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● やっぱり君じゃなきゃ嫌! --- -6- ●

きっと、聖司には全てばれちゃったんだ。さすがに双葉が相手…とは思ってないだろうけど、そういうことされたってことはわかっちゃったんだ。だから、俺のこと軽蔑したんだ。それで、そんな目で見てくるんだ。そうだよね……男(しかも、弟だ)に身体を触られて気持ちよくなって、その…えーと…えっちな気分に浸っちゃったわけだし…。そして、相手(しつこいようだけど弟なんだよっ!)の男の部分を、入れられちゃったわけだし。そんなの後輩がしてるってわかったら、生徒会長さんとしては、もうびっくりだよね。嫌だよね…。変だもんね。
 今現在、その信頼する(?)生徒会長様に、そういうことをされているという状況を忘れ、葉月は一人苦悩する。
「あ…の…先輩」
一言も発しなくなった先輩に、俺はおそるおそる問い掛ける。
「俺…あの…」
どうせばれているんだろうけど、誤魔化せるものならば誤魔化してしまいたい。そう思って先手をとって話し始めたのに、言葉が上手く続かない。
「誰だい…君にこんなこと教えてきたのは…」
聖司は葉月のワイシャツを、ボタンが引き千切れる勢いで、破る。ビリビリッと言う、恐ろしい音をたてて、俺のワイシャツは、二度と着れない形にされてしまった。
「なっ!」
さっきまで弄られていたせいで、ぷっくり膨らみを持ってしまった、恥ずかしい形になった胸の突起が、あらわになる。
 葉月はそこを隠そうと、筋肉のついてない細い腕で腕組みをするように胸を隠す。そして、そのまま顔もそこに埋めてしまう。
 恐い。恐い。
 双葉の時とは比べ物にならないくらいの恐怖が、葉月の身体を襲った。
 さっきまで下肢にあった熱はいっきに下がり始める。なのに、聖司はベルトを外しにかかると、ずぼんを俺から完全に剥ぎ取ってしまう。幼く見えるから嫌だと言いつづけているのに母親が買ってくるものだから、もったいないから履いている白いブリーフが、さっき盛り上がった時に先走った汁を少しだけ滴らせて、そこに見える。
「や…止めてくださいぃ」
葉月が嗚咽を止められず、ひくひくと小刻みに動くのを冷静に見つめた聖司は、頭を優しく撫でてやる。
 でも、葉月にはその手すら凶器でしかなかった。
「葉月君…ごめんよ、泣かないで」
「先輩…ひ、酷いです…」
目を開けてみても、涙で視界が邪魔されて、先輩の顔もゆがんで見える。
「助けを呼んでみたら?」
「へ…?」
もう止めてくれるんだと思ったのに、先輩はそう言うと、いきなり俺の下着までも奪ってしまった。
 俺の下半身は先輩の身体に密着させられてるのに、何も身に着けてなくて、なんだかすっごくいやらしい感じがする。
「せ、先輩!」
先輩の下半身の膨らみが、温かみまで直に感じて、俺は思ったより大きな声をあげてしまう。
「ほら……僕は身体を理性で制御することもできなくなってしまったよ…君のせいだね、小悪魔葉月君」
聖司は嬉しそうに微笑む。
 な、なんでこんな恥ずかしいことがわかられて嬉しそうなの〜!?俺だったら、恥ずかしくて、恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分なのに。って、俺先輩より恥ずかしい格好してるじゃん〜!
 聖司はそのまま葉月を抱きしめ、少し自分から身体を浮かせるように持ち上げると、ジジー…とずぼんのジッパーを下げ始める。
 窮屈そうだったそこから、盛りに盛り燃えあがった先輩の欲望が、俺の太ももの間ぬるっと入ってきた。
 だから、つまり…俺は先輩のそのナニを、太ももで挟んじゃってるわけで。
 俺はそのぬめぬめ感と、驚きで思わず足を閉じてしまい、先輩から息を詰める声をあげさせてしまう。
「あ、ごめ…なさい」
同じ男として、ぎゅって挟まれたら痛いことはしってる。だから、咄嗟に謝ったんだけど、先輩は少しだけ熱い吐息をこぼしつつ、苦笑した。
「葉月君は素直で優しすぎ…今、僕の欲望の餌食にされてるってわかってる?」
「へ、え…あ…と」
先輩が僕相手に、双葉がしたことと同じことをしようとしてるのはわかってる。そして、双葉にされた以上に俺は身体中で、先輩を拒否している。
 けど…やっぱり先輩はいい人だって思ってて、友達って言うか、ただの先輩と後輩って言うなら全然いいんだけど…。
 こういう行為ナシでね。
「あの、俺…」
「助けを呼ばないと、続きをするよ…」
再び先輩は俺の弱い、低い声音になると、恐いことをサラリという。
「やだ!」
「じゃあ、呼ぶんだ!君をこんな身体にしたてた、僕のこの世で一番憎い名前を!」
聖司はそう言って、葉月の隠された恥部へ、性急に指を押し入れた。
「ひゃあぁっ」
萎えてきていたジュニアがひくっと動く。感じたわけじゃなくて、衝撃で。その証拠に、そこは、聖司の別のほうの手でなでられても、扱かれても、完全には勃ちきれないでいる。
「あ、あ、あっ」
それでも身体のほうは敏感に反応し、中の方でも、もともと狭いそこをきゅっと狭めて、聖司を拒絶する。
「い…たい…あ、はぁん」
聖司は直も人差し指に、親指までくわえて、そこを広げるようにぐりぐり押しこんでくる。あまりの痛さに意識を飛ばしてしまいそうになって、葉月はぎゅっと唇を噛む。
 この状態で失神してしまったら、何をされるかわからない。それだけは避けたかった。唇を強く噛みすぎて、端から地が流れ落ちる。
「ほら、そんなに噛んじゃったら可愛い唇が台無しだよ。呼びなよ、君の王子様の名前を」
聖司は優しく唇にキスをしてやる。その温かみが妙に優しくて、不思議と恐くなる。
「んーんっ、んんっ」
誰を呼べば良いの…、誰か、誰か…怖いよ、助けて、でも、誰?王子様って…わかんない、わかんないけど…。
 葉月の頭の中は真っ白で誰の顔も名前も出てこない。けれど、その霞みかかった頭の中にたったひとりだけ、顔が浮かんだ。
 壊れそうになる感覚の中で、葉月は知らずにその名前を呼んでいた。
「ふ、双葉ぁ…助けて…双葉ぁ!」
「……え…?」
聖司の表情が変わったのがわかった瞬間、ドアが蹴破られる勢いで開いた音がした気がした。けど、葉月はその瞬間ほっとした安心感で意識が飛んでしまって、誰が入ってきたか、誰が自分を優しく抱きしめてくれたのか、わからなかったのだけれど。

 「お前……葉月に何をしたんだっ」
生徒会室をとおり、生徒会長室に殴り込みをかけた双葉は、あられもない姿で失神している葉月を胸に強く抱き、聖司に怒りをぶつける。
 葉月の格好と涙のつたった頬、愛撫の痕のついた白い肌が、葉月が何をされたかを物語っている。葉月の性格から、もし万が一目の前のこいつのことを葉月が好きだったとしても、学校でこんなことしないはずだし、いやがっていたことはたしかだ。だとしたら、これは正当な怒りだ。
「君こそ、自分のお兄さんに何をしたんだ」
怒っているのは自分のほうなのに、矛先をこちらに向けられた気がして、双葉は再びムカッとする。
「何って、決まってるだろ。俺は葉月を誰よりも愛してるんだから…」
「葉月君は君のことを家族、兄弟としか思ってないようだけどね」
聖司は憎らしそうに呟く。まさか、この弟がこんな行動にでるとは思わなかった。そのせいで葉月君は辱められ、苦しめられたのかと思うと、自分の嫉妬にかられたあの日の発言にも腹立たしい思いでいっぱいだし、双葉に対しては殺意すら感じられた。
「だからその壁を壊したんだよ、俺は」
葉月を苦しめてしまう、最悪の方法で。でも、それしかなかった。俺を双葉として見てもらうには。
 でも、時間を置いても置いても、葉月のほうから何も言ってこないし、さらに無視する始末だ。さすがにこれには堪えた。だから、今日は何としてもあの行為についてどう思ったか、俺のことをどう思ってるのか聞いてみようと思って葉月のクラスを訪れてショックをうけた。葉月は、あの日、入学式の日絡んできやがった生徒会長のところに言ったと、クラスメイトが証言するではないか。しかも、クラス一仲のいい、笹山信吾と。怒り狂って来て見れば案の定、生徒会役員の話しで、ずいぶん前に人払いして生徒会長は葉月君と生徒会長室に篭っておりますというじゃないか。耳を立てて聞いてみれば、葉月を言葉で辱める聖司の声が。
 怒りに身を任せ、ドアを蹴破ったのだ。
「葉月君はなんて…?」
聖司は目の前の憎き相手を、見つめた。
「お前に言うことじゃない」
その回答に、聖司はクスッと微笑し、久々に余裕の表情を見せた。それが、双葉をカチンとさせた。
「じゃあ、葉月君はまだ答えは出してないわけだ」
「それが、何だって言うんだ。葉月は俺を嫌えないからな、葉月にこんな強姦まがいのことしたお前の方が分がわるいんだぞ」
「あいにく、葉月君は本日付で本人の希望により生徒会執行部員なんだよ」
「…ちっ」
双葉は胸の中にいる葉月を痛がるくらい抱きしめた。
「結局は葉月君が誰を選ぶか……なんだけけどね」
「どうかな。俺は葉月が誰を好きでも譲る気はないからな」
双葉は以前気を失っている葉月の頬、瞳、おでこをご自慢の舌で撫で回すように舐めるってみせた。まるで、骨のずいまで葉月は俺のものだというように。
 そんな双葉の傲慢な姿に、生徒会長様は初めて侮辱させられた気分になったのだった。

 俺はなんで双葉の名前を呼んだんだろう…。
葉月の意識が戻ったのは、双葉にお姫様だっこで保健室まで運ばれる最中の階段の踊り場だった。思ったより早かったのは、葉月が別に達かされて失神したのではないと物語っていて、内申双葉はほっとしていた。
 葉月は、ただ気恥ずかしさに寝たふりをしてみたのだけれど、さすが十五年連れ添ってきただけはある。狸ね入りなどお見通しだった。
「葉月、なんであんな部に入ろうと思ったんだよ」
俺、起きたばっかりなのに…。
 不機嫌そうな双葉の声に、葉月は思わず膨れてしまう。
「……だって、俺双葉みたいにバスケとかサッカーとかできるわけじゃないし、蜜葉みたいに精神統一とか言うの得意じゃないし…だけど、ここって文武両道でしょ…何かやらなきゃって」
「…なんで葉月は運動オンチのくせに、こんな山奥の文武両道を重んじる全寮制男子校なんて受験したんだよっ」
あれれ…双葉、なんだか怒る範囲が広がってません?
 葉月が黙っていると、双葉は足で乱暴に保健室のドアを開いた。
 中には厳しそうな年若い女の先生……養護教諭って言うんだっけか?がいて、静かにお茶を飲んでたみたいで、俺たちの行動をめちゃくちゃ不審がってるみたいだった。
 だって大の男が、大の男にお姫様だっこだもんね、おかしいよね。
 そう思ってるのは葉月だけなんて、葉月本人はまったくしらないんだけど…。養護教諭、長谷川 加奈子にしてみれば、よくいる保健室のベッド目当ての恋人どうしかと思って、追い出す気まんまんだったのだが、あまりに絵になるカップルでどうしようかと迷ったのだ。しかも、よく見れば、入学式で噂になった三つ子ちゃんの二人だ。ボーイズラブ大好き娘がそのまま大人になってしまった、典型的な加奈子は、この状況をうはうはなココロ持ちで見つめていた。
 ここで毎回毎回えっちしていく平凡カップルは腹立たしいだけだが、可愛い受けとかっこいい攻めのカップルは大歓迎だった。
「どうしたの?」
にやける気持ちを抑えつつ、加奈子は双葉に抱かれて、うろたえる葉月に優しく聞いてみる。輝く瞳は、眼鏡の中に押し込んで。
「あ、俺…」
「体調が悪いんです。ベッド貸してください」
葉月が答えようとして、しどろもどろしている間に、双葉が答えてしまった。
 加奈子は二人を足先から、頭のてっぺんまで見て、うーん…とうなった。さて、これはどんな状況なのかしら。
 今までどこかで熱烈なコトしてて腰がたたなくなったのかな〜…と思ったんだけど、それにしては双葉くんのが不機嫌すぎる。そして、葉月君も一応気まずそうなんだけど、涙の跡も見えるんだけど、双葉君に攻めたてられたって感じじゃない。じゃあ、他の誰かに襲われてたとか…?それじゃあ、こんな保健室連れこまないで、放課後なんだから寮で身体に問いただすわよね〜…。うーん。
 加奈子がいろんな思考に飛んでいるのが、本能でわかったのか、双葉は怪訝な顔をすると、口を開いた。
「―――で、ベッド使ってもいいんですか、先生」
「あ、うん…じゃあ、奥の使ってちょうだい」
加奈子の返事がある前に、双葉は葉月を投げつけるようにベッドに落としてしまった。
 うーん、やっぱり何かあるわね。この兄弟。
 本当に付き合ってくれてたら理想なのに。なんたって、受けはこーんなかわいい葉月君だし。
 一人萌え萌えしていると、双葉は葉月を寝かせたベッドの周りのカーテンを閉め、加奈子のほうに駆け寄ってきた。
「先生、ちょっと席外してもらえませんか」
「…え?ここはあたしの部屋でもあるんだけど」
養護教諭は職員室に自分の机を持たない。だから、ここから出てけといわれたら居場所がなくなってしまう。まあ、もう放課後だから帰ってもいいんだけど。こんなおいしいシーン見逃したくないじゃない?
「先生が邪魔だって言ってるんです。出てってください」
双葉はきっぱりと言いきった。仮にも先生に、自分はこれから葉月を嬲るのだから、出てってくれと。
 普通はここで怒るところなんだろうけど、加奈子はもう超悦だった。
「…まあ、いいでしょう。ちゃんとお兄さん介抱してあげるのよ。あと、最後は鍵を掛けてきてね。鍵はあたしの靴箱に入れといてくれればいいわ」
「ありがとうございます」
ポケットから出そうとした保健室の鍵を、すばやく双葉君に奪われてしまう。そして、押し出されるように、保健室を出されてしまった。
 その瞬間、カチャンと鍵を掛けた音がする。
加奈子はうっとりその中の様子を想像しつつ、【私は中にいます】という看板を裏返し、【ご用の方はまた明日】に替えた。
 明日、ベッドのまわり要チェックだわ〜…と思いつつ、玄関に向っていく加奈子は幸せでいっぱいだった。
 これだから、男子校の養護教諭はやめられない。
 
 養護教諭の足音が遠ざかっていくのを確認することもせず、双葉は葉月を寝かせたベッドに両膝をつき、葉月に覆い被さる姿勢になる。
「―――さっきの質問に答える気になったか」
双葉の顔は明らかに怒ってる。
 葉月はそれをさらに怒らせないように話をしようと、頭を振り絞る。けれど、出てくる答えのどれも双葉を怒らせてしまいそうで、何も言えない。できれば、もっと落ち着いた状態で話したかった。だって、双葉と話しをするのは昔から大好きなのに、あのことがあってからどうも双葉とは顔があわせずらかった。
 それは、蜜葉に対しても同じコト。
 それとなくいい訳をして、帰りも時間を変えていたし……。
 あの日のこと…忘れてくれって言われたら、忘れてもよかったのに。こんな形で、思い出されちゃったら、忘れることもできなくなちゃうよ。
「……俺、似てないから…」
そう言った瞬間に、涙が溢れそうになった。
 俺の最大のコンプレックス。
 それをまだ引きずってるって、口に出して家族に言うのは、何年ぶりだろう。
 けれど双葉は、またそれか、って呆れた感情を込めたため息をひとつ漏らしただけ。
「俺と蜜葉にってことか」
「そ…だよ」
似てる双葉には、そりゃわかんないよね。三つ子ってのが大好きな俺が、三人の中で誰よりも、疎外感を感じてたなんて。
「俺と双葉と蜜葉、三人で三つ子なのに。いっつも、いっつも変だって目で見られて…。それでも俺は二人と兄弟なのが嬉しかったから、中学校までは我慢できたけど」
高校ではこんな自分から卒業したかったんだ。
 そう言うつもりだったのに、双葉がそれを消すように、俺に直球発言を投げつけた。
「俺は葉月と兄弟なんて嫌だ」
ズキン…。
 胸が…壊れちゃうかと思った。
 痛い、痛いよ。きゅう、って締め付けられる感じに…。
 俺は双葉と目が合わせていられなくなって、身体を右に倒した。
 それでも、双葉は俺から目を離さなかったみたいだ。痛いくらいに、視線を感じた。
 双葉がそんなふうに俺を思ってたなんてしらなかった。そんなに嫌だったのかな。俺と兄弟なのが。似てない三つ子なんて、気持ち悪いって思ってたのかな。でも……酷いよ。そんなの、蜜葉と言い合って笑ってればいいじゃない。なんで俺に言うんだよ。演技でもいいから、仲のいい兄弟で居てくれればよかったのに。
 大好きな弟に、自分と兄弟なんて嫌だといわれたショックで、葉月は放心状態で、自分でもわからずに、呆然と涙を流していた。
 双葉はそんな葉月の身体を自分に向きなおさせるように、肩をひっぱる。
「俺は葉月を一度だって兄に見たことはない」
双葉の言葉が直接ココロに届く。
 じゃあ、なんだったんだ。俺は双葉にとって。
 この十五年間、俺は双葉の何だったの?
「俺は葉月を愛してる」
 俺だって愛してるよ。大好きな家族だもん。
 葉月がそう目で訴えていたのが通じたのか、激しく双葉は首を横に振る。
「葉月が思ってるのとは違うよ……きっと」
「ど…いうこと…だよ」
嗚咽のとまらない口で、葉月は必死に罵倒を飛ばす。
「葉月に欲情してるんだ」
一瞬。本当に一瞬だけど、葉月はその瞬間、上半身をガバッとベッドから起こして、双葉との距離を縮めた。
「……ぇ?」
葉月のきれいな顔が、わかんないって顔をしていたから、双葉はキッと釣りあがった眉毛を下げて、苦笑する。
 モラリストで、恋愛に疎くて、天使みたいな性知識しかない葉月には理解不能なのかな、俺らの気持ちは。
 一回強引に抱いたことまである双葉としては、苦笑せずにはいられなかったのだ。
「わかんなかった?それとも聞こえなかった?…もう一度言うか?」
「い、いい!いらない…聞こえた…けど…」
欲情って…。
 双葉が俺に欲情してる…?
 だから、まさかこの前…あんな酷いことしてきたのかな。
「この前のでわかったと思ってたんだけど…。葉月は鈍感だからな。俺を受け入れといて、気持ちは全然伝わってなかったのか」
「鈍感じゃないっ」
「そのセリフ、葉月に好意を持ってるやつら全員に教えて上げたいね。本気でそう言ってるなら、葉月はそうとう男を手玉に取る小悪魔だな」
この学校に、自分を好きな人がいる?
 そういえば、入学式のときに手紙はいっぱいもらったけど。
 その手紙の差出人全員がまさか、双葉が自分にしたようなことを自分としたがってるなんて思ってなかった葉月は、顔を赤らめる。
「な、どうせ葉月は俺を好きなんだろ、受け入れろよ」
確かに双葉のことは好きだけど。
 双葉の指が葉月の身体の線をなぞっていく。その指先のいやらしい動きに、身体の中が熱くなって来る。
「俺は…双葉のお兄ちゃんだから…」
その全身を這うようにして動き回る、まるで別の生き物のような双葉の手を葉月は、掴んで動きを静止させて言う。
「そんなにそういうシチュエーションが好き?弟攻めのお兄ちゃんさま」
「なっ!」
葉月があまりの侮辱にまみれた、実の弟からの言葉とは思えないセリフに文句を言おうとした時、その蕾んだ唇は、双葉の厚くなった唇に塞がれた。
 生々しい吐息と、唾液が入り混じったキス。
「んんっ…」
 熱いくらいの欲望を感じる、ダイレクトなその行為は、葉月の常識を壊させていく。絶え間なく続く深い、深い、舌の入り込んだ、大人なキスの、角度を変えるほんのわずかなすきに、朦朧とした頭の間に、双葉の声が滑り込む。
「葉月は俺に感じてるんだ…」
「んぁ…はっ、はぁ」
ちゅぱ、ちゅぱと言う音をわざとたてる双葉は、その舌をのどの奥まで突っ込んでこようとするから、息までも奪い捕られてしまうみたいだ。
「弟のキスでここまで勃っちゃってるだよ、知ってた?」
「ふっ…ああ、やぁっ!」
男の大事なところを弟の大きな手に握られて、身体が羞恥に包まれる。
 保健室のベッドの上にひっくり返るように身体を打ちつけてなお、葉月はひくひく身体を小刻みに震わせる。
 さっきまで聖司に弄くられていたその身体が、反応に早いのは当たり前だった。
 それに気づいた双葉は、ムゥとしたように口を膨らませ、葉月の首筋にその顔を下ろし、白く透き通るような肌にを、吸い上げるキスをする。
 制服で隠れない位置にわざとそれを突けていく。
 誰の目から見ても、葉月は俺のだとわからせるために。
 こうでもしないと、嫉妬でどうにかなりそうだった。
 葉月は鳥みたいだったから。一度抱いたからってどうにもならない。それじゃあ2,3度抱いたって同じコトだ。
 葉月自身に、誰が好きなのかを認めさせる意外に、葉月を縛るものはないのだ。
 俺を選べよ…。
 どんな酷いことをしても葉月を手に入れたいと思ほど、切実に葉月の全てを貪欲にほしがる俺を…。
「また…酷いことするの…?」
怯えて、震えあがる葉月が、キスで口から溢れた二人の蜜を端からこぼしながら、聞いてくる。
 あまりに官能的で、艶かしくて、男を誘っているかのようにしか思えない。
 キスだけで顔をこんなに赤くさせて、ちょっと触っただけでそこを勃たせて、酷いことされてるようには見えないんだけどね。
「葉月…あの生徒会長にこんなことされてるとき、どう思った」
いきなり強引に口付られて、握られて、頭がそれでなくてもぼーっとしてるのに、思い出したくないことを思い出させられて、葉月は目をぎゅっと閉じて、現実逃避しようとしてしまう。
「葉月、聞かせてよ」
映画を見たあとに感想をねだるような感覚で、双葉は葉月に乞う。
「……嫌だった…恐かった…」
思い出しても身体が冷えてくるようだ。
「今も?」
「……」
「俺としするのも嫌か」
嫌……なんだよね。この感情。
 身体中が疼いて、熱くて、悲しくないのに涙が出ちゃう。
 これって嫌がってるんじゃないの…かな。
 違う気もする。
 でも、この感情が何なのかなんてわかんない。
「ど、ドキドキする…」
「……え?」
双葉が驚いたような顔をしたから、俺は間違った答えを言っちゃったんだと思った。
「恐いんだけど、涙溢れてくるんだけど、それ以上に、ドキドキする…んだけど…」
言ったとたんに、双葉に身体を抱きしめられる。
 双葉って小さい頃からスポーツ得意だったから、筋肉は三人の中で一番あって、力いっぱい抱きしめられて、俺はちょっと苦しかったんだ。
 けど、ちょっぴり嬉しかった。
 双葉と蜜葉はいつしか俺との抱き合ったり、お風呂に入ったり、一緒のベッドで寝ることをしなくなったから。
 でも、今はこれが兄弟の親愛の行為じゃないってわかってるから、ちょっと複雑だ。
「双葉……?」
「葉月、俺の胸に耳を当ててみろよ」
少しだけ力を緩めた双葉の腕に半ば強引に、身体を葉月の左胸に連れていかれる。そっと耳をワイシャツ越しの双葉の厚い胸に押しやると、ドクンドクン……という俺よりも早いくらいの鼓動を感じる。
 双葉もドキドキしてるってこと…?
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