−1− | −3− | 教師モノへ。

● 僕が先生に教えて上げる。 --- −2− ●

泉はちょうど二年前くらいに、教育実習をすませた数日後、教職につく前練習という感じですすめられた家庭教師のアルバイトの話しを持ちこまれた。泉は結構いい大学に行っていたので、お願いされるかたちで橘家の高校生の男の子を教えることになったのだ。橘 俊介君は道久の遠い親戚らしくて、同じく受験前だった道久に頼まれたのだ。
『悪いな…泉。そんなに嫌なやつでもないから』
参考書片手にそんなこと言われれば断るわけにもいかない。それに、泉はわりの良い家庭教師というものに興味もあった。教えるのも高校生なら、友達っぽくなれるかもしれない。
『構いませんよ。先輩は受験のことだけ考えててください』
俺は先輩の背中を押しながら、そう答えた。
『橘 俊介です』
橘君とはそれからほどなくして逢うことになった。印象は…格好良いな。いや、男に格好良いって言われて嬉しいかどうかわかんないけどさ。でも、美って言葉が似合いそうなんだよ。まじ。目は切れ長で、鼻なんかスーっとしててさ。そんでもって、背も高くてさ。かけている眼鏡がまた清楚で、優等生っぽさを強調してて。勉強できるだけじゃないよって感じ。俊介が家庭教師いらないくらい頭がいいってのは先輩から聞いていたんだ。それなら、俺行かなくてもいいんじゃないかって言ったんだけど、そうもいかないらしい。彼のママがかなりアレらしくて。教育熱心な上、息子には甘いいわゆるゴンママ?らしくてさ。俊介は今まで家庭教師をかかしたことはないらしい。ただ、なんでかすぐ止めてくんだって。俺が自分の名前も名乗らず、俊介の顔を見入っていると、彼のママがすぐさま助け船をいれてくれた。
『まあ、まあ先生どうなさったの。緊張なさらないで。俊ちゃん、この方が今日から数学を教えてくださる七瀬泉さん』
『な、七瀬です』
泉は慌てて手を差し出す。俊介はそれをすぐさま両手で握ると、くったくのないニコッとした顔で返事をしてくれた。
『泉先生ってお呼びして良いですか』
『構わないよ』
泉も笑顔で返した。この、俊介の笑顔には全て裏があるとは知らずに。
 『泉先生、ここって…?』
『この公式をこう使ってさ…ほら』
泉はテキパキとやり方を教える。数週間教えてわかったことがある。この子はものすごく頭がいいということ。数週間のうちに、受験する大学の出している問題集を軽く三冊終わらせてしまった。泉は教えながら、少しむなしくなってくる。すぐに自分の数学知識なんて追いぬかれてしまいそうで。そういう泉も数学に関しては、大学で専門的に勉強していたので、そうそう簡単に抜かれるわけはなかったんだけど。そんな泉の落ちこみ様が俊介に伝わったのか、俊介は泉の顔を覗きこんでくる。
『先生、どうかした…?』
心配そうに気遣う俊介に泉は思いきり首を横に振って見せる。
『な、なんでもないよっ…ほら、じゃあ次は…』
泉はちょっと泣きたい気持ちになってきて、それを隠すように問題集を目の前で開きにかかる。しかし、それをひょいっと俊介に奪われる。そして、俊介の座る椅子の隣で、同じ形の椅子に座っていたのに、いつのまにか立ち上がった俊介に抑えつけられて、床に押し倒される形になってしまった。一瞬の出来事で何がどうなったのかわからない。なんで、俊介が自分の上にいるんだ?泉は、幼さの残る表情で見つめる。
『俊介…どうかしたのか』
『どうかしたのは先生でしょ…なんで泣いてるのさ』
そこで初めて泉は自分が泣いていることに気付き、着ていたパーカーのすそで目元をふき取ると、上半身を起こそうとする。なんだ、この子は単に心配してくれただけなんだ。
『泣いてないよ。さあ…続けよ…っ!』
勉強を続けよう…としゃべったつもりが、後半が自分にも聞こえなかった。だって、口にはしっかりと俊介の口が覆い被さってあったから。
『なんで泣いてるのかよくわからないけど…慰めてあげますよ』
俊介はそういうと、泉の腕を上で自分のネクタイで縛りにかかる。
『俊介…っ』
あまりの縛りの痛さと、現状の把握ができなくて泉はパニックを起こしかける。なんで、教え子にキスされた上、縛られてるんだ。しかも慰めるって…?
『俺、元気だから…平気だから…退いてくれよ』
泉は縛られた両手をバタバタして、必死に訴える。しかし、俊介の目はどこかいつもと違う。俊介はいつもかけているフレームのない薄い眼鏡をはずすと、机のはじに置いた。俊介の目は、眼鏡越しじゃわからなかったけれど、少し恐い目をしている。泉はゾッとして思わずおとなしくなる。
『元気が感じられませんね…ほら…こうすると元気になるんじゃないですか』
俊介は泉の上半身のパーカーを、縛ってある手まで持ち上げると、泉の体をあらわに下だけじゃなく、手までさらに拘束した。そして、泉の手付かずの白い肌に、その手を這わせる。泉は自分の心臓の音が世界中に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどドキドキしていた。自分のされていることが信じられず、思わず目をそむける。
『泉先生…俺に教えてくださいよ…いろいろと…』
俊介はいやらしく微笑むと、泉の胸の突起物を弄る。痛いくらいにつねったりされて泉は思わず声を漏らす。
『ふっ…』
苦痛の声をあげたのに、俊介には喘ぎに聞こえたらしい。ますます興奮した手付きでそこを弄くる。
『や…やめっ』
泉はどうにかして、その動きを止めようと足で自分と俊介の間に隙間をつくろうとするが、それはただ、強姦を楽しむ俊介を煽るだけだった。
『先生…ああ…いいよ…』
一人悦に入りこむ俊介に恐怖を覚える。怖い…。泉は体に嫌悪を感じてくる。よくわかんない汗が額から零れ落ちる。
『俊介っ…やめなさい…』
『泉…ほら、もっと名前呼んで…俺を求めて…』
拒絶してるはずの体がドクンとする。だって、あのキレイな少年が自分の素肌の上で欲情した目で見つめてくるんだ。
『や…やだ…』
泉は言葉では必死に抵抗しても、俊介の手の愛撫に抵抗することが出来ない。なんで俺は許せるんだ…こんなことを。悲しくなって、悔しくなって、涙がとめどなく溢れる。
『大好きだよ…先生…愛してるんだ』
俊介の口から、想像もしていなかった言葉が発っせられる。泉はきょとんとする。
『ごめん…縛ったりして…でも大好きで、止められなくなっちゃって…』
俊介は泉の上からよけると、泉の手に巻きつけられたパーカーをもとに戻し、縛っていたネクタイをはずした。そして、今度は舌まで入る熱いキスをしてきた。
『っ…んん…』
快感もよくわからない泉はされるがままにキスを受け入れてしまった。
『好きだ…先生…』
その幼いくらいの熱い純粋な告白に、泉は断ることができなかった。だって、俊介を嫌いではないんだもん。勉強もできて、きれいで格好良い。そんな少年の自分に向ける愛情を拒絶なんてできないだろう…普通。泉は自分の首を頷くことも、横に振ることもしなかったけれど、それを俊介は勝手にOKだと決め込んだらしい。優しく抱きしめてきた。
 『んっ…あぁ…俊介ぇ』
『泉…かわいいよ…かわいい』
あの日から、泉は俊介の部屋に行くたびに、喘ぎ声をあげていた。初めは嫌悪感があったものの、回数が上がるごとに泉の体にも変化があった。俊介の愛撫に、簡単に勃ってしまう胸の突起。俊介も最初は胸を弄くるだけだったのに、日増しにその手が不穏な動きを見せる。だんだん、だんだんと泉の下肢に伸びてくるのだ。泉はそれを感じ、恐怖とほんの少しの期待を胸に毎日、毎日橘家を通っていた。
 ある日、泉が橘家を訪れるといつもどおり、橘夫人(つまり俊介ママ)がでてくると思っていたのに、出てきたのは俊介自身だった。俊介が玄関で客を迎えることはめったにない。それは橘夫人がさせないようにしているためだった。自分の溺愛する息子に玄関に出向かせるなんて無駄なことはさせてなるものかと躍起になっているせいらしかった。
『俊介…橘さんは…?』
『母さんなら、友達と出かけるって朝からいないよ…』
そんなこともあるのか…と泉は一人納得のいかない顔でいると、俊介は耳元で囁く。
『今日は思いっきりできるね…』
泉は瞬時に真っ赤になる。そう。いつもは家に橘夫人がいるからって泉は先にすすませないよう心がけてきたのだ。だって、やっぱりいけないことしてるみたいじゃないか。いや、男同士でやってること自体怪しいと思うんだけどさ。
 俊介は泉の腕をひっぱり、玄関に強引に招き入れて熱いハグ&キスをおみまいする。ここ数日で慣らされた体は、これだけで簡単に反応してしまう。
『はっ…んんっ…ん〜っ』
泉は俊介の舌を受け入れるのも、それにどう返せば俊介が喜ぶかもマスターしていた。泉が上手に舌を絡ませると、俊介は無邪気に喜んだ。
『泉…最高…俺、今日はとめらんない…』
『俊介っ』
家に誰もいないという開放感からか、俊介はいつもより大胆になっているみたいだった。泉を普段は通さない居間に促すと、ソファにやさしく座らせ抱きこんだ。泉はさすがにここであの行為をするのには抵抗があった。だって、ここは橘家の団欒の場所っぽかったから。
『だめだよ…やるなら俊介の部屋行こ。橘さん帰ってくるかもしれないしっ』
泉は俊介の愛撫にかかろうとしている手を止めようとするが、俊介は手が止められたなら、口だ…と言わんばかりに、胸に舌をねっとりとつけてきた。
『ぁあん…ふっ』
泉が拒絶しながら、こんな声をあげることに俊介は一人口元をほころばせる。
『体はここがいいって言ってるみたい』
確かに、泉もいつもより敏感に反応していた。それがわかられて、真っ赤になる。こんな行為毎日してるのに、いまさら照れる泉がかわいくて俊介は胸の突起を必死になって吸い上げる。泉はこれに弱いことをちゃんと知っているのだ。
『はっ…はっ…はぁ』
橘家のリビングに泉と俊介の不穏な呼吸が響きあう。二人ともこれ以上ないくらい、えっちな気分になっていて、いまさら歯止めがきかなくなっていた。
『泉…ここも弄ってあげたい…いい?』
俊介は泉のパンパンに張っているジーンズの中身を上からそっと触る。泉は戸惑うが、前からそこを少しずつ触られて、今日位にここも触られるんじゃないか…と期待もしていた。だから、驚きはしなかった。泉は目をつぶって、俊介の指の愛撫に溺れながら、コクンと頷く。
『泉っ!』
俊介は夢中になって泉のズボンを脱がしにかかると、すでに勃ちあがったそこを簡単にあらわにしてしまった。さすがに、人様にダイレクトに見つめられるのは初めてなので、泉は恥ずかしくて、そこを隠そうとする。しかし、盛りに盛っている俊介は手で握る前に、いきなりそこにキスしてきた。
『しゅ、俊介ぇ…っ』
まさかそういった行動にでると思ってなかったから、体が変に反応する。熱い、熱い。
『泉…泉…』
俊介も泉の名前を呼びつづける。
 俊介はやっぱり手では握らず、舌でまわりくどく泉のジュニアを攻めてくる。泉にはそれがじれったくて仕方なかったが、俊介流のやりかたがあるあらしい。泉は他人としたことがなかったから、よくわかんなかったので、流れを全て俊介に託した。
『俊介ぇ…お願い』
それでも耐えきれなくなって、腰を浮かせてそこを扱いてくれるように俊介に見せつける。俊介はクスクス笑いながら、泉のそこにようやく手を回す。
『泉はかわいいな。もう一生俺だけにこうしててくれよ』
俊介の言葉がうれしくて、泉は大胆になる。泉はその独占欲を快く感じる。一生、俊介にしかこういうことしないよ…。泉は俊介の頬に優しくキスをする。
 俊介がそれに応えるように、激しく扱き始めると、泉は今までにないくらい感じた声を出す。
『あっ…ああぁん』
自分でやる時はこんな声でないのに、さすがに人にやってもらてると思うだけで、変に欲情しちゃうみたいだ。
『んっんぐっ…あっ』
必死に声を押し殺そうと、両手で口を塞ぐが、まったく効果はなく。俊介は手で激しくやりながら、舌も混ぜてやっていうくという、泉を一番快感に追いこむやり方を発見し、繰り返す。当然、泉は絶頂を迎えてしまう。
『…達く…達っちゃう…』
表情も、ジュニアもひくひくさせて訴える。けれど俊介は、急にそこを弄るのをやめてしまう。そして、あろうことか根元をきゅっと握ってしまった。
『俺も一緒に達きたい…』
『え?…』
俊介が何を言ってるのかよくわからなかった。自分も俊介のそこを扱けというのだろうか。それならやってみたい気もする…けど、俊介は別にそういうつもりではないらしい。泉のそこを握ったまま、泉の態勢を少し変える。足を左右に開かせ、自分の肩にかける。そして、泉の一番隠されていた場所をさらけ出す形にする。
『な、何っ?』
泉の性知識はないに等しかったから、次に何をされるのかわからずただただうろたえる。そんな泉をよそ目に、俊介は泉に恐ろしいことを告げる。
『ね…次やることわかるだろ…していい?』
わかんないよ…何するんだよ。
『な、何…するって?』
『俺のを…いれるんだよ…泉の中に…』
泉は突然のことに体をびくつかせる。まさかそんな展開になるとは思わなかった。男同士でそんなことできるなんてしらなかった。そして、まさか自分がそんなことできるなんて思わなかった。泉は驚愕の声をあげる。
『やっ、ヤダ…ヤダ…』
泉は大人なのにあられもない声を出す。俊介は泉の口をキスで塞いだ。
『お願い…いたくしないから…』
そう言われても、恐いものは恐かった。泉は熱いキスをされても全然体の緊張がとけなかった。こうやって、怯えていれば俊介はとりあえずやめてくれるだろう。そしたら、時間をかけて自分を納得させればいい。そう思っていた。しかし、俊介はキスを終えた口を、泉の秘所に向けてきたのだ。
『…ヤっ!』
泉は全身で恐怖をあらわす。だって、恐いだろ、体に…入って来るんだよ?異物が。そんなの今の俺じゃ耐えきれないよ。
『お願い…俊介!やめて、やめてくれ』
『無理だよ…もう止められない…』
止められないのはわかる。俺も達きたくて、達きたくてしかたない。けれど、けど。俊介は泉のそこから口を離し、今度は自分の右手の人差し指に残った唾液を絡ませる。まるでアイスクリームを舐めるように、ねっとりと舌を這わせた。すぐにそれはぬるぬるの状態になった。そして、それをぶるぶる体を震わせる泉に見せ付けてきた。
『これを…いれるから…少しだけ緊張といて』
『嫌だっ!止めてくれっ』
こんなにいやがってるのに、俊介はそれを泉の秘所につけてしまった。ビクンッ!体が後に仰け反る。
『恐いっ、恐い…俊介ぇ』
こんなの襲われてるのと一緒じゃないか!泉は涙目で俊介を睨む。俊介はそれに恐い笑みを返すと、人差し指を泉の中に挿入した。
『痛い、痛い、痛い』
まだ指は一本だったし、たっぷり濡らしてはいたものの、初めて受け入れる上、頭では納得していないため、体は苦痛を叫んだ。泉はわけがわからなくなり、思いきり痛みを表現する。
『やめ…お願い…。痛いんだ…痛っ…』
『何の声ですっ』
急に今のドアが開く音がしたかと思ったら、橘夫人の声がした。泉は涙と痛みで朦朧とした頭でそれを感じた。そして、ハッと我に返った。橘夫人がそこにいる…!
『た、橘さん…こ、これは…』
指は抜き取られた後だった。けれど、ずぼんは剥ぎ取られ、きていたシャツは開かれているそんな格好の泉と、それにまたがっている愛する息子。いい訳できる状態でもなかった。泉は言葉につまったが、婦人は状況から言って自分の息子が先生を襲ってしまったのだと把握したらしい。いくら自分の息子を溺愛していても、橘夫人は常識のある貴婦人だった。どうみても、泉は泣いているし、乗っかっているのは我が息子だ。婦人はツカツカと俊介に近寄ると、俊介を泉から下ろさせた。
『あ、あなたは…何をしてるんです…』
黙る俊介を置いといて、今度は泉に視線をうつす。
『あ…あの…』
泉は何かしゃべろうとしたが、それを婦人にとめられる。
『泉さん、申し訳ありません…。お詫びもうしあげますから、このことは内密に…』
シャツのボタンを締めるのを手伝いながら、婦人は泉に懇願する。これだけ金持ちの家だから、世間体とかもいろいろあるのだろう。泉は困っていた。確かに、今は強姦みたいな形になっていたが、俊介との行為自体いやではなかった。むしろ、毎日毎日、俊介とのこういった時間を楽しむために通っていたのだから。だから、泉は否定しようとした。そして、このさい自分たちの関係を認めてもらおうと口を開いた瞬間、俊介の行動にぎょっとした。
 俊介は着物姿の婦人に抱きつくと、泣いていたのだ。これにはさすがに驚いた婦人。だって、自分の愛する息子なんですもの。けれど、どちらかといえば、泉のほうが驚きで口もきけないほどだったんだけど。
『俊ちゃん…どうしたの一体!』
『お母さん…僕恐かった…だってこうしないと泉先生怒るから…』
―――え?泉は俊介の変貌ぶりの意図がつかめなかった。
『毎日毎日、泉先生の相手をさせられて…けれどお母様に言えば酷いことすぞって脅されていて…』
『俊ちゃんっ!』
そうだったのね、と俊介を抱きしめる橘夫人。泉は一人瞳孔を開けているんじゃないかというくらいの目で二人を呆然と見つめる。
俺が…しむけたって…?この行為を…。だって、俊介は俺を愛しているから…だから俺は許しただけであって…何なんだこの現状は…頭が痛い…どうなってるんだ…だって、これは愛ゆえの行動だから…認めてもらえればいい…はず…しゅ、俊介…一体どうしたっていうんだ。嘘なんだろこれは…俊介!俊介―――!
『そういうことでしたのね…先生』
いきなり冷たい声で現実に引き戻される。泉は呆れて言葉もでない。
『さっさと出ていきなさい…この変態っ』
俊介を抱きしめながら婦人は、泉に罵倒を投げつける。泉はズボンを身につけ、呆然と立ちあがる。
―――これは夢か。嘘か。幻か?冗談だよな…何かの冗談…。
泉は俊介の顔を見る。俊介は夫人と同じ顔をしてにらんでいた。そして。
『二度と来ないでくださいっ!あなたは…気持ちが悪いっ』
決定打だった。泉は涙を流すのも忘れて、追い出されるままに家に帰った。そして、家に帰る途中、車で大学の寮に帰る途中だった道久に声をかけられた。道久は、乱れた格好で歩く泉に驚いて、すぐさまナビシートに乗るよう促す。そして、泉はそこではじめて涙を流した。今までで一番長く、深く泣いてしまった。泉は心に大きなキズをつくってしまった。それは、一生かかっても癒えないだろう…。泉は恋愛に大きな恐怖を、体の関係に嫌悪を感じるようになり、人とある程度の間隔を持つようになってしまった。かわいそうな泉…。
 泉は一日の締めくくりの職員会議が終わった後、数学準備室で明日の授業の準備をしていたせいで、帰ろうと決めたときにはすっかり暗くなってしまっていた。いつもなら、明日の準備だけならこんなに遅くなることはない。今日は余計な思考が邪魔して簡単に作業が進まなかったのだ。だって、つい何時間前、ここで自分は北斗の口で達ってしまったんだから。それを考えると、すぐにボッとなってしまい、そんな悶々さを冷ますのに何度も何度も休憩をいれなきゃいけなかったからだ。北斗のことが頭から離れなくなってきている。まずい。絶対まずいって。泉は自分の頭をぽかぽか叩く。オレから離れなくちゃ、北斗を辛い目にあわせるだけなんだから…。そう自分に言い聞かせ、泉はなんとか今日のノルマを終わらせたのだ。煩悩よりも、胸が少しだけ痛んだ。
 ここの高禄学園は生徒は全寮制だが、教師は違う。泉はここから結構離れたとこにある一LDKのアパートから、バスで通っていた。バスがまだあるかな…と時計に目をやるとまだ大丈夫そうだったので、いそいでまとまっていない資料のフロッピーを、堅苦しい茶色の四角いリーマンカバンに投げ入れると、準備室を後にした。廊下を小走りで抜け去ろうとしたとき、スーツの内ポケットにいつもの感触がないことに気付いた。―――サイフ…。慌てて足を止めると、体中を両手でぽんぽんと叩いてみる。ない。確かにあるべきものがない。その場にしゃがみこみ、カバンをあけてみるが、中身はフロッピーしかない。準備室に置き忘れたのかと、戻って探すが、どこにもその姿を見とめる事は出来なかった。うわ〜っ、あれがないとヤバイんだよ。あれには今月分の生活費をおろした分とか、バスの回数券とか入ってるのに〜。どこかに落としたのかな…。泉は準備室中をくまなく捜して、肩を落して廊下に出た。もしかしたら、廊下に落ちてるかも…と下を向いて歩いていたから前に人がいたなんてまったく気がつかなかった。泉は頭からその人の胸に突っ込んでしまう。
「うわわっ」
泉は大げさな声を出して、後に転ぶ。ステンッと音を出してしりもちをついた。泉がお尻を擦りながら、起き上がろうとすると、目の前から笑い声が聞こえる。
「北斗…何でお前ここに?」
泉は一番逢いたくなかった人とうす暗闇の中二人っきりになってしまい、動揺する。
「生徒が学校にいちゃおかしいんですか」
北斗はからかうように聞き返す。そりゃ、そうだ。生徒が学校にいてもおかしくない。
「先生こそ…ここで廊下とにらめっこして何してたんです」
廊下だからだろうか、優等生の顔をして話して来る北斗に少しほっとする。泉は自分がサイフをなくしてしまったことを話そうとして、出かかった言葉を飲みこむ。
「サ…―――ううん、いや、何でもないんだ」
泉は無理して笑ってその場をやり過ごす。だって、これ以上北斗に迷惑かけるわけにもいかないじゃん。意識しすぎなのかもしれないけれど、これくらいの間隔を保たなくちゃ。オレたちはただの生徒と先生に戻るんだ。戻らなくちゃいけないんだ。だけど、泉が隠し事をしたのが瞬時にわかった北斗はムッとする。だって、北斗の中では泉は自分の恋人なんだからさ。恋人に嘘つかれて怒らない彼氏もいないでしょ。
「泉…何か困ったことあったんじゃないか」
「何もないよ。ほら、お前もそろそろ寮に帰れよ。もう遅いし…」
きっぱり否定されたどころか、帰るよう促されて北斗はますます憤慨する。
「泉はオレと一緒にいたくないのか?」
泉はその言葉に胸が痛む。この胸の痛みが北斗をどんなに好きか自分に教えこむ。けれど、ここで一言でも、一緒にいたいなんて言っちゃったら、俺は流されて、そして北斗をキズつけるんだ。だめだ…だめ。泉は斜め四五度下を見つめて無言でやりすごそうとするが、北斗はそれを許さない。泉の口を割らせようと、無理やりな口付けをしてくる。
「くっ…んんっ」
予想してなかった北斗の行動に泉は驚く。まさか、こんな誰に見られるかわからない場所でキスなんてしくるとは思ってもみなかった。
「やっ…ヤメ…」
泉は北斗の侵入を謀る舌を自分の舌で押し返そうとするが、それを吸い取られて、魂までキスで奪われてしまうような感覚に襲われる。それほど、今回の北斗のキスは強引で乱暴だった。
「北斗っ…北斗っ…」
けれど、ここまで熱い舌を巧妙に使われると、泉も反応せずにはいられない。口腔はりっぱな性感帯なのだ。体は勝手に熱を持ち始める。お互いの吐息がお互いの唇、ほほ、顔にかかり、変な気分になってくる。泉は遠くで、他の生徒の笑い声が聞こえた気がして、慌てて北斗の厚い胸板を押しやる。
「だ、だめだろ…こんなこと…」
場所を否定されたのではなく、行為自体を否定され、北斗はそのこめかみをピクッとする。「感じてたくせに…」
ボソッと聞こえるか、聞こえないかというくらいの声でぼやいてみたが、泉には聞こえたようだ。頬をピンクに染めて、言葉を失っている。一体どうしたっていうんだ…あんなに素直にオレの下であがいていたのに。
「本当に困ったことになってたんじゃないんですか?」
再度聞いてみるが、泉は下を向いたまま首を左右に振る。何もないの合図だ。
「もっとオレを頼ってくれよ…オレは泉の恋人なんだから」
やっぱりそういうことになってるんだよな…。泉は恋人という言葉の重さにぐっと来る。頼ってしまえば、オレも北斗を恋人だと認めてしまう。だめだよ…はっきり恋人じゃないと言えない俺も悪いんだけど。何も言わない泉に再び北斗は襲いかかろうと思った瞬間、今度は近くで声が聞こえた。しかも、泉を呼んでいる声だ。
「―――泉じゃないか!泉〜」
この学校で、泉を名前の泉で呼ぶのはめずらしくないが、呼び捨てにするのは一人だ。もちろん声の主は陣内道久。
「せ、先輩!」
あからさまにホッとした表情と声をふりまく泉の無防備さに、今は無償に腹がたつ。
「何してるんだこんなところで…あれ、十文字も一緒だったのか」
道久は今日のランチタイムでの出来事もあってか、結構このコンビは気になっているらしい。いや、道久だけではないかもしれない。
「一緒じゃないですよ…たまたま逢ったんです…ね」
嘘の同意を求められるが、北斗はツンとした態度をかえす。
「さあね。先生がそう言うんならそうなんじゃないですか」
ほ、北斗〜…。今だけは機嫌直してくれよ…。そう目で訴えるが、北斗にはそれが、道久に自分との関係を誤解されたくないから言ってるんだと思えてならなくて、自然に不機嫌になってしまうのだ。
「まあ、いいや。んで、何してたんだ」
「あ、えと…サイフ落としちゃって…。バス賃だけ貸してもらえますか?明日すぐ返しますから…」
泉は道久に簡単に助けを求めた。
「いいけど…オレの車に乗ってった方がいいだろ。オレもあとは帰るだけだから。サイフはオレも明日探してやるから、乗れよ」
道久は駐車場に泉を促す。
「助かります!」
手放しで喜ぶ泉の腕を、爪を立てて握りしめる腕が―――北斗の腕だ。泉はあまりの痛さに苦痛の声をこぼす。
「ほ、北斗…」
北斗の顔が見れない。だって、怒ってるのがオーラみたいのでわかるんだ。何に怒ってるんだ…?困ったことをうちあけなかったこと…かな。でも、生徒に頼るわけにもいかないじゃないか。それとも先輩の車に乗ることとか。まさか、そこまで気にしないよな…。泉はその数学しかつまっていない頭で必死に考えるが、答えは見つからない。それもそのはず、北斗は一連の流れ全てにイライラしてたんだから。ここまでやきもち焼かれると逆に恐い気もする。北斗自身、自分で自分が何をしだすかわからない状況だった。しかし、そんな北斗の怒りオーラを消したのは、泉の、先生を装った態度だった。
「ほら、北斗も寮に帰りなさい」
そういいながら、北斗の手を自分の腕からはずしにかかる。北斗はあまりに傷ついて、簡単に離してしまう。泉はあまりにすぐ拘束が解かれたのが気になって、北斗を見上げるが、そのあまりに切なく、色っぽい表情にドキンとしてしまう。なぜにこんな悲しい顔をするんだろう…。
「北斗…」
そう言って、今にも泣き出しそうな北斗の頬に触れようとしたとき、うまくかわされてしまう。
「え…」
北斗を拒絶しても、北斗に拒絶されたことのなかった泉は目をまん丸にさせて驚く。
「帰ります。じゃあね、センセ」
その言葉に泉は再び胸の痛みを感じていた。
 悲しみの表情を浮かべていた北斗のポケットの中では、泉のサイフが北斗の歩調に合わせて揺れていた。北斗は拾ったわけではない。数学準備室を出る時に、故意に抜き出しておいたのだ。みんなが自分の聞けない泉の数学の授業を受けているのが許せない…それならば、自分にだけ見せる泉の何かが欲しかった。だから、自分を頼ってくるように仕向けたのだ。それなのに…。泉ってばちっとも自分を頼ってこない。それどころか嘘までついて、あろうことか道久に助け船を求めた。北斗は嫉妬の波に飲み込まれてしまいそうだった。泉が自分に泣いて助けを求めるさまを見たい。泉にはオレだけを頼りにして欲しい。いっそのことオレしか見えなければいいのに…。北斗は数学準備室の机の引き出しにそっとさいふを戻した。そして、泉の白衣をがむしゃらに抱きしめ、その残り香に欲情しながら、人知れず微笑む。
「これは始まりだよ…」
北斗のあまりの恐い笑顔に、数学準備室も思わずため息をついたほどだ。これからご主人さまはどうなることやら…。その当の本人は、道久の車の中で、必死にさいふのありかを頭の中で探していた。見つかるわけないのにね。
 翌朝。泉はいつものように一人、寝室で目を覚ました。そして、牛乳をコップに少しだけ飲んで目を覚まさせる。あいかわらず、御飯は喉を通らない。これじゃあ、また小野田さんに怒られちゃうな。泉は一人苦笑し、寝室のクローゼットをあける。この中には、スーツが二着と、ワイシャツ、ネクタイなど学校に行く日の着替えが収められている。泉は適当にクリーム色のワイシャツと黒い千鳥柄のネクタイを取り出すと、色あわせを見ようと鏡に向きなおす。―――ガシャン。泉は顔を真っ赤に染めて、手に持っていたハンガーにかかったままのワイシャツをそれごと落としてしまう。
「―――っ!」
慌てて首筋を隠す男が鏡の中に見える。その首には、いやらしい情欲の証がばっちり残っていた。うわぁぁ。泉はその場にしゃがみこむ。見たくない…。もちろん、誰にも見せたくない。泉は鏡に映らないようにして着替えをすまし、鏡を見ないようにして洗顔もすませた。だから、ネクタイはちょっとずれてるし、前髪が少し跳ねていることも気付かなかった。これも、これも北斗のせいだぁ。泉は少し大人気ない気持ちになりなる自分に、ため息を漏らす。そして、テレビの上にある、外国の酒ビンに溜めていた小銭の中から、少し取り出すと、バス停へダッシュした。
 「おはようございます」
泉はさわやか過ぎるその声に急には返事できない。すぐ後からその声はするのに、首がしっかり固定されてしまったみたいに回らないのだ。むちうち状態。状態であらわすとそんな感じかな。むしろ、首だけ金縛りっていうのがあったら、それかもしれない。いや、あったらだけどさ。
「お、おはよ…」
前を向いたままで答える。だって、見れないんだって。昨日の今日だし。何がって、あれが…さ。う〜わ〜、思い出すだけでも恥ずかしい!!
「こっち向いてくださいよ」
北斗の手が泉の顎にかかり、無理やり顔を合わせる形になる。泉は慌てて小声で叫ぶ。
「やっ、やめろ…ここは学校で、学び屋なんだぞ」
なんだか自分でも良くわからない古臭いことをいいながら、泉はキスされるんだと思って、慌てて顔面をこわばらせたが、いっこうにあの暖かい唇は降臨してこない。泉は片目を少しだけ開けてみる。そこには泉の黒いネクタイを必死にキレイに締めなおそうとしている北斗の姿が。あれ?あれれ…。もしかして北斗はただオレのよれよれのネクタイを直してやろうって思った…だけだったり。そう思うと、自分のしてしまったことが恥ずかしく感じてくる。だって、思うだろ〜?昨日の今日じゃ…。
「キスされるかと思った?」
北斗は悪戯っぽい表情で聞いてくる。泉は顔面がカッとなる。
「思ってないっ」
ネクタイを奪い取ると、自分で直し始める。今日は一時間目から授業がある。さっさと準備しないと間に合わない。なんせ、昨日はいろいろありすぎて自宅にフロッピーを持っていったはいいけど、全然すすまなかったから。
「焦らさなくてもしてあげるよ…」
北斗は泉の唇を舐めるような軽いキスをする。泉は咄嗟の出来事で拒絶することもできなかった。しかし、しばしの後、何をされたのか理解して、カーッとなる。
「北斗っ」
怒鳴る泉の頬に、再び軽いキスをすると北斗はそのままあっさりAクラスの方へ歩いて行ってしまった。泉は何か不安を感じながらも、キスされた頬を確かめるように人差し指で撫でた。―――キス…。嫌なはずなのに。この二年、恋愛してみようと心がけても、体を求め始めることを考えると、吐き気すら感じられた。なのに、北斗は違う。キスされても、体は素直に反応する。まるで、まるで普通の人みたいに。キスだけならいいのかもしれない。北斗となら…キスは許せるのかも。けれど、北斗が望んでるのは、その先なんだよな。
 泉は足早に準備室に向かうと、そこに自分のサイフがあることに気付いた。
「あれ…俺ここに置いといたのか…おかしいな、この部屋はずいぶん探したんだけど」
泉は一人不満をこぼす。
「ま、あったんだからいっか」
今月分の生活費がちゃんと入っていることを確認して、泉はポケットの定位置にそれを収めた。泉がもう少し単純じゃなかったら、ここでおかしいと思うはずなんだけどね。
 朝の職員会議終了後、泉は今日のミニテスト用に作ったプリントを印刷していた。今日はこのテストをやって、みんなの苦手なところを把握して……そんなことをぶつぶつ呟きながら、手早く作業していく。そのためなのか、その小さな印刷室はコピー機の騒音でいっぱいだったためか、泉はドアが開いて誰かが侵入してきたのに、まったく気付かなかった。
「無駄ですよ…先生」
いきなりの背後からの声に、泉はビクンと肩をあげる。
「ほ、北斗!い、いつのまに……」
こんな狭い密室で二人っきりになったら、さすがの泉も警戒する。泉は印刷機に背中を向けて、黒い大きな名簿表を胸にぎゅっと抱えた。
 絶対流されちゃだめだ。だめなんだ。心の中で覚悟を決める。
 なぜだか胸が切なくキュンと鳴く。
 やっぱり俺は北斗が好きなのかな…?
「僕はちゃんとノックもして入ってきましたけど?先生は隙がありすぎですね」
無防備な泉に呆れながら、ひにくのように注意する。
「わ、悪かったな……」
印刷中に隙も何もないと思うんだけど…。北斗は印刷室の唯一のドアについてある小さな窓のカーテンを片手で閉める。
 ヤバイ。なんだかヤバイ気がする。
「ところで、さっきもいいましたが、無駄ですよ…」
「何が無駄なんだよ」
北斗の言っている意味がよくわからない。というか、ここのところ北斗とよく話すが、なんだか一発でわかる発言は少ない気がする。もう少しわかりやすく話してくれないかな。
「そんなに印刷しても無駄ですって言ってるんです」
はぁ?泉は口をポカンとあけて、北斗を見上げる。無駄も何も、これからC、D、Eクラスの三クラスに受けさせるんだから、百二十枚は印刷しないといけないのはあたりまえじゃないか。
 そう目で訴えるが、北斗はあざけわらうように泉を見ているだけだ。
 泉は自分はバカにされてるんだろうと思い、ちょうど印刷の終えた百二十枚の数学のミニテストをゴソッとコピー機から抜き取ると、北斗の脇を無視して通りぬけようとした。その時、泉のいろんな物を抱えていっぱいいっぱいの腕は、北斗に引っ張り戻される。その反動で、手もとのプリント百二十枚は一斉に二人の周りに散らばり落ちた。
「何するんだよっ」
泉は立ち膝する格好でプリントをかき集めながら、北斗をキッと噛みつくような視線で見る。北斗は、泉と同じ目の高さになるように、しゃがんだ。
「何かあったら、必ず俺を頼れよ…俺だけがお前を助けてやれるんだから」
「なんで俺がお前を頼らなくちゃいけないんだ…俺は教師なんだぞ、お前より年上なんだぞ」
泉は、北斗はいったい何をいっているんだ、とプンプンしながらガサガサと乱暴にプリントを集めていく。
「俺と泉が恋人だからに決まってんだろ…」
北斗は当然のように言う。泉は胸の中が嬉しさに埋めつくされていくのを肌で感じる。恋人…。けれど、泉は必死に頭を振って、そのきれいな響きを払いのけた。
「俺は北斗の恋人になったつもりはないっ」
少々意気込んだおかげで一気に言ってしまい、言い終わった後、呼吸が少し荒くなった。それでも、泉はこの言葉を言うことが出来たのだ。自分で自分を賞賛したくなった。そして、自分で自分を殺したような気分になった。
 北斗が傷ついていると思った。だから、言った直後北斗の顔がまったく見られなかった。いや、傷ついていたのは泉も同じだった。けれど、泉の予想に反して、北斗は強情に言い張った。
「そのうち、泉は嫌でも俺を頼ってくるよ…」
泉が、え?、という表情で北斗を見つめた瞬間、後ろ髪を思いっきり北斗に掴まれ、無理やり口元に導かれる。
「くっ…」
泉は、髪をひっぱられた痛みで歯を食いしばっていたのに、北斗の思いもよらない優しい唇に、次第に緊張をとられ開いてしまう。
 だめだ…だめなんだって…。泉は自分の口内を蹂躙している舌を受け入れながら、頭では否定する。そんな葛藤に一人切なくなってしまった。
「はっ…ふっ…ぁあ」
耳を甘噛みされて、思わず喘ぎ声をあげる。
 だって、北斗の舌遣いって天下一品(?)なんだよ!なんか、こう…じれったくて、その上、刺激の一番ほしい時に、ビクンってくるところをついて来るんだもん。感じるなってのが無理なんだよ〜。
「ふぅっ、ああっ」
北斗は泉の首筋に、熱い熱い口付けをする。噛みつくように吸いついたせいで、誰がどうみても情欲の証だとわかるものが、泉の首筋にいやらしく残ってしまった。
「あっ、北斗…ちょっと…これはまず…い」
これから授業なのに〜!
「平気…そのうちわかるよ…」
欲情して荒くなった呼吸を、肌で感じ泉はどきどきして話すこともできなくなる。北斗は泉をぎゅ〜と抱きしめると、もう一度深い深いキスをした。
「…んんぅ」
北斗の口内の蜜が泉の中でぬるぬると移動して、泉の下肢まで反応し始める。
「…ぁ…ん〜んっ」
ちゅぱ、ちゅぱと言う生生しい音をたてながら二人の溶けるようなキスは止まる事をしらない。
 授業開始のチャイムが遠くで聞こえた。泉の決心が理性とともに戻ってくる。
「は、離れてくれ…じゅ、授業に…遅れるっ」
泉は懇親の力で北斗の舌を自分の口内から抜き取ると、再び落としてしまったプリントをザザッと目に付く分だけ集めて胸に抱えて、逃げるように印刷室を出ていった。
 「ごめん、遅れちゃって…」
泉はいつものように笑いながら、Cクラスの教室に入る。そして、いつものように生徒たちから、泉ちゃん遅いよ〜などとからかいの言葉を受ける…はずだった。
 しかし、今日は声がしない。
 泉は自分の目を疑った。
 教室には優等生の田名部君も、少し言動に問題ありな鈴木も、バスケ部首相根岸も誰も誰もいなかったのだ。
 今って…俺の数学の時間のはずだよな。泉は黒板脇に張ってある時間割表を確かめる。確かに俺の時間だ。時間変更もない。さっきそれはちゃんと職員会議で確かめた。じゃあ、どうしたって言うんだ。どこに行ったんだ!大事な大事な生徒たちは…。泉は頭が真っ白になった。もしかして、悪戯か。どこかにみんな隠れていて、俺が教卓に立った瞬間に、どこからか出てくるとか。そうだ、きっとそうだ。泉は自分にそう言い聞かせるように呟き、教卓の前に立った。
 しかし、一向に誰も出てこない。
「み、みんな出てこいよっ」
アハハハと作り笑いをしながら、一人静かな教室で叫ぶ。誰も出てこない。
「授業始まってるんだぞ!みんな欠席にするんだからな…」
泉は名簿表を急に開き、自分のワイシャツのポケットに刺さっている黒のペンで、チェックするマネをしてみせる。
 けれど、やっぱり誰も出てこない。
「本当に欠席にするぞ。いいのか。受験前なんだぞっ」
半分怒り混じりで叫んでみるが、誰も焦って出てくる気配はない。泉はこれが悪戯とか、ふざけているんじゃないことを感じる。この教室には誰もないんだ…。ほんと、北斗の言ってた通りプリントが無駄になっちゃったよ。
「冗談きつい…」
泉は一人じわじわ溢れてきた涙を手で払うようにぬぐうと、まだ授業が開始して15分だというのに、教室を飛び出してしまった。
 どうして。どうして。どうして。泉は誰もいない廊下を走りぬける。
「ふっ…」
誰もいないとなると、どうしても泣きたくなってくる。今の今までこんなことは一度もなかった。若いからなめられているんだとは思っていたけれど、もしかして本当は嫌われていたのかもしれない。そう思うと、自分の涙腺をコントロールできなかった。
 泉は自分だけの部屋。数学準備室に飛びこむと、誰も入ってこないように、普段は閉めない鍵を内側からしっかりしめた。
 ドアに背中をよりかからせた瞬間、ひどいむなしさが襲う。きっと俺が悪いんだ。あんなに良い子達ばかりだったんだ。そんな子達が、一斉に授業をさぼるってのは、原因は俺なんだ……。ひっくひっくと泣きじゃくるように泣いている泉の体を唯一支えているドアの廊下側には、その状況に一人冷酷な表情の男が一人。―――北斗だ。
「早く…早く俺を頼ってこいよ…」
本当は今すぐにでもドアを抉じ開けて、抱きしめてやりたいのを必死に抑えこむと、その場を後にした。
 泉はその日の午前中の授業はCクラスしかなかったので、準備室でゆっくり冷静になる時間が持てた。水で濡らしたタオルでうさぎみたいに真っ赤になった目を冷やすと、頭もなんだか落ちついてきた。
 今度、Cクラスの子を見つけたら、何があったか聞いてみればいいんだ。そうだよ、俺は教師なんだから、こんなことで生徒におくしてちゃだめだよなっ。
 必死に自分を励まし、自動販売機で買ってきた野菜ジュースに手を伸ばす。それを飲み干すと、午後の授業に向けてのやる気も出てきた。
 泉は再び印刷室でプリントを印刷すると、Dクラスへと足を向けた。
 本当は内心恐かった。さっきみたいなことになるんじゃないかって。泉は一度恐怖を覚えると、なかなか忘れられない性質らしい。Dクラスの教室のドアを目の前にして、何度も何度も呼吸を整えた。
 よし。泉は覚悟を決めてドアを開けた。
「みんなテストだぞっ」
泉は目を思いきりつぶって、そう叫んだ。まだ中は見ていない。いつもならここで、何かしらの反応があるはずだ。えー?、とかさ。
 けれど、やはり反応がどんなにまっても返ってこない。泉は目を開けるのが恐かった。さっきみたいに、誰もいない教室が目に飛び込んでくるのだ。さっきのあの落ちこむ気持ちまでまたまた戻ってくる。泉は無意識のうちに、まぶたをあげていた。―――泉は、完全に目を開ける前に、踵を返した。だって、やっぱり教室には誰もいないのが、半目のうちに見えちゃったから。
 泉は今度は授業開始五分で数学準備室に引き返してしまった。
 次の時間、泉はプリントを印刷せずにEクラスへと向かった。もう印刷しても無駄だと思ったのだ。案の定、そこにも誰もいなくて。朝は何人かちゃんと目撃したから、学校に来てることは来てるのだ。ただ、泉の授業だけエスケープされている。どこで何をしてるのかわからないが、故意に泉の授業を避けていることは三クラスとも人一人いないことからわかる。そうなれば、無理やりひっぱってこれない泉の性格。泉は肩を落とし、いつもよりずっと無防備な姿をさらしながら、道久に相談してみようと心に決めた。
 そんな泉の心情なんてしらず、北斗はAクラスで一人自分を頼ってくる泉を想像して楽しみながら、英語の授業を右から左に聞き流していた。きっと放課後には自分に泣きついてくるにきまっている。そう思うと微笑まずにはいられなかった。そんな上機嫌な北斗に、後の席の直太郎は違和感を感じ、思わず小声で問いただす。
「おい…北斗、どうしたってんだよ」
「どうしたって、何が」
いきなり小突かれて、北斗は振り返りながら問い返す。北斗の振り返る姿すら、気品が合って、直太郎も一瞬ひるんでしまう。こいつほど、背中に薔薇しょって似合うやつもいないだろうな…なんて勝手な想像をしちゃったり。
「何がって、超ご機嫌じゃん。泉ちゃんと何かあった」
昨日の学食での出来事で、すっかり二人は有名人らしい。もちろん近くにいた直太郎がその噂を知らないわけがなかった。何せ、学食で三人で食べようとしていたのに、泉を発見するなり、自分と朝日なんていなかったかのようにダッシュで泉のほうに走って行ってしまった姿を見ているんだから、いまさら否定されても信じる気はなかった。しかし、北斗は否定するどころか、目元に優しい微笑を浮かべながら上機嫌なままだ。
「別に。ただ…何かこれからあったらいいなって思って」
「何かって何だよ」
興味津々で問いただす。既に、己の身は乗り出す形で北斗の方に近づいている。北斗は前に向きなおして、黒板に書かれた新しい文法の意味をそ知らぬ顔で書き取る。
「いいこと」
言葉の後にハートが飛んでるぞっ、ハートが。直太郎は内心楽しいことになってきたな〜とワクワクしていた。この学園にはホモなんて何組もいるのだが、こんなに絵になるカップルも珍しかった。直太郎は双子の姉、直美子の持っていたホモマンガをこっそりみたことがあったのだが、そのないようが教師×生徒もので、今の状況とばっちりあっていて、なんだか面白かったのだ。その内容もまたすごくて。当時の直太郎が大きな衝撃をうけたのは言うまでもない。だって、あんなとこにアレを射れたりしてるんだよ。
「な、いいことって…」
直太郎がさらに深いところを聞こうとした瞬間、直太郎の隣席の朝日がコホンと咳払いをする。
「直太郎、北斗。今は授業中だぞ」
二人は顔を見合わせて、眉毛をやれやれという感じで上下に動かす。朝日は結構こういう話しは苦手みたいだ。恋愛面というか、男同士でのことにあんまりいいイメージをもっていないのだろうか。北斗はそう直太郎に小声で聞いてみると、朝日はその女顔から結構同性にそういう目でみられてたときがあって(いや、現在も多いだろう)、今じゃ自分をそういう目で見てる人は一発でわかるまでに成長したらしい。そして、そういう人にはいっさいかかわらないように対処できるまでになっていたらしい。なるほど…と北斗は、朝日に言われた通り今は授業中だから、授業を全うする振りをする。
 その瞬間、名簿の番号が日付と一致したのか、何があったのか知らないが、名簿表から視線をはずさない英語教師に北斗は名前を呼ばれ、ワークの三番の答えを言うように命じられる。北斗は躊躇することなく、美しく立ちあがると、サラサラと英文を読み上げる。その発音のよさに、クラス中ざわめき始める。英語教師も驚いたようで、自分より発音のよかった北斗の声に聞き入って、終わったのにポカンとしていた。北斗に指摘されて、ようやく座るよう促したくらいだ。さっきまで私語をしていたことを知っている朝日と直太郎は顔を見合わせて苦笑する。
 北斗が座りなおした瞬間、直太郎は再び北斗の背中を小突く。
「おい、北斗。お前一体なんなんだ」
北斗はフッと鼻で笑った。
「秘密」
その発言に、朝日と直太郎は再び顔を見合わせて悩むことになる。
 まあ、北斗が完璧なのは簡単な理由で。泉の情報が入り次第、すぐにでも追いかけることが出きるように、何から何までできることは全てパーフェクトにしていただけで。北斗の思考回路は複雑なようで明確だった。そう。泉を中心に全てがまわっているのだ。―――だから、ちょっと強引でむちゃくちゃなところがあるんだけどさ。
「生徒が消えたっ?」
泉は道久の言葉にコクンと首をうなだれる。泉は放課後になるとすぐさまその落ちこんだ体を、毎日放課後はAクラスで明日の準備をしている道久の元へと持ってきたのだ。
 そして、全てを説明したところ、今の反応だったってわけ。
「正確には…授業放棄されたってことでしょうけど」
泉は頼りなさげに微笑む。それが今にも泣き出しそうな感じで、切なくてかわいらしい、超無防備な笑顔で、道久はもう抱きしめたい衝動にかられる。
 道久は自分がそういう趣向があることを、二年前の事件以来口にできなくて隠しとおしてきたから、いまさらカミングアウトもないと思うけど。
 だって、二年前泉を危険にさらしたのは、自分の責任でもあるのだから。
 だから、自分の気持ちを伝えないことが、男としての唯一のけじめなのだ。
「三クラスともか?」
泉の人気ぶりはしっている。同じ教師としてうらやましいくらいに慕われている。それなのに、こんな行動にみんながでることが不思議だった。
「み〜んなです」
泉は座っていた生徒用のイスの背もたれにもたれるように伸びをする。
「……おかしいな」
「何がですか」
道久は今までのことを総合的に見て言ったのに、泉は完全に自信をなくしているためか、不思議にすら思ってなかったらしい。その普段でも大きい目を、さらに二倍くらいにして見つめてくる。
「おかしいとおもわなかったのか?」
思わないほうがおかしいと思う。何かきっかけがあったのならまだしも、急にだ。
「……だって、確かめて聞きたくないことまで聞きたくないですし」
初めは、生徒の誰かに聞いてみればいいと考えてはいたものの、三クラスともとなると、急に気弱になってしまう。幸い、今日は数学準備室で一日の大半以上を過ごしてしまったから、生徒にはほとんどあっていない。C、D、Eクラスの子はまったく見なかった。職員室、数学準備室、玄関がある棟と教室がある棟は違うのだ。
 道久は泉の肩を軽く引き寄せた。ぎりぎりまで出た抱きしめたい気持ちをなんとか押し殺し、そこでおしとどまったのだ。
「とりあえず、校長とかには内緒にしとけ。生徒たちも、まさか他の先生には言わないとだろうから。俺がなんとかしてやるって」
「先輩〜」
ふにゃ〜と表情を緩ませて、泉は道久にすがりつくようにして泣く。これには道久も苦笑だ。
 だって、これは泉が道久にそういう危険性がないと感じ取ってるからで…。
 今まで泉のレンアイ嫌悪症を見てきた道久としては、自分は恋人候補として見られないから抱きついてもらえるだけでと思うと、嬉しいような悲しいような……。
 まあ、俺は良い先輩としての地位を確保することを選んだのだから、一生死ぬまで守りましょう。
 道久は泉の背中をポンポンと抱きしめながら叩いてやった。
 これで、その場にいたのが二人だけなら良かったのだが。一番厄介な人がそれをばっちり目撃していた。
 Aクラスの廊下の外では、嫉妬に自身を失っている北斗がその一部始終を見ていたのだ。
 北斗的には、必ず自分に頼ってくる自信があった。だから、泉の後をずっと付けていたのだ。Aクラスに来たまでは良かった。クラスメイトたちは、教室の後の入り口に泉がいるのを不思議にすら思ってなかった。だって、道久と泉が先輩後輩の関係にあることはみんな知っていて、泉もしょっちゅう授業が終わると道久のところにきていたから。ただ、北斗だけは、それが自分に逢いに来ているとばっかり思っていたのに、泉は自分には目もくれず、だいたい人のいなくなったのを見計らって、教卓のところにいる道久に抱きつかんばかりの勢いで、駆け寄ったのだ。
 そして、現在に至る。
 泉は相談し終えて、一人教室を去ろうとした。ドアをうつむいたままで開けたから、閉めた瞬間に右上から名前を呼ばれて、うさぎのように過敏な反応をする。
「……泉」
「ほ、北斗!」
気まずい雰囲気なんてなることないのだが、なぜか北斗はイライラモード全開らしくて、それが痛いくらいに伝わってきて、泉はなんともいたたまれない気持ちになる。
「どうかしたのか」
それでも自分は先生だから、毅然とした態度をとる。
「ちょっと来てもらいますよ…先生」
北斗はそう告げると、泉の体をお姫様だっこで抱えると、人の往来も少なくなった放課後の廊下を多少急ぎ足で歩き始めた。
「ほ、北斗!おろせ、おろせーー」
泉はいきがって、その態勢を崩させようとする。だって、自分は生徒になんだってこんな格好で持ってかれなきゃならんのだ。誰かに見られたら、どう良いわけすればいいのやら……。しかし、北斗は不機嫌な表情で黙ったまま、廊下を歩きつづけた。自分がどんなに足や手をばたつかせも、まったく抵抗として受け入れていない辺りが、ムカツク。どうして、体格差なんてものがあるんだっ。
 北斗が沈黙を守ったまま連れてきたのは保健室で。北斗はそのドアを乱暴に足で開けると(北斗の外見からは想像できない粗暴な態度に、泉はきょとんとしてしまった)、泉を奥の備え付けてあるベッドに投げる。保健室は開いていたが、先生は不在だった。これも、もちろん北斗は承知の事実でここに連れてきたんだけど。
 北斗は呆然とする泉をベッドに残したまま、ドアのところまでいくと鍵をしっかり閉めた。
 泉は、このままじゃまたえっちなことをされてしまうと思って、ベッドからソロソロと降りようとする。が、
「降りるな」
北斗に厳しくその行動を停止させられる。
 北斗はしわ一つ付けず着込んだブレザーを脱ぎ、反対側のベッドに投げ捨て、ネクタイを右手で簡単に緩め始める。
 泉は、さすがに危機感を肌で感じ、自分の体をできるだけ北斗から離そうと、手で後に移動していく。しかし、小さな保健室のベッドの奥行きはすぐに限界に達し、泉はベッドの上下についてある上の方の鉄枠に背中をぶつけて、顔をこわばらせる。
「なんで陣内に相談してんだよ……」
北斗の口調はすっかり、泉の前だけの素のものになっている。
「何でって…」
「何かあったら、俺を頼るのが当たり前だろっ」
北斗がベッドにその身を乗せたせいで、ベッドがいやらしくきしむ音をだす。
 泉は憤る北斗に負けずと聞き返す。
「……何で俺に何かあったってしってるんだよ」
そう。まだ泉は道久にしか話していない。転入生の北斗が他のクラスに友達がいるとは、結構考えられなかった。
「そんなことどうでもいいんだ…泉は俺がそんなに信用できないのかっ。相談も出来ないくらい……」
北斗はすっかり冷静さを失っているらしい。だんだんとその体をベッドをきしませながら泉に近づけ、すっかり泉を組み敷いてしまった。泉はピンチを感じる。
「許さない…」
そう恐いくらいトーンの下がった声で呟くと、北斗は噛みつくようなキスを泉に振りかける。
「…んんっ、くっ」
泉は痛いくらいの急な刺激に、眉をよせる。
「はっ…んぁ…離し…」
泉は性急に快楽に酔いしれ始める。もともと感じやすいのかもしれないが、北斗は泉の気持ちいところだけど攻めて、焦らす作戦に出たのだろう。泉は簡単に体の反応でその気持ち良さを語っている。本人がその光景を後で見させられたら、多分自殺ものなのだろうけど。
「ふっ…」
北斗の舌が乱暴に快楽だけを突く。泉の一番ダイレクトにその反動を受ける下肢がドクンと息づく。ヤバイ。体が…。泉は北斗にいいように弄られると、もう自分はどうにも抵抗ができなくなることをわかっているので、どうにかして逃げなくちゃと思う。
 しかし、善作は浮かばない。
 だが、泉が快楽に溺れ始めたのをわかると、あっさり北斗はその口を離してしまう。
「ぁっ…」
泉の口から、もの欲しそうな声が漏れる。北斗は今すぐ泉をめちゃくちゃにしてやりたい衝動を頭の中のこれからの策略のため抑え(理性ではないところがミソ。理性なんてものは泉を目の前にした時点でないも同然なのだ)、冷ややかに泉を見下ろす。
「いい訳してみろよ…俺が納得できたら許してやらないでもない」
「なっ…」
あまりに傲慢な態度に泉はいまさらながら驚く。北斗はどうしてこうも自分の前だと豹変するんだ。泉は不服を思わせる表情をしつつも、この状況を逃れるためだと説明を始める。
「道久さんは先輩で年上で、お前は生徒のうえ年下だろ」
「泉は歳とかで人を判断するのか……」
ヤバイ。ちゃんと言ったはずなのになんか北斗の怒りを買ってしまったような…。
「そうじゃない。ただ、立場が違うんだって。先生が生徒に相談するなんておかしいだろ」
「俺たちはただの生徒と先生の関係じゃないだろっ」
北斗は泉のジュニアをスーツの上からギュッと握る。泉はその痛みに小さな悲鳴をあげて、顔をゆがめる。な、何するんだー!男ならこの痛みがわかるはずなのに。そう叫んでやりたかったが、あまりの直接的な痛みに、そうもいかない。泉は体を小刻み震わせて痛みに耐える。
「た…ただの…だろ…」
「泉は一介の生徒に扱かれて達ける淫乱なのか?」
北斗は目元はそのままで、口元に冷笑を浮かべ言う。その言葉の意味が全部ちゃんとわかって、泉は一瞬にして顔をカーッと、真っ赤にさせる。
「そんなわけないだろっ」
侮辱だ。こんなの酷すぎる。泉はイヤイヤと迫ってくる北斗の熱く火照った胸を押しやって、全てを拒否する。
 まだ、なんとか襲うのだけは押しとどまっていたのに、会話することすら拒まれて、北斗はがぜん詰め寄っていく。
「じゃあ、なんで俺の愛撫で気持ち良くなってるんだよ……」
「それは…」
北斗を好きだから…?いや、好きなんだよ。きっと俺は。けど、口にはできないよ…その言葉は。だって、恋人になっちゃったら、また恐怖が襲うんだ。体の関係を結ぶ怖さと、裏切りの恐さ。
「ちゃんと認めろよ…俺が好きだって…してほしいって。俺に扱いて、達かせてほしいって、俺の全てが欲しいって!めちゃくちゃになって欲しがれよ…」
北斗の本音を勢いのままに聞かされ、泉は切なくなる。体は素直に反応しちゃうんだ。今まで、俊介以外に反応しなかったあそこが。それが、ちゃんと泉の心中の変化を物語っているんだけど…。
 生徒となんて絶対嫌だ!どんなに性格が違っても、容姿が違っても、言動が違っても、俊介とかぶって見えるんだよ。
 「ご、ごめ…ん…俺…やっぱり…」
泉がどう考えても負の答えを出そうとした瞬間、北斗は泉のソコを厳しく握る。
「ああっ」
泉は背中で反る形になる。北斗は激しく、欲望のままに泉のワイシャツを左右に開く。ボタンは全て弾け、胸元があらわになる。
「ごめんって何がだよっ。どうして、なんで俺を見てくれないんだ」
胸のうちを当てられた気がして、泉はドキンとする。
「北斗……」
北斗は泉を見つめる。その視線の痛いくらいの刺激に、それだけでも泉はおかしくなってしまいそうだった。男なのに、胸を見られて恥ずかしがってちゃお化しいと思うんだけどさ、舐めるように視姦されていると、下半身がうずくんだよ。こんなんじゃ否定したって嘘だと思われるのはしかたないことだ。
「俺を十文字北斗として見ろよ…一人の男として…」
「あっ…ぁんっ…北斗ぉ…」
北斗は泉のジュニアと胸元を同時に弄る。器用に動く右手の指では胸の二つの突起を転がすようにいじり、強引なしぐさの左手は、泉のベルトを緩め、ジッパーを開けると、その中の泉の一番敏感な部分を生で触り、上下に緩く、激しくの差を加えながら、扱く。
「はっ、あっ…ひゃぁっ」
泉は自分体が激しく揺れているのを感じ、固定するかのように両手でベッドのシーツを淫らに掴む。
「俺を恋人に選べよ…陣内なんかより…気持ち良くしてやる…」
北斗の目にはすっかり恋愛対象の男として映っている道久の存在は、かなり大きかった。恋人ではないかもしれないけれど、こういうことをしたことがあるんじゃないかと思ってしまうのも仕方ないことだった。けれど、快楽が襲いかかっている上、わけのわからないことに泉は言葉で返事をすることができない。
「ぇ…?あっ…あぁん」
北斗が自分のねっとりとした舌を泉の胸元を弄る第三者として登場させると、泉はますます悦に溺れる。なんで先輩の名前がここであがるんだ?わけわかんないよ。
 泉が道久とのことを否定しないせいで、北斗は自分以上のことをあいつにはしているかと思うと、いてもたってもいられなくなる。このまま欲望のままに泉をめちゃくちゃに抱いてしまいたくる。けれど、本当にこのまま犯ったら、きっと壊してしまうと思い、グッとガマンする。
 北斗は道久の処分を考えなくては…とまた悪事を一人謀る。泉はそんな北斗の手と舌で既に勃ちあがったジュニアをひくつかせて、涙目で北斗に訴える。
「も…お願い…達っちゃうよぅ」
いつになくかわいく言って来る泉に、北斗は苦笑する。こんなにかわいくお願いされたら、気持ち良くさせたくて、仕方なくなるに決まってるじゃないか。他のことは素直に認めてくれなくても、体はしっかり俺を欲してるわけだ。北斗は道久への嫉妬と、なかなか素直に認めない泉にイライラしていたことも忘れて、泉のそこを銜える。
「ふぅ…ふぁあん」
北斗はその口内の中の器用な動きをするそれを、泉のジュニアに何度も絡ませる。構内の熱いくらいの温度と、舌の動きと、北斗の蜜と、ジュニアから先走りしている泉のミルクがどうにもこうにも混ざり合って、いやらしい音を出しては、泉を昂ぶらせていく。
「ああっ」
そして、泉は北斗がジュアニのすぐ上の二つの部分をキュッと握った瞬間、北斗の口内に情欲のすべてを放った。
 泉がその後、羞恥と困惑に襲われたのはいうまでもない。
つづく。
−1− | −3− | 教師モノへ。
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