出来過ぎじゃないか。
 マンガみたいな俺と春樹との関係に、
 俺は頭を悩ませる。
 だって、いっつも傍にいるんだよ。
 小学校から一緒ってレベルじゃない。
 生まれた時から一緒なんだ。
 なんてったって、俺と上総は、同じ病院で生まれて、母親達は同じ部屋で、生まれた日も同じって言うんだから。
 これを運命って言わなきゃ、なんて言うんだろう。
 って、そんな乙女チックになってるのは、俺だけなんだろうけどさ。

 「楓〜、楓っ」
 窓の外から呼ばれた声に俺はびくっとした。
 だって、声の主の事を考えてた時に呼ばれるんだもん……。
「な、何?春樹っ」
 カーテンを開くと、1メートルも離れていない御隣の窓のふちに座った上総が、手を振っている。
 幼馴染で、同級生で、家が隣同士の俺らの伝達手段は、電話でも手紙でもなく、この窓だ。
「何焦ってんだよ。あれ、お前顔赤いぞ。なんかあったのか?」
「べ、別に……っ」
 俺が慌てて下を向いたりしたもんだから、春樹はニヤリと笑うと、俺の下半身を指差した。
「もしかしてナニしてたとか?」
「な、ナニってなんだよっ」
 もう……止めてくれぇっ。
 最近の俺は、どうしてだかもう駄目駄目人間で、春樹と一緒にいるだけでドキドキするわ、胸が痛くなるわ、か、下半身が熱くなっちゃうわ、なんだか可笑しいんだから。
「……俺が手伝ってやろうか」
「ぇえ!?」
 裏側から変な声が飛び出した俺の顔は、たぶんさっきよりももっと赤いんだろうなァ。
「相互オナニーってやつ。気持ちいらしいんだけど」
 春樹の口からそんな単語が飛び出すなんて思わなかった俺は、慌てて首を横に振った。
 ってか、てか!お、俺……春樹とそんな事したいなんて……まだ、考えた事もないのに〜っ。
「〜……は、春樹の用事はなんなのさぁ」
「ん?あぁ……」
 春樹な何故か曖昧に答え、視線を反らすと、手に持っていた食べかけのリンゴをいきなり俺の方に投げてきた。
「これ、やろうと思って」
「へ?」
 別に春樹の家は農家じゃない。これだって、きっとスーパーで五個百五十円とかのやつだよ?
 わざわざくれるようなもんじゃ……。
「じゃ、な」
「は、春樹!?」
 春樹はそれだけ言うと、窓もカーテンも閉めてしまった。
 なんなんだよ……まったくぅ。
「……」
 でも。
 これって、間違いなくても……春樹の食べかけだから……。
 間接チューになっちゃうんじゃないの??
「……〜……」
 かぁぁあああっ!
「た、……」
 楓は顔を真っ赤にしながら、そのリンゴに軽くチュッとキスをする。
「食べれないよ……」
 もったいなくて。
 たぶん、このリンゴは腐るまで、俺のキスを食らわされる事になるんだろうな。
 覚悟してくれ、リンゴ!


【春樹バージョン】
 窓を開け放していると、隣の部屋の声が良く聞こえるから、いつもそうしてる。
 幼馴染で、同級生で、家も隣の楓は、俺の友達だ……今のところ。
 どうして何も感じてくれないのか、時々不思議に思う。
 だって、こんだけ始終ベッタリ一緒にいるのに、浮いた話をチラリともみせない俺が、一体誰を好きなのかそろそろわかってもいいと思うんだけど。
 オクテで、そこらの女より数億倍可愛い楓は、絶対俺の事を好きなのに、俺の気持ちに気付きもしない。
 いっつもお前と一緒にいて、どうしたら好きにならずにいられるのか、それを聞きたいくらいだ。
 あいつは気付いてないみたいだけど、あいつが部屋でしゃべる事は全部俺の部屋まで届いている。
 それがどんな些細な事でも。
 そして、あいつが気付いてない事で最大の可愛いところは、自分の部屋に入ると、頭の中で考えていることも、ついつい言葉に出してしゃべっているって事。
 まったく……馬鹿で、アホで……可愛すぎ。
「……春樹ぃ……っ」
 甘ったるくて、蕩けるようなハチミツみたいな声で、俺の名前を呼ぶ楓の声が聞こえた。
「っ!」
 それは反則……だろっ。
 身体の真中あたりにズキュンと来るその刺激に、俺は思わず楓を呼ぶ。
 窓越しに呼べば、驚いたような甲高い楓の声が、真っ赤な楓の顔と共に返ってきた。可愛いんだよなぁ……やっぱり。

「相互オナニーってやつ。気持ちいいらしいんだけど。」
 からかい口調で、本気で聞いてみたら、楓は大きく首を横にふりやがった。
 ったく〜!誘ってるのに気付けっ。
 しかも、用事はなんだったのかとか聞いてくるし。
 用事なんてないよっ。お前が見たいんだよ、お前の声が聞きたいんだよ、お前に触りたいんだよっ。
 それでも純粋そうに、本当に俺が何か用事があったって思ってる楓の目が俺を攻めるから、俺は部屋の中を慌ててうかがい、手に持っていた1個のリンゴに気付く。
 2口くらいしか食べてない真っ赤な、真っ赤なリンゴ……。
 ああ、もう……こいつだけでも楓のあの口の感触とか、味わってくれよっ。
 いい訳がましくリンゴをなげて、俺は慌てて窓を閉じた。
 きょとんとした楓の顔がまた可愛くて…。
 俺ですらまだ触った事のない、楓の唇に触れるリンゴに今度はムカムカしてくるし……。
 ちくしょー……たかがリンゴに妬きもちやく俺ってどうなんだよっ。
「っクソ……早く気付けよ」
 とにかく今は、あのリンゴが楓のあの可愛い唇に触れていると想像して、キスした妄想でも膨らませるか。
「そろそろ限界なんだっつーの」
 俺はベッドに横になりながら、再び窓を開けた。
 やっぱり、ちゃんと楓の声が聞こえるように……。

【田中感想】
いかがだったでしょうか?六話目。リンゴです。
このタイトル見たとき、「リンゴぉぉ!?」って思ったのですが、
書いてみたら楽しかったです。
攻め・受け目線どちらも浮かんできたので、どちらを書こうか迷い、どっちも書いちゃいました。
どっちも好き同士だから、さっさとどっちかが告白すれば解決する問題なんですけどねぇ。
この御二人、まだまだくっつきそうにないですw

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