誘惑ハニー×ハニー

-2- 小説。 -4-


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悶えるだけ悶えさせられた後、蜜の同僚である他のADの声がして、再度リハーサルをする時間はない、本番を直で行うという恐ろしい知らせをうけた。
 しかし、文句を言うにもそのときの蜜は、着ていた服を肌蹴させ神行寺の手の中でヒクヒクと震えていた真っ最中だったので、うかつに声も出せない。
 出そうものなら、本当に自分の声なのかと疑いたくもなるような高い喘ぎ声が零れてしまいそうになるからだ。
 蜜は必死に口元を抑え、ADがいなくなることを祈った。
 しかし、攻めモード炸裂の神行寺は、そんな状況下すら楽しんでいるのか、蜜の身体の最も感じる場所――下肢にまで手を出そうとしてくる。
 必死に足を閉じようとしても、神行寺の手が太ももに触れるだけで身体は電撃が走ったかのように蜜の支配を拒む。
 まるで、誘っているかのように自らゆっくりと足を開く蜜に、神行寺は苦笑交じりで頬にキスをした。
「あんまり可愛いと、本当にここでしてしまうよ?」
「っ……?っ……んんっ」
「――と言うことです。神行寺さん、大丈夫でしょうか」
 無粋なADの説明がやっと終わった。
 蜜は嗚咽をこぼしそうなほどの口を頑として閉じ、その上に呼吸が辛くなるくらい押さえつけている手を緩まそうとした。
 しかし、その瞬間神行寺は蜜の下半身にダイレクトに神行寺が触れる。
 まだ、扉の外にはADがいるというのに。
「っんんっ……神行寺さんっ……やっ」
「ああ、わかった。じゃあ、もうすぐ向かうから君は先に言っててくれるかな。上原君と俺はあとから行くよ」
「はい、わかりました」
 良く知っている人の声だから、なおさらこんな姿を連想させる声を聞かせるわけにはいかない。
 蜜はおかしくなる頭をどうにか保とうとするが、神行寺の滑らかな指裁きに身体はどんどん蕩けていく。
「もう、大丈夫だよ……蜜、ああ、そんなに目を潤ませて……それほど感じているんだね」
 ADがいることが、蜜にとって苦痛でしかないというのに、神行寺はわざと傍にいさせ蜜を困らせようとしてたのがバレバレだった。
 蜜はやっと口の枷を外し、挑発的な目で神行寺を睨む。
「最悪っ……」
「そうかな、ココは気持ちいいって言っているみたいだけど」
 指摘された部分は、男の一番大切な部分。
 人様に指差され、あんまり注目して欲しくない場所だ。
「そ、それは貴方が触るからっ……そんな事されたら、誰だってこうなるでしょう」
「……俺以外にも触らせたことがあるのかい」
 一瞬、空気が少しだけ張り詰めた気がした。
 それまで、ベッタリと言う言葉が合うほど蜜に密着していた身体を話し、神行寺は蜜の瞳を見つめる。
 怒っている、と称されるであろう顔で。
 蜜は慌てて弁明を述べる。
「な、何言ってるんですか……貴方以外にこんなこと……されたことなんてありませんっ」
 蜜が顔を真っ赤にしてそう言っても、神行寺は半分も信じていないようだった。
「どうだろう、人間の記憶なんて曖昧だ。酒の席なら、君だって経験した事はあるだろうし」
 蜜がいくら童顔でも、背が小さくても大の大人、二十一歳だ。
 これまで宴会やらなにやらでもちろん大勢の中でお酒を飲んだことも、酔ってしまったこともあるけれど。
「俺は酔ったからって他人に身体を触らせませんっ」
 神行寺の言葉は、まるで蜜は誰とでもこういう関係をもつ人だと言ってるようだ。
「……じゃあ、俺は特別だって思ってもいいのかな」
「へ」
 突拍子の無い神行寺の言葉に、蜜は返事ではなく疑問詞を投げつける。
「さあ、本番が始まるよ、行こうか」
「えっ、あっ、は、はい」
 なんだかわけがわからないまま、蜜は神行寺に導かれるまま再びスタジオへと向かった。

 スタジオに入った瞬間起こったのは、息を呑む声にならない声。
 初め蜜はその声がどうして発せられたのか、まったくわからなかったが、すぐに察した。
 神行寺には、さっき一回会っているのだからこんな驚く事は無い。
 みんなが驚いているのは、自分の容貌になのだ。
 そう思った瞬間、蜜は見世物部屋にでもいる動物のような気分になる。
「蜜」
 俯いて、決して顔をあげない蜜に気づき、神行寺は声をかける。
「それは君の悪い癖だよ、ほら顔をあげるんだ」
 神行寺の声は何かの特殊な力を持っているようだ。
 蜜は神行寺の言葉しか、今は耳に入らない。
 けれど……。
「でも、俺……これ嫌い……なんです」
 自分の人より白い肌も、日本人離れした色の髪も。
 蜜が自らを虐げてしゃべると、神行寺はわざと蜜の顎を掴み顔をあげさせた。
「蜜は可愛いよ、そして綺麗だ」
「し、神行寺さんっ」
「そう、それで良い」
 さっきまでエッチなことをされていたせいで、潤んだ瞳やピンクの頬がより蜜の可愛らしさを飾る。
 気が付けば、蜜を見ているのはそこらのスタッフだけではない。
 観客席の一般人や、ディレクター、ましてさっきのグラビアアイドルのマネージャーまでこっちに気を取られている。
「やりすぎだ……」
 神行寺は一人呟き、目の前の青年を見る。
 自分の理性や、神経が侵されてしまっているわけではない。なんとか必死に堪えれば、大丈夫と言う状態だ。
 しかし、これが並みの人間だったら。
 人前であろうとも、どこであろうとも、犯したいと思ってしまうだろう。
 それほど露出する甘い、興奮を促す香りを庇うように、神行寺は蜜を抱きしめる。
「俺からあまり離れないでくれるかな」
 自分の姿、外見が人様にさらされることが嫌な蜜は、黙ってそれに頷いた。
 近づいた事でより一層香る蜜の濃厚な香りは、神行寺を煽る。
 惑いや、麻薬にもにたこの香りは、嗅覚から入り込み脳内に侵入しその人を活性化させる働きがある。
 スポーツ選手ならば運動能力が爆発的に増え、いつもの二倍の成果を収める。俳優や女優ならば、声や肌に磨きがかかり、美しくなりそして演技力もあがる。経営者や商業者ならば、新しいアイディアのきっかけとなり、学生ならば勉強意欲がまし、成績が伸びる。
 そして、料理人ならば新しいイメージが沸き起こり、人々が興奮するような鮮やか、そして美味な料理をつくることが出来る……。
 蜜を持っている何億人に一人の香りは、そういった特殊な職業の間でもやは伝説とされていたものだった。
 何億人に一人、と言われているが、実際何十億人に一人の確率だろうとも言われている。
 世の人間を虜にした伝説のオペラ歌手マリアカラスなどは、その香があったのではという噂だ。
 うなじや、鎖骨、唇から零れ出る甘い、甘いハチミツのような香り。
 甘いもの嫌いの人だって、一口だけ一口だけと試していて、どっぷりはまってしまうようなそんな香り。
 今までだって少しずつ放出していたのであろうが、今日初めて人に触られて身体から溢れんばかりに無駄に出すぎている。
 もちろん、自分の身体からそんな香りが出ているなんて露ほども知らない蜜は、制御するだけの知識も、方法も知らない。
 こんなんで野放しにしたら、明日にはもうこの身体は純潔をどこぞの馬の骨に食べられるかもしれない。
「神行寺さん、これじゃあ料理がつくれませんよ」
 もう本番数分前だというのに、あまりにべったりと離れない神行寺を蜜は押し離す。
 蜜の香りに、蜜自身が気づく事は無い。
 それゆえに、伝説でもあるのかもしれない。
「今日は君を料理してみたいんだけどな、俺としては」
 鈍感で恋話に疎い蜜でも、神行寺のようにフェロモン全開でこんな台詞を吐かれれば、恥ずかしくもなる。
「からかわないで下さいっ。貴方の今日の仕事は、子羊のローストビーフとベリーベリータルトを作って視聴者に教える事なんですから」
「君は?」
「え」
「君は俺の料理に興味はないのかな」
 神行寺に真面目に問われて、蜜は黙って神行寺を見つめる。
 もともと蜜は料理に興味は無い。美味しいものを食べるのはもちろん好きだけれど、それほど食にこだわりがあるほうでもない。このテレビ番組のADを任されたのも、会社の方針に従っただけだ。
 神行寺の作る料理が雑誌等で美味しいと評判だったのは知っているけれどもちろん食べた事なんてない。
 そもそも、神行寺奏也と言う人物に会うのも今日が初めてなのだ。
 蜜はしばらく考え込んでから、おどおどすることもなく堂々と言葉を発する。
「俺、貴方にも料理にも興味はありません……でした、けど」
 蜜が毛嫌いしている髪の色と同じ色の混じる瞳を神行寺にむけた。
「今日貴方に遭って、もっと知りたいと思いました」
 嘘も、偽りも無い蜜の言葉に、神行寺は胸を打たれる。
 男、女、年寄り、若者関係なく騒がれつづけていた神行寺は、こんな風に素直な意見を聞く事などなかった。
 周りにあるのは、いつも賞賛と褒め称えた言葉たち。
 皆が皆、同じような文句を連ね、すばらしい、美味しいと絶賛する。けれど、こんな自然な言葉を聞けたのはいつぶりだろう。
 呆気にとられた顔をしている神行寺を蜜は下からのぞきこむ。
「神行寺さん」
 語尾上がりに呼ばれ、神行寺は少し俯きフと笑う。
「気をつけていないと、はまるのはこっちの方かもしれないな」
「え」
「いや……さあ、本番だ。手伝っておくれよ、上原助手」
 奏也の言葉に誘われるように、本番は始まった。
 リハーサルなしの本番入りというのは実際いままでないことはない。都合により主役の料理人が間に合わなかったりして、ぶっつけ本番でやったこともある。
 けれど、今日は視聴率30%はくだらないと言われている日。カリスマコック神行寺奏也が来ている日なのだ。
 おなじみのオープニングテーマ曲が流れても、スタッフたちは緊張を解すことはない。
 そして、その緊張を一心に受けているのが……蜜であった。
 確かに、衣装や髪の色、髪型を変えて見違えるようになったとはいえ、蜜は今さっきまでただのADだったのだ。
 そんな人物を使いたいと言ってきた神行寺の考えも何もかも分からない。
 スタッフはとにかく生放送で何かないようにと必死だ。
 そして、誰よりも緊張しているのは蜜で……。
 普段そんなに感情を表情にださないので、緊張が顔に出ない分、掌は正直に汗で滲んでいる。
 カメラの向こうに出た白い画用紙の文字をただつらつらと読んでいく。
「今日は特別も特別ゲスト、あの噂の料理人神行寺奏也さんをお迎えしています」
 テレビ画面の奥様方が驚いたのも無理は無い。
 いつもはうざいグラビアアイドルが『出来ないですぅ』なんていいながら、はちゃめちゃな手伝いをしていて、今日もそんなヤツが神行寺奏也様の傍にいるのかと思ったら、違うのだから。
 今日奏也の傍にいるのは、奏也ほどに眩い光を放つ謎の青年。
 少年と言っていいほどのお肌、顔つきだけれど、溢れ出す色気はブラウン管を超える。
 そんな蜜が本当は緊張がちがちで、混乱数秒前だと誰が気づいているだろう。
 いや、たった一人。
 たった一人だけその状況に気づいている人が、そっと蜜の後ろに周り、その腰のラインを撫でる。
「っ!?」
「ご紹介に頂きました神行寺奏也です」
 神行寺が余裕綽々とした営業用のような笑みを浮かべながら、カンペ通り落ち着いて話していく。
 しかし、その間も蜜の身体は手放すことは無い。
 細い腰に腕を回し、身体同士の距離は数センチにも満たない。
 もし同じ身長だったら、振り向けばちょうどキスでもしてしまいそうな距離だ。
「では、まず……」
「し、神行寺さんっ」
 料理をする体制に入っているにもかかわらず、神行寺はカメラに映らない死角を利用して、蜜の唯一肉付きの良い下部を撫でる。
 変な声を出した蜜に、番組スタッフ、ディレクターたちは、危険物を見るかのようにおろおろとしている。
 蜜が慌てて神行寺を睨むと、神行寺は一人すまし顔だ。
「蜜、それでは君が感じているのが日本中のお茶の間のみなさんにばれてしまうよ」
「ばっ」
 感じている、などと耳元で囁かれて、蜜はいっきに耳まで赤くする。
 その予想していた通りの可愛らしい反応に、神行寺はブラックペッパーを取るふりをして蜜の首筋に口付ける。
 もちろん、カメラには映らないようにしているが、蜜にはばっちりわかっている。
「ひゃぁっ……」
 思わずまたあの鼻にかかったような響いた声を出してしまい、蜜は口を両手で塞ぐ。
 すると今度は神行寺がその唇に人差し指を当て、まるで小さい子に静かにするように宥める仕草をとる。
「駄目だよ、蜜。そんな可愛い声出しちゃ……。今は夜じゃないんだから」
 誰のせいで……!蜜はそう思いながら、必死にカンペを読みアシスタントらしい行為をする。
 と言っても、神行寺は相変わらず蜜を傍から離さないし、たまに二人にしか聞こえない言葉で会話はするし、意味深な二人の料理風景は奥様方に刺激を与えていないわけがなかった。
 コマーシャル入ります。と言う文字の書かれたカンペに蜜は少しホッとする。
 そんなちょっと気の抜けた蜜の身体の雰囲気を悟った神行寺は、蜜がコメントを述べている間に、再び腰に両手を回した。
 もちろん、キッチンが目の前にあるおかげで、そんな神行寺の変態めいた行動は一切映っていない。
 映っていないんだけど……。
「何してるんですか……っ」
 コマーシャル入ったとたんに、蜜は下でごそごそやっている神行寺に不服の声を漏らす。
「秘密だよ」
 喉の奥で笑うような声で神行寺は囁く。
「秘密だよ、じゃないですよ!なんなんですか、貴方さっきから。これじゃあ、ちゃんと料理が出来ない……」
 怒鳴り散らしながら周りを見ると、これでなかなか料理が出来てきている。
 そういえば、身体をべったり離さない代わり、蜜にも簡単に料理が出来るように作業の手ほどきをしていた。
 ごくごく簡単で、誰にでも出来るような作業ばかりだったけれど、蜜でも料理が出来るようにとしてくれていたのかもしれない。
「キチンと手順を追って料理すれば美味しい料理ができるわけじゃないよ」
 神行寺は立ち上がると、エプロンについたほこりを払いながらそういった。
「俺のコンセプトは、セックスより気持ちいい料理、なんだからさ」
 普通の日本人だったら言えないような直接的な単語を、神行寺はツラツラと言ってみせる。
 蜜は言葉に詰まってしまった。
 セックスがどれほど気持ちの良いものなのかをちゃんと理解していない蜜は、それがどれほどのものなのかわからない。
 ただ、さっき神行寺に触られたときの快感をセックスのそれと思うのなら……。
 あれより強い刺激とはなんだろう。
 興味をもった目で蜜が神行寺を覗き込むと神行寺は秘密を打ち明ける子供のように笑った。
「泣かないでね」
「……え?」
「CM明け五秒前」
 ADの指がだんだん折られ、最後の一秒を示した瞬間。
 神行寺はいやらしく笑うと、蜜のズボンのベルトを一気に引き抜いた。しかも、いつの間にやっていたのかその拍子にズボンは落ちてしまう仕掛けになっていたのだ。
「っ!!」
 パニックに陥った蜜は急いでしゃがんでズボンを上げようと思ったのだけれど、そうすれば何が起こったのか視聴者、スタッフに悟られてしまう。
 幸い、今は目の前の大きなシステムキッチンが邪魔して上半身までしか出ていないのだ。
「では次の料理にうつろうか、蜜」
 神行寺は抜いたベルトを遠くへと投げると、蜜にそう尋ねる。
 つまり、この状況で料理番組を続けろと言うのだ。
「……次の……料理は季節の食材タルト、ベリーベリータルト……です」
 蜜はどうにかこうにか振り絞るようにそのカンペを読んだ。
 普通にしなくては異常を悟られてしまうのだが、それでも蜜には人に裸を見られて喜ぶ嗜好はない。
 まして、こんなテレビに映っているという状況で下半身は下着のみだなんて……。
 羞恥以外の何ものでもない。
 その上、だ。
 先ほど楽屋で神行寺にいろいろイタズラされたのに、最後までいかせてもらえていないのだ。少々時間はたったからと言ってもその熱が完全に引いたと言えば嘘になる。
 つまり、蜜の下着に隠れた大事なところはヒクヒクと刺激を欲して、淫らにも反応したまま。
「ブルーベリー、クラウンベリー、苺……どれも甘いけど君の甘さには敵わないね」
 今度は視聴者にも聞こえるように、そしてカメラにもばっちり映るように神行寺は蜜の耳を舐めた。
「なっ」
 蜜が慌てて耳を抑え、振り返り神行寺を咎めるが、回りはそうではなかった。
 番組閲覧に来ていた奥様方からは、何故か嬉しそうな黄色い声が。
「きゃーーっ」
「へ」
 蜜は真っ赤になった顔と、ばくばくする心臓を抑えながらその声の方を見る。
 神行寺の行動に対する蜜への嫉妬ならまだ分かる気もするのだが、どうみてもお客さんたちは喜び、頬を染めている。
 意味がわからない蜜が首をかしげると、おかしそうに笑いながら神行寺は再び蜜の耳元でしゃべる。
「お客様感謝サービス……みんな君が綺麗で可愛くて仕方ないんだよ」
 自分に対してコンプレックスしか抱いていない蜜にとって、それはますますよくわからない。
「そして、俺も……ね」
 神行寺は怪しく艶かしい声でそういうと、本番最中カメラを回している真っ最中だというのに、蜜の火照った下半身へと手を伸ばす。
「ぁっ……」
 咄嗟の事で準備も何もしていなかった蜜は、神行寺に渡されたブルーベリーを洗いながら甘い声を溢した。
 その声は反響の良いスタジオ内で澄み通り、その場にいた全員を奮い上がらせるような音だった。
 もっとえっちっぽく言えば、下半身と脳にズキュンと反応を示すような声。
 そんな声を出してしまって一番驚いたのは蜜本人。咄嗟に水で濡れたままの手を口に覆い、横で左手一本で華麗にタルト生地を練る神行寺を信じられないという風に睨む。
「っ……神行寺……さんっ…」
 声を必死に押し殺して咎めるが、神行寺はそんなのお構いなし。
 蜜の温かでしなやかな双丘の割れ目に上から奥へとだんだんに指を滑らせていく。
「んんっ……ぅっ……」
 再びあの甘美な声が漏れそうになり、蜜は両手でしっかりと口を塞ぐ。
 しかし、その指の間から零れてくる色艶やかな吐息は、何ものにも替えがたい卑猥な何かを含んでいた。
 こんなことを体験した事の無い蜜にもわかるように、神行寺はゆっくりゆっくりと指を谷間にそって進めていく。急に大事なところに達したりはしない。じわじわと蜜が感じまくっておかしくなるまで、そっと嬲るように触っていくのだ。
「ふっ……んっ……」
 カメラが回っていると言う事はもちろん知っている。
 知っているのだけれど、これ以上声も反応も抑えられない。
 蜜は少しでも動くと身体に神行寺の指が深く触れてくる気がして恐かったのだけれど、首を少しだけ動かして、上気した顔で涙目で誘うように言葉を発する。
「やぁっ……神行寺さんっ」
 体中の血の気が下半身に集まるようなその声に、神行寺はその百戦錬磨の肩書きをかけながらも冷や汗を流しそうになる。
 抱きしめてここで俺を味わわせてしまおうか。
 そう神行寺が思ってしまうほど、蜜は色っぽく言葉で、視線で、全身で男を誘っていた。
 この時間帯、奥様以外家でこんなテレビを見ないだろうから、まだ幸いだった。もし、男共がこんなのを見ていたら、今すぐ回りの人を押し倒してでも性欲を発散させていたかもしれない。
 それほど……見ているだけで欲情してしまうのだ。
「美味しいね……君は、本当…」
「神行寺さん……っふざけ……っ」
「でも、これでは少々振りまきすぎだ」
 神行寺はそういうと蜜の双丘の間から、蜜の反応してしまっている下部を見つけだし右手でやんわりと掴む。
「ああっ」
 さっきよりは小声だったけれど、また蜜は声を漏らした。
 神行寺はまるでおいたをしてしまった子供を咎めるように、密のソレを強く掴んだ。
「っい……」
 快感にまさるような痛みが蜜を遅い、蜜は腰を少し屈めシンクに胸をついて俯く姿勢になる。
「ほら、君は上手にそのフルーツを洗うんだよ。俺は君のフルーツを……触ってあげるから」
 神行寺がそういって目で促したのは、さっきまで蜜が洗っていたブルーベリーや苺の入ったボール。
 蜜は下半身を神行寺に握られたこの状況で、そのボールの中身を洗えといわれているのだ。熱に浮いた自分の身体がどんなに悲鳴をあげていようとも、この行為がどんなにおかしいことかはわかる。
 蜜は冷静になった頭で、ふつふつと怒りがわくのが感じた。
「ふざけないでください神行寺さん、今は本番中で……」
 しかし、真面目なのは蜜だけではなかったのだ。
「ああ、俺はふざけてなんていない」
 そう、神行寺奏也様は大真面目だったのだ。
 何億分の一かの可能性で出会えた蜜を自分のものだとしらしめられる最高の場、このテレビの前で蜜にマーキングできる上、料理もちゃんと作るという一石二鳥な名案を成し遂げるつもりなのだ。
「変態っ……」
「でも、君も気持ちよくなりたいだろう」
 変態と言われて少しだけ眉を詰めた神行寺は、震える蜜の甘いその部分を指でピンと弾く。
 ソコは弾かれるがままに反応し、ますます固くなった。
「っん……っ……」
 蜜はシンクに掴まり、ようやく身体を支えているようなものだった。
 目で訴えても神行寺は楽しげにタルト生地をこねながら、蜜の下半身を撫でるようにいたぶるだけ。
 そう、もし達かせてほしかったらフルーツを洗うしかないのだ。
 テレビの前だと心が囁く……けど、その細く器用な指が与える柔和な刺激が今はただの拷問にしか感じない。
 もっと強い刺激を与えて欲しい、じゃないと自分で触ってしまいそうになる。
 蜜自身がもし触ってしまったら、それはバッチリテレビに映され、全国のお茶の間の皆様に不埒な場面を放送する事になってしまう。
 今、蜜がこの快感の苦痛から逃れる方法はたった一つしかないのだ。
 涙目と真っ白くなってしまう頭の中で蜜は必死に小さな言葉を見つけ出した。
「っ……ふっ……ます…」
 いまだに片手は口で、片手はシンクを滑らないように必死に耐えている蜜の口から零れた声に、神行寺は満足そうに笑った。
「聞こえないよ、蜜。もう一回」
「洗いますっ……」
 蜜が必死に紡ぎだした言葉。それは、自分はフルーツを洗いますから、貴方は僕を達かせてください、という合言葉でもあった。
 蜜は真っ赤に顔を火照らせながら、冷たいボールの水の中へと手を突っ込んだ。
「っんんっ」
 それとタイミングを合わせるように、神行寺は蜜の大事な部分をきゅっと握りしめる。初めてちゃんと触れる蜜のそこは、まるで本当に果物のように愛らしく甘そうだ。まだ先走りの蜜が滴ってきているだけなのに、先端からは甘い匂いがほとばしっている。
 既に出来上がっているローストビーフの濃くのある匂いでも、ボールから溢れ出すフルーティな果物の匂いでも、神行寺がこねているタルト生地の匂いでも勝てないような深い深い香り。
 一番傍にいる神行寺はその香りに当てられてしまいそうになるのを必死に堪え、蜜の気持ちの良い部分を扱いていく。
 最初はまだ蜜をからかうように握ったり、放したり。
「ふぅっ……んぅっ……んんっ…ぁっ」
 蜜は零れる声をどうにか隠そうと水道をひねり、水を出すけれど、それは神行寺を喜ばすだけで。
 艶かしいぬちゃぬちゃという扱く音が聞こえずらくなったおかげで、神行寺は、今度は蜜が自身では出来ないようなテクニックある動きで、上下に動かす。
 ピンッと張った蜜のソコは、神行寺が親指から小指にかけてを優雅に動かし、熱く火照った自身を動かすたびに、言いようも無いような快感をあみだした。
「ぁっ……っ……」
「ちゃんと洗えているかな、蜜」
 蜜が色気むんむんの表情で神行寺を睨むと、神行寺は蜜の洗うボールの中身を確かめるかのように身体を密着させた。
 ただそれだけなのに、神行寺の身体の放つ男らしい香りと体躯に蜜は心臓を跳ねらせる。
「良い子だね……さあ、そろそろフィニッシュと行こうか」
「ぁっ、あぁっ……神行寺さんっ」
 料理の説明をするようにいいながら、神行寺の手はますますヒートアップして、蜜の亀頭をくりくりと弄くる。
 流れ出ている先走りの露がまるで潤滑油のような働きをし、滑らかに蜜の雄の部分を動かさせる。
 長く美しい人差し指で、先を引っかくようにされ、その他の指で激しく上下に扱かれるともう限界だった。
 神行寺はオーブンのタイマーを見て、ニヤリと笑う。
「ぁっ、ああっ……も、ああーっ」
 余熱の時間が終わって、ジリリリと目覚し時計のような大きな音がスタジオに響いた。その瞬間、蜜はまるで性欲のかけらもなさそうだったその身体から、熱く甘い液を放っていた。
 そして、その瞬間放たれた香りは、スタジオ中を浮いた空気させ、カップルで身に来ていた人は当てられ欲情したり、奥様方もなんだか浮いた気分になり、そしてテレビの視聴者たちも大変なことになったらしい。
 もちろん、スタッフ、プロデューサーたちテレビ関係者も。
 なぜだかわからないけれど、見慣れたADの色気有る姿と声とどこからともなくやってくる香りに、わけのわからない感情を抱きまくりだったようだ。
 蜜の応援に来ていて、後からこっそりその情景を見ていた須崎も、普段とは違う蜜の様子に、一喜一憂の百面相を披露していた。
「はい、そしてこちらが……完成品です」
 息も絶え絶えの蜜にずぼんを履かせ器用にもベルトまで締めてあげると、神行寺は自らタルトを飾り付け、ローストビーフを盛り、カメラマンに指を鳴らして合図をした。
 パチンという音とともに料理が現われるのは、神行寺のスタイルだった。
 他の同僚同じく香りにやられていたカメラマンは正気に戻ると、慌ててカメラを神行寺の手元へと向ける。
 そこには、トロトロに煮込まれた子羊を優しく抱きこむように流し込まれたシチューと、果物の美味しいところばかりを集めた季節のデザートが、スタジオ中を虜にするような最甘の香りで飾り付けられ、極上の姿をあらわしていた。
 遠退きそうな意識の中で垣間見られるその美しい料理に、蜜はため息をついた。
「美味しそうだろう」
 視聴者に向かってか、蜜に向かってか、神行寺がそういうと、蜜はコクリと頷いた。
「ではこれはみなさんで試食を……。俺はこの子を頂くとするから」
 神行寺はそういいながら蜜の身体を再び抱き上げる。
 欲望を放ったあとだからだろうか、なぜかフワリと飛ぶようにあがった蜜の身体を神行寺は優しく抱きこんだ。
 そんな神行寺にその意味を問いたくて、空ろな目をあける蜜に神行寺はキスを返す。
「黙って寝ててハニー。君は俺のデザートなんだから」
 その意味はわからなかったけど、とにかく初挑戦のテレビ出演は終わったと、緊張がとけ、蜜は倒れるように意識を手放してしまった。
 もちろん、わかっていたら意識をなくしている場合ではなかったんだけど。


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