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● 僕が先生に教えて上げる。 --- −1− ●

僕が先生に教えてあげる

 「じゃあ、これで今日の授業を終わります」
普通ならここで生徒たちはやっと終わった開放感から背伸びしたり、あくびをしたり、昼食のことを話したりして、先生の存在感なんて忘れてしまうとこだろうが、この学園は違ったことを七瀬 泉(数学教師・二四歳)は誇りに思っていた。
「もう終わりなの〜?」
「泉ちゃんの授業なら今日一日中だってうけてたいのにさ」
男でしかも年上なのに生徒から泉ちゃん…と呼ばれることに始めは抵抗もあったが、先生の中では若い上、新任で、頼りない分もあるだろうからと納得した。ここ、高禄学園高等部は男子校として日本を代表するお金持ちばかりが集まる学園で、親の期待を一心に素直に受けて育った子どもも多いので、頭のいいこも多かった。そのためか、こんな授業終了時にこんなセリフも飛び交うのだろうと思っていたのは泉一人だ。だって、みんなのねらいはこの男子校で唯一のオアシス。泉自身だったのだ。ここはもう王子様でもしつけるのかと言うほど、普段の授業に礼儀作法があるくらいの校則の徹底ぶりな上、もちろん全寮制。教師はもりろん男、男、男。そんな中、育ちざかりでやりたい盛りの欲求不満な男子生徒たちは、男とは思えない風貌の泉に胸キュんなのだ。実際、外の世界にいても女と間違われて告られまくる泉だ。むさい男たちの中で目立たないはずがない…のに当の本人は“みんなが良い子だからちゃんと授業を聞いてくれて、だからこんな僕にもなついてくれてるんだ”位にしか思ってなかった。泉の身長は百六十五センチで、目は大きな黒目が大部分をしてていて潤んでみえる。その上きゅっと締まった唇、細い身、サラサラの黒髪。誰もが一度は触れてみたいと懇願して止まない、まさにかわいいで出来たような存在だった。
「そんなこといって、明日の授業サボるなよ〜。明日はテスト対策やるからな」
おせじでも、たくさん授業やって欲しいと言ってくれる生徒の頭を軽いデコピンでこずくと、にこっと笑顔を飛ばし教室を後にした。こんなしぐさが男たちのつぼをついてるなんて、泉はまったく知らないんだろうけど。
 泉が職員室に入ろうとした瞬間、身長の高いすらっとした生徒に目が止まった。灰色のブレザーと大人びた紺色のネクタイ、水色のストライプの入ったワイシャツの高禄学園自慢の制服をキリッと着こなしている見なれない生徒が一人。転入生だろうか?この学園では途中入学は結構珍しい。校則がうるさい上、テストがむちゃくちゃ難しいからだ。
「君…転入生?」
急に話しかけたのが悪かったのだろうか、その生徒は一瞬ものすごく驚いた顔をした。
「ええ…そう…です」
それまで洗濯ノリでも使ったように引き締まっていた表情だったので、人間味を感じて話し掛けやすくなったのを感じ、泉は話しを続ける。
「はは、君…笑ってたほうがいいよ。うん、そっちのほうがかわいい」
泉の思考は年下=かわいいなので、背がどんなに自分より高かろうが、どんなに顔が自分より格好よかろうが、生徒にはこの表現をつかうのだ。しかし、それは目の前の男の気分を多いに害したようだ。眉間にしわを寄せて、ぐっと顔を詰めてくる。
「かわいい…ですか?」
少し的外れのような残念そうな顔して聞き返す。
「うん、あ、名前名乗ってなかったね。俺ここの数学V教師で七瀬 泉って言うんだ。よろしく」
「―――知ってます」
「え?」
校長先生とかが先生方を全員紹介したのかな?でも、学校には二百人以上いるのにこんな一介の数学教師を覚えているものだろうか?ますます不機嫌そうにしながら、そう言う男に疑問の声を漏らす。どうしてなんだろう、なんで知ってるの?と一人もんもんと考え込む泉に、ふぅとため息を漏らすと、今度は不敵な笑みを浮かべ、話し始めた。
「僕は十文字 北斗。本日付けで三年Aクラスに転入してきました。よろしくお願いします。泉先生」
「え?あ、うん。よろしくね」
何もわからない泉はあやふやにそう答える。北斗のこの言葉には他意がこめられてるとも知らず。そんな二人の間に職員室の中から出てきた三年Aクラスの担任陣内 道久が入ってきた。道久は泉の大学時代の先輩で、よき相談相手で、兄貴的存在でもある。
「泉、何してんだ?」
「先輩…じゃなかった、陣内先生!十文字君とおしゃべりですよ。すごく、聡明でかわいい子ですね」
またもでたかわいいと言うセリフに道久は、はぁ?、という表情を明らかに表に出す。確かに北斗の顔は外国人なみにのびた鼻。きりっとした表情。大人なボイス。甘い瞳。同年代の女子高生がキャー格好良いと騒ぎそうな感じだったので、この道久の反応もおかしくないのだ。実際、再びばつが悪い顔をしていたのは北斗その人だ。
「はっはっは!!相変わらずだな」
いきなり大爆笑して、道久は泉の頭をわしゃわしゃしてきた。泉は別に髪を毎日三十分かけてセットしてきてる、というわけではなかったが、あまり人に触られるのが得意ではないので、一瞬にして身をひいた。自分から触るのは平気なのだが。
「先生。次の授業の前には僕をクラスに連れていくんでしょう?行きましょう」
先輩相手にあからさまに身を引いてしまったばつの悪さに下をうつむいていた泉が何か話す前に、北斗が陣内の腕をせかすように引っ張って、クラスのほうへと導いた。
「あ、ああ。そうだな。じゃあな、泉。昼に」
「ハイ!」
変わらない態度をとってくれた陣内とその場の雰囲気を崩してくれた北斗に感謝しつつ泉は職員室へ入っていった。その後姿を見ながら、道久は独り言のように呟く。
「あいつのあれもまだ治ってないか…二年もたつのに」
「あれってなんですか?」
北斗はすかさず聞きに入る。
「ん?あ〜…何でもない。ほら、いくぞ。それでなくても3時間目に紹介なんてみんな驚くだろうからよ」
「僕は朝からずっと待たされていたんですけど?」
道久の後ろを歩きながら軽く嫌味をとばす。さっきの泉とのあまりの親しい様子を見て、すこしながら北斗は機嫌を損ねていた。
「何言ってんだよ…お前が“クラス変更”なんて急に言うからごたごたしたんだろうが」
「それは失礼しました」
「まあ、クラス変更は無理だったんだけどな。お前くらい頭いいやつがどうしてわざわざCクラスを選ぶんだ。この学校が成績順にクラス分けしてるのは知ってるのだろ?」
泉の授業を受けるためだよ…。北斗は心の中でこっそり呟いた。泉がいるというこの学園にわざわざ編入したのに、泉が受け持ってるのはCクラス以下の三クラス。自分はAクラスになってしまって、泉とは何も接点がもらえないと知った瞬間校長室に怒鳴り込んでいたのだ。
「ま、Aクラスも楽しいから安心しろ」
北斗は外の景色を見ながら、その言葉を聞き流し次の作戦を考え始めた。
 十文字 北斗(十八)彼は泉目当てで、難しい編入試験をパスまでした男だった。彼がはじめて泉を見たのは泉が二十二歳の時。泉が北斗の通う高校に実習生としてきた時だった。その時のつたないながらも生徒のことを考え教える姿勢、見事ながらの説明、数式。そして、今までみた誰よりもかわいい笑顔にいちころにされてしまったのだ。風の噂でこの学園で今年から教師になったことを知り、供え持った優秀さと親の金にものを言わせ転入してきたのだ。今度は泉を俺だけのものにするために。父親にもつつみ隠さずその転入のわけを説明すると、そっち方向に理解が深いのか、実は自分もそっち気があるのか知らないが妙に協力的になり、転入を認めていない高禄学園を買収し、簡単に入れるようにしてくれたのだ。今まで、北斗にそんなに干渉することのなかった父のそんな態度に始めはおののいたが、よろこんでその行為はうけとることにした。もちろん、そんな買収があったことは、学園長も教師陣も他の生徒も誰も知らない。理事長と十文字氏の間でしか明らかにされていない事実だった。そうでもしなきゃ、泉の北斗自身を見る目が変わってしまいそうで恐かったのだ。普通の教師と生徒として出会いたかったのだ。まあ、主従関係をつくるのも面白そうだったけど。
「十文字北斗です」
三年生での、しかもこんな時期に、この学園への転入生だったので教室は一瞬の沈黙の後ざわめき始めた。
「よろしく」
歯の浮くような笑顔を飛ばす北斗。教室は一気にパーっと明るくなる。容姿端麗。長身のかっこいい男にそんな笑顔を見せられては、金持ち校ではばをきかせているAクラスの男どももたじたじだった。紳士な態度にここで一気に崇拝者もできてしまったらしい。北斗自身内心、けっ、と唾を吐いていた。別にみんなと仲良くなるつもりはないが、クラスメイトとは仲良くしといたほうがいい。印象はいくらだって良いほうがいいのだ。どこから泉に自分のことが伝わるかわかったもんじゃないから。特にこのクラスの担任は泉と仲の良い陣内だし。三時間目の英語で当てられた北斗が、その自慢の英語力を発揮したこともあって、昼には北斗の周りにわらわらとクラスメイトが集まっていた。どこから来たのだとか、部活は何にするなどの普通の質問から、どこの会社の息子なんだとか、持っている土地はどこだなどの金持ちらしい質問も飛び交ってきた。そういうミーハーなクラスメイトの質問にいちいち答え、その度に度肝を抜かれた表情をされるのにも飽きたので、何人かまともな会話の出来そうなのに学食まで連れてってもらうことにした。
「十文字も大変だな」
Aクラスの委員長、長苗代 朝日が同情するように肩を竦めて言った。朝日は線の細い容姿を持ち、女顔で色も白く、和風美人といったかんじだ。フレームのない金の柄のめがねがよりいっそう朝日を高貴にしている。北斗もそんな気さくな朝日の態度に普段の学生の自分を取り戻し、子供の顔を見せる。
「ああ…でもそのうち収まるだろ」
もう片方から、ポンっと背中を叩いてくる男。副委員長の西 直太郎だ。明るいキャラの直太郎は朝日の補佐を一年のときからやっていたらしい、本人たちは腐れ縁だというが、気があっているのは確かみたいだ。とにかく二人とも北斗に負けず劣らずの金持ちらしい。
「そうだといいな」
収まりそうのないクラスメイトの騒ぎ声を思いだし、苦笑する。こいつらとはいい友達になれそうだ。委員長と副委員長だけあって情報ははやそうだし…。泉のこともいろいろ聞けそうだ★どんなに仲良くなれそうな友達を見つけても、結局そこに至ってしまうかれは、完璧泉中毒だった。
「なあ、七瀬泉ってわかるか?」
「わかんない分けないだろこの学校のアイドルじゃん…むしろなんで北斗が知ってるんだ」
直太郎が当然のようにアイドルといったことにピクっとする。さすがにあの魅力に気付いているのは自分だけじゃない……か。
「まあ、イロイロあって」
北斗はわざと言葉を濁した。このおかげで自分と泉の間に何かあるという噂でも流れてくれたら本望だ。
「それで、泉って教えるのヘタか?」
「まさか……逆だよ。百人中百人が絶賛してるよ」
きっぱり朝日が否定してくる。それを聞いて二年前の自分が感じたのは間違いじゃなかったんだと確信する。
「なんで、そんなこと聞いて来るんだ?」
直太郎は不思議に思ったことはすぐ聞く性質なのだろう。
「いや、なんでCクラス以下しか教えてないんだろうって思って」
「当たり前じゃん。出来の悪い方に教えるのが上手い先生がつくのは」
なるほど理にかなっている。でもそれでは優秀な成績を誇っている自分は一生泉の授業を聞くことはない。さ〜て、どうしてやろう……北斗は一人ニンマリと怪しく微笑む。
 北斗がそんなことを考えながら学食に向かっているとき、泉もまた道久と北斗とは反対の入り口から学食に向かっていた。
「北斗君はクラスになじみそうですか?」
今朝あった少年のことを思い出し聞いてみる。陣内はまさかその名前が泉の口からでるとは思ってなかったので、一瞬誰のことを言ったのかわかんなかったみたいだ。
「北斗……?ああ!十文字な。うん、あいつなら大丈夫だろ」
「そう、ならよかった。」
「なんだ、あいつの知り合いか?泉」
「いや……よくわかんないんだけど。なんか……知ってるような」
もし、この場に北斗がいたら思いきりぶちきれてただろう。だって、仮にも北斗は二週間受け持ったクラスの生徒なんだから。
「惚れたか?」
道久がからかい半分で聞いてくる。泉はリトマス紙のように顔を一瞬にして赤らめ、ムキになって否定する。
「な、な、何言ってるんですか、先輩!生徒でしかも男の子でしょうが。俺が気になってるのはこんな中途半端な時期の、それでなくても珍しい転校生だからで……!」
こんなささいな冗談に本気で対応する泉がかわいくて、道久はもっといぢめてやりたくなるが、ここは二人きりの部屋ではなく、生徒の往来も激しい学食へ向かう廊下なので、しかたなく泉をなだめた。
「はいはい……冗談だって」
両手をあげて降参のポーズを示す道久を見て、ようやく泉はかまえた手を下げた。もちろん泉だって本気でなぐるつもりなんかなかった。道久のこういう冗談をふっかけてくるのは優しさからだと知っているのだ。道久は泉が知る男の中で、一番理想の男だった。こうなりたい……と大学時代から憧れ、動作や言動を真似てみたものの、どうも自分にはあわないのでやめたくらいだ。
「ほい……これでいいんだよな」
道久に渡されたお盆の上には少量のポテトサラダとコーヒー。コーヒー用のミルク三個と砂糖4本が乗っかっていた。
「ありがとうございます」
泉がそれを受け取ると、ずらりと並んだご飯の数々の向こうから、それを作ったおばちゃんの声がする。
「七瀬先生!ちゃんと食べなきゃ…またそれだけですか?」
泉は済まなそうに眉を詰めて謝ってから、言葉を続けた。
「ごめんなさい…でも今日は朝御飯にゆで卵食べてきましたよ!」
自慢気に言う泉におばちゃんは疑いの目を向ける。
「どれくらい食べてきたんです?」
「……半分」
泉は言葉を濁す。
「本当に?」
おばちゃんの目がキラリと光る。
「……半分の半分」
泉は根負けして正直に打ち明ける。けれど小食の泉にしてはこれでもがんばったほうだ。
「七瀬先生。それじゃあ大の男が1日生活してけませんよ。あたしなんか朝からステーキ三枚はいけます」
怒ったように注意してくるが、これは母親が息子を心配するような感じであることを泉は知っている。心から心配してるのだ。泉の拒食症ぎみのところを。
「夜御飯はちゃんと食べますから。小野田さんは食べ過ぎに注意してくださいね」
そう付け加えて、泉は学生たちがわらわら食べている学食の中のテーブルから空いているところを見つけだすと、そっちの方に歩いていった。うしろでおばちゃんが大声で笑っている声がした。
 「泉先生」
泉は一瞬にして誰かわかった。この名称で呼ぶ人は数少ないのだ。しかもこの声は朝聞いたばっかりだ。
「北斗君」
泉が名前を呼ぶやいなや、北斗は自分の持っているおぼんを泉に置いて、自分も泉の隣の席に腰を下ろした。
「先生…量少ない」
あきらかに大の大人の男が食べるにしては少ない昼食に驚いた北斗は、あからさまに指差して指摘する。泉は北斗の前から自分のお盆を遠ざけると、笑って誤魔化した。
「あはは…きょ、今日はお腹すいてないんだ」
目が既に私は嘘をつきましたと語っているのを見て、北斗はその泉のかわいさに思わず口元をにやけさせてしまう。
「先生…嘘つくのへたくそだね」
一発で嘘を見破られてしまいわたわたとする。
「2年前は普通に食べてたじゃないか」
―――2年前?って、もしかして僕と北斗君2年前に逢ってるの?泉はいきなり無理難題を課せられたように、再び頭を抱え込む。けれどやはり答えは出てこない。泉は下から上へと目を遊ばせるように北斗を覗きこんだ。
「ご、ごめん…き、記憶ないんだけど。俺、君と会った事あるの?」
予想はしてたけれど、かけらも記憶に残っていなかったことがわかって少しむっとする。だって、自分はこの2年泉のことしか頭になかったのに。
「覚えてないんだ……」
いきなり北斗の声は、音は一オクターブは下がり、恐味がでた。泉はビクンッとして体をちじこませる。どうも、こういう声は苦手なのだ。
「俺、2年前泉の授業受けてたんだけどね〜」
な、なんか口調変わってません??しかも、泉って呼び捨てなんですけど。いきなり優等生から暴君に変わった変化についていけず、一人慌ててしまう。こんな状況では思い出すものも思い出せない。
「宇都宮高校で……」
そこまでヒントを出してもらって、泉はようやくちょっと思い出した。
「あ……もしかして俺が教生だったときの…クラスの子?」
「あたり。泉にとって教生の時のクラスの子なんてどうでもよかったみたいだけどね」
「そうじゃないっ!…そうじゃなくて…俺2年前の記憶…あやふやで。一部抜けてたりするから……ゴメン」
泉は弁解するように言ったけど、嘘ではなかった。泉は2年前の事件の前後をちょっと曖昧に覚えているのだ。嫌でも事件のことは鮮明に思い出すのに。泉は北斗に気付かれないようにちょっとため息をつく。
「記憶があやふやって……?どういうことだよ。陣内の言ってた2年前のことと関係あるのか?」
―――2年前。そのことを思い出すと今でも記憶がトリップして、体が震えてしまう。泉はぎゅっと固く両の手のこぶしを握り締め、うつむいて動かなくなってしまった。そんな泉に気付いたのか労わるように北斗は会話を流した。
「それにしても……細いですね先生」
声の調子も、口調も、自分を呼ぶ呼び方も元に戻ったことに安心して、泉はこぶしを緩める。
「そう…?でも、健康診断では何もなかったから平気だよ。それより君はもっともっと食べても良いんだよ。育ちざかりなんだから」
北斗のお盆に乗っけられたAランチを指差して言った。
「普通の男の子は御飯大盛りとか、一緒にラーメンとか食べてるじゃないか。北斗君大きいんだから足りないんじゃないか?」
「僕はいいんですよ…泉を組み敷くのに十分なくらい身長は伸びたし」
ちょっとセクハラ入ってる発言にも、泉は流すように受け答える。ばっちり意味を理解していないな…と北斗は呆れてしまうが、そこがかわいいところだとも思ってしまう。この分じゃ、泉に恋人なんていないだろう、とちょっと安心してたり。北斗はその細くのびた指を箸を持たせるのではなく、泉の細いウエストに這わせてきた。
「ほら…この辺りとか、女みたい」
泉はそのかわいい容姿と165センチという小さな体のせいでしょっちゅう女に間違われ、チカン行為にもたびたび逢っていたため、女に間違われることがものすごく屈辱的だったから、この北斗の言葉一瞬で逆上してしまった。
「俺は男だ!!」
「でも、ほらここも柔らかくて…細い…」
泉が自分のウエストから、北斗の手を払おうと両手でがんばるが、北斗はどかそうとはしない。それどころかそのウエストにのびた手を、だんだんだんだん怪しげな動きを見せ、太ももまで降りていく。初めは太ももの形を確かめるように大きく触っていたが、少しずつ内股の方へすり合わせてくる。
「っ…!?や、やめな…さい」
泉の体を電撃に似た感覚が走る。内腿から伝わってくるもどかしい感触が、なぜだかいやらしい声をあげさせてしまう。泉は怒ってあげた顔を、再びテーブルとにらめっこさせ、片方の手を口に当て声をふせぎ、片方のつたない手で北斗の手を払おうとする。しかし、北斗は沸きあがる自分の欲望に素直な男だ。泉のちょっと快感を帯びた反応で、いっきに自分の欲望を加速させてしまい、止めることができなくなってきてしまう。もっと見たい!もっと見たい!俺の愛撫で快感によじれる泉を…俺の欲望を、欲して乱れた顔をする泉を。
「泉のここも…すごくかわいい…」
内腿から進む不穏な手の動きは、泉のスーツの上から泉のジュニアを軽くなぞる。
「ふぅっ…ほ、北斗君…な、何すの…っ」
自分の指を噛み締め、喘ぐ声を押さえようとする泉の羞恥に満ちた顔が北斗の顔を捕らえる。その顔は至福の笑みを浮かべている。泉には小悪魔に見えてしかたない。だって、明らかにこれは偶然やっているわけではなく、わざとだ。自分を未熟な教師だと判断して、悪戯してやろうと思ってるんだとしか思えなかった。目の前の男はその大きな手で今度は泉のジュニアを軽く包み込むと人差し指で軽く煽ってみる。
「ひゃぁっ」
そう色っぽい声で喘いだ瞬間、頭をピクンとそらしてしまう。ここが昼休み中の学食だってことを思い出し、泉は顔を真っ赤にさせる。しかし、わずか数センチ後に座っている学生もおしゃべりと食事に夢中で気にしているそぶりもない。泉は安心して胸をなでおろすと、やっと手を泉のものから離してくれた隣に座っている北斗をキッと睨む。
「北斗君っ。何するんだよ…いくら俺が新米教師だからってこんな悪戯…」
自分で言ってて悲しくなってくる。泉のかわいい丸々の黒目が少しだけ水で潤んでくる。
「泉がかわいいからしたんだよ…ねえ、俺のこと北斗って呼んでよ…」
「え?」
さっきまでの態度とはまた違って、猫みたいにねだるように下から覗きこんでくる。そして、泉の目元に光るものを見つけると、ペロっと舌で舐めってしまう。泉はバッと北斗の顔を押さえ、自分から急いで離した。
「だから…こういうのはダメだって…」
泉が目をぎゅっと閉じてイヤイヤってするのがかわいい。北斗は今すぐにでも抱きしめてしまいたい欲望にかられる。でも、そんなことしたら泉はもっと嫌がるんだろうな。そう考え、苦々しい気持ちで苦笑を漏らす。
「北斗って呼んだら、今日のところはやめてやるよ」
うぅ〜。またあの態度になってるよう。この子は一体どれが本当なの。いや、どれも本当の北斗君なんだろうけど……。
「ほ、北斗?」
ためらいがちに呼ぶ。泉が生徒のことを呼び捨てで呼ぶのは珍しくなかったが、こんな風に強要されて呼び始めることはなかった。ある意味生徒に命令されたのだ。ちょっと屈辱的。
「よくできました」
北斗はパッと体を泉から離すと、自分の前に置かれたAランチに手を伸ばし始める。そして、泉にも食べるように促す。泉は不本意ながら砂糖いっぱい、ミルクいっぱいのコーヒーに手を伸ばす。
「泉…となんだ十文字も一緒か?」
Aランチとラーメンも取りに行っていたせいで遅れてきた道久が泉の前に腰を下ろす。北斗は明らかに泉とのラブラブランチタイムと壊され、ムッとする。
「僕が一緒では不満ですか?」
不満なのはお前だろうと突っ込まれそうな表情で言い返す。道久は最初から相手にしていないかのように、まさか、と答えると熱々のラーメンを食べ始めた。
「た、たまたま一緒になっただけですから」
明らかに言い訳をするように説明する泉の態度にも、北斗は苛立ちを覚え始める。この二人妙に仲がいい。まさか…と勝手な妄想で嫉妬に燃えあがる。そんな北斗の心情なんてわからない泉と、ばっちり察しているであろう道久は勝手に話しをすすめる。
「ほら、泉…ラーメンちょっと食べるか?」
泉の前に熱々のラーメンを箸で上に少し持ち上げて、道久が言う。泉はしばし考えた後、さっきおばちゃんにも言われたり、北斗にもバカにされる種になってしまったこともあって、ちょっとはまともに食べてみようかなと思い立ち、道久のその行為をうけることした。
「じゃあ、頂きます」
泉がテーブルに備え付けてある割り箸に手をかけようとすると、道久にそれを止められた。
「これで食えよ。どうせお前蚊が食うほどしか食わないんだから」
そう言って自分が使ってた箸をそのまま泉の前に突き出す。横目で見ていた北斗がこれに嫉妬を抱かないわけがなかった。他の男の使った箸でそのまま食べる…。他のやつらがやってたら何とも思わないが、俺の泉が他の男とそんなことをするなんて許さない。しかし、北斗が勝手な独占欲をふつふつとさせている間にも、道久はなんとも大それた行動に出てしまった。なんと道久が箸を持ったままで、泉の口にそれを近づけてきたのだ。
「ほら、泉あ〜んしてみろ」
―――何があ〜んしてみろ…だ。大の男が下心なしにこんな行動とるものかっ!?なんで泉はわからないんだっ。
「せ、先輩…自分で食べれるって…」
とりあえず拒否してみる泉だが、どうせ一口くらいだ…と思い猫舌なため、フーフーと甘い吐息をラーメンに拭きかける。その拭きかけているラーメンを持っているのは道久なのだから、とうぜん吐息は道久の手にも多少掛かってしまっている。道久がどう思ってるかしらないが、北斗の中は燃え盛る怒りでいっぱいいっぱいだった。泉がそのラーメンに食いつこうと口を大きく広げるやいなや、いきなり立ち上がった北斗に思いきりその道久の持っていた箸を弾かれ、ラーメンを少しテーブルに撒き散らしてしまう。
「ほ、北斗!?」
泉はわけがわからず自分を睨んでくる男をこわごわと見つめる。
「一緒に来てもらいますよ…先生」
口調は優等生ながらも、声は今まで聞いた北斗の声の中で一番低く恐ろしかった。泉は思わずピクンと体をちじこませるが、勢いよく腕を掴まれ、北斗の思うが侭の方向へ引っ張られていく。北斗は回りの目などまったく感じないのか、今が一番込んでいる時間帯の学食の中を、ずんずん進んでいく。泉は生徒に引っ張られ進んでいく自分を、他の生徒がどう思ってみているのか、いたたまれない気持ちになり、抵抗をしてわざと人目を引くのもなんだと思い顔をうつむかせて北斗にその身をまかせた。一体何だっていうんだよう。もしかして俺が覚えてなかったのを怒ってるのかな?そうだとしたら俺が失礼なんだけど…あの辺りの記憶はどうも不確かだから…。そんなことを考えていたからわかんなかったけど、泉が抵抗しようとしなくても、学園のアイドル泉ちゃんと異例の転校生北斗はそれでなくても目立つ二人だったので、この学食での行動は明日には学校中の噂になってるんだけど。
 「北斗っ。どこ行く気なんだ!?」
泉は学食を抜けてなお一言も発しず、それどころか腕を掴む力はどんどん強くなる一方の目の前の端麗な容姿の男に怒鳴った。俺は先生でなんだぞ!いくらなんでもこの行動はおかしくないか?
「―――二人っきりになれるとこ」
ん?なんで二人っきりになれる場所にいかなくちゃならないんだ。泉の頭の中にでっかいクエッションマークがくっきりと浮かび上がる。それに、泉は辺りを見まわしてみるが、生徒がほとんどいない特別教室の廊下まできている。ここでもいいんじゃないか。
「な、な、じゃあ。ここでもいいんじゃないか?二人っきりだぞ」
泉は腕が痛いのを必死にガマンして、足にストッパーをかける。そのがんばりのおかげで、北斗も足をとめるはめになる。しかし、北斗の表情は口元に不穏な笑みを浮かべている。
「へえ…泉はこういうところでやるのがいいんだ」
「だから、何言ってるんだ北斗。さっぱり…んんっ!」
泉は言いかけていた言葉を途中で言えなくなってしまった。それもそのはずその言葉を発するためのかわいい唇は、今や北斗の唇に塞がれていた。キス―――。泉の頭の中に一瞬にしてこの言葉が浮かび、体中から嫌悪感が出てくる。
「んっ…ふぅ…やめ…」
腕で払いのけようとすれば掴まれ、足で蹴ってやろうかと思えば体を密着させられ無理やりに抑えこまれてしまう。泉は口内に広がる生暖かい北斗の蜜でだんだん思考が溶かされていく気がする。嫌で、嫌で涙が溢れてくる。俺は男なのに、俺は先生なのに何生徒にこんなことされてるんだ!自己嫌悪で胸が痛み、よりいっそう目元は熱くなって来る。
「やめっ…はぁっ…」
泉が涙目でイヤイヤと首を振ろうとしてくるので、力で無理やり抑えこむ作戦から変更した北斗は、口付けるだけじゃなく舌を巧妙に使って口内で遊んでくる。
「――っふぁ!?」
歯の裏から唇の裏を優しく弄るように舐めたり、呼吸をとがめるくらいの勢いで喉の方まで突っ込んだり。泉は電撃のように走る快感に、さっきより緩んだ北斗の拘束さえもはずせなくなってしまう。それどころか、もっともっと、と求めてしまう感情まででてきてしまう。泉の目がトロンとして誘うような表情になったとき、北斗はようやくその口を泉から一瞬だけ離した。その瞬間、泉は理性を一瞬にして取り戻す。
「な、な、…何…して」
しどろもどろになりながら顔を真っ赤にして怒ってくる泉が、あまりにもかわいくて北斗はこんな状況にした張本人ながらクスクスと笑ってしまった。泉にはそれが自分をバカにしての行動にしか見えなかった。
「泉はキスもしらないの?」
と、しらじらしく聞いてくるオプションまでついている。キスを知らないわけないじゃないかっ!ただ、それは愛する男と女がするものであって、男と男、しかも生徒と先生がするものではない。泉は北斗はどこまで自分をからかっているんだろうとカーッとさせる。
「そ、そんなに俺をからかって楽しいのかっ。俺は…俺は…お前とキスなんてしたくないっ」
泉は彼女なんていないから今は誰ともキスをするつもりなんてなかった。だからこう言ったのに、北斗には『お前としたくない』といわれたせいで、俺以外ならいいのか…という勘違いをさせてしまった。北斗は愛しくてたまらない泉がすでに誰かのものなのかもしれないという事実に逆上し、泉を壁にガンッと打ちつけた。
「っ痛〜…ほ、北斗いい加減に…」
先生らしく注意しながらも、再び何かされるのかという恐怖に泉は体を硬直させる。
「泉がキスしたいのは誰なんだよ…陣内か…他の教師か!?まさか…他の生徒とか」
北斗が睨んですごみをきかせてくるが、ここで怯えきってしまっては泉先生の名がすたると泉は理不尽な問いかけに、怒鳴るように答える。
「バカッ!何言ってるんだお前は」
北斗は泉の生真面目に締めたネクタイに右手をかけて、片手なのに器用にはずしていく。
「それとも…俺以外ならキスもその先も簡単に許す淫乱だとか…?」
自分のテクには自信がある北斗が、それを拒まれたことでプライドを傷つけられたのか、言葉で泉を攻めたてる。泉は、北斗の言ってることの本意は半分も理解できてないが、淫乱といわれて怒りをあらわにする。一体全体自分のどこが淫乱なんだ!女の人とも付き合ったことがないのに…。うう、これは自慢して言えることでもないか。でも、でもね。苦手なんだよね…特定のお付き合いってやつ。友達としてはいいんだけどね。それ以上がどうしても…。やっぱり、2年前のこと引きずってるよな。俺。
「泉…?」
泉の思考が北斗に対する怒りから、2年前のことにトリップしかけた瞬間、北斗の声で現実に連れ戻される。慌てて泉は北斗の近づいた顔を払った。
「教室に戻りなさいっ!じゅ、授業が始まる…」
「話はまだ終わってない」
「俺は話なんてないっ」
北斗はまた身を泉に触れるくらいに近づいてくる。止めてくれ。だめなんだって俺…こういうの。苦手なんだよ。泉はきゅっと目を閉じて斜め下を向く。
「じゃあ、泉は淫乱なんだ。否定してないよね」
そう言えば、さっきはあまりの怒りでトリップしかけて怒鳴ってないことに気付く。
「バカっ!んなわけあるかっ。…俺だって授業があるんだ…退きなさい」
語尾が震えながらも、教師らしい口ぶりをされることに北斗はムカッときた。なんで自分と二人っきりのこんな時に教師と生徒の関係をされなきゃならないんだ。泉はここまでして何も気付いていないのか?俺は二年間泉のことばっかり考えて生きてきたのに。
「泉は鈍いな」
退かない大きな体をの隙間を必死に抜けようとしたときにそんなことを言われて、泉は北斗をその大きな瞳で睨みつける。それがまたまた挑発的でなんとも…。
「鈍くないっ。なんでお前にそんなこと言われなきゃならないんだ」
「だって、先生。俺の気持ち気付いてないでしょう…これっぽっちも」
北斗がわざと親指と人差し指で爪楊枝もはさめないくらい小さな隙間をつくって示す。俺の気持ち…?俺をからかってこんなことしたんじゃないのか?
「俺は泉が好きってこと」
「ん。そ、それはどうも…」
泉はどうも好きの意味を履き違えている。単に先生と生徒の立場で好きと言われたと思ったらしい。北斗はガクーッと肩を下ろす。
「泉、ちゃんとわかってるか。俺は泉とキスしたい、えっちしたいって言ってるんだぞ」
そこまでダイレクトに言われれば、泉だってわかる。とっさに顔が真っ赤になる。
「そ、そんなこ…こと言われても…俺、先生だしっ」
あとずさりされながら遠まわしに否定されても北斗はまったく気にしてないみたいだ。だって、さっきのキスで泉は少しは自分のキスに反応するってわかったから。少しは脈蟻かもしれない。泉はきっぱりキスが嫌だったと告げたけれど。北斗にだって相手が感じているか、いないかくらいわかる。その整った顔立ちと金持ちという肩書きのおかげで経験は人並み以上だったから。
「泉は俺のこと好き…?」
一メートルは前方にいる泉に優しく問いかける。内心バクバクだった。泉にようやくこの質問ができたのだ。いっとくが北斗の頭の中に不可能という文字はない。もちろん答えは決まっていると思った。
「せ、生徒としてなら…」
嫌いじゃない。でも、それ以上は絶対ありえない。俺は男で、北斗も男なんだぞ。ってか、それ以前に今日あった生徒の一人にこんなこと言われても。あ、でも北斗の方は教育実習生だった俺のことを覚えててそう言ってくれてるんだろうな。
「生徒じゃ嫌だ。男としてみろよ」
そんなこと言わないでくれよ。って言うか、常識的に考えて男が男を男としてみたら、友情止まりじゃないか?
「北斗は二年前の俺を多少しってるのかもしれないけど、俺は悪いけど二年前のお前の記憶がないんだ…だからわかんないよ。急に聞かれても」
一応北斗は生徒だから、手厳しい言葉で振ったりはしない。ほら、受験生だし。一時の迷いってこともあるかもしれないじゃない?それに、もしかしたらすっごい性格わるいヤツで俺をからかってるだけって説もまだある…。でも、こんなマジメな顔して、そんなことは言わないかな…。泉は先生と生徒ってのがどうしても出来あがってる人だ。北斗はその泉の言葉に呆れてしまう。確かに自分を覚えていてくれなかったのは腹がたつけれど、二年前の気持ちだけで告白したんじゃない。さっきのキスでわかったんだ。思いっきり欲情してる自分に。俺は泉が好きだ。愛している。今すぐ叫んだって良い。そんな気持ちが泉にも生まれなかったのがショックなのだ。けれど、確かに逢って数時間のやつにこんな事を言われて動揺するものわかる。北斗は自分が大人になってやるか…と泉に近づくとホッペに軽いキスをする。
「待ってやるよ…あと少しだけ、な」
口元に微笑を浮かべる北斗を、ピンクに火照った顔で見守る。ずいぶんポーっとしていたが、始業のチャイムがなって、われに帰り、北斗をAクラスへと追いたてて自分はDクラスへと走った。北斗は泉の授業がうけられないことを心底恨んだ。どうしたら泉の授業をうけられるか計画を謀りながら、くだらない陣内の数学を聞き流すように聞いていた。
 「こ、これで終わります…」
泉は就業のチャイムが終わる前に早々と授業を切り上げてしまった。だって、頭の中はさっきの告白のことでいっぱいで、大好きな文章問題にも手がつけられなかったのだ。
「え〜!早いよ泉ちゃん」
泉の授業は人気がある。覚えやすく、そして全員にあったペースで進んでくれるからだ。そのためこの時間にしかこない保健室登校生徒なんてのもいたりする。そんなわけで、授業が十分も早く終わってしまうと、ブーイングが飛び交ってしまうのだ。
「うっ…でも、ほら、後は中間の対策問題をやってて…」
教卓の上の教科書と自分専用のチョークを小さな胸に抱え込むと、数学準備室に逃げるように走っていってしまった。教室に残された生徒たちは、俺たちの泉ちゃんに何があったんだ…と大騒ぎになってしまった。
 こんなの俺じゃない!俺じゃない!泉は涙目になりながら二階の奥にある自分だけの部屋、数学準備室に向かって走っていた。おかしな授業をして、しかも抜け出してきてしまった。こんなの先生として最低だ〜。うぅ〜…。生真面目な泉は自己嫌悪で生徒の前にいられなかったのだ。こんな純粋な学び子の前で自分はなんて不埒なことを考えているんだ。最低じゃないか。なんで俺がこんなことで悩まなきゃいけないんだぁ!悪いのは北斗じゃないか。勝手に告白してきて…。いや、告白に了承もなにもないと思うけどさ。泉は壊れる勢いで数学準備室のドアを開け中に入り、やっぱり壊れそうな勢いでドアを閉めた。散らかった部屋のさらに散らかった一角にある使い慣れた机に伏せて呟く。
「最悪だ…」
「何が最悪だって?」
「ほ、北斗!?」
いきなりの後からの声に体を勢いよく起こす。だって、驚くだろう。自分のプラベートルームに誰かいたら。心臓がドキドキ言ってる。あれ?驚いたんだからバクバク言ってもいいだろうに。なんでか、ドキドキだ。
「い、いつからそこに…」
「泉が来るちょっと前かな。陣内のやつに聞いたら、泉はいつもここにいるって言うからさ」
先輩め…。その大らかな性格にいつも感謝してますけど、今日ばっかりは恨みますよ。そこで今はまだ授業中だということを思い出す。
「お、お前授業はどうしたんだ…まだ授業中だろう」
「腹痛って言ったら簡単に抜け出せたよ…」
「…」
泉は再び顔を伏せる。神様…この少年は一体何者ですかぁ…。
「戻りなさい、まだ五分あるから」
泉の教師面にフンと機嫌を損ねると、悪戯に聞いてくる。
「自分だって抜け出してきたんだろ…俺の事が頭から離れなかったから授業にならなかったんだろ」
泉のその華奢な体の全ての血が頭に集まったみたいに、カーッとなる。図星だよ。そうだよ、なんだか北斗のことが頭から離れなかったんだよ。そのせいで、授業にならなかったんだよ。こんなこと一度だってなかったのに。泉は伏せたままで北斗を罵倒する。
「だ、だってお前がキスなんてするし、好きだって言ってくるし、それはえっちしたいとかキスしたいとか言う意味だって言うし。俺わかんないんだもんっ」
泉が恥ずかしそうに言うのがかわいくて、かわいくて北斗は泉を後からきゅっと抱きしめる。
「俺が嫌い…?」
泉は首を壊れるくらい左右に振る。違う、嫌いなんかじゃない。それは絶対にない。だって、北斗を嫌いになる要素はないんだから。
「じゃあ、いいじゃん俺が好きってことで」
北斗がにんまりわらっているのが言葉から聞き取れる。う〜ん…嫌いじゃない=好きって方程式は性格なんだろうか??だって、俺ピーマン嫌いじゃないけど、好きでもない気がするんですけど。
「だから…わかんないんだってば」
抱きしめられてドキドキして、北斗の顔が上手く見ることができない。恥ずかしい…。でも、男が男に抱きしめられてこんな感情になっちゃうのってもしかしてまずい?おかしいのかな…。
「離せよ…」
いいかげん。そう言おうと思ったけれど、なんだか、自分の体に北斗の妙なものがぶつかってる気がする。男なんだから一発でわかるよ…アレだよ。興奮するとその本領発揮する男のあの場所。泉の頭は一瞬にして沸騰してしまう。
「離せ!離せ…!!」
北斗もいきなり暴れはじめた泉が何を感じ取ったのかわかって、思わず悪魔な微笑を浮かべてしまう。
「興奮した…?」
違う…と言いきれないのが悲しい。だって、なんだかドキドキがさらに早くなってきちゃったんだもん。ど、どうしたんだ俺!こいつは生徒で、今日逢ったばっかりなんだぞ(正確には二年前あってるけど覚えてないんだから、換算されないよね?)。
「やめろ、離せ…」
泉は北斗が背中にぴったりついているのに、そのまま立ちあがろうとした。そうすれば、イスが邪魔して北斗と自分の間に隙間ができるはずだ。そうしたら、離れられる。しかし、そんな泉の単純思考は読まれまくりで、泉が急に立ち上がったのには驚いたようだったけれど、なんなくイスはかわされてしまい、それどころかますますまずい態勢になってしまったのだ。泉は机の方を向いて机に手をついて立ちあがり、その背中には北斗がぴったりくっついて泉の腰に手を回しているのだ。そして、あろうことか北斗は泉の耳元に舌をねっとりと這わせてくる。
「っ…うぁ…」
泉の口からじれったそうな甘い声が漏れる。泉は自分の耳でそれを聞き取り、恥ずかしさのあまり壊れてしまいそうだった。
「ね…告白の答えは…?」
ま、待つっていったじゃないか〜!しかも、こんな態勢で答えなんて考えられるかっ。泉は高まる同様を抑え、冷静を装おうと小刻みな呼吸を繰り返す。
「と、とにかく…離れなさい…」
「嫌。泉逃げる気だろ…」
うぅ…そうだよ。図星だよ。だって、恐いんだもん。しかたないだろ。北斗はぴったりとくっつけたその体を微動だにしない。泉はもともと暴力とか振るうタイプでもないし、筋肉もないから、こうされると抵抗してもまったく効果がない。
「逃げないから…頼む…」
泉があまりに切羽詰った声で言うから、北斗は最後の情けといわんばかりにため息をつくと、パッと両手を離した。泉はさっきのダイレクトに感じた北斗の体の感触をぬぐうことができなくて、その微妙な胸の内を見せ付けるかのように急いで振り向くと北斗を睨む。
「俺はお前と付き合う気はないっ」
泉は隙も与えず言いきった。そうだよ、はっきり言ってやれば良いんじゃないか。たぶん、一時の気の迷いだよ。こんなの。だって、北斗はこんなに格好いいんだから、その気になれば女の子なんて言い寄らなくても、寄ってくるだろうに。うらやましいヤツ。
「じゃあ、誰となら付き合うんだよ!!もう付き合ってるヤツがいるんだったら奪ってやる」
小さな子供みたいにそのおもちゃを奪うような独占欲を発揮する北斗に、泉は困惑する。
「誰とも付き合ってなんかいない」
泉がきっぱり否定したのに、北斗はこぶしで強く机を殴りつけた。
「嘘付けっ」
嘘なんかついてない!俺は恋愛が苦手なんだって…。
「俺以外の誰がいいっていうんだ…。俺が泉にキスしてやる、愛撫してやる、感じさせてやる、いかせてやる…。泉の気持ちいいことなんでもしてやるから、俺を選べっ」
北斗の口から発せられる、普通なら恥ずかしがる単語に泉はいちいち顔を真っ赤にさせ、反応する。愛撫とか、いかせるとかって何言ってるんだよ〜。もうわけわかんないっ。
「落ちつけよっ!俺は別に誰とも…」
泉が北斗の体に近づき、その猛る憤りを抑えようと胸の辺りを両手で抑えてやると、その手首をしっかりと握られてしまった。まずい。どうして俺は捕らえられる前にこうなることを予想できないんだろう。
「もういい…体に教えて込んでやる…」
「何っ…んん〜っ」
くっ…キス!?再び唇を奪われる。北斗の舌が自分の口腔を犯していくのが容易にわかる。気持ち悪いっ…。最初はどうしてもこの感情が飛び交う。泉はじたばたと北斗の胸の中でもがく。泉が嫌がってることなんてわかってる北斗は、泉の口の中の性感帯をまさぐり、突いていく。
「はっ…ふぅぁ…はぁ」
泉が苦しそうにキスの合間、合間に酸素を欲するのを見て、北斗はついばむような軽いキスにしていく。
「ほ、北斗ぉ…っふぁ」
泉の声が喘ぎに変わる。頭がくらくらする。恐いのに、嫌…じゃない?なんなんだ…これ。だって、北斗の舌が、唾液が、俺の中に入ってきて動いてるんだよ。気持ち悪いはずなのに、はずなのに…奥が熱い…胸が苦しい…ドキドキする…。
「泉…泉…」
北斗は、何度も何度も浅い口付けを繰り返しながら、その名前を呪文のように言う。ダメ…このままじゃ、俺おかしくなる!!自分が自分じゃないみたいで恐いっ。泉は北斗の舌を戻そうと自分の舌先で押し出そうとする。しかし、泉が舌を使ってきてくれたのが嬉しくて、北斗は自分のものと絡ませる。
「んんっ」
まさか、こんな形になるなんて思っても見なかった泉は自分の舌の現状を頭の中に想像してしまい再び熱が燃え始める。熱い、熱い。口が、胸が、北斗に支えられている頭が、腰が。ん?北斗に支えられている…腰?泉がまだ経験の浅いキスに夢中になっている頃、北斗の手は泉の手首を離し、今度は泉の体の周りで不穏な動きを続けていた。
「北斗っ!!」
その手の動きにいやらしいものを感じ取り、泉は北斗をあるだけの力で押しのける。その拍子に繋がれていた唇はねっとりとした蜜を引きながら、もったいなさそうにチュパッとした音を出して離れた。泉は顔をカーッと真っ赤に染める。唇が離れる瞬間、泉の歯が北斗の唇を引っ掛けたのだろう、北斗の真っ赤な唇から、赤ワインのような赤の血が少しこぼれる。
「あ…ごめん…大丈夫か」
泉は慌てて北斗の唇に自らの小さな手を這わせる。キズ自体は全然対したものじゃなくて、ただ柔らかく、熱くなっていた場所だけに血がでてしまっただけらしい。北斗はそんなこと気にもとめず、自分の右手の親指で軽く血をぬぐうと、泉の耳元で囁く。
「泉には調教が必要みたいだね…」
ちょ、調教って…?あの、犬や猿に芸を教え込むあれ…??泉は聞きなれない言葉の意味を不思議そうに考える。
「僕が先生に教えてあげるってこと。…恋人の快感をね」
快感…ってさっきのキスしたときに感じたみたいなののこと…?もしかして、俺って感じちゃってたのか!?泉は羞恥に泣きたい衝動にかられ困惑の表情でうつむく。
「泣かないでよ泉。感じるのはおかしなことじゃない」
北斗は笑いながら言う。それが馬鹿にされたみたいでしゃくに障る。
「おかしいよっ。こんなの…どうして俺がお前のキスで…」
それ以上は恥ずかしくて言葉で表現できない。
「泉が俺のキスを気持ちよいって思うのは、俺のことを泉が好きだからだよ」
はっきり肯定されても…。
「お前、俺のことまるめこもうとしてないか?」
泉が実に明確な指摘をすると、北斗は泉の体をひょいっと持ち上げて机の上に乗っける。
「な、な、何するんだよっ」
咄嗟の事に泉は慌てて、机から落ちるように降りようとするが、北斗に止められる。
「泉が俺のこと好きなんだって…証明してやるよ…」
独り言のように呟くと、北斗は泉の学生よりちゃんと着こんだ見掛けに合わないブラウンの大人な雰囲気のスーツの上を脱がす。泉は瞬時にそれをもとに戻そうとするが、その時にはもう真っ赤なネクタイがはずされ、中のワイシャツのボタンが器用に取られているところだった。
「泉…生真面目だね。第一ボタンなんて誰も締めないよ…」
「止めろっ!北斗冗談…っ」
「冗談で男を襲う趣味はないよ」
北斗は泉の恐怖に変わった真っ青なに軽いキスをする。そして、泉のワイシャツのボタンを全てはずし終えると、手付かずのキレイな胸に手を這わせる。初めは人差し指…ツツーとなぞるように中心部分を通す。
「…っ」
泉は体を面白いくらい過剰に動かす。北斗はそれをうっとりするように見ると、鎖骨に吸いつくキスをした。
「はっ…ほ、北斗っ」
泉は自分で自分の体の変化を見たくなかったし、北斗のする行為も恥ずかしくて見ていられなかった。だから、自分の顔を小さな自らの手で隠していた。そのため、次に何されるのか全くわからず、自分自身で恐怖を増させていることにまったく気付いていない。右の鎖骨がピンク色に染まると、今度は左。北斗はマーキングするように泉の体に自分の印を作っていく。これは俺の。俺のものだ。
「ふぅっ…はぁっ」
北斗は何をやってるんだ…?俺はどうしてこんなに感じるんだ。まさか、北斗の言う通りに俺は北斗が好きになっちゃったんじゃないだろうな。泉は快感で途切れ途切れになる思考を必死につなぎとめ、考えるが答えは見つからない。北斗は泉の首筋にしゃぶりつくように、がむしゃらなキスをしてくる。ティーンエイジャーな北斗はいくら経験豊富とはいても、好きな人相手にこんなことできて、いつまでも我慢ができるわけでもなかった。
「泉…気持ちいいだろ…好きだって認めろよ…」
北斗の乱れる呼吸が首筋を走り、耳に触れ、泉は再びピクンッと仰け反る。その、快感で自由のきかなくなってきた体で泉は必死に首を横に振る。違う、俺は恋愛なんて一生できないんだよ…。お願いだから、やめてくれっ。
「嫌…違っ…これは…」
北斗は、快感に素直に溺れない泉にさらなる開拓をすすめる。泉の胸元の二つの突起を指の中で遊ばせ始めた。
「あぁんっ」
「そんな声出して、否定されても説得力ないよ」
口元に笑みを浮かべ、笑いかけてくる北斗に泉は涙目で睨む。こんな女の子みたいなことされて泣くのは大人として恥かしかったが、そんなことを言ってる場合じゃない。
「その目…いい。ゾクゾクする」
威嚇のつもりで睨んだのに、逆に興奮させるドーピングの役割になってしまい泉はあせる。
北斗は泉の振るえる胸元にその端麗な顔を近づけ、二つの突起の右のほうを自分の舌先でチロッと舐める。
「ひゃぁあっ」
泉は自分の口を丸めた両手で抑えこむ。今までになかった声が漏れる。こんなの俺じゃないと思いつつも、初めての快感に体は素直だ。そこはプックリ勃ちあがってしまう。
「ほら…固くなったよ…わかる?」
わかるかって?わかるに決まってるだろ〜。自分の体なんだからさっ。
「こっちもだね」
そういうと北斗は左の突起物にしゃぶりついた。ねっとりとした唾液の蜜で周りから徐々に攻めていき、最後に歯で甘噛みすると、もう快感を通り越しておかしくなりそうだった。
「ダ…メっ…。こんなの…あぁん…」
泉はまだなんとか残っている理性で、精一杯止めようとする。
「何がダメなの?こういうの…?」
北斗は泉のジュニアをスーツ越しにさっきみたいに人差し指でなぞる。いきなりそんな場所を攻められたのと、もどかしいその触るだけの感触に、思わず下肢を震わす。
「ふぅぁ…北斗ぉ〜」
潤んだもの欲しそうな表情を自分がしてるなんて思いもせず、泉は北斗の名前を呼ぶ。北斗としては、そんな艶めく瞳で見つめられて手を出さずにいられるわけがない。片手で泉の尖った胸を愛撫しつつ、泉のベルトをはずしにかかる。
「なっ…。ダ、ダメ…」
弱々しい声で静止にかかる。本当は強く言い放ったつもりなんだけど、北斗の執拗な愛撫に体は素直に反応しちゃって、うまく自分をコントロールできない。
「何がダメだって?ほら…ここ…しっかり硬くなってんじゃん…」
北斗のからかうような笑い声が聞こえて、泉は羞恥にゆがむ。恥ずかしい!生徒に胸を触られただけで、そこが反応しちゃうなんて!しかも、それがばれちゃうなんて。北斗は、するすると泉のずぼんを膝まで下ろした。そして、きつそうにヒクヒクしている泉のジュニアをブリーフから優しく手で包み込んで出してやる。いきなりの冷たい感触に泉はビクンとよりいっそう激しい微動を起こす。
「ああっ〜…何してっ…やめろっ、やめろっ」
泉は机の上の今日中に提出しなきゃいけない職員会議のプリントをぎゅうと掴む。体がおかしい…っ!!泉はどうしていいのか、わからない。わからないからといって、感じてもあらわにできず、必死にこらえる。けれど、その表情がまた悩殺的で、官能的で。北斗はこれでも抑えているのに…と、つい苦笑を漏らす。
「ひゃあ…〜ん」
「気持ちいいんだね」
「うぐぅっ…」
俺は慌てて口元に手をやった。だって、これって喘ぎ声ってやつ…だよね。そんなの聞かれたくないよ〜。そうじゃなくても理性では嫌だって言い張ってるのに、絶対こいつにばれてるよ…本能では気持ちいいって思ってること…。北斗はただ握っていただけの泉のそこを扱きにかかる。かるくにぎにぎを繰り返した後、上下に激しく扱く。
「はっ、あっ、ああっ」
泉は、北斗の手の律動に合わせて、鼻にかかった甘美な声を漏らす。
「気持ちいいだろ…?」
確かめるようにもう一度聞いてくる北斗を泉は無視する。と、言うか答えられなかった。恥ずかしいってのもあったけれど、手の動きとか、北斗の言葉自身に、自分のソコが妙に反応しちゃって、頭がいっぱいいっぱいだったから。
「ほら…言えよ…気持ちいいって…」
「い、言えない…ってば…」
そんなこと。泉は涙目で、変なことを強要してくる北斗を見つめる。
「じゃあ、もっと気持ちよくしてやるよ…」
そう泉の下肢で囁くと、北斗はその器用に動く長い舌を泉のジュニアの先走りそうになっている先端を味わうように舐める。
「きゅっ…」
泉が漏れる声を抑えきれず妙な叫び声をあげると、北斗はまた早急にそこを咥えてしまったのだ。泉はさっきの少し冷たかった北斗の手と、今感じている北斗の口内の温かさの差にただただ、かわいい反応をする。
「やあぁん…北斗ぉ、北斗…」
泉は北斗の髪を思わず掴んでしまう。しかし、それすら北斗には欲情してしまうのか、さらに舌を巧妙に使って泉を弄る。
「ひゃっ、くっ、あっ、ああっ」
北斗がちゅぱ、ちゅぱと不穏な音を出しながら口からそれを抜き差しするたび、泉は自分が達ってしまいそうになる。俺は、先生なのに…男なのに…一介の男子生徒の舌の愛撫で達っちゃうなんてダメ、ダメなんだよ。
「…は、お願い離して…達く…達っちゃうから…」
情けなくても、懇願するほかなかった。口の中で自分の欲望をはきだすまでだけはしたくなかったから。けれど、北斗は一回視線を泉に合わせると、泉自身を咥えたままでしゃべる。
「どうして、気持ち良くないのに達くんだ…?」
北斗は意地悪そうに言う。泉はきゅっと目をつぶると、上半身を少し起こして北斗の頭にしがみつくようにして叫ぶ。
「き、気持ちいいから…」
だから、お願い離して。そう言ったつもりだったのに、気分をよくした北斗には、そんな泉の秘めた心内は聞こえてないみたいだった。さらにそこに唾液をからませ、快感を誘う。
「じゃあ…出して…」
その熱い吐息混じりの言葉に、視線に、それだけで泉は沸騰する。
「あっ、ああーーっ」
北斗がさらなる性感帯を突いたとき、泉の中から白濁とした欲望が北斗の口腔に放たれた。
 北斗は泉の欲望を全て吸い尽くす勢いで飲み込み終える頃、泉は涙でぐしょぐしょになった顔を自分の脱がされたシャツで隠して、嗚咽を繰り返している。
「泣かないでくださいよ先生」
北斗はすっかり自分のものも、泉のもその後の処理をし終えて、ネクタイまでしっかり締めていた。泉はまだずぼんと白衣しか身に着けてなかったけれど。それ以上は腰が立たなくて上手く着替えできなかったのだ。ちなみに、ずぼんを履かせたのは北斗だったから、自分では手の届くところに合った白衣を身にまとうくらいしかしてなかったんだけど。
「泣いてないっ」
まったく説得力のない言葉に、自分自身呆れてしまう。生徒の口で達ってしまった自分に自己嫌悪が襲う。先生として最悪じゃないか!しかも…気持ち良くなっちゃってるし。オレのばかっ!北斗のばか〜!泉の頭はぐっちゃぐちゃで泣かないでいられるほうがおかしかった。
「僕にはなんで先生がないてるのかがわかりません。嫌なことされたわけじゃないでしょう」
嫌だとは言いつつ、しっかり感じちゃってる体を見られてるんだからここで否定はできない。泉は言葉に詰まる。
「それとも、泣くほど気持ち良かった…?」
北斗の巧みな言葉攻めに、泉は言葉を失う。否定はできないんだ。だって、感じちゃったのは事実なんだから。首を竦めている泉に、北斗は数学準備室に着替え様に備えてあった新しいシャツを泉の肩にかぶせてやる。泉はここでよく調べものをしていて泊まり込んでしまうことがたびたびあったので、何枚かワイシャツとタオルは備えてあったのだ。泉は白衣を脱ぎ捨て、急いでノリの利いたワイシャツのボタンを第一ボタンまで律儀に締める。
「そんなとこまで締めなくていいのに…せっかく先生は俺のだって印つけたのに」
不服そうな言葉を漏らす北斗に、泉はピンと来て、たまたま手の届くところにあった鏡を手繰り寄せ、自分を写し絶叫する。
「なっ、なんだコレはー!」
泉の胸元、首筋にはピンク…というよりは赤い北斗の情欲の証がしっかりとつけられていた。ワイシャツを完全に第一ボタンまで閉めても、多少見えてしまうという位置にまでそれは点々と散らばっていた。
「だから、泉が俺のだって言う印…みんなに見えなきゃ意味ないだろ」
「ば、バカっ」
泉は北斗が首筋の痕をなぞろうとする手を払いのけると、きっちりボタンを締めて、白衣を上から着こむ。北斗はつまらなそうに口を膨らませる。
「さっきはあんなに素直だったのにな…泉」
さっきまでの自分のさらした醜態を思い出し、泉は耳まで真っ赤にする。
「知らないっ」
プイっと横を向く泉に、くすくすと笑みがこぼれてしまう。かわいすぎだよ…。
「愛してるよ…」
北斗は優しく泉のおでこにキスをする。泉は怯えもせず、それを受け入れる。あれ…俺、なんで目なんて閉じちゃってるんだよ…嫌がるところだろ、ここは。自分でもわかんない反応をとったんだ、北斗が驚かないわけがなかった。
「泉…これは告白の答え…?」
沸き立つ衝動を抑えつつ、北斗は泉に問いかける。
「わかんないっ」
泉は一応北斗を押し返してみるが、そんなに本気でもなかった。北斗に触れられるとドキドキする、北斗にキスされるとそれだけで体中が反応する。これって、これって好きってことなのかな。
「好きなんだよ…泉は俺のこと」
自分ではっきりしないところを、他人にはっきり言われても…。そう思うのだが、北斗に言われるとそうなのかも、と思ってしまう。
「…嫌いじゃないよ」
精一杯自分の今のわかってる分を伝えてみた。北斗にはそれで十分だったみたいだ。北斗には珍しく、あの逢った時のような幼い笑みを浮かべて泉に抱きつく。泉はやっぱり急にこういうことをされるのは抵抗があるらしく、抱きしめ返してはこなかった。
「ダ、ダメ…やめろって…ここは学校なんだぞ…」
さっきまで、これよりすごいことしてたじゃないか…と思いつつ、自分の胸の内でごもごも文句を言う泉を、泉が苦しみもがくくらい強く抱きしめてしまう。もう止められない。だって、泉も自分を好きだって言ってくれたんだから。
「今度は最後までやるからな」
北斗の言葉に、今度はまったくピンと来なかった。最後まで…?困惑ぎみの泉の耳元で、北斗は笑いながら囁く。
「抱かせろよっていってるんだけど」
それだけ言うと、北斗は数学準備室に、まだ腰の立たない泉を置いて去って行ってしまった。六時校目終了のチャイムがなる。泉はその急になったチャイムで慌てたせいで、机から落ちてしまう。だ、抱かせろ…って…つまり、そ、そういうことだよね…。机の下で資料プリントにまみれて、泉は体を恐怖に震わせる。二年前にトリップしそうになる。恐い、恐い、怖い!!必死に自分の左腕の二の腕を右手でちぎるように掴んで、自分をとりとめる。こんな俺が誰かに抱かれるなんて無理だっ。今までだって、だから付き合うとかそういったことから離れてきたんじゃないか。絶対に無理だ。でも、俺がどんなに嫌がっても北斗はこれ以上を要求するんだろう…。それが自然の摂理だから。でも、俺は無理なんだよ…。だめだ…やっぱり北斗にこれいじょう期待させるのは。オレは唯一心を開きかけた北斗を拒絶することを決めた。だって、オレは北斗が望むことはさせてあげられないもの。それなのに、期待させるだけさせるのは悪いから。
続く。


教師モノへ。 | −2− | 小説のぺぇじへ。
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