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● やっぱり君じゃなきゃ嫌! --- -2- ●

なんでかわかんないけど、キスされたこと気付かれちゃったのかな、これって。
「ち、違う…」
なんだかわかんないけど、双葉がめちゃめちゃ怒ってることと、先輩になにかしでかしかねない感じだったから、俺はとりあえず否定してみる。
「何が違うんだ。ここにしっかり痕までのこされやがって…。しかもかばうってのか…生徒会長様の方を…」
双葉はすっかり怒りモードだ。
「そうじゃなくてぇ…」
 ひーん…どうしてわかってくれないの?
 俺がどうにか丸くおさめようとしどろもどろした時、スピーカーからキーンとマイクをオンにした音が聞こえた。
「あ、ほら、双葉。列にならばくちゃ、入学式始まるよ」
「いいよ、どうせでないつもりだったし…葉月のそばにいるよ」
双葉の心遣いがめちゃくちゃ嬉しい。
「何言ってるの。ダメ、ダーメ。ほら、行きなさい」
でもやっぱり俺はお兄ちゃんだし。ね。
「…でも、どうするんだよ、アイサツ」
「葉月くんに任せなさいっ」
俺は胸をドンっとこぶしで叩いて、虚勢をはる。
 その様子にやっと一応安心した双葉は、さっきの先輩のことにわだかまりを持ちつつも、ステージそでを後にした。
 その生徒会長様とやらのことについては、あとあとどうにでもなる。そう思ったからだ。

 任せなさいとは言ったものの、良策なんて考えているわけない。葉月は在校生八百人のいる体育館に、緊張しながら入っていく新入生を見つめながら、頭を抱えていた。
 けれど逃げるわけにはいかない。ステージで泣くわけにも行かない。
 きゅっとその真っ赤な唇を噤むと、決心を固めた。新入生代表に選ばれたことは名誉あることなんだから、しっかりやってやるもん!
「教師、生徒起立」
いきなり耳に飛び込んできた、大きな声にビクッとする。
「これより入学式を開式します」
偉そうな声が式場に響き渡る。生徒はシンとして、誰もしゃべっていないみたいだ。さすが森重学園。葉月はその偉大さに、素直に感心する。
「校長式辞」
校長先生が壇上にあがり、何か話し始める。やっぱりこういう話は苦手。眠くなってくる〜…。だって、言ってる言葉は難しいし、ややこしいし、毎回似たり寄ったりだし。
 葉月が暗幕の隠れたところで、うとうとし始めちゃった時、耳のすぐ側で聞き覚えのある声がする。
「葉月君。ダメだよ寝ちゃ…」
へ?
「せ、先輩っ」
そう、耳元に…っていうか目の前にいたのは、あの聖司先輩だ。
「どうして…ここに?」
ドキドキする胸を抑えつつ、聞いてみる。でも、愚問だったみたい。
「僕のこの学校でのポジションは何だったでしょう」
「あ……生徒会長さん」
「あたり。君の後にアイサツがあるんだよ」
あれ?俺……新入生代表だって言ったっけ?
 まあ…別にそんなことはいいんだけど…。
「でも、本当…眠くなる話だよね」
「先輩もそう思います?」
「ああ、この先生は教師としてはまぁまぁだけど、壇上にたって話しをするのはどうも…ね」
ププ…!なんだか俺は嬉しくなった。生徒会長さんなのに、こんなにはっきり言うんだもん。親近感がわかないわけがない。
「そんなにおかしい?」
「ううん、良いと思います」
「そっか、君はこういのこのみなのかい」
このみ…?うーん…わかんないな。あんまりこのみにうるさくないから、俺。友達もうるさい人もいれば、物静かなやつもいるし。って言うか、自分の性格省みず、人を好き嫌い言う人は、ダメなんじゃないかなって思うんだ。俺。
「俺は人を自分のこのみとかで判断はしませんっ」
だから、そう言ったんだ。ちょっと生意気かなっておもったんだけど、先輩はなんだか俺の答えが嬉しかったみたい。にっこり天使みたいに微笑んで、抱きついてきた。
「やっぱり君…君がいいな」
「何がです?」
内心ばくばく。
「恋人にするなら、君がいい。ううん、君じゃなきゃ嫌だ」
ひぇ?コイビト…。
「俺……男だと思うんですけど」
普段から、女の子顔、女顔、女っぽい、言われてるからちょっと引き気味に言ってみる。本当なら、俺は男だ!って断言するところなんだけどさ。
「わかってるよ、僕も男だ。だけど、君が良いんだよ」
こんなこと言われたの初めてだから、恋愛対象としてどう思ってるか以前に、嬉しく思うよね?普通。
 それに先輩は…めちゃくちゃ格好いいんだよ。背も高いし、顔も整ってるし、声もすっごい大人って感じでセクシーだし。
「俺は…」
俺が口を開きかけた時、校長先生のお話が終わった。次は俺の番。結局何も考えてなかったことをおもだいだし、緊張が最絶頂を迎える。
「緊張してるね…」
なぜ恐いくらい緊張してるかを知ってる聖司は、ニヤリと笑いたい気持ちを抑えつつ、言った。
「……少し」
ここで全然!って言えれば格好良いんだけど。
「素直でいいね葉月君は…よし、緊張がとけるおまじないかけてあげよう」
「おまじない?」
「そ、目を閉じて……」
緊張がとけるおまじないって言ったら、人、人、人って手に書いて飲みこむ…ってのくらいしか俺は思い浮かばない。
 目を瞑って、俺は先輩が何かしてくれるのを待つ。
「んっ…んん」
いきなりの唇にきた温かみに俺は思わず声を張り上げるが、その口が塞がれているのだ。声が出るわけがない。
「んぁ…ふっ…せ、んぱい…」
さっきまでのは比にならないキス。先輩がくれたのは、ディープなキスだったのだ。
 こんなんじゃ、心臓のばくばく増えちゃうよ〜!
 俺は先輩の体を引離すように、先輩の胸に手を這わせ、押しのけようとするけれど、先輩の体は思ったよりガッシリしていて、しっかり筋肉がついてて、つまり微動だにしないんだ。俺のぷにぷに細腕なんかじゃ。
「好き…葉月…葉月…」
「んぁ…ふ…っ」
舌を俺の口の中に唾液ともに、抜き差しを加えて巧妙に動かす。嫌って思わなきゃいけないのに、いけないのに…なんでか、俺は先輩のキスが気持ちいいって思っちゃうんだ。
 きっと、三つ子じゃなくて、双葉、蜜葉の似てない兄貴とかじゃなくて、俺を、俺として見てくれてる先輩に、俺は感謝してるからだ。
 でも、きっと二人にあったら俺への見方もかわるんだ。ああ、三つ子の出来そこないだって…。
「先輩っ!」
俺は必死になって、狂いそうになる頭を元に戻し、先輩をはがす。
「緊張はとけた?」
口から零れ落ちる、俺のか先輩のかわからない唾液を親指で格好良くぬぐいながら、先輩は言う。
 そういえば、これっておまじないだったんだっけ。俺の緊張を解く。
「……わかんない」
顔を真っ赤にさせて、うつむきながら呟く葉月は、扇情的で、それ以上の行為を誘っているようで、しまったことをしちゃったなとちょっと反省する聖司君だったり。
 だって、これから葉月はステージの上にたつのだ。それなのに、こんな姿をさらしたら、よからぬことに走り出す狼を増幅させるだけではないか。
「新入生代表アイサツ」
教頭先生の声がいきなり二人の間に滑り込む。
 俺はキスの間に足腰がなんだか震えちゃって座っちゃってたから、急いでたちあがって、ほこりをはらった。
 すぐにステージへ行く階段へ向おうとした俺の手首を先輩は握って引きとめる。
「恋人の件…考えておいてね」
ウインク付きの甘い言葉…。
 俺はコクンとだけ頷いて、ステージ脇に備えた。
「瀬川 葉月君」
「はいっ」
俺は両手両足が一緒にならないことを祈りつつ、前に進んだ。

 うわ〜…人でいっぱいだ。
 中学校の時はそんな田舎中学ってわけじゃないけど、生徒数は全校で四百人くらいで多いほうじゃなかった。だから、生徒、先生合わせて千五百人もいる体育館を見て、一瞬たじろく。
 俺はさっきまで校長先生がいた式台の上のマイクを自分の高さに合わせて、スイッチがオンになっているのを確認した。
 緊張がスーっと抜け落ちていく気がした。
 人間、緊張しすぎると、逆に落ちつくものらしい。
 そんなことを考えつつ、葉月は話し始めた。
「最初にみなさんに、僕は謝らなければなりません」
第一声がこれだ。教師陣も生徒もざわざわ言い始める。
「実は僕、何日も前からこのために考えて練習していた文章を、今日になってなくしてしまったんです。だから、みなさんが褒め称えてくれるような偉いことは言えないけれど、僕の本当の新入生としての話をしたいと思います」
さっきまでのざわめきは消え、今やみんなが葉月を注目している。
 泣いちゃうんじゃないかって思っていた聖司も、意外な葉月の行動に目が話せなくなっている。
 ステージ下、左から一列目一年一組の中にいる蜜葉は、原稿がなくなった事実を知らなかったので一瞬驚いたが、葉月のことを誰よりも冷静に見つめてきた彼は、葉月のすばらしさを知っている。葉月なら大丈夫。そんな安心感がすぐに頭の中にでてきた。
 左から四列目一年二組の中にいる、わけしりの双葉は、葉月の毅然とした態度に惚れなおし中だった。葉月はただかわいいだけじゃない。
 三者三様の考えのかな、葉月の話は進められる。
「僕たちは本当に不安ばかりなんです。中学校と高校は全然違うところだし、はじめての寮生活だし。規則、ルール、上下関係。考えさせる要素は多々あります。けれど、今は、自分の意思で選択し、親元を離れる。そんな俺たちの自立のときなんです」
葉月の一時一句を聞き落とすまいと、式場にいるみんなはたたずを飲んで見守っている。
「だから、間違うこともあるし、失敗もある。迷うこともあるし、立ち止まることもあるんです。だからお願いします。僕らが、困っている時は優しく手を差し延べてください。僕らが泣いている時は、イイコイイコって頭を撫でてください。僕らはきっとまっすぐ進めるはずです。この学園の先生方、先輩方は、僕のお願いを聞いてくださる人たちであることを僕は知っています。いいえ、本当は知らないけれど、わかります…わかるんです。」
葉月の可愛すぎる発言に、式場中萌え萌えの荒らし。それこそ先生たちから、在校生、新入生にいたるまで。
「そんな環境だから、こんな甘ったれた僕だけど、この学園に入学できたことは本当に幸せで、貢献できたらいいなと思っています。これから三年間……よろしくお願いしますっ」
葉月はペコリと一礼した。練習していた文章とは似ても似つかぬ短い、つたない発言。内心、後悔の荒らしだった。
 けれど。
 葉月が頭を上げる前に、式場は一斉にものすごい拍手に包まれる。葉月は思っても見なかった現状に動揺してしまう。
 とりあえず、ブーングじゃなくてよかった……。
 葉月はもう一度深深と礼をすると、ステージ下に引っ込んだ。それでも拍手の波は収まらなかった。
 可愛い!可愛すぎる。外見は一瞬見ただけで、胸キュンものだったけれど、原稿をなくしたのにこのどうどうとした態度。そして、トキメクような声なのに、発せられる言葉のすばらしさ。どこをどうとってもパーフェクト!最後の一礼は、マリーアントワネットを思わせるかのようだった。
 双葉と蜜葉は、当然でしょうと言った顔で周りのやつらの騒ぎようを見守る。あれが自分たちが十五年間思いつづけてきた相手なのだ。
 そして、聖司はお手上げ状態。こんな子がこの世にいたのか…とオーバーリアクションをとってしまった。
「君は一体何者なんだ」
そう問いてみて、一人苦笑する。君はきっときょとんとして「俺は葉月です」って答えるんだろうね。
 自分の発言を聞いた人たちがどう思ったなんて考えてられない葉月は、聖司の顔を見るとなぜか急に自分がものすごいことをしたことを思い出し、へなへなと座りこんでしまう。そんな葉月のおでこに聖司は優しく口付けると、騒がしくなった式場へ、教頭先生の進行がないのに出ていった。
「生徒会長の与那嶺 聖司です。僕の話をしてもいいかな」
一気に式場は、もとの静けさを取り戻す。
「では、僕から一言…」
与那嶺様ぁ!生徒会長様ぁ!
 会場のあちこちから、シンパのものらしい声が飛び交う。
 聖司はそれら全てにちゃんと手を振ったり、ウインクしたりして応対すると、話し始め、これもまた寛大なもので、式場のほとんどの人の拍手を得た。
 葉月はそれをぽーっと聞きながら、おかしくなった時計みたいな心臓を抑えていた。
 平静を装っても、そこはただの高校生。それに人前にたつのは本当は苦手なんだし。そんな葉月にとってはものすごいことだった。足ががくがくしてたてない。腰に力が入らない。一生懸命何度も壁に掴まってたとうとするが、上手く行かない。何度となくそんなことを繰り返していると、目の前のドアが開いた。
「葉月ってやっぱりすごいな」
この声は。このしゃべり方は。顔を見なくてもすぐわかる。だてにお腹の中からいっしょにいたわけじゃない。
「双葉」
って、あれ?お前……まだ入学式やってる最中ですけど。
「って、え?え?」
双葉は何も言わず俺をやさしく抱き上げたんだ。そう、これってお姫さまだっこ。
「だって、たてないだろ」
「で、でもいいよ……こういうのは恥ずかしいし、俺もうこう高校生だし」
俺ってばよく転んだりよく熱出したりするもんだから、双葉も蜜葉も俺をよくダッコして家まで送ってってくれたりしてくれたんだけど、さすがにもう俺も今日から高校せいだし。こういうも卒業しなきゃだよね。
「俺から、葉月をこうやって守る権利すら奪うのか……?」
え?
 双葉の言葉にびっくりして、俺は双葉の顔の方を急いで見た。
 泣き出しそうで。切なそうで。
 いつも元気はつらつな俺様態度の双葉から想像も出来なかった。うん、俺の知る限り、初めて見せる顔だったよ。これは。
「双葉ぁ…」
俺の何が悪かったのかわからないけれど、双葉を傷つけたことは明白だった。なんて言っていいかわからなくて、俺は双葉の頬をなぞり、首の後に両手を回して、ぎゅって抱きしめてみた。昔、おばけが恐いって眠れない双葉をこうやって抱きしめてみたら俺の腕の中でぐっすり眠ってくれたんだ。俺は、ああ、お兄ちゃんってこういう感じなんだなって、こういう兄弟っていいなって強く思ったんだ。そんなことをふと思い出したから、抱きしめてみたんだ。
「葉月…」
双葉の名前を呼ぶ声がいやに胸の中に響く。
 みんなはそっくりだって言うけど、双葉と蜜葉の声は全然違うんだ。双葉の声は胸に響くんだよ。蜜葉の声はきれいに耳に入ってくる。どうしてみんなこの違いに気付かないかな?
 俺はさっきからの自分たちの会話を思い出して、双葉を悲しくさせた原因を思い出そうとしたんだ。
 そして思い当たったのは一つだけ。
「ね……重くてもいいんなら、教室まで連れてってくれる?」
双葉の顔が恐いくらい急に明るくなるもんだから、さっきまでのが演技じゃないかって一瞬疑っちゃったよ。
「もちろん!お姫様」
「その呼び方やだっ!」
双葉と蜜葉はどうしても俺のことをお姫さまって呼ぶんだ。母さんも父さんもそうだ。酷いよ。俺だって双葉とか蜜葉とかと同じように王子様の方がいいもん。だって男の子なんだよっ。
「はいはい」
わかってるんだか、聞き流してるんだかわかんない返事をして、双葉は俺を抱えたままドアをぬけた。
 忘れてたけど……ドアの外はまだ入学式最中で。さっきまで壇上のピエロと化していた俺が、いきなりステージ脇に入っていった新入生の一人に抱えられて出てきては、目立つのも当然で。
 PTA会長の話の最中だったのに、視線は俺たちに集まっちゃったんだ。
 うう…恥ずかしいぃ。
 俺は双葉の胸に顔を埋めて真っ赤になったそれを隠そうとする。そしたら双葉がもっとぎゅってしてくれて、角度も人から俺が隠れるようにしてくれた。
 その心使いがとっても嬉しいんだ。ああ、俺って弟に愛されてるな〜って思う。幸せものだね、お兄ちゃんは。
「先生、兄は具合が悪くなったようなので、先に教室に送ります」
双葉は平然と目の前の校長先生に言う。
 俺が三年間隠し通そうと思っていた事実をいともかんたんにばらしてしまったんだ。しかも、全校生徒のいる前で。
「兄…?」
「今兄って言わなかったか?」
みんなの声が嫌でも聞こえる。って言うか、視線を感じるというか…。だって、この痛いくらいの注目は、俺が二人体格の差がでてきた小学校五年生から受けていたんだもん。
 三人して同じバスケ部に入ったのに、二人はぐんぐん伸びて選手になったのに、俺は背は伸びないし、バスケも上手くならなかった。
 わかってるから、おかしいってわかってるから。そんな目でみないで!そんな言葉いわないで!俺を是以上……惨めにさせないでよ。
「葉月?」
胸の中でヒクヒク嗚咽を繰り返す俺に、双葉は優しく問いかける。
 でも、今の俺にはそれすら嫌味なんだ。
「も、…やだぁ…」
俺はかすかに…双葉にだけ聞こえるくらいの声でやっと言った。
 でも涙は見せたくない。ぐっと唇をかんで、胸に顔を押し付ける。
「葉月…どうしたっていうんだよ」
困った顔をしてるのが声から読み取れる。困らせてるのはわかってる。だって、これは双葉と蜜葉には一生わからない痛みなんだから。どんなに俺が三つ子でいることをうれしがっているか、どんなに俺が二人と兄弟で生まれてこれたことを嬉しがっているか、そして、どんなに俺がそれを壊されることを、否定されることを恐がっているかなんて、そっくりで、はたからみても兄弟とか、双子でしょとか言われてる双葉には……わからないんだ!
「ふ…ぅ…」
俺は双葉に抱きしめられてるっていう状態なのも忘れて、双葉を思いきり押しやる。
 どすっと鈍い音と共に、俺の体は床にまっ逆さま。
「っ痛〜…」
痛むお尻をさすりつつ、俺は声を漏らす。
 は、恥ずかしい…!
 ここは、入学式会場で、真っ最中で、左手には校長が右手には生徒諸君が俺の行動をたたずをのんで見守ってるんだ。
「葉月っ!大丈夫か」
「だ、大丈夫……一人で行けるからっ」
俺は心配そうに覗き込んできた双葉を避けるように、思いきり顔をそむける。
 そのあまりにもあからさまな嫌がりかたに、俺自身まずいことをしたなって思った。いたたまれない気持ちになったんだ。
「ぁ……」
ごめん。心の中では簡単に呟けたんだけど…なかなか表には出てこない言葉。俺はしゃがんでる双葉をそのままにいきなり立ち上がり、勢いに任せて校長先生に礼をすると、自分の教室を目指して走った。もうダッシュ。運動があんまり得意じゃない俺にしては珍しい走りっぷりだったよ。
 あああ!恥ずかしい〜。しかも、複雑な兄弟事情がばれちゃうんなんて。
 まだ核心はばれていないことに、あまりに動揺してる葉月は気付かないのであった。

 「葉月君…だよね、瀬川 葉月君」
うん?あれ、俺…どうしたんだっけ。
 あまりの緊張で闇雲に走り、どうにか自分の教室である一年五組を発見して、自分の名前を見つけられた葉月は、席に座り、ぼーっとしてるうちに眠ってしまっていたのだ。
「うん…葉月ですぅ…」
ボケっとして答えると、クスクス笑い声が聞こえてくる。どうやら話しかけてきたのは、一人じゃないらしい。確かに…周りを見ると、四〜五人に囲まれている。
「もうHRも終わったよ?まあ、自己紹介だけだったし。って言っても、君はしなくても十分有名人だけどね」
………へえ…有名人。
 ええ!?俺が?
「あ、え…俺…」
咄嗟に全てを把握して、顔を真っ赤に指せる葉月があまりに可愛くて、周りにいた男たちは胸をキュンとさせる。
 ノーマル思考ももちろん中にはいたんだけど、さっきの入学式でいっきに葉月崇拝者になった人が一人二人なんかには納まらないとか。
「可愛いね、葉月君」
「えーと…君…」
さっきからひっきりなしに話しかけてくるクラスメイトの名前もわからないのも恥ずかしいが、知らないのだから聞くしかない。
「嬉しいな、僕に関心持ってくれた?僕の名前は笹山。笹山信吾」
「笹山君だね、よろしく」
「笹山だなんて、信吾でいいよ…そのかわり僕も葉月ってよんで良いかな」
信吾はそのくったくのない、ひとなつっこい表情で照れ笑いしながらいう。
 俺は恥ずかしかったのも忘れて、ニコって笑い返す。
「全然いいよ、えーと…信吾っ」
やっぱりちょっと恥ずかしいよね。でも、きっと半年後とかには、「君」付けでよんでた方が可笑しかったねって言うことになるんだ。
「ずるいぞっ」
「抜け駆けだ」
「笹山っ、てめぇ」
そんな声がぞくぞく俺の周りに集まってきた。中にはよくわかんないことしゃべってた人もいるみたいだけど、みんな俺と友達になりたいみたい。
 それはものすごく僕にとって嬉しいことだった。だから、みんなに一人づつちゃんとアイサツしたんだ。よろしくって。
 そこまではよかったんだけどさ……。しだいに話は入学式の方向に流れてきちゃって。
「ね、君をお兄さんって呼んだ、あのかっこいい子は…誰?」
ぎくり。
 やっぱり聞かれちゃうわけ……ね。
「ああ、それそれ。俺も気になったんだよね。確か一組のやつだっけか」
「違うだろ、俺二組で同じやつ見たよ」
「ねえ、なんなの?」
信吾にもう一回念を押されるように問いただされて、俺は黙秘権を失ってしまう。
「あ…うん二組で、お、弟…の双葉…」
「え?でも、二人とも一年生だよね。もしかしてものすごい早生まれと、ものすごい遅生まれで学年が一緒になったとか?」
やっぱり、素直に双子?とかっていう発想にはならないんだね。
「二組〜?俺、一組でも同じ顔のやつみたよ」
蜜葉も背高いし、かっこいいし、なんだか外人っ気のある綺麗な薄茶色の瞳と茶色かかった髪のおかげで目立っちゃったみたいだ。
 説明……したほういいよね。やっぱり。
「一組のもね…俺の弟で蜜葉って言うんだ」
言っちゃったようぅ。さよなら!俺の平穏な高校生活!
「って言うと、どういうこと」
「わかんないよ葉月、ちゃんと説明してくれ」
あはは、やっぱり混乱するよね。あの二人だけなら、双子ってピンとくるんだろうけど。
「俺たち、三つ子なんだ。実は…」
どきどきどきどき。沈黙が嫌に恐い。
 中学校の時もこのいや〜な屈辱味わったんだよね。
「えええ?三つ子」
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