誘惑ハニー×ハニー

-5- 小説。 職業。


-6-


蜜が二人に本当のことを告げようとすると、ホールにアナウンスがかかる。
「狗神様主催のパーティにお越しのお客様は、会場へお集まりください」
「ああ、もう始まっちゃう。ほら、蜜行くぜ」
「あ、ちょ、久遠君、俺……っ」
 行かないと言う暇も与えず、そのホテルで一番広く最高級のパーティ会場へと導かれる。
 受付では招待客のチェックが厳重に施されており、もちろん昨日神行寺と出会った蜜にそんなものがあるわけがない。
 蜜は自分の手を引く久遠にその事実を打ち明けるたが、久遠は取り合ってくれない。
 そのまま入り口のレッドカーペットを歩かされてしまう。
「神行寺久遠様、永久様ようこそいらっしゃいました。本日はお忙しい中ご出席いただきましてありがとうございます」
「そんな挨拶はいいよ、天宮。それよりこいつ俺たちの連れだから、入っていいだろ」
 礼儀正しく挨拶してくる天宮と言う男に、久遠や永久はそれが当たり前だという態度をとる。
 ガードマンが何十人と控えるここで、こんな簡単に人が一人中に入れるものなのだろうか、蜜は緊張しながら天宮に頭を下げた。
「お連れ様……ですか」
 間の置いたしゃべりと、目を逸らしてもわかる視線から蜜は自分が値踏みされているような感覚に陥る。
 本当は、天宮は蜜の永久や久遠たちとはまた別の綺麗さに目を奪われ、蜜からほんのに馨って来る蜜の香りに翻弄されていただけなのだけれど。
 日本人離れした髪色と瞳色……それに、馨しいこのなんともいえない匂いは、まるで心すら奪われてしまいそうだ。
 値踏みどころではない。
 蜜の香りをかぐと、それだけで普通は欲情して身体の中心が熱くなってくるのだから、理性が弱い人物は隣にいるだけでセックスしたくて仕方なくなるはずだ。
 天宮は今回のパーティの主催である狗神の関係者で、もちろん芯の通ったしっかりした人だから、そんなことはないけれど、激しく心が揺さぶられたであろう。
 蜜が勇気を振り絞って天宮を見ると、丁度天宮と目が合い、天宮は顔を赤くさせた。
「?」
「あ、いえ、申し訳ありません……、と…お名前は……」
「あ、と……上原、上原蜜です」
「上原様……ですね」
 あまりに今までの人と違う蜜に、天宮はすっかり普段のクールさを失っている。
「天宮っ」
「はい」
 久遠と永久が鋭い声でその名前を呼んでくれたおかげで、ようやく普段の自分を取り戻せたのか、天宮は額からでる冷や汗をどうにか抑えながら返事を返した。
「通ってもいいんだよな、俺たちの連れだぞ」
 こんなところで足止めをくらい、十三歳の子供達は爆発寸前だ。
 天宮はもう一度冷静な目で上原蜜なる人物を見る。
 身なりはしっかりしているが、それを着こなしているかと言うと別だ。まるで初めて七五三衣装を着させられた子供のようにも見える。
 身のこなしは悪くはないが、躾られたものではない。腕につけられている時計等でその人を判断する人もいるようだが、蜜のつけているものはどこのブランドのものでもない普通の時計だ。
 人の出来ている天宮はそんなことでは人を判断しないけれど、やはり神行寺家と何か関係がある人とは思いにくい。
 久遠や永久は神行寺家の末裔の一人であるから、人を見定め間違うと言う事もないだろうけれど……。
「失礼ですが、神行寺久遠様、永久様とのご関係は」
 この二人と何か関係があるにしても歳が離れすぎている。友人というにはちょっと無理があるのではないだろうか。
 どうみても青年は二十歳は過ぎている立派な大人だ。
 天宮の問いは、蜜が答えるより早く二人が声をそろえて言った。
 もちろん、打ち合わせなんてしたわけじゃないのに、同じ声、同じトーンで、まったく同じ言葉を。
 双子って言うのは面白いものだ。
「恋人」
「ちょ、ちょっと久遠君、永久君っ」
 蜜は慌てて二人の口を塞ぎ、天宮を見直す。
 それでも雨宮は大して驚いている風でも、呆れいている感じでもない。よっぽどきちんと教育されているのだろうと、蜜は胸をなでおろした。
「すみません、あの、俺神行寺奏也さんって人に連れられて来たんですけど……」
 ここまできたら説明しないわけにはいかない。蜜は、言葉を選ぶようにして、説明口調で雨宮に言った。もし言わななければ久遠たちがこれ以上何かしゃべってしまいそうで恐かったのだ。
「奏也様」
 久遠や永久とまた違った反応で、雨宮は驚いたようにその名前を呼んだ。
「あの、何か……?」
「いえ、ああ、そうですか……奏也様のお連れ様ですか。では、入れないわけには行きませんね、どうぞ中へ。私がご案内します」
 久遠や永久がどんなに言っても悩んでいたのに、神行寺の名前が出たとたんに雨宮がすんなりOKを出したのが気に食わなかったのだろう、久遠と永久はプーッと顔を膨らませている。
 やはり、どんなに偉い人でもまだ中学生扱いなのは仕方のないことらしい。
「案内なんかいらねーよっ」
「行こうぜ!蜜」
「あ、ちょ、ちょっと二人とも――っ」
 蜜は二人に両手を引っ張られ、謝るように雨宮に一礼すると中に入っていった。
 中は入り口で見たよりもずっとゴージャスで広い。
 蜜は入り口のレッドカーペットに躓きそうになり、一人顔を赤らめてしまった。
 芸能界だって様々なパーティがあり、たまに新堂なんかに連れられて出席したこともあるけれど、それとは桁違いにすごい。
 いる人いる人みんな煌びやかな衣装に身をまとい、上品な仕草で触れ回っている。
 中には何かで見た事があるような人もいるが、全然思い出せない。
「蜜、お腹すいてないか」
「蜜、なんか飲むか」
 久遠と永久は蜜をエスコートしている気になっていて、蜜に引っ切り無しにそんなことを聞いてくる。
 尊大な態度なのに蜜を思いやってるのが伝わってきて、蜜は思わず笑って首を横に振った。
「いいよ、二人こそ食べておいでよ。俺は……ちょっと人酔いしそうだから、あっちの隅の方にいるから」
 二人にとってパーティなんて来慣れていて蜜がいなければ詰まらないのに、そんなこととは露知らず蜜は一人でさっさと人気の少ない方へと歩いていってしまった。
 二人が止める声も聞かずに。
 もちろん永久も久遠も追いかけようとしたがすぐに沢山の来賓客のせいで、小柄な蜜は見えなくなってしまっている。
 香りも既に充満気味で、会場中で甘い華のような蜜の香りがいたるところで香ってそれで探すのは不可能だ。
 しかも、『神行寺』の関係者の久遠と永久はすぐさま人に囲まれてしまう。
 二人は不本意ながらも、蜜を見失ってしまったのだ。
「シャンパンはいかがですか」
「あ、じゃあ……頂きます」
 ボーイに声をかけられ、蜜はピンク色の泡だったシャンパンの入ったグラスを一つ取り、微笑んで礼をいって立ち去った。
 ボーイは、一瞬見た蜜のその笑顔に目を奪われ、思わずグラスのまだ沢山乗ったお盆を落としそうになる。
 蜜はグラスを持ったまま開け放しになっている大きなテラスに出た。
 今日は少し肌寒いから、あまりここには人は来ていないようだ。なぜか会場に入った瞬間から人の目が気になり、落ち着かず久遠たちとも離れてきてしまった。
 蜜は爽やかな夕方の風を浴びながら、グラスに口をつける。
 普段ボーとしているような蜜でも人の視線が気になるのは、当たり前のことだった。今日の会場は男性客が多く、蜜の身体から零れる香りは無意識に増えている。香りは、男には女を、女には男を誘うようになっていると聞いた事があるが、蜜の場合男女兼用でちょっと男性を引き寄せるほうが強い特殊なもののようだった。
 その上、アルコールは蜜の魅力を上乗せする。
 アルコールの入った蜜の体内は、普通の人の身体よりフェロモンを振りまく体質になっている。これは香りうんぬんではなく、蜜自身の特質だった。
 もちろん、蜜がそんな自分の身体の変化に気づいた事などない。
 お酒好きのせいにお酒に弱い蜜は、だいたいは飲んでいる仲間の中で最初に酔ってしまうから。
 蜜がようやく少し具合の悪いのから治ったころ、三、四人の若い男達が蜜の匂いに誘われ、蜜に声をかけてきた。
「君、名前なんて言うんだい」
「教えてくださいよ、僕たちは君に心を奪われた可愛そうな紳士…。せめて名前ぐらい聞いてもいいだろう」
「あ、あの……?」
 いきなり声をかけられ、名前を聞いてくる男達を蜜は怪訝そうに覗き込む。
「ああ、すまない。俺たちから名前を名乗るべきだったね……」
 そういいながら一人の男が差し出してきた名刺には、K製薬取締り社長という肩書きが書かれている。
 K製薬といったら日本で今有数の薬品会社で、日本全国に支店がある大手だ。その他の二人も似たり寄ったりな内容の名刺で、蜜は改めてこのパーティが場違いなものだと思い知る。
「――で、君の名前を聞かせてはくれないのかい」
 自分だって名刺くらいはある。
 けれどそれは会社に配布されたもので、アシスタントディレクターと大きく書かれたものだった。しかも今は会社に置きっぱなしになっている。
 蜜はもらった名刺を眺め、そして男達を見る。
 何故自分に話し掛けてきたのかは分からないけれど、名前を名乗って来たからには、名乗るべきだのだろうか。
 けれどそれでは再び入り口での出来事の二の舞になってしまう。
「そうだ!ここではなんだから、僕たちがとっている部屋へ行こうか」
「え、あの……ちょっ」
 それまで紳士的だった男の一人が蜜の腕を強い力で掴み、出口へと引っ張る。しかし、神行寺にここで待つと言ったのだ。蜜はここを動くわけにはいかない、と頑なに足を動かさないせいで腕がギリッと痛んだ。
 優男のように見えて、どうも筋力だけはあるようだ。
「痛っ……」
 蜜が痛んだ顔をしていても男達はそれに気づく風もない。
 目の前の美しい青年と悦びの時間を得たくて、目先の欲に目が眩んでいるのだ。
 これだから、外見がちょっと綺麗だからって人を判断できないというのだ。蜜は三人を睨みつけるが、それすら男達には挑発しているようにしか見えない。
 蜜の薄茶色の瞳が怒りで揺れた。
「ちょ、ホントにやめ――」
 有名な人のパーティなのであろうから、騒ぎを起こすわけにはいかいないと穏便に済ませようと思っていたのに、そうもいなかい。
 これでは男達の思うが侭に、どこかへ連れ去られてしまう。
 蜜がAD仕事で鍛えた手で男の腕を握ろうとしたが、その前にその腕は反対側へと曲がった。
「いてててててっ……な、誰だっ」
「力で屈服させるなんて紳士違反だと思うんだけどな、僕は」
 体格のなかなかしっかりしていたその男の腕を背中に捩り、まるで赤子の手を捻るかのように扱うと、突然現われたその男は優しくそう言った。
 急に蜜たちの目の前に現われた男は、神行寺ほどの長身のまるで絵本の中の王子様が飛び出てきたような人だった。
 艶のある茶色い髪は、染めたわけではなくでも決して混血なわけではなく、美しいダークブラウンで輝き、月の光を浴びるとそれはまるで金色にも見えた。
 西洋風の顔立ちで、ヨーロッパの貴族と言われれば納得してしまいそうな物腰。身に付けられている服装から考えても、どうみても普通の一般客ではなさそうだ。
 芸能界にはいないような気品が仕草から漂ってくる。
 しかし、声は優しいのに全然顔は笑っていなく逆に恐さが伝わってくる。
 その男の連れの二人も完全にその男の登場に慄き、顔を青ざめている。
 一人だけ、自分を虐げるその男の顔がまだ見られず痛さと屈辱と戦いながら喚いているやつがいた。
「何するんだっ!放したまえ……俺が、俺が誰かわかってるのかっ」
 傲慢な男の声に、笑みを浮かべた男は再び安堵感のあるあの優しい声で話し掛ける。
「ええ、わかっていますよ。ただし、権力は仕事場で使うものであって、口説くときと喧嘩の時に持ち出すのは卑怯者のすることだと思いませんか」
 言葉巧みなその男の言葉に、男は唸り声をあげる。
 それまでただ怯えていた男二人が、掴まれた男に遠くから叫ぶようにいった。
「お、お前……早く謝るんだっ……その人、そのお方は……」
「ああっ!?」
 無理な姿勢で痛む首を振り絞って後ろを向いた男は、その人物を一瞬で誰か判断したようだ。
 ただ蜜一人、その人が誰だかわからず、瞬時に顔を青くさせた男を見てただ驚くばかりだ。
「い、い、狗神……貴幸……っ!?」
 狗神。
 男の呼んだその苗字には聞き覚えがあった。
 確か、このパーティの主催側の名前がそんな名前だったはずだ。
「狗神様ぁあっ……ど、どうかお許しをぉ」
 三人の男達はプライドも全て捨て去ったように、せっかく着こなした高級スーツのまま赤い絨毯しかれるバルコニーのその床に土下座し、頭をついた。
 あまりの出来事に唖然としている蜜を見て、狗神はその男達にため息をついた。
「こ、今回のことは、酔った勢いで……」
「ああ、わかっているよ。どんなにすごい人でも酔ってしまえば過ちを犯すものだからね」
 狗神の優しい言葉に、男達は同時に顔をあげ、神様にも思える優しい人の顔を見る。
 しかし、その顔は蜜には見えない角度で悪魔へと変わった。
「ひぃっ」
 冷酷な眼差しと、尋常な人であればつくることの出来ない氷のような表情に男達は息を呑む。
「ただ、僕は心の美しくない人の犯す罪は嫌いでね。見苦しい言い訳はもっと嫌いなんだ」
「い、狗神様っ」
「藤岡、富田、新橋。とっととこの会場から出て行ってもらおうか。そしたら今日のことは流してあげるよ」
「は、わ、わかりましたっ」
 どうみても取り締まりや会社で偉い立場の人たちが土下座をしたと思ったら、今度は尻尾を巻いて逃げていってしまった。
 蜜はテラスの柵に背中を預けて、呆然と立ち尽くす。
 この人は一体――。
「怪我はないかな、シンデレラ」
 狗神と呼ばれていた男は、蜜に恭しく手を差し伸べた。
 語尾の言葉が気になりながらも、蜜はその手をとった。
「ありがとうございました……その、助けていただいて」
「いや、実は僕も君に声をかけたいと思っていた一人だからね、切っ掛けを奪われて嫉妬していたのかも……」
 くすくす、と笑いながら男は蜜のさわり心地のよい白い手の甲に唇をつける。
「っ……」
 恥ずかしくて目を瞑ると、男はますます笑った。
「今日のパーティは好みに合わなかったのかな。君はずっと俯いたままだ、姫」
 主催側の人の気を悪くしては気の毒だと、蜜は首を横に振る。
「いえ、あの……俺はただ、こういう場所が苦手で……」
「そうか、だから僕は今まで君を見つけられなかったんだね。じゃなかったら、僕は今までのどのパーティでも真っ先に君を見つけ、声をかけていただろうからね」
 それは、蜜が今までのどのパーティにも出席していなかったからなのだけれど、狗神は一人何度も頷いている。
 このままだといつかボロがでてしまう。
 蜜は慌ててグラスのシャンパンを飲み干し、それを狗神に見せつけた。
「あ、あの俺、もう一杯飲みたいので、取ってきます」
 お酒好きの癖にお酒に弱い蜜には、もうそれでもかなりの量だったけれどそれを口実に抜け出すしかなかった。
 しかし、そんな蜜の交わしを更に狗神は交わしてきた。
「お酒が飲みたいのなら、ボーイを呼べば持ってきてくれるよ。なんなら、僕のワインセラーに行ってお好みをチョイスしてはどうかな」
 確かにそれは美味しいお誘いだけれど、今はのこのこと知らない人に着いて行く気分ではない。
「君の香りに似合う、相応しいワインを選んであげたいな」
「え……」
 まただ。
 蜜は『香り』という単語に、ビクッと肩を竦めた。
 どうして、なんだろう。自分が知らないところで、自分の何かを知っている人がいる。
 それは、言いようのない恐怖でしかなかった。
 蜜の感情の変化を読み取ったのだろうその男は一歩蜜に近寄り、蜜が震える手で持っていたグラスを取り上げる。
 急に近づいた顔はやっぱり美しく、怪しく月夜に照らされている。
 狗神の顔がいきなり頬を掠め、首筋に触れた。
「んっ……」
 吐息が耳朶にかかり、蜜は思わず声を出しそうになり口元に人差し指を当て必死に耐える。
 昨晩入念に男の身体に慣らされた蜜の身体が、そんな急に開発されるわけはない。しかし、雄の香りが鼻を掠めた瞬間、フラッシュバックのように身体が欲情した状態へと瞬時に戻された。
 まるで、そうそれが当たり前だとでも言うように。
「会場中に溢れていたから……どこにいるのか探すのに時間がかかってしまったよ…」
「やっ……っ……何…」
 人前だというのに狗神は蜜の腰に手をやると、さらに身体を接近させ蜜の首筋を舐める。生暖かく唾液の含まれた舌がねっとりと首筋を這うのを感じ、蜜は狗神の髪に指を絡め押し放そうとするが、指先に力が入らない。
 艶やかな髪はするりと指先から零れ落ち、いやらしくすくっているようにしか見えない。「甘い、甘い……誘惑の香り……」
「嫌……っ……そんなの……ないっ」
 二十四年間そんなものなど感じた事はなかったのに、あると信じろというのが難しい。
 蜜は自分にも相手にも言い聞かせるように、震える大きな声で断言する。
「知らないんだ……花というのは自分の香りには気づかないらしいね」
 上にあげた狗神の端麗な顔に、唇が触れ合うか触れ合わないかの顔の真正面で見つめられる。
 唇を押し当てられた首筋が熱く、痛むような熱を発している。
 眩暈すらおこしそうな頭の痛みの中で、蜜は力なく言葉を発する。
「……香りって……」
 蜜の身体は小さく震えているが、恐さ以上に何か勝るものがあったのだ。
 そう、昨日今日と自らの人生を狂わせ気味の『香り』
「……知りたい?」
 天使のようなあの笑顔で問い掛けられ、蜜は言葉に困る。
 知りたいのなら神行寺に聞けばよいのだろうが、なぜかそれを深くしなかった自分。
 本当は知りたくないのだろうか。
 蜜はグッと下唇を噛んでいたようだ。それに気づいた神行寺が蜜の唇に触れた。
「ああ、すまない。君を苦しめたいんじゃないんだ。ただ君がもしやあの男に良いように使われているんじゃないかなって心配になっただけだよ」
「あの男って……」
「至上最低の神行寺奏也のことさ」
 狗神がなぜ神行寺を知っているのかはこのさいどうでもいい。
 神行寺は有名人なのだし、この狗神もそうとうな名のとおった人だとわかるし。
 けれど、なぜ蜜と神行寺が関係があるということを知っているのかはなぞだ。
「なんでそれ……」
 問いかけようとした瞬間、会場の電気がフッと消えた。
「只今より、狗神秀貴氏の生誕祭を行います」


-5- 小説。 職業。


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