明るい!永田町ぷろじぇくと

最初。 −2− 小説。


第1話 祝★誕生。25歳のプリティ総理


「き、決まりました!なんと第四十五代目総理大臣は……若干二十五歳の若手総理大臣の誕生です!」
 テレビやラジオ、新聞やネット。
 各メディアから報道されてくる同じようなニュースを、当事者であるはずの桐生 未幸は当然であるかのように聞き流していた。
 だって、俺にとっては……全てはこれから、だから。
 俺の……最大のプロジェクトは、これから、だから。

 永田町。
 この町には、日本の一番重要な人達が集まる場所がある。
 それは、日本を担う内閣を動かす、政治家たちの仕事場。
 そして、昨日。
 そこで働くものたちを仕切る、新しい長が決まったのだ。
 それも……日本で……否、世界で一番若く、有能な総理大臣が。
「おはようございます。未幸さん」
 俺が永田町に引っ越してきたのは、総理大臣になる前だ。
 選ばれる事はそりゃ『絶対』なんかじゃないけれど、俺は……落ちるわけがないっておもってたから。
 ううん、落ちる事なんて出来ないんだ…俺は。
 俺の計画の為には。
 慌しく引っ越してきたから、荷物はほとんどない。
 愛用のマクラと、大好きな本と、そして…。
「……早いな……相良…」
「ええ。嬉しくて眠ってなんていられませんでしたから」
 それは、寝坊をした俺に嫌味をこめているのか。
 そう、俺が持ってきたものの最後の一つが、彼。
 相良 一期。
 俺より四個上で、俺が小さい時からのお目付け役。
 そして、俺の最大の理解者で、生活必需品……かな。
 今は、俺の秘書の仕事もしてる、なんとも有能な人なのだ。
「貴方はどうやらぐっすり寝ていたようですけど」
 ほら、やっぱり嫌味だ。
「俺が落ちるなんて思ってなかったくせに」
 相良が選んだキングサイズのベッドから抜けだし、これまた相良の選んだシルクのパジャマを、脱ぎ捨てる。
 服や物に依存しない俺は、身の回りのものに頓着しない。
 そんな俺の一日のスーツや靴、ハンカチや髪型にいたるまでをしっかりと決めるのは相良の仕事…と言うか、趣味だ。
 絶ぇっ対、趣味。
 だって、ホラ。
 今日もニコニコと俺のシャツを着させる準備をしている。
「相良、俺の着替えなんて手伝って楽しい?」
「……俺がしないとしないでしょう?こういうの」
 確かに、俺が今身につけているスーツも、シャツも、高そうだなぁ、くらいにしか思えない。
 俺ってつくづくセレブっぽくないよなぁ。
「相良、高いモノを身につけるのは仕事?」
「高価なモノはその人の値打ちを上げます」
「俺は人形や玩具じゃない。頭で日本を動かすんだ」
 スーツの上着を着せながら、相良はその整った顔立ちにある美しい唇を吊り上げ、微笑む。
 自分が丹精に丹精をこめて見届けてきた男が、今開花しようとしているのだ。
 とりあえず、今のところ一番嬉しい事だ。
 とりあえず……は。

 永田町は毎日、毎日忙しない。
 世間一般の人は税金の無駄遣いだとか、馬鹿高い給料貰って…とか言うかもしれないけれど、それに見合うだけの働きは結構しているものだ。
 精神面でも、体力的にも。
「おはようございます、総理」
「ごきげんよう、総理」
「ご機嫌いかがでしょうか、桐生総理」
 国会議事堂に入った途端に浴びせられる卓さんの人達の挨拶に、俺は一人一人会釈し挨拶していると相良がいつのまにか俺の前に立ち、挨拶を返していた。
 俺の部屋。
 国会の中にある俺が唯一安らげる部屋に着いた時、俺は明かに不機嫌な顔をしていたのだろう。
 相良が俺用のココアをいれて、説明するかのように話し掛けて来た。
「未幸さんは総理なんですから、そんな一々全ての人に頭を下げていたら威厳が持ちません」
 俺がココアしか飲めないのを知って、相良はコーヒー派だったのに今じゃココアしか飲まない。
 相良は自分の為にココアを入れながら、俺の顔をうかがう。
「俺は、偉そうな総理は嫌なんだ」
「その若さで総理になられたんです。十分偉い方ですよ、未幸さんは」
 ただ一つ俺のココアと相良のココアの違うところは。
 砂糖が入っているか入っていないか。
 相良のココアは、普通の人が飲むコーヒーよりも苦い。
 甘いものを極端に嫌うくせに、俺に合わせてココアを飲む相良。
 なんだか……うん…。
 苦い……。
「それに、貴方の美貌は偉くて当たり前でしょう」
「なんだよ、それ」
 一期は立ちあがると未幸の座っている大きなイスの横に来て、跪いてから未幸の顔に手を滑らせる。
「黒く透き通った瞳……きりりとした眉、そして通った鼻。薄ピンクに染まった頬…全てがこの世で一番美しいとされている宝石よりも美しく、繊細で、華麗…」
 相良の男らしい角張った指が、俺の顔を撫でていく。
「相良のが身長が高い……し、俺はかっこいいと思うぞ」
 実際俺の身長は170を超えない。
 相良は微笑すると俺の頬にキスをする。
 アメリカ生まれで、イギリス育ちの俺たちにとってこれは普通の行為。
「俺は貴方を守るナイトですから……貴方より強く逞しくあるのですよ」
 ちゅ、と言う甘ったるい音が今度は頬より少しだけ下がった場所で聞こえた。
「俺より手が大きいじゃないか」
 大人になったら大きくなる、と三山廻りに言われたけれど、俺の手は今だバスケットボールを片手で持てない。
 そりゃ、持てない人いっぱいいるけど、さ。
「貴方を包み込み、安心させる為です」
 手が今度は顎を掴み、少しだけ相良の方を向かされる。
 でも決して、相良は俺に無理強いはしない。
 俺の……意思。
 今度は甘ったるい音は、口の端で聞こえた。
 相良の舌が視界でも確認できるくらい伸びて、俺の唇を舐める。
「甘いですね」
 相良は甘いものが苦手だ。
「けれど、貴方がくれる甘さなら……構わない」
 今度は唇から、甘い音が聞こえる。
「……相良……っ……」
「総理……俺は貴方の騎士です…誰にもこの場所を譲らないで…」
 相良は俺の唇に当たるか当たらないかの場所で、キスよりもココアよりも甘い言葉で囁く。
「相良……」
 俺が相良の肩に手を回そうとした瞬間。
「未幸〜っ!おめでとうっ」
 パシャリ、パシャリと言うフラッシュの光りと音と共に、相良と俺だけの部屋に飛びこんできた無粋な男が騒ぎまわる。
 だから、ここは俺の部屋なんだってば。
「……あらら?決定的瞬間でした?ゲイの権利を主張する、現代派総理大臣藤岡未幸様は、やはり秘書と出来てました!……夕刊のタイトルはこれで決まりかな」
 国会議事堂のしかも総理大臣の部屋にずうずうしくも入ってきたこの男は、外務大臣を祖父に持ち、外資系社長を父に持つ、国会専門の記者――岡田文也。
 そして、俺と相良の幼馴染でもあるから笑える話だ。

続く。


最初。 −2− 小説。


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