明るい!永田町ぷろじぇくと

-4- 小説。


第5話―相良と和多田の妖しい密会?


無言のままで歩き続ける二人。そんな異様な空気に、通りすぎる人達の方が、息が詰まりそうだった。
 相良は、一旦瞳を下へと逸らすと、和多田へ視線を向けずに話し始める。
「用は一体なんだ」
 まだ案内される場所へとついていないのに、急かすように本題に入ろうとする相良に、和多田は余裕の笑みを零す。
「相変らずせっかちですね、君は」
 和多田の何もかもを見透かしたようなしゃべり方が、相良は嫌いだった。
 そう……昔から。
「何の用ですか。私は今は仕事中です」
 急に仕事言葉になった相良に、和多田はまた少し笑った。
 だから、その笑いが気に食わないのに。
「用がなければ、昔の友人一人声をかけてはいけないのですか」
「お前のどこが友人だ」
 きっぱり言いきった相良の言葉に、侵害だと言わんばかりに和多田が反対意見を述べる。
「半年近く一所に学んだ仲じゃないですか」
「覚えていないな」
 そうは言っても、相良の言葉には知人に話すときのような慣れ親しんだ感が感じ取られる。
 和多田は相良のそんな態度に目もくれず、自分の意見をしゃべり続ける。
「冷たさも相変らず……って、今は愛しの未幸ちゃんが傍にいるから、そうでもないのかな」
 口元を緩め、和多田がそう言った途端、相良の柔道二段、少林寺三段、空手二段の腕が瞬時に空気を切った。
 その目にもとまらない早さの凶器と化した腕は、和多田の首の前でピタリと止まる。
 腕が止まった瞬間、周りの人の視線や息を呑む音も止んだ気がした。
 幸いだったのが、その場にいたのは、まだ若手のペーペー政治家だけだったと言う事だ。
「未幸さんを馬鹿にするような発言は控えろっ」
 相良の、落ちついた、それでいてドスの聞いた声に、和多田は普段の笑いから、キレのある一流政治家の顔へと変る。
「本当……相変らず」
「お前のその失礼なところもな」
 相良は苦苦しくそう呟きながら、鋭く尖った指先を下へと下ろした。
「改めてお久しぶり。相良一期君」
「……貴様とこんな所で会うとはな、和多田広重」
 相良は苦笑を交えてそう言った。
「まさか本当に君の愛しい子ちゃんを総理に導くとは思わなかったけど」
「未幸さんがなりたいとおっしゃったんだ……俺は全力を尽くしただけ……あの人のお力だよ、全て」
 相良にとって、未幸は唯一無二であり、神であり、愛しい人だ。
 未幸が総理大臣になりたいと宣言したあの日から、それに反対した事など一度もない。
 そして、なれないと思った事も一度もなかった。
「俺は、お前が政治家になるとは思わなかったよ」
 相良の言葉に、和多田はそりゃそうだ、と笑って返事を返した。
 相良がそう思ったのも無理はなかった。
 何故なら二人が出会ったのが、紛れもない、秘書を育てる為の学校だったのだから。
「君はあの子とずっと一緒で、あの子に変な虫がつかないように守っているのか」
 そう言った和多田に、相良は沈黙の後、少したってから首を横に振った。
「ずっとじゃないさ……」
「ああ、そうか……僕らの学校に来た時、君の隣に彼はいなかったね。君がいつも彼の話しをするもんだから、いたような気になっていたよ」
 いたような気分になるように、そうしていたのは相良だった。
 未幸がいないあの半年間……相良は未幸を思いつづけていた。
「ああ」
 相良一期は、未幸が中学三年生のとき、自分は高校三年生の時、それまで同じだった学校を一時期離されたのだ。
 別に、二人の仲の良さを心配して……とか言うわけではない。ただ、相良にはこれから真っ当な秘書として働いてもらうにあたって、それなりの教育が必要だったのだ。
 その為、相良は未幸を一時失っていた……。
 ずっとお傍にいられると思っていたのに。
 相良は一日でも早く未幸の元へと戻れるようにと、勉強を惜しまず、普通1年半かかる勉強を半年で終わらせて未幸の元へと戻ってきていた。
 しかし、それまでべったりだった相良に半年は流すぎだった。
 抑えきれない思いを抱いた相良が半年経って出会った未幸は、美しいくらいに成長していて、その空白の半年間に何かあったと想像せずにはいられなかった。
 半年間もの間をあけさせる事となった自分を悔やみ、そしてそれまで以上に相良は未幸にべったりとなった。
 半年間と言う長い年月を埋めるように、密着し、話し合ったが、その何かに触れることはけっしてなかった。
 これが自分の思い込みならいいのだけれど……相良はそう思いながらも、いや、違うと言う確信があった。
 なぜだろう。なぜだろう。
 わからないけれど、未幸には自分がいて、自分には未幸がいて、それが当たり前で、それ以外の異物は、すぐにでも察知できるようになっているようだった。
 けれど、やっぱり未幸の口からそれが発せられる事はなかったけれど。
「相良さん?」
 和多田のフンワリとしたような声が耳に届き、相良はハッとする。
「でも、可愛い方ですね、総理は」
 今度は和多田の言葉に、キッとした視線を向ける。
「とって食うわけじゃないですよ……ただ、可愛いと言っただけでしょう」
「……近づくなよ……」
 念を押すように相良が言うと、和多田はいつのまに着いたのか、一つの部屋の扉を開けた。
「私のお勧めのカフェですよ。ま、ここで懐かしい話しでもしましょう」
 相変らず読めない和多田の行動に、相良はため息を零し、和多田に続いた。


-4- 小説。


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