厚情☆強情★ライフ

最初。 −1− 小説。


−2−


ピーンポーン。ピーンポーン。ピーンポーン。
「は、はーい…」
朝。目覚めて腰が重いのを感じ取りながら、無理矢理ベッドから這い出た俺は、歯磨きをしてて、チャイムがなったのを聞き取り、玄関まで走る。
 あの後、ベッドに移動してからも、印だ、証だといわれ、キスマークをさんざんつけられたり、中にも印をつけとくから…と言って、何度も何度もやられてしまって、本当は起きあがるのもきつかったのだが、今日が撮影だとわかっているから、起きないわけにはいかない。ベッドでたぬき寝入りしていた耀司にキスをし、シャワーを浴び、歯磨きをしていたのだ。
 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「今開けますからっ!」
朝っぱらだというのに、せわしなくなり続けるチャイムに、ちょっとムッとしながら、ドアチェーンを外し、あ、と思って、まず覗き穴を覗いてみた。
 そして、俺は腰を抜かす程驚くことになる。
「…っ!?」
バッとドアから身体を離し、ドキドキ言う心臓を抑えること数分。
 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
 その間も、何度となくチャイムは鳴りつづけているのに、ドアを開けることができない。
 な、なんで、なんで、なんで〜っ!
 あの二人がここに…?
「………トモ、何やってんだよ…早くドア…」
後から耀司の声がして、ようやく現実に戻る。
「耀司……」
「なんだよ、もしかしてカメラもったやつらとか、ファンのやつら?」
「違う………けど」
「じゃ、なんで開けないんだよ…」
そういいながら、Tシャツに高校のジャージを穿いた耀司は自らサンダルを履き、ドアを開けようとする。
「ま、待って耀………っ」
そう言うのは、数秒遅かったみたいだ。
 鍵はガチャンと開き、ドアが勢いよく開かれる。
 …そこにいたのは…。
「こ…こんにちは…智久…くん…」
苦笑いで、申し訳ない、ごめんなと目で訴えてくるのは、藤 朔也君。
「お前が、山下智久か」
朔也くんを押しのけて玄関にずんっと進み出たのは、若手ナンバーワン俳優と名の高い、朔也君の恋人だとか、じゃないとか、週刊誌に話題もちきりの丹羽 吏人…様。
 唖然とする俺をよそ目に、朝早くからの侵入者に、怪訝な目をむけるのは、ドアを開けた張本人。耀司だ。
「なんだ、お前ら」
唯一、一般人なのにどすを込めて耀司が二人に言う。朔也君の方は、ここに来たのは不本意らしく、ずっと吏人君の影で頭をうなだれている。
 つまり、今現在しゃべる力があるのは、耀司と吏人君…ってわけだ。
 あのねぇ…みんな、ここ俺の家なんだけど…。
「お前こそ誰だよ…俺はお前になんか用はない。そこのヤツに用があってきたんだ」
吏人の態度はいつも通りでかく、やはり耀司を怒らせたみたいだ。
「ともに用がある時は、俺を通すんだよっ」
絶対状況が読めてないのに、とにかく怒鳴り散らす耀司に、俺は思わずため息をついた。
 芸能関係にまったくうとい耀司は、たぶん吏人くんのことも朔也くんのことも気付いてないんだろう。
「耀司…そんなの誰が決めたんだよ…」
「俺」
「耀司…」
はぁ…。もう、これから仕事なのに…。
「ご、ごめんね。智久くん…と、えーと…耀司君?」
「朔也は余計な事いうな」
朔也の言葉を吏人がさえぎる。もともと大人しい性格じゃないんだろう朔也君は、吏人君の横暴ぶりに…きれた。
「余計な事じゃないだろ〜っ!もとはといえば、吏人が変なこと言い出すから…ってか、ドラマは演技だろ〜、なんで仕事に嫉妬するんだよっ」
うーん…。この展開。どこかで聞いた話ですよ。
「うるさいっ」
「〜っ!」
今だ、わめく朔也君を怒鳴り静かにさせると、吏人君は俺の方にずんずんと進み出て、俺の胸ぐらを掴んだ。
「吏人っ。智久君になにして…」
「て、てめぇ…」
「おい、山下智久っ。てめぇ…降板しろっ!朔也とベッドシーンだぁ。むかつく…」
「……俺が降板しても、他の人がやることには変わりないんじゃ…」
「そ、そうだぞ吏人!とにかく、離せってば…」
朔也くんが吏人君の手を離そうと、必死になってるけど、朔也君の抵抗は、まったく抵抗になってないらしかった。
「朔也……お前はこんな男に抱かれたいのかっ?」
「だから、しないってばぁ。本当には」
朔也君は吏人君の胸をぐい〜っと押し返す。
 が、やっぱり効かない。
 俺はもう、ただただ状況を見守るだけ。
「お前、前のドラマの時は、演技じゃなくて本気で感じてたくせに…」
「ばっ…」
真っ赤になったほっぺたをぷーっと膨らませて、恥ずかしそうにしている。その姿が可愛くて、思わずくすっと笑うと、吏人君が冷たい雰囲気を持ちこむ。
「やっぱりな…」
「え?」
「演技だろうが、なんだろうが朔也と同じベッドに寝るなんて問題外だ。殴らせてもらうぞ」
え、えーーーっ!
 そ、それはちょっと…社長に怒られる。
 じゃなくて、なんて理不尽なんだっ!
 そう言おうとしたのに、その前に吏人君の利き腕だろう右手がこぶしを握り締め、振り上げられてしまった。
 殴られる!
 俺は咄嗟に目をぎゅっと閉じた。たぶん、ってか絶対吏人君のパンチは強い。殴られれば、きっと病院行き間違いなし。そうなれば自動的に降板か撮影延期…。耀司は喜ぶかもね。耀司だって、俺がこの役をやるのは反対だったから。
 ちょっと諦めも込めて、そんな事を考えてると、ものすごい音と、息をつめるような声がした。
 でも、俺は………………痛くない。
 あ、あれ?
 そっと目を開くと、俺の前には顔を抑えてる耀司が。
「耀司っ」
慌ててこちらを向かせると、頬に殴られた後が痛々しく出来ていた。
「…っ痛ぇんだよっ!てめぇ…俺のものに傷つくんじゃねーよ」
「耀司……」
怪我してるのは…傷ついたのは、耀司じゃないか。
 俺は、全然。
「いっとくけどなぁ、コイツはてめぇみたいに、やらしい考えで仕事してんじゃねーんだよっ!そんなガキに手ぇだすわけないだろっ」
実は、この中で一番の年上である朔也は、ただいなショックを受けていたり。
 でも、俺は…耀司が俺の仕事に対する気持ちをちゃんと考えててくれたんだな〜って本当に嬉しかった。
 すごく、すごく胸にジーンときたんだ。
 耀司なりに、俺の仕事とプライベート分けてるとこ…ちゃんとわかっててくれたんだね。
「…………わかった」
業界切っての何様男と呼ばれる吏人君が、一言そう言った。
「本当に俺、良い演技することしか頭にないから」
付け足すように俺が言うと、ジロリと睨み。フンっと鼻で笑った。
「まぁ…お前みたいなヤツのテクで勃つほど、朔也は淫乱じゃあないし…。男の恋人までいるみたいだしな…大丈夫だろう」
「なっ!トモのテクを馬鹿にすんじゃねぇ…中なんて…」
「わぁぁぁぁぁ〜!止めろ、止めろっ。耀司。やめてくれぇ」
俺は耀司の口を後ろから両手で塞いだ。
 ったく…ちょっとは大人になったな〜って思ったのに。
「とにかく……そういうことだから…本当に」
「ほら、智久君もそう言ってるじゃんか」
「………わかった。…朔也、スタジオ行くぞ」
「う、うん!」
やっと明るい表情を取り戻した朔也君は、すでに出ようとしている吏人君の後に続こうとした。
 俺は…この二人に認められたってのがすごく嬉しくて、まっすぐに見つめ、叫んだ。
「良い演技…しましょうね。吏人君、朔也君」
二人は同時に振り向き、ニコッと笑った。
 返事はなかったけれど、それで十分だった。

「痛っ…いたたたたた…トモぉ〜もっと優しくしろよ…」
耀司の頬に特大のシップを張ってやると、しかめっつらになった。
「優しくってどうだよ」
シップ薬をクスリ箱にしまいながら、俺は問い掛ける。
「んー…優しく抱きしめて、キスしてくれるとかさ」
普段の俺ならありえないから、冗談まじりで耀司がそう言った。
 俺は後ろから耀司を抱きしめてみた。
「…トモ!?」
慌てて振り向いた耀司の唇を奪う。
 触れるだけのキスだったけれど、長い長いキス。
 恋人同士になってから、俺からキスしたのなんて数回しかない。その数回を足しても、全然負けるくらい。長く、愛しい思いでキスをした。
 唇を離すのが、なんだか嫌で。それは耀司も同じだったみたいで、耀司は舌で俺の唇をこじ開けた。
 中に入ってくる耀司の舌が温かくて、冷え性の耀司にしては…ってちょっと不自然に思う。だから、朝は低血圧でいっつも俺が仕事行っても気付かないで寝てることを思い出す。
 チャイムなんかじゃ起きないんだよ、いつもは。
 やっぱり、耀司も今日の撮影のことは気にしてたんだね。
「んっ…耀司…ぁ…」
「とも…浮気すんなよ…」
甘いキスの途中で、零れる吐息の中、耀司が俺の耳元で囁く。
 いつもなら、怒っちゃうとこだけど…特別。今日は。
「…しないよ。そのことは耀司が一番よくしってるじゃん」
「知ってるよ。ともの事は俺が一番よくしってんだから」
「ん。知ってる」
「仕事……一応がんばれよ」
不本意だけど…少しは認めてくれたみたい。
 俺はくすっと笑ってもう一回キスをねだった。
 大丈夫だよ。ちゃんと演技してみせるさ。
 ……………吏人君に怒られない程度に、ね。
俺たちは、その後、俺のマネージャーが迎えにくるまで、むさぼるようにキスをし続けた。
 って、本当はマネージャーさんが来たから、仕方なくやめた…みたいな感じだった。
 一生耀司を愛しつづけられたらいいなって思った。
 そんな俺のクランクインの日は、太陽が零れんばかりに輝いている快晴だった。

終わり。


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