君主様と恋の秘め事

最初。 −1− 小説。


−2−


「俺の部屋に来い」
俺は静かにそう言った。
 結ばれない思い。届かない思い。
 俺はそんな思いにすがるより、命令で繋がる関係を選んだ。
 最低だと思っても、替えられなかった。
 和馬が俺のものでいる…そう思えたから。
「はい」
和馬は何も言わず、俺のあとについてくる。
 俺はやっぱりいつものように和馬に布団を敷かせた。けど、俺は自分からは脱ごうとしない。
 俺が脱がなきゃ、和馬は何もしない。
 俺がどんなに誘ってみても、何をしてみても、和馬から俺を押し倒すなんてことは絶対しない。
 それが、これは命令で繋がってる関係だと物語っているようだった。
「和馬の好きなようにしてみろ」
和馬はちょっと困ったように笑った。
「私は命令でなくては、あなたの身体に触れることすら出来ない身分です」
「そんな…お前はこんな、なんでこんな変な決まりに従うんだよっ」
「私の意思です」
きっぱりそう言われて、俺はどうしようもなくなる。
 和馬の意思。
 俺の命に従うのが?
 俺に忠誠を誓うのが?
 わかんない。
 わかんないよっ。
「じゃあ、命令だ」
「はい」
「壊れるくらいに抱け。俺が…めちゃくちゃに壊れるくらい」
「義之様…?」
困惑してる。
 でも、そうでもしないと…もう俺、生きていけない。
 呼吸すら出来ない。
 誰か俺を壊して!
 こんな恋しかできない…俺を壊して。
「んんっ…ぁん」
涙が溢れる顔を無理矢理和馬のほうに向かされ、強引に唇を奪われる。
「んっ…はっ…かず…」
「苦しかったら言ってください」
苦しいはずがない。
 俺の胸の痛み以上に、苦しむ場所などない。
 俺たちは口付られたまま、布団に転がった。
 布団は妙に冷たくて、これから行う俺達の行為を何も知らないようだ。
 俺ははじめての時みたいに、身体が震えた。
 最後にするから…。
 これが最後にするから…。
 じゃなきゃ三年も離れて生きてなんていけない。
「んぁ…」
和馬は俺の着物をはいでいく。
 俺はそんなのもまどろっこしくて、和馬にぎゅっと抱きついた。
「…早く…」
耳元で囁くと、和馬の手が脱がせる行為から、俺の下肢へと伸びる。
 俺自身をぎゅっと握ると、やんわりと強弱をつけて握り始める。
「ん…あ…はっ…」
俺の命令通りなのか、いつもよりそこを激しく扱いていく。
 いつもは、俺を痛めつけないように、俺を壊さないようにと優しくしかしない。
 残酷なほどの優しさを、俺はいつも耐えていた。
 和馬は俺の胸の突起に歯をたてる。
 カリッという、音が俺の耳に入ってきて、羞恥を誘う。
 そのまま唾液をたっぷり含んだ舌で俺の身体を舐めりながら、下肢へと顔を近づけていく。
「ぁぁあん」
下肢へと舌が伸び、俺のソレは和馬によって口内に含まれる。
 和馬は、吸い上げるように舌を上下に動かし舐め、亀頭の部分を念入りに弄る。
「い…いいから…和馬…そんな…の…ぁっ…はあっ」
俺は手を和馬の頭にやって、もう止めるように促すけど、和馬は口を話す事はない。
 俺が感じているのを知ってるから。
 和馬は俺が感じることは、いやがらずになんでも続けた。
 俺の身体の弱いところなんて、和馬に知らないところはなかった。
 それくらい抱き合った。
 それくらい俺は身体の全てを和馬に見せた。
 思いは……………届かなかったけど。
 ズキンと痛んだ胸。
 ピクンと跳ねる体。
 もう…わけわかんない。
「和馬っ…は、ぁああん」
和馬の巧みな口の愛撫のおかげで、俺はすぐに達ってしまった。
 和馬は俺のをゴクンと飲み干す。
 その様子を俺は、今だ上がる息のままで見ていた。
 和馬の口元が光ってるのが、恥ずかしくて、俺は布団に顔を埋めて叫ぶ。
「早く……和馬の…挿れろ…よ」
命令口調で言わなければ、和馬はしてくれない。
 和馬は俺なんてきっと抱きたくないから。
 本当はこんなこと嫌いなんだ。
 ただ、俺が主従関係を利用してやらせてるだけなんだ。
 最低…。
 和馬は自分の乱れた着物を全て取り除くと、俺の腰を抱えなおした。
「壊すくらい…強く…っ」
朦朧とする頭で叫んだ。
 和馬の顔が悲しそうに見えるのは、俺の夢だ。きっと。
「和馬ぁ…」
名前を呼ぶと、掴まれた俺の肌が押し開かれ、熱棒を押しこまれる。
「あああっ…」
いつもはこんな急な事しない。
 俺の命令にしたがっているんだ。
 急に欲望を増して大きくなったそれを押しこまれて、俺は嬌声をあげる。
「ひゃあぁ…っ…」
「辛い…ですか?」
和馬の俺をいたわる声がする。
「平……気だから…もっと」
「義之…様っ」
「ああっ」
和馬がもっと奥まで入って来たのがわかる。
 ググッと奥を突つかれて、俺は身体をくねらせる。
「ああ……んぁ…カズっ…」
俺は和馬の背中に腕を回した。
 爪を立ててしがみつき、和馬とより近づきたいと願う。
「ひゃああぅ…ああっ…はっん」
肉棒と一緒に指まで押しこまれて、前立腺を弄られる。
 喘ぎ声が止めど無くあふれ、離れじゃなかったら誰かに聞かれていただろうみだらな音が響き渡る。
「もっと…あっ…酷くしてっ…」
涙が溢れる。
 もう、今日の俺はどうかしてる…よ。
 どうかしてるついでに、素直になれたらいいのに。
「義之様っ…」
和馬は入り口まで引きぬき、一気に最奥まで挿し入れる。
「ああっ、和馬っ和馬っ」
押しこまれた圧迫感で、きゅっと中のものを締め付ける。
 和馬の声が少し聞こえた。
 俺の分身は、すでに張り詰め、再び達きそうになっている。
 和馬はそっちのほうに手をやって、上下に激しく扱き始める。
「ああっ」
もう視界が見えない。汗と、涙で歪んでいる。
「はっ…和馬っ…好きぃ」
わけもわからず叫んだあと、俺は白濁とした欲望を放っていた。
 そしてその瞬間、自分の中に広がった和馬を感じながら身体を投げ出した。

 「………」
目を覚ましたのは、それから数分後だったみたいだ。
 いつもどおり、俺は気を失ってしまっていたらしい。
 和馬は脱ぎ捨てていた着物を羽織、布団に背を向ける形で黙って座っている。
 俺はそんな和馬に起きた事を気づかれないように黙っていた。
 ふと、和馬は立ちあがり、しゃべりはじめた。
「俺が…俺がこのポジションを選んだのを、義之は恨んでるかもしれないけど。俺はこの立場を与えらて嬉しかったんだ」
久々に聞く、俺という一人称と、義之という響きにドキッとして思わず声を出しそうになる。けど、続きが聞きたくて、どうにか声を抑えた。
「主従関係だろうと、召使だろうと、なんだって構わなかったんだ…俺にとって。義之の側にいられるなら…」
俺の側に…いるため?
「俺は分家だったし、どんなに能をがんばっても、勉強をがんばっても、いつまでも義之といられない事はわかってた。そして、案の定、俺は義之と離されそうになった…」
もしかして…それが二年前?
「だから俺は旦那様と奥様にお願いしたんだ。俺をお目付け役にして下さいって。何があっても義之を護るからって…」
もしかして…そうでもしなきゃ、俺って本当に和馬と何の接点も与えられなくなったのかな?
「義之…、俺はな」
和馬が動くのを感じて、俺は目を閉じて眠ってるフリをした。
 だって、和馬は俺が起きてるのをしったら、話してくれなくなる。
 それは明らかだ。
 俺が眠ってるからこそ、ホンネを話してくれてるんだ。
「情けなくても、みっともなくても、お前を困らせても、たとえ泣かせても…側に居られるこの立場を選んだんだ」
俺の側に居るため…。
 嬉しくて、涙がでそうになった。
 和馬が俺のことを嫌っていない。
 和馬が俺のことを考えててくれたんだ。
「お前を抱けたとき…すごく緊張した。今だって緊張してる…。だってさ、大好きな人を抱けるんだぞ、これ以上の悦びはないだろ…」
だって、あれだって…俺が命令で無理矢理やってもらったのに…。
「抱けって命令をしてもらえないか…すごく待ってたんだ。限界だったよ、本当は。義之を前にして耐えるのは」
和馬…和馬…。
「一生側に居られるこのポジションを誰にも譲る気はないし、義之を諦めるつもりもない。三年の修行を積んだら、今度こそ一生離れないから…待っててくれるか…こんな俺を」
和馬は俺が起きてる事を知ってるんだ。
 和馬は俺に話し掛けてくれてる。
 ただ、返事をしちゃいけない。
 返事をしちゃったら、和馬のこれまでを壊してしまうから。
 俺は布団にうずくまって、感激した。
 和馬にこの思いが通じていたんだ。
 和馬に届いて居たんだ。
 好き…大好きだよ…。
 こんないじっぱりで命令する俺でも…好きになって。
 一生待ってるから。
 一生…側に居て。
「好きだ…義之…」
好きだよ…和馬。
「俺以外にその身体をさらさないでくれ」
当たり前だろ…。
「俺が以外に、命令なんかしないでくれ」
しないよ。和馬以外になんて、何もして欲しくない。
「俺だけを見ててくれ」
他の者なんかに興味ないよ。
「愛してる…義之」
心臓が震えた。
 なんど身体を重ねても、何度唇をゆだねても、出てこなかった言葉。
 愛してる……。
 俺は何度も心で返事を返した。
 言葉になんかしなくても大丈夫なんだ。俺達は。
 いままで何度も気付かないうちに、叫んで居たんだから。
 愛してるって。
 お互いに。
 俺は嬉しさを噛み締めながら、和馬の出ていく音を感じていた。
「愛してるよ…俺も」
和馬が出てったドアに向って、素直に言えた初めての言葉は、すごく…甘かった。
 きっと明日からは、もう少し素直になれるだろう。
 俺はそう思って、幸せな顔で瞳を閉じた。

完。


最初。 −1− 小説。


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