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● やっぱり君じゃなきゃ嫌! --- -7- ●

「双葉…」
俺は双葉の顔を覗きこむ。
 双葉はそのかっこいい端麗な顔に満面の笑みを浮かべる。
「俺もドキドキしてるよ」
「ど…して?」
「好きで、好きでどうしようもないやつと一緒にいるんだ、緊張もするだろ」
双葉があまりに真面目に言うもんだから、俺のほうが恥ずかしくなった。
「十五年間、葉月だけを思ってきたんだ…」
そんなの気付きもしなったよ。
 たぶん、近すぎて、強すぎて、当たり前の愛情のように感じてたんだね。
 そして、俺も…。
「さっき俺、双葉の名前呼んだんだ…聞こえた?」
「ああ」
葉月の声が聞こえないわけない、双葉はそう付けたして、嬉しそうな顔をする。
「先輩はね、自分の王子様の名前を呼べって言ったんだ」
双葉の目がみるみるうちに大きくなる。
「俺、混乱して誰の顔も浮かんでこなくて、でもね、一人だけ顔が浮かんだんだよ」
俺は気恥ずかしさから、後ろにあった枕を掴むと、俺と双葉の間に押し入れて、ぎゅって抱え込んで顔を埋めた。
「それ…双葉だったから」
もし、兄弟として顔がでてきたのなら、蜜葉も一緒に出てきたはずだ。
 それなのに出てきたのは間違いなく、目の前にいる双葉だ。
「葉月っ」
双葉は俺の腕から枕を奪い去ると、両ひじを俺の両耳のわきにおろし、激しいキスをしてきた。
「ん…んぁ」
蜜の糸が二人の思いを伝えるかのように、光る。
双葉はその舌を俺の舌に何度も絡ませようとしてくる。
 俺はどうしていいのかわかんなくて、少しだけ自分の舌を、双葉の舌に触らせるようにしてみせる。
 ざらっとしていて、感触がいいってわけじゃなかったけれど、それすらにも俺の身体は何かを感じ取るみたいで、鼻にかかったような、甘い声が漏れる。
「っ…!」
身体の中が自分に何か訴えかけれるように、本能で動き出す。
 腰が勝手に浮いて、わざと双葉に見せ付けるかのような動きをする。
 双葉が少しだけ笑った気がして、俺は顔を真っ赤にさせた。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
 けれど、俺がそんな情けない気持ちでいっぱいなのに双葉は気付いて、いそいで弁解する。
「違うって。葉月が積極的で嬉しがってるんだよ。俺ばっかり欲情してるんじゃなくて、安心してるんだ」
そういって双葉は、自分の張り詰めているそこに、葉月の手を持ってきて、無理やり触らせる。
「やっ……」
同じ男のものなんだから、汚いとか、きもちわるいとか思ったんじゃなくて…。あまりにそこが固くなってて、大きかったから、ちょっとびっくりしちゃったんだ。
「そのうち、葉月はこれが欲しくてたまらなくなるんだ」
双葉は今度は葉月を辱めるために、耳元でそう囁いた。
 葉月は本当素直で、可愛い性格をしてる。
 そんな俺の言葉一つで、恥ずかしさでどうにかなっちゃいそうな感じになってるみたいだ。
 双葉は葉月の頬に優しく唇を押しつけ、軽くキスをすると、葉月の身体に体重をグッとかけてきた。
「ふぅっ…」
自分の体重よりはるかに重いものが身体にかかり、葉月はその苦しさに声を漏らす。
 ちょっと眉と眉の間に、しわをよせつつも、決して文句を言わない葉月の態度から、愛を感じる。
 双葉は葉月のジュニアを右手で上下に激しく扱き始める。
「ああっ」
急に始まった、その快感の波に、葉月は溺れそうになる。
 好きって認めちゃったから…。二人っきりのこの状況にとがめるものはなにもない。
「あ…双葉ぁ…双葉っ」
葉月の口から、今まで聞いたことのないような、えっちな声が聞こえてくる。
「葉月…見せて…顔」
知らず知らずのうちに、恥ずかしさから顔を横に背けていた葉月に、ねだるような声で双葉が言う。
「恥ずかしい…ひゃっ」
双葉は葉月の今まで手で扱いていたものを、口でくわえた。
 あったかくて、柔らかくて、そして性感帯を巧く突く舌に煽られて、葉月のそこは先走りの蜜を滴らし始める。
「見たいんだよ…葉月の、俺に弄られてよがってる…俺を欲しがってる顔」
「ば…かぁ…」
葉月の息は、マラソンをしてるのかってくらいあがっていて、しゃべる言葉もママならない状態だ。
 恐る恐る顔をあげた葉月は、双葉の口から唾液が落ち、それが自分のそこを濡らしているのをダイレクトに見てしまって、いたたまれない気持ちになり、再び顔を横にする。
「恐いっ」
葉月は、快感に酔って変になる自分に対してそう思ったから呟いたのだが、双葉にはこの行為に対する感想と、とれたみたいだ。
「……葉月」
双葉は葉月のジュニアから口をはなすと、まだ濡れたままの唇のまま、顔を葉月の顔の近くまでもってくる。
「…俺が恐い…?」
「双葉……?」
「俺は、葉月を恐がらせてるのか…あの時から…」
「ち、違うっ」
確かにあの時、ココロはズタズタになったし、身体は悲鳴をあげた。
 けど………。
「確かに、酷いことだって思った…よ」
そう言った瞬間、双葉の顔が泣きそうな顔になったから、俺は慌てて双葉の頬を両手で挟んだ。
「思ったけどね、思ったんだけど……双葉のこと嫌いにはなれなかったよ」
葉月は苦笑を漏らした。
「俺もずっと双葉のこと好きだったみたい」
双葉は我慢できずに、口腔を犯すようなキスをした。
「んあぁ……ふた…ば…」
「愛してる…愛してる…葉月」
二人の唾液は、混ざり合い、溶け合い、自分たちをいっそうたかめていく。
 でも、そんな愛し合うものの愛しい瞬間に、葉月は二人の行為をとがめるものを一つ思い出してしまう。
 だめだ!
 葉月は無意識のうちに双葉の唇を本気といわないまでにも、甘噛み以上で噛んでしまう。
「―――痛っ」
双葉は咄嗟に顔を上げ、自分の唇をなぞる。
 血は出てないようだったけれど、痛みはそうとうなものだったらしい。普段から、生傷の絶えない運動部の双葉が、顔をゆがめている。
「なんで……?」
「ご、ごめ……」
こんな最中に別の人のことを考えちゃうなんて…。葉月は必死になって謝る。
「やっぱり嫌だとか?それともまだ兄弟とか、男同士だとか悩んでるわけじゃないよな」
双葉の不機嫌そうな、低いトーンの声に、葉月は肩を竦めて、首を横に振る。
「じゃあ、何。まさか、先輩のこと考えてたわけじゃないよな」
不機嫌モードが、一気に怒りモードにすり変わる。
 でも、それも違うから、葉月はブンブン首を振って、否定した。
「じゃあ、なんなんだよ」
葉月の頭の両脇に、双葉はこぶしを打ちつける。これがベッドの上じゃなかったら、ものすごい音がしたであろう。
 布が吸収したのにもかかわらず、鈍い音がした。
 葉月は張りかけていた、そこをすっかり萎えさせて、恐怖を身体中で感じてしまう。
「……まだ、俺…中途半端で…双葉とこんなこと…できない…」
双葉と目を合わせないようにしながら、こわごわ囁く。
 中途半端。葉月は、それが許せない性格だった。
 葉月は、可愛くて、素直で、頭がよくて、性格も良くて。そして、誰よりもクソ真面目だった。
「蜜葉に…告白されてるのに…返事してない…から」
こんなときに、一番あげてもらいたくない名前をあげられて、双葉は怒りの最絶頂を迎える。
「関係ないだろ、あとで返事してやればいいじゃないかっ。俺は双葉が好きだからっ、て」
「関係あるだろっ!蜜葉は俺たちの兄弟だぞっ」
双葉のないがしろにするような意見に、思わず葉月はムッとする。
「まさか…蜜葉も交えて3Pでもするって言うのか」
双葉はさげずむように言ったのに、葉月にはそれが伝わらなかったみたいだ。
「3P……?」
「3人でえっちなことするってことだよ」
「なっ!」
その言葉の意味をはっきり理解して、葉月は思わず大きな声をあげる。
 セックスは愛する二人がするものであって、まさか3人でする専門用語まであるとは思ってもみなかったのだ。
「変なこというなっ!蜜葉は…ただの兄弟としか思ってないっ」
「俺と同じ顔だぞ」
双葉はしつこく聞いてくる。
「似てるだけで、違う人間じゃないかっ」
葉月が断言してくれたおかげで、双葉はようやく落ちつきをとりもどす。
「そんなこと気にしてたのか……?」
自分は似てないことをコンプレックスに思ってたのに。
「当たり前だろ。葉月がもし顔だけで決めてたらどうしよう、とか。思うだろ。同じ顔の人間がもう一人いれば…」
「双葉は双葉、蜜葉は蜜葉だよ」
「葉月だけだよ、そういうのは」
双葉は葉月にキスのやりなおしをしようとしたが、葉月はその双葉の口を両手で抑えてしまった。
 慌てて身体を退けて、双葉は葉月に問いただす。
「葉月〜?」
「だから…中途半端なのはダメだって…」
モラリストの葉月ちゃんは、男同士の恋愛はとりあえずなんなく理解できたものの、これだけは譲れないみたいだった。
「蜜葉に返事してから…ね、続きは…」
さっきまで泣いていたこともあって、葉月の目は潤んでいて。
 そんな瞳でお願いされちゃ、双葉も、うん…と言わないわけにはいかない状況だ。
「本当にはっきり、蜜葉は好きじゃないって言うんだな?」
「うぅ…そんなにはっきり言わないかもしれないけど…言う」
「だめだ。それくらい言わなきゃ、あいつは気付かないぞ」
「ど、努力するよぉ」
「仕方ないな。必ず、俺と一緒にいるとこで言うんだぞ」
「?」
「俺だったら、そういうときに無理やり犯して、ものにするに決まってる」
葉月は強引で、強気な双葉の発言に顔を真っ赤にさせる。
「そ、そんなの双葉だからだよ〜!」
「違うな。どんなに言ってもあいつも兄弟だからな」
双葉は仕方なく葉月の上半身を起こさせると、肩にワイシャツをかけてやる。
「心配なんだよ、葉月が同情につけこまれて流されないか。葉月はお人好しだから」
「俺が好きなのは、双葉だよ?」
惜しげもなく葉月はその単純で、明白で、一番うれしい言葉をくれる。
 双葉は葉月が愛しくて、愛しくてたまらなくなった。
 けど、心配で心配でたまらない双葉をよそに、葉月は一人で行くとココロに決めていた。これは蜜葉と自分の問題なのだから。
 自分で決着をつけるのだ…と。

 一方。葉月を取り逃がした聖司は、数分の後、服装をきっちり整えると、生徒会長室を後にした。
 生徒会室に入ると、信吾と敦士もすでにテストを終えたようで、備えられている黒いソファにくつろいで座っていた。
 相変らず余裕たっぷりの信吾の顔から、受かったのだと予想はできた。
 まあ、生徒会のテストといっても、そんな大したものじゃない。
 笹山信吾…。彼なら受かるとは思っていたけれど。
「会長。こちら本日付で生徒会書記に任命した笹山信吾だ」
不本意そうなその敦士の表情から、あまりに笹山信吾が優秀なので仕方なく認めたのがわかった。
「よろしくお願いしますね、会長。……そう言えば、葉月はどうなりました?」
「ナイトが迎えにきてね」
聖司は苦笑したが、信吾はその結果に満足だったみたいだ。
 誰であろうと、葉月に近づくやつは大嫌いだが、聖司よりは双葉のほうがまだましだったみたいだ。
「結果は?」
「もちろん、合格だよ」
「だと思いました。…まあ、あなたのことはこれから僕がしっかり監視さえて頂きますけどね」
「構わないよ、君の仕事と僕の仕事の場所を離せばいいだけだからね」
聖司はにーっこり微笑んだ。
 さっきまでのこともあって、この方、少々不機嫌気味でした…から。
「最低」
「いえいえ」
聖司は余裕の笑みをこぼした。

 真面目君葉月は、乱れた衣服を整えると、双葉よりさきに保健室をあとにした。というのも、最後にまたキスしてこようとした双葉をやはりよけてしまい、双葉君はすっかりふてくされ気味なのだ。
 そして、ベッドにうずくまって、まったく帰ろうとしない。
 キスしなきゃ、起きないからなと言い張ったので、そのまま残してきてしまったのだ。
 双葉の馬鹿〜!子供じゃないんだからっ。
 葉月はそう言いながら、玄関を目指し歩いていた。
 この学校、完全なセキュリティーで寒暖が保たれている。だから、夏は涼しく、冬は暖かい、勉強に最適な空間が作られているのだ。
 そのため、各階にいたるところに、ボイラー室が設置されている。
 ちょうど玄関に通じる廊下を走っている最中、右横のボイラー室のドアが急に開いたかと思うと、腕をグッと引っ張られ、葉月は叫び声を上げる前に、中に引きづりこまれてしまった。
 やっと叫ぶだけの勢いを取り戻しても、口元にはしっかりと誰かの腕が……。
「ふっ〜!んん〜っ」
葉月は必死に叫ぼうとする。
 と言うか、パニックに陥っていた。
 まさか、いきなりこんな暗闇に連れこまれるとは思ってもみなかったから。
「葉月」
後の自分を羽交い締めにしている人から、声が聞こえた。
 この声は…この声はどう考えても、さっきまで聞いていた双葉の声に似ている。
 けど……葉月には違う人の声だってわかった。
 でも、なんで双葉の声に似せようとしているのかわけがわからなかった。
「んんんっ、んー」
叫ぶのはやめて、とりあえず腕をとるように訴えるが、その右腕は緩ませず、開いていた左手で、器用に葉月のワイシャツのボタンを外していく。
 プチ…プチ、という音に葉月はいやらしい感情を覚えて、必死に抵抗する。
「んぐぅっ…!」
その左手は、葉月の胸元をさらけ出すと、胸の上の二つの突起を弄りはじめる。指先で少し摘んでまわすと、そこはビクッと可愛く反応し、簡単に膨らんでいく。
 左手の平で転がすようにそこを遊ぶと、葉月はそのたびに身体を後に跳ねさせた。
「葉月…愛してる…」
なおもその声の主は、その双葉に似た声で、葉月を愛でる。
 止めろ…止めろ…、お前は双葉じゃない。
 葉月は下に履いているズボンを脱がされそうになって、自分を捕まえているやつの意識がそちらに向いた隙をねらって、口を塞がれている右腕を、思いきり下に下げた。
「蜜葉っ!」
葉月は振り向く前に、その名前を呼んだ。
 溜めていた分も合って、言葉は思ったよりすばやく出てしまった。
「流石葉月……一応双葉のマネしてたんだけど、バレバレだったね」
蜜葉は両手を胸元で広げ、降参というようなポーズをとる。声からは、まったくそんな様子見うけられなかったけど…。
「何…してるんだよ…」
さすがに何度も男に押し倒されてれば、恐怖もわく。
 葉月はドアのほうに後ずさりしながら、暗闇でもわかるくらい側にいる蜜葉に言った。
「何って…酷いのは葉月の方じゃない」
「……ぇ?」
「僕に返事する前に、双葉と何をしてたのか、僕の口から言って欲しいの?」
顔がリトマス紙みたいにすぐにカーッとなった。
 どうして、それを知ってるんだろう。だって、あれは一回目は俺の部屋でだった。寮の部屋とは言えども、プライベートを大切とするここは、防音に一応力をいれてるし、二回目はついさっきだけど、鍵のかかった保健室でだった。
 いつ蜜葉にばれたんだろう。自分でも負い目があっただけに、何も言えなくなってしまう。
「双葉にはこういうことさせてたね…」
蜜葉はそういうと、葉月の首すじを舌であごのラインにかけて舐めっていく。
「っ……」
「我慢しなくていいから、双葉にきかせたみたいに声、聞かせてよ」
蜜葉はそこから身体をどんどん下に動かしていき、さっき弄ってたたせた胸の突起をいとしそうに舐めていく。
「ふっ…はぁんっ」
葉月の鼻にかかったような、あの甘く、美味しそうな声が漏れると、蜜葉は満足したようにその行為に夢中になる。
「みつ…ば…どして…そんなこと…知って…?」
葉月は蜜葉の髪に指を絡ませながら聞いてみた。なんとかして、話題を替えたかった。
 蜜葉はしばしの沈黙のあと、何かを思い出したように一人楽しそうに笑いはじめた。
「な…何?」
不安そうに葉月が聞くと、蜜葉は目を閉じて、頭を少しだけ垂れ下げて、そして、顔を勢いよくあげた。
「葉月、僕が五年くらい前にあげたテディベアのぬいぐるみ、ちゃんとここにも持ってきたんだね」
「え、う、うん。だって、あれ、可愛くて好きなんだもん」
いきなり話題とはまったく違う話をされて、葉月は慌てたように答えた。
「まだわからない?あの中に盗聴機が入ってるなんて、想像もできないかな?」
葉月は一瞬にして、火照り始めた身体が冷えるのを感じた。
 盗聴機って…あれ、だよね。よく探偵さんとかが持ってて、人の声が拾えるやつ。
「……嘘…」
五年前から必ず枕もとにおいてあったあの可愛いテディベアに、そんな異物が入ってるなんて、考えたくもなかった。
 三人は三つ子だが、一人一人にちゃんと部屋が与えられていたし、鍵も持っていた。かなり家族の中でもプライベートは尊重されていた。
 だから、部屋では好きなことができたのに…それすら筒抜けだったというのだろうか。
「なんなら、これから葉月の部屋行って、くまさん解剖してみる?」
「ひっ……」
本当なのだ。蜜葉は本当に俺へのプレゼントに、そんなものをしこんでいたのだ。
「やだ、やだ、やだ!何言ってるんだよ、蜜葉!どうしちゃったんだよ」
いつも聡明で、三人の中で一番落ちつきが合って、大人な蜜葉から想像もできない変貌ぶりに、葉月は小さなパニックを起こす。
 蜜葉はそんな葉月のジュニアをズボン越しに強く握ってきた。
「ひゃっ……っん」
痛みで葉月は顔をしかめる。
「俺が、どうかしたんじゃなくて…問題は葉月にあるんじゃないか?」
蜜葉の手は緩めることをしらず、ますます強くそこを圧迫してくる。
「んくっ……?」
「俺が、葉月の二年前から始まった行為を盗み聞いても我慢してた欲望は、無残に破り捨てられた感じだね」
蜜葉の言っていることがわからず、痛みに朦朧とする頭を必死に使って、二年前を思い出してみて、葉月は瞬時に顔を真っ赤にする。
 そう、それは、つまり…自慰行為ってやつだよ。
 俺だって男だし、友達になんとな〜くそういう行為があるのは聞いてたし、自分でも覚えてないけど、確か二年前くらいだったはず。
「葉月に教えて上げようとおもったのに、既にその時葉月と同じクラスだった鈴木がそんなこと葉月にふきこむなんて。その話が聞こえてきた時、俺部屋に怒鳴り込もうと思ったよ、まあ、止めたけどね」
信じられない。
 全て、全てを知ってる。もしかしたら、俺自身より、俺のこと知ってるかもしれない。
 ほら、寝言とか。…恥ずかしい通り越して、恐ろしい…。
「おかげで、葉月の一人でやるときの声が聞けたんだ。鈴木に感謝…かな」
口元に不穏な笑みを浮かべて、蜜葉はいやらしそうに言った。
「CDにも録音したんだけど、聞いてみる?」
そこまで言われて、葉月はたっていられなくなった。蜜葉の足元に倒れこみそうになって、蜜葉に支えられる。
 それすら、恐怖に感じた。
 今まで生れ落ちてきてから一緒に暮してきた蜜葉。だれよりもよき相談相手で、友達で、兄弟で、大好きでな人で。
 そんな人に裏切られたんだ。最悪の方法で。
 蜜葉は葉月の腰に手をまわして、無理やり自分を見させた。
 自室で、葉月の喘ぐ声を聞かされた時のあの不快感が蘇る。双葉、双葉と呪文のように繰り返し呼ばれる名前は、自分とそっくりのあいつの名前。
 約一時間の拷問。
 この世で一番愛する人の、乱れた吐息、震える声、切ない喘ぎ。だんだん、快感に変わってくる声質に、狂いそうになった。扉一枚隔てた空間で、二人は行為に励んでる。
 葉月が最初は嫌がってるのがわかった。ううん、結局は最後まで恐怖してたようだし、苦痛の感じも聞いて感じた。
 けれど、それからの葉月の様子を見て、ああ、葉月が好きなのは双葉なんだってわかった。葉月自身気付いてなかったみたいだけど、双葉と二人して葉月が好きだと自覚した、幼いときから、葉月は俺よりも双葉を好きだったんだと、俺はなんとなくわかってた。
 だからこそ、何か欲しかったんだ。
 双葉が知らない葉月。けれど、俺は葉月の側にいることを、壊したくなかった。
 どうせ両思いになれないのなら、どうせ片思いで終わるのなら、良き兄弟で、良き友達で、良い人で。
 なのに自分の中の葉月を欲する思いは、簡単には消えなかった。だから、葉月にプレゼントしたんだ。
 盗聴機の仕込んだテディベアを。
 無邪気に喜んで受け取った葉月を見ても、胸は全然痛まなかった。
 あげた俺も幼かったし、もらった葉月も幼かったから、まさか数年後、葉月が一人自分を慰める行為が聞けるなんて思えなかった。
 その日も学校から帰って、電波を拾うように受信機を合わせ、葉月の部屋の様子を聞いていた。いつも葉月の部屋で鳴ってるJポップのミュージックが突然止んだから、ふいに俺はやり途中の宿題の手を止めた。
 少し間があって、嗚咽のような葉月のためらいがちな声が聞こえてくる。初め、泣いているのかなって思って、すぐさま部屋に入ろうかと思ったけれど、違うことにすぐ気付いた。
 それは、俺たちの歳くらいの男なら、必ずやっちゃう行為だってすぐわかった。
 でも、葉月がそれをやってるのを聞いたのは初めてだったから、たぶん葉月の初体験だ。
 身体がゾクゾクって震えたった。
 葉月はベッドのすぐ近くでそれをやってるらしく、ベッドのサイドボードに置かれたテディベアは、葉月の声を容易に拾って、俺に届けた。
 甘い吐息が、俺の欲望をかきたてた。
 簡単にはいかなかったみたいだけど、葉月はちゃんと最後まで向えて、白濁としたものをティッシュの中に放ったみたいだ。
 それまで戸惑いがちだった喘ぎに似た声の中がやみ、息づいている。
 俺がそれを聞きながら、葉月と同じことをしてたなんて、葉月は知らなかっただろうね。
 葉月が好きで、止められなくて、でも今の関係を壊すのもいやで、でも、俺には葉月だけで。
 葉月は三つ子に執着してた。同じものをもつのも好きだったし、同じ服をきるのも好んでしてた。
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