欲情☆発情★ボイス

小説。 −2− 最初。


−1−


発情★欲情☆ボイス
 人には必ず一つ誰にでも自慢できる何かがあるものだ。しかし、それが一つに収まらず、二つも三つも、いやもっともっと才能の塊のような人物がいることもまた事実。この男、俳優業を営む丹羽 吏人(17)はまさしくその一人だった。容姿は同性、異性ともにため息を漏らして必ず振りかえるような端麗さ。スラリとのびた身長は180センチを回っているがまだまだ成長は続いている。そのくせ、若手ナンバーワン実力派俳優として各界のお偉い様が文句ナシで選抜したと言う話も良く聞く話しなのだ。しかし、こんな吏人が不満に思っていることは自分の父親。丹羽 幸四郎(34)。この男もまた才能に恵まれた人の一人で有名な俳優だ。最近は監督の仕事もやり、今はハリウッドに渡って何本もの映画を手がけているらしい。この男が存在するせいで、吏人はまず『親の七光り芸能人』としか見られないのだ。しかし、事務所の一室で吏人がため息をこぼし、途方にくれているのはそんなことが原因じゃなかった。吏人の目の前には2000枚を越える履歴書と、デモテープの山。どんなに性格の良い人でもこれには肩を落とすだろう。
(…はあ、選択を誤ったか?)
吏人は履歴書をサーッと目を通すだけで、次の履歴書に目を移してしまう。どんなにかわいい人でも、どんなにかっこよい人でも、ピンとこないもんはしかたない。吏人は5時間以上もいれっぱなしのイヤホンをようやく耳から抜いてやった。すでにそれは耳の一部とかしていたような感じだった。さて、有名俳優の吏人様がなぜこんなしょぼい仕事をしているかと言うと、それはさかのぼること一ヶ月前。
 『吏人―!!仕事の話しだ。絶対お前が喜ぶん感じの』
駆け寄ってきたのは現在のマネージャーである安部優一(28)。この世界ではまだまだ新人で、そのせいかめちゃくちゃな熱血仕事人な人。始めあった時は、いつも明るく騒がしい優一に嫌悪感ばかり抱いていたが、いまや頼りになる兄貴的存在だ。でも、その時はドラマと映画二本がかぶってきていたので、うんざりといった顔でその声を聞いていた。
『何…?俺が喜ぶ仕事って』
『お前、幸四郎さんとは違う仕事をしてみたいって言ってたよな』
『で?』
『じゃーん!こんな仕事はどうだ!?』
優一は小さな紙を上下にピーンと今にもはちきれんばかりに引っ張っている。吏人はやれやれ、とその企画書を優一から奪いとった。
『…あの有名実力派俳優丹羽 吏人とデュオで歌手デビュー!?オーディションは近日開催!?なんだ…これ』
吏人はがっくり肩を落とした。いくら自分がアイドル顔でもチャンチャラおかしな歌を歌う気はさらさらなかったし、その辺でキャーキャー騒ぐ一般人とデュエットなんて考えられなかったのだ。そのまま詳しく見ることなく、その紙を優一につき返した。
『そ、そう言わずさ〜…いい話しじゃないか。幸四郎さんには縁の遠いお話だよ?』
確かに。親父…幸四郎は歌は超度級のヘタクソ、音痴だったのだ。だから、幸四郎は一生なり得ないものだろう。
『…ふむ』
『な?な?いい仕事じゃないかぁ』
優一にすがるように見られると何も言えなくなる。
『それにな、男女共の応募なんだよ…これ』
『へ?』
てっきり相手は小うるさいメスだと思っていた吏人は意外そうな顔をする。それを確認した優一はベラベラとしゃべりはじめる。
『ああ、男も女も募集して、最終決定は全てお前にゆだねると言っているんだよ。歌はあの有名な金城が作ってくれるらしいし、最初の歌詞はお前がつくってもいいし、その気になればお前が好きな歌手に書いてもらうことも可能なんだってよ?こんないい企画めったにないぞ?確かに番組の企画だけど…俺、お前の歌好きだし。マジいいよ。その歌で日本の老若男女惑わせるよ!絶対!』
やっと息をすった優一を前に、怪しい笑みを浮かべる男が一人。…自分で相手を…ね。それまでずっと近くには優一以外をおけなかった、悲しい俳優の性。顔だけ女優との一晩限りの情事は両手両足足しても足りないほどあったけれど、そういうのにも飽きてきた。ここいらで、もっといいのを見つけるのも面白そうだ☆
『ああ、わかった。適当にやっといてよ…俺は最終決定くだせばとりあえずはいいんだろ?』
『ヤッターッ!!じゃ、行って来るな!』
優一は吏人をぎゅ〜と抱きしめると、ダッシュで廊下へ駆け出して行ってしまった。それから、とんとん拍子に話しは進み、現在に至るのだ。
「選択を誤った…な」
色っぽいため息をこぼしながら、また一つ…とカセットレコーダーに履歴書の上に乗っかっているカセットをセットした。そして、機械的な動きになった人差し指で再生のボタンをポチっとな、と押した瞬間。吏人はカセットレコーダーの本体は机の上に置きっぱなしだというのに、椅子からガタンとものすごい勢いで立ちあがってしまった。もちろん、吏人の耳からはイヤホンがズボっと抜け落ちてしまい、軽い痛みと驚きが吏人を襲ったはずだが、そんなことに反応しているほど、吏人の神経系はあまっていなかった。
「…っ!!!」
カセットテープは無残な姿で机から落とされながらも、カセットの中の声を流しつづけていた。
(なんだ…この声!!すごい良い声だ)
吏人は思わず落ちたイヤホンをもったいないとばかりに急いで耳に入れた。その中からは新人アイドルグループの新曲『キャンディーポップ』を歌う、艶かしい声。ただ単に歌っている声を聞いているだけで、身体中が熱くなってくる。もちろん…あの場所も。もし、これが喘いでる声なら?なんて想像しただけでこの声の主を欲してしまう。吏人は床に這いつくばっている上体を起こし、今度は机の上の履歴書を探しだした。さっきカセットを落としたせいで、机の上はごちゃごちゃしてしまっている。しかし、カセットケースにしっかり『野ノ原 朔也』とついていたので、その名前を頼りにガサガサと机をまさぐり、ようやく見つけ出したのは5分後のことだ。その声の主は、黒髪に黒い大きな瞳。大きなパーカーがますます男心を震わす。身長165センチ体重45キロの華奢な体型。魅惑の声を持っている主とはとても思えないベリベリキュートボーイだった。その時点で吏人が他の履歴書、カセットをゴミ箱に放りこんだのは言うまでもない。ずばり、吏人は朔也に一目惚れならぬ一聞き惚れしてしまったのだ。一万人の男女の中から選ばれたシンデレラボーイはこの野ノ原 朔也に決まった。これが、これから起るトラブルの始まりともしらずに…。
 「野ノ原 朔也です。よろしくお願いします」
この企画を考えたプロデューサー、スタッフ、番組の監督、そして優一。二人の初顔合わせに集まった人々全てが朔也の声の魅力に口を大きく開けて馬鹿面のまま静止してしまった。こんな声聞いたことないっ!みんなが目で自分に訴えているのが吏人にはとても光栄だった。あの2000個のカセットからこの声を見つけ出したのは自分なのだ。しかし、それ以上に朔也の喜びを誘ったのは、朔也が写真で見る以上に吏人好みだったことと、魅惑な声が生で聞くほうがずっと感じる声だったことだ。しかし、目の前にいる見知らぬ中年と美青年を前に朔也はいたって普通に対応していた。緊張もしていなきゃ、おどおどもしていない。それどころか満面の笑みを浮かべ、その場の男たち全てのハートをくすぐっている。もちろん、朔也にそんな気はさらさらなかったけれど。ようやく、その魅惑ボイスの翻弄から解け、口を開いたのは優一だった。
「す、すごい声だね!君!すんごくいいよ!」
「え?そうなんですか?俺、あんまりよくわかんけど」
誉められることになれていないのだろうか、右手で頭をかき照れ笑いをしている。その表情がまたかわいい。そんな笑顔に吏人は一人焦らされてる感覚を感じていたが…。いや、吏人だけではなかったかもしれない。そこら辺を見まわすと、もんもんとした考えに一人苦悩する男たちが一人二人チラホラいたり。けれど、今は仕事の場。みんな自分の変な妄想を振り払って、最終段階の企画書に目を戻した。
「いや…本当にいい声だ。これなら…大丈夫そうだな」
そう言ったのは今回の企画を搾り出した張本人。企画プロデューサーの相模原だ。相模原は朔也を自分の方に手招きすると、その手をしっかりと握り締めた。
「始めはね、吏人と女の子のデュオで行こうと思っていたんだ。吏人君で女性ファンを、女の子で男性ファンを引き寄せるつもりでね。だからいささか心配だったんだよ。吏人君が君を推薦したときは」
朔也はチラっと吏人を見る。その視線を吏人は見逃さなかった。ねちっこい下心満載でそれを見つめてやる。朔也がそのまん丸の漆黒の瞳をますます大きく見開いて視線を戻したのがツボにはまって、一人笑いを噛み締める。
「でも、君は十分魅力的だ…。がんばってくれたまえ」
あからさまに、俺は偉いんだという態度をぶつけられても朔也はニコニコするだけだ。この子には怒りとか、悲しみとか負の感情はないのだろうか?
「ありがとうございます」
朔也の軽い説明がされたあと、朔也は吏人の隣の席に勧められ腰をおろす。吏人はその後の説明など聞きもせず、ずっと朔也をみていたが朔也はそれにまったくきづきもしない。こんな人間も珍しい。吏人はずっと自分の魅力には自信を持っていたし、確かに吏人は誰が何と言ってもフェロモン流出男だった。伊達に『抱かれたい男ナンバーワン〜ヤング編〜』を二年も続けて受賞していない。ちなみにアダルト編での一位は幸四郎だったりする。
それは置いといてそんな自分がこんなに舐めまわすように見ているのに、少しも動揺しないのはいささか不思議でならない。しかも、自分だけこんなに性欲をあらわにしているのもなんだかな…と思った吏人は、朔也の企画書を持っていない方の手―――つまり、自分の方にある手。右手だ―――をそっと触ってみた。触ったというか、握ったといったほうがよいだろう。張りのよい肌で、女の子の様に華奢で、そして弾力がある。吏人はちょっとだけのつもりが、その心地よさに結構な時間触れてしまっていたらしい。朔也が妙な百面相を続けていることにようやく気付いたのは、朔也握り締めていた手が少し緩んでからだった。
「朔也…緊張してる?」
クスクス笑って、朔也の顔を覗き込む。真っ黒い目の上には長い黒いまつげ。化粧なんてするキャラじゃないだろうから素でこうなのだろう。世の中の女の子がどれだけうらやましがるだろう。肌は透き通るほど白く、黒がより映えた。
「少し。でも大丈夫です」
キリリとした表情で返事を返す。しかし声はほんのわずかな声の震えから、気が高ぶっているのを感じる。そりゃそうだ。初顔合わせが、今や打ち合わせにまで発展している。本当なら今日は適当に切り上げるつもりが、吏人と朔也を見て企画に花を咲かせたおじ様方は主役そっちのけで話しを進めている。吏人は反対隣に座っている優一に二〜三耳打ちすると、パイプ椅子から立ちあがり、目の前の自分より立場の上の人たちに何を言うこともなく、この部屋の唯一の出入り口である木目模様のドアの前へ向かった。そして、ドアを開けてどうどうと出ていこうとしたときに、朔也に呼びかける。
「朔也…おいで」
企画書から顔の位置を動かしていなかった朔也の頭が始めてちゃんと吏人に向けられた。朔也にはその吏人の声が天の助けのように思えたらしい。固くなりつつあった表情が一気に春の暖かさを取り戻す。
「う、うんっ」
敬語を使うということも忘れて、朔也は大きく顔を上下に動かし返事をし、さっきの吏人と同じコースを歩き、ドアへと向かう。吏人と違うと言えば、その場にいた全ての人に一礼と一言は忘れなかったことだった。そのため、たった数メートルの距離を移動するだけで何分もかかってしまった。中には朔也の手をとって目を見つめてくるヤツもいたりしたせいだ。それを苦々しく見ていた吏人は、再び中に戻ると、朔也の腕を自分勝手な方向に引っ張り、出口へと促す。朔也は、残りのお偉い様がたに頭を下げることしかできず少し不満そうな顔をしながら出ていった。いや、連れ出されたのだ。この業界随一の何様男に。
 「…ありがとうございました」
まったくありがたくないといった顔で朔也は一応礼を言う。その不満そうに尖らせた唇、表情にすらそそられるものだが、こんな不服な顔をされては、助けてやったこちらとしては腹が立つというもんだ。吏人は自室(事務所の中に吏人様用の部屋が一室設けられているのだ)に強引に朔也を連れこみ、血のように真っ赤なご自慢のでかいソファに朔也を突き落とす。朔也はさっきまでは見せていなかった生意気そうな目でキッと吏人をにらんだ。
「何するんですかっ」
「…せっかく俺が助けてあげたのに、君は納得いかない顔をするからさ」
吏人は倒れこむ朔也の肢体の側に、上に乗っかるように座り、朔也の顎をきゅっと掴んで上に向かわせた。
「だって、おかしい!」
そんな不利な態勢を取られても強気な姿勢をまったく引っ込める気配はない。
「おかしい?何が。俺たちはもうやることがなかったし…出てきたってかまわないだろ」
「そうじゃなくて〜!!あの人たちは俺たちより偉い人。なんで勝手に出てこれちゃうんだ

敬語がなくなり、砕けた言葉で食って掛かる朔也に少しだけ機嫌が治り、不穏な笑みを浮かべる。
「平気だよ。それより…これからはそのしゃべり方で話せよ。長い付き合いになるんだからな…」
「あ…」
自分が敬語をいつからつかってなかったのか気付いてなかった朔也は、はっと自分のチェリーのようにまっかな唇を小さな自分の両手で隠す。しかし、そんな手は吏人にすぐさま取られてしまう。
「その話し方でいいって言ってるんですけど」
「…う、うん。でも…」
「でも?」
「幸四郎さんが、丹羽君はそういうのにうるさいから気をつけろって言ってたから」
吏人はそこで不思議な言葉を聞いた気がした。幸四郎…?って親父のことだよなぁ…。でも、なんで幸四郎の名が今しがたデビューが決まった一般人の朔也の口から出てくるんだ?しかも、なんだか仲良さ気な感じしない…?吏人は朔也の顔を覗きこんだ。朔也はまだその失言に気付いていないようだ。
「幸四郎って…なんで?親父と面識あるのか…?」
吏人の言葉にあらゆる事に気付いたらしい朔也は、顔面を蒼白にする。そして、わたわたと一人慌て始めると、向かってくる吏人の顔から自らの顔を離すため身を思いっきり後に引いたとたん、大きな鈍い音を響かせてソファから落ちてしまった。吏人が手で支えようと思ったときにはすでに遅く、身体を全て下に投げ出してしまった朔也は、さささ…と部屋の隅に移動し、頭の後ろを抑えて涙目でひざを抱え吏人を見た。
「…こ、ここに来る前にちょっと会わせてもらって…」
朔也は嘘を突くのがヘタなのだろう。吏人には一発でそれが本当じゃないことが本能で分かってしまった。
「うそつき…」
「ほ、本当だよぉ〜」
整った色っぽい声は今や震えまじりで『カモ〜ン変態さん』な雰囲気醸しまくりである。吏人の鬼畜心をそそりまくりだ。その上、始めて朔也の声を聞いたときから番組の都合やなんかで、すでに1ヶ月以上過ぎており、おあずけを食らった吏人としては一刻も早く朔也に触れてみたくてしかたなかったのだ。こんなチャンスはめったにないといわんばかりに朔也の側まで歩いていき、縮こまった華奢な身体をヒョイと持ち上げソファに連れ戻し、朔也の両手を頭の上でクロスさせ、片手で簡単に腕の自由を奪ってしまった。
「本当の事を言うまで…お仕置きだよ」
吏人の言っている意味がよくわかっていないようだが、この態勢が普通のお仕置きをは違うことを物語っている。朔也は足を使って吏人との距離を保とうとするが、吏人は朔也の細い足になんか左右されることなく、着実に朔也の着衣を脱がしていく。まずはちょっと大きめのパーカー…。簡単に上に引き上げ、朔也の身体をあらわにした。それは、他人に見せるのは本当に始めてのようで、手付かずの真っ白。そのため、鎖骨と胸のピンクの二つの突起がいやらしく、その存在をアピールしていた。
「〜〜っ!!丹羽君」
「苗字で呼ばれるのは好きじゃないんだ。アイツのお下がりだからね」
「吏、人…く…ん?」
おそるおそる聞き返すように、名前を呼ぶ朔也の耳には生暖かい吏人の中の温度を注ぎ込む。快感を感じながらも朔也はそれがとても苦痛で、羞恥の顔をさらす。
「“君”はいらないよ。麗でいい。俺も朔也って呼ぶから…」
吏人はそうしゃべりながらも、頭を通し、上げたパーカーで朔也の腕を縛る作業を坦坦とこなした。
「…何するんだよっ」
「何って…お仕置きだけど?」
「お、お仕置きされるような事してないっ」
「じゃあ、俺の親父は朔也の何なのかな〜?」
吏人の顔は笑っているが、腹の中はそうじゃないらしい。むしろ、正反対だ。昔、自分がちょっとかわいいなと思った女の人は幸四郎の愛人…ということが多々あったが、その時感じたのと似ている感情が出てきている。まさか、朔也は幸四郎のお手付き…?そう思うと昔とは比べられないほどの嫉妬心が吏人をとりまいた。吏人は朔也のジュニアをスウェーターごしに上下に軽く触ってみた。朔也は身体をえびぞり、ピクンと反応する。けれど唇を噛み締めているため、あの艶やかな声は聞こえてこない。麗は朔也の固く閉じている目に軽い口付けをし、そして、朔也のチェリーな唇を舌で上手に緩めた。
「ふ…やめっ…やめて…んんんっ」
とうとう閉ざすのをやめた朔也の口内に、文句を言わせる前に吏人の蜜が滴る舌が進入してきた。朔也の喉の置くまでそれを突っ込んだため、朔也は苦しくて吏人の背中にしがみつく。
(なんで俺、こんなことされてるのさ〜!!)
嘘をついているのは事実。だから吏人の機嫌を損ねてしまったところまではわかる。けれど、どうしてどうしてそれが、こんなことするハメになるんだー!
「なんだ…感じちゃった?」
あまりに強くしがみついてくる朔也の口に、自らの蜜をたっぷりと残してきた満足げな吏人は薄ら笑いを浮かべる。朔也は屈辱的でその黒目をキッとして再び吏人をにらむ。
「感じてなんかない〜!こ、幸四郎さんはこのプロジェクトにかかわってて…たまたま吏人に会う前にあってみろって言われて会ったのっ!」
これ以上吏人に好き勝手されてはたまらないと、言葉をすばやく口から出す。それを全て聞き取った吏人はなんとも疑っているような信じているような半々な表情をする。けれど、本当のことは伝えられないんだ…まだ。ごめん…吏人。朔也は吏人を見ていられなくなり、一人うつむく。朔也は吏人が思っている以上に、秘密めいた男なのだ。朔也の暗くなった表情を見て、それ以上テコでも口を割らないだろうと判断した吏人は、朔也に謝りのキスをする。さっきの無理やり口内を犯すようなキスではなく、軽く快感ともどかしさを誘うキス…。朔也はさっきとのギャップに驚きをあらわにする。
「んん…ぁあ…ふ、んん」
たびたびこぼれる朔也の悦楽の声に、吏人は自らのも熱くさせてしまう。これまでずっとガマンしていたのに、せっかく得たのが愛のないSEXなんて冗談じゃない、と吏人の中の唯一の法律が理性を飛ばす。そのおかげでなんとか、吏人は朔也から口を離すことができた。
「まあ…今回はそれで納得しとくよ」
はぁはぁと呼吸をむさぼりながらも、朔也はほっと胸をなでおろす。そんな朔也を見て、ますます吏人は疑いを広め、深めていたのだけれど。この子は一体何を隠しているんだろう…。どんなに綺麗に輝いた吏人の瞳に見つめられても、朔也は困った顔のまま押し黙ることしかできなかった。
「吏人…」
朔也は少し不機嫌な顔のままの吏人の顔を撫でた。怒らせたのは確かに朔也だったが、お仕置きという名の犯すような口淫をしてきたのは吏人なのに。
「ん…?」
そうともしらない朔也のかわいい反応に、その現状をしっかり把握してる吏人は思わずにんまりとしてしまう。
「俺…いっぱいいっぱい有名になりたいんだ」
「朔也…」
「俺、嘘つくかもしれない。俺いっぱい秘密あるかもしれない」
朔也は本当に切ない表情で吏人をみあげる。――だけどこれだけは分かって…。
「けど、吏人とデュオ組めてすごくすごく嬉しいんだ。それは本当なんだ!」
朔也のその言葉には嘘偽りがないことなどすぐわかる。思わず吏人は朔也をぎゅ〜っとしてしまう。さっきのこともあってか、朔也は慌てて、強く吏人のその厚く広い胸を押しを放す。
「〜〜…ス、スキンシップは置いといて聞いてっ」
「ちっ」
吏人は舌打ちして肩をすくめると、朔也と向側にあるソファにその身をぶっきらぼうに投げただし、ようやく吏人にしてはまだましな、『話の聞く態勢』をとった。朔也はゴホンと咳払いすると、話題を変えた。
「吏人はかっこいいし、演技もうまいし、歌もうまいし」
スキンシップがしつこかったのは予想外だったけど…そう付け加え様として朔也は口を抑えこむ。話がまた横にそれてはこまるのだ。
「ま、みんな俺のことそう言うね」
当然…といった顔で言う吏人に、朔也は肩をがっくり落とす。自分が、いままでこの人とぜひ仕事をしてみたいと、長年思っていたのがすこし恨めしく思う。
「と、とにかく俺、吏人となら世界一売れる歌手になれると思うんだ!」
「売れる…ねえ。だから、あのエロじじいたちにもせっせとコビ売るわけだ」
「エロじじい?何の事だよっ。それにコビってっ!?」
吏人の言葉の意味が分からない上、コビなど売っていた覚えもない。あまりの理不尽さに吏人を再びにらむ。
「そうだろ?お偉いかたたちに笑顔と美声振りまけば売れると思ったんだろ?」
自分は最終オーディションの時、朔也の声だけで相手を朔也に決めてしまったのに。
「別に…俺は振りまいた覚えはないっ。むしろ、あんたの態度の方がおかしいよ!もっと良くできないのかよっ!」
「出来ないね。嫌なやつにどうして頭さげなくちゃいけないんだ」
淡白に答える吏人にますます腹がたってくる。別に身体売って仕事をもらえといっているわけではない。年功序列なこの日本の、しかもその制度が根強く残る芸能界では、新人はささいなたわごとを発しただけで堕とされ、永久追放をくらうことを朔也はよくしっているからだ。そう考えれば吏人は芸能界を甘く見すぎている。いくら顔がよくたって、いくら演技力がずば抜けていたって、まだデビューして数年なのにこの態度はなんだろう。
「嫌でもするもんなのっ!まったく…子供じゃないんだから」
(子供なのはどちらでしょうね…)
吏人は失笑する。無防備にその魅力を振り撒き、その上それがツボをうまい具合に押していることなど気付いてもいない。
「俺は有名になって…見返さなきゃいけない人がいるんだ」
朔也は言葉を選び選び少しずつ自分を開いていく。けれど、中枢にはしっかりとカーテンがかかったままだ。それがまどろっこしくて、イライラして、強い口調で聞き返す。
「見返すって…誰を?」
「…父親…とにかく!!二人でビックな芸能人になろーー!!吏人だって売れたいだろ!?」
話をうまくそらされた気がするが、吏人が売れたいと思っているのもまた事実。それも朔也くらい正直に言ったりはしないが、同じくらい、いやそれ以上に売れたいという思いは大きかったかもしれない。けれど、もともと王子様な性格の吏人は人にコビるなど出来なかったし、する気もなかった。だから、しょせんは七光り…と罵倒されつづけていたのだ。
「そりゃ、そうだけど」
「じゃあ、いいじゃん。ね、ガンバロ。きっと…売れるよ俺たち」
幸せそうに微笑む朔也のその中がきになる。自分の父親と何か関係があるらしいし、その上売れて有名になるということに対しての執着は怖いくらいだ。そして、見返すってどういうことだろう…。何も話してくれない、話すそぶりさえない朔也にまったく疑惑は晴れない。けれど、次の朔也の魅惑ボイスの囁きで機嫌は快晴へと向かう。
「大丈夫だよ。吏人のかっこよさは世界一だって、俺は思うし」
 野ノ原朔也。かれの履歴書に書かれたプロフィールは嘘の嵐、大嵐だった。本名は藤 朔也。本当は名前の方も偽名を使うつもりが、朔也以外で呼ばれると反応しない自分がいたため、無理だと早々と察知した。実は彼、日本の誇る6大芸能プロダクションの一つフジプロダクションの一人息子だったりする。麗の所属しているプロダクション、白河プロダクションとは犬猿の仲だったりする。この二つが年間売上一位二位を競い合ってはや五十年。成績は五分五分と言ったところだ。さて、なぜ朔也が自分の親の経営するフジプロではなく白河プロでデビューをはかったかと言うと、父親である直彦の横暴な態度が原因だった。朔也には鞠也と言う兄がいる。鞠也は朔也より7つも年上で、容姿はキリリと和風美男子で、時代劇の世界からひょいっとつまみだしてきた殿様の息子といった感じだろうか。実際それににた生活を送ってきたのだけれど。鞠也は五年前にアイドルグループ『マリファナ』(世の中の女全てを中毒にさせる…と言う意味があるらしい)でデビューしていらい、超人気アイドルのリーダーとして、名前の通り世の女たちを夢中にさせてきたが、その行動は全て父親である直彦に握られていた。直彦のこのみの服を着、直彦のこのみの通りの発言をし、直彦の探してきた仕事をする。そんな鞠也がたびたび疲れた表情で朔也に愚痴をこぼしていた。
『なあ、朔也。俺はテレビにどううつってる?』
『兄貴…?かっこいいよ、きまってんじゃん』
『本当にそう?俺はあんなんじゃないだろ…本当の俺は』
鞠也の表情は暗く、それを見てるだけで朔也は胸がペンチか何かで締め付けられるようにに苦しくなってしまって、そのたびに朔也はまだ幼さの残る小さな胸で必死に鞠也をぎゅってしてやった。そして、そのたびに、心に強く刻んだ。俺は父親を許さない。頭も良く、人当たりもよく、かっこよかった兄貴を苦しめているのはあいつだ。そのくせあいつは自分がいないと俺たちは何もできないと決め付けている。そんなことは決してないのだと証明するために、朔也は家を飛び出て兄貴のマンションに身を潜ませた。そして数ヶ月、ダンスや歌を鞠也に習い、自分の父親の敵である白河百合が経営する白河プロに侵入を謀ったのだ。それは案外すんなりと通ってしまい、一瞬父親を疑ったくらいだ。とにかくこんなこと誰にもばれるわけにはいかない。売れて、売れて、売れまくって、父親に自分と兄貴の存在理由を、存在意義を認めさせるまでは。どこからばれるかわからないから年齢までかえちゃったりしてたりする。実は吏人より一個年上の18だったりする…。まあ、これは置いといて、つまり朔也はたった一人、その声を信じて敵陣に乗りこんだ果敢なお姫様ってわけなのだ。だから関係者にばれるとやば〜い。ただでさえ仲の悪い二つの会社。スパイか何かだと思われないとも言いきれないからだ。だから朔也は必死にその口を閉じた。いくら、ずっとあこがれていた丹羽吏人と言う俳優にお仕置きされても。そうそう、幸四郎と朔也の関係だが、実は幸四郎はフジプロの人間だったりする。その父親と同じプロダクションに入らなかったのは、朔也とにたりよったりな理由だから、朔也が素直に話せば黙っていてくれそうな気もするのだが、それを反対に使われ脅されても困るのでやっぱり秘密だ。


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