明るい!永田町ぷろじぇくと

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第二話 岡田文也(おかだふみや)


国会専門の記者……と言っても、実のところ遊んでいるばかりで生きていける上、岡田の会社だから、ほぼ遊びだろう。
 その遊びで、何百万部もの雑誌や新聞を発行しているから、たまったものじゃないんだけど。
 トレードマークなのか真っ赤なアロハシャツと、ジーンズで国会のこの部屋にこれる人間は、まずこの男だけだ。
「……失礼極まりない男だな。未幸さんは総理大臣なんだ。敬え」
「お前こそ失礼だな。俺には敬語が使えないのか。今は私用じゃなくて、仕事で来てるんだぞ」
 横柄な相良はいつも大抵ニコニコしていて、社交的なのだけれど。
 どうも、岡田を含む俺の昔からの友人などには、愛想が振りまけないらしい。
 なんでだかわからないのだけれど。
 うーん、一生の謎かも。
「文也、相良を虐めるなよ。それにキスなんて俺はいつでも相良としてるだろ」
 俺は総理イスの背もたれに寄りかかると、文也に言う。
 文也はニヤリと笑うと、そうだな、と呟きながら、俺の部屋にある高そうな(実際高いらしい)黒皮のソファに腰を下ろした。
「相変らず未幸に恋人が出来ないのは、そこのお節介のおかげだな」
 ライカのカメラを指で拭きながら、岡田は相良を睨んだ。
「未幸さんにつりあう人がいないだけだ」
「目の前にこんな優良株がいるのになぁ」
 確かに岡田は、地位も金もルックスも手に入れた優良株といえるだろうけど。
 相良は表情も変えず、岡田にお茶を出す瞬間、岡田の耳元で、あの卑猥ともとれる美声で渋く、怖く囁く。
「あの人に手を出してみろ……日本にいられなくするからな」
「お〜怖っ」
 わざとらしく大げさに驚くその仕草は、ますます相良の機嫌を損ねる。
「文也。お前今日は何しに来たんだ」
 目の前で何やら火花を飛ばす二人に、助け舟のような会話を差し出したのはもちろん、未幸。
 ただ、この人が本当に助けようとして会話を持ち出したのかは難しいところだけど。
 スーパー天然キューティービューティー。
 そんな異名で呼ばれた事のある未幸(未幸本人は知らないけど)は、生まれついての天然さが、自分を最高にまで高めてくれているのだ。
 計算というものを知らない。
 穢れというものを知らない。
 相良に言わせれば、世界で一番無垢な存在、なのだ。
「おお、そうだった、そうだった。公約の事がで取材だよ」
 文也はそういうと、肩からかけていた大きなショルダーバックの中から、新聞紙を取りだし一面の見出しを読み上げる。
「人気過去最大。桐生未幸の公約は同性愛を認める事」
 大きな声で読んだ文也を相良は再び睨む。
「失礼だな」
「何がだよ。俺は賛成だぞ、これ。それに、民衆もそう思ってるから、未幸が総理に選ばれたんじゃないか」
「節操無しだからだろ」
「お前こそ失礼なんじゃないか、なあ、未幸」
 未幸の2つ上である文也は、いわば相良の後輩でもある。
 中学時代、高校時代とわかるだけでもいろんな恋人のいた文也。その中には女だけでなく男もいたのだから、一期がここまで執拗に気を配るのも分かる気がする。
「お前の生活は明るすぎるからそう言われるんだ。もっと慎め」
「なんだ、なんだ!未幸まで相良の見方なのかぁ」
 文也の今までの生活を見ていたら、相良のような意見を持った人が大多数になるのは明らかな事で、未幸の意見も同じだったからと言って不思議ではないのだけれど、文也にここまで言われるとなんだか腹立たしい。
 未幸はピンクの頬を少しだけふくらませると、書類に目を移し、ぶっきらぼうに呟く。
「俺は俺の思うままをいっただけだ。相良の見方でも、文也の見方でもないからな」
「未幸らしいな」
 文也が満足そうにカメラを未幸に向けるのを、相良はやはり厳しく睨んだままだった。
「未幸さん、時間ですよ」
「あ、もう時間か。悪いな、文也。取材はまた今度」
「あ〜、なんだよ。年寄り議員に愛想でも振り撒くのか?」
 下世話はどっちだと言わんばかりに、相良は文也の足を思い切り踏む。
 未幸はそれには気付かず、肩を竦める。
「会議だよ。お前は取材はないのか?」
「俺は、プライベートを探る方なの」
 未幸がスーツの上着を羽織ろうとすると、相良は黙ってそのジャケットを奪い、未幸の背後に廻る。
 未幸もまたいつも通りだといわんばかりに両腕を後ろに回し、相良の着させるがままにその服を身に着けた。
 レンズ越しに見えるその異様な、だけれど当たり前の光景に文也は密かに冷たい視線を飛ばす。
「過保護……」
 いつものおちゃらけたキャラの文也から、想像もつかない言葉が小さく零れる。
 未幸にも相良にも聞こえてはいなかったけれど。


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