−3− | 最初のぺぇじへ。 | 教師モノへ。

● 僕が先生に教えて上げる。 --- −4・ラスト− ●

冗談じゃない!泉は沸騰しきったその体を北斗の方にずんずん近づけ、自分の中で屈辱的とも言える言葉を言ってのけた。
「服を…貸してください…」
「聞こえない」
北斗は顔をわざと泉からそらす。おいおい、小さい子供じゃないんだから。
「お願いしますっ!」
泉はどうにでもなれっ、と北斗が望んでいる言葉を言ってやる。
 北斗はにんまりと怪しく微笑むと、北斗が入ってきたドアではないほうの純白のドアを指差した。
「あそこはシャワールルーム。洋服もそこにあるの自由に使って良いよ」
泉は北斗の前から、こんな恥ずかしい格好を早く消し去りたかった。
 だから、即効で振り向くとそのドアに走っていこうとする。
 しかし、その腕を北斗に拘束される。
「いっとくけど、服をきたところで帰るところはないんだからな」
そう言われて、泉は確かにそうだということを思い出し、とぼとぼとシャワールームへ向かった。
 泉は洗面所の前でブランケットを脱ぎさると、モザイク張りになっているバスルームへ繋がるドアを開いた。
 シャワールームもまた女の子が喜びそうなつくりになっていて。無駄に広いバスルームにある無駄に広い真っ白い浴槽は、外国のお風呂のようで。シャワーやノズルなどの他の装飾品は全て金一色だった。まあ、泉は女の子じゃなかったから、このいかにもな貴族趣味に驚いただけだったけれど。
 泉はとりあえずシャワーを浴びたくて、やっぱり金色のレバーを右にひねってみた。
「熱っ!」
シャワーからお湯がでたはいいが、ものすごく熱くて泉は思わず悲鳴をあげる。どうすることもできず、一人わたわたと熱湯を浴びつづけていると、右斜め上から笑い声がする。
「バカだな泉は…。逆にひねればいいんだよ」
「あ、そっか」
泉はその助言を素直に受け、レバーを左に少しひねる。シャワーはすぐに定温になった。
「って、なんで北斗が…」
泉は落ちついてやっとその助言をしたのが、ここにいるはずのない北斗だと知る。北斗は自分もシャワーのお湯が当たるくらいまで、前に進み出てきた。もちろん…何も身に着けてない。
「なんでって…泉がなんか騒いでて面白そうだったから」
素の笑顔でニコッて笑う。泉の中で何かがドキンって動く。この笑顔は凶悪だ。騙されないんだからな〜…。
「そ、そうじゃないだろっ!入って来るなよ。じゃなかったら俺が出るからぁ」
泉はさっき入ってきたばかりの入り口から出て行こうとする。
「だめ…許さないよ」
 けど、予想はしてたけど北斗に止められた。いや、予想はただ手を引っ張られるだけだったんだけど、実際はそれ以上だった。抱きとめられたのだ。
「あ……」
 泉は咄嗟のことで驚いてしまい、かわいい声を漏らす。
 俺たち…どっちも裸なんですけど…。
 そう。二人ともバスルームにいるってことは、二人とも生まれたままの姿ってことで。その上、泉は北斗に後から抱きつかれる形になってるってことは…。俺の肌と北斗の肌があたっちゃってるってことで。
 …何かあたってる気がするんだけど…。腰のあたりに…。
 泉は一瞬にしてそのナニかを理解して、真っ赤になる。耳まで真っ赤になっちゃったもんだから、後から抱きついている北斗にもそれがしっかりばれてしまった。北斗は一人ニヤリと怪しく微笑む。
「感じちゃった?」
 北斗の言葉一つに、泉は過剰な反応をする。
「やっ……」
泉は北斗から離れようと暴れる。そのせいで、泉は濡れたタイルに足を取られて転びそうになり、北斗に体を支えられてなんとか態勢を維持する…が、ますます密着する形になってしまった。
「離せよっ…」
泉は助けてもらったのも忘れて悪態をつく。北斗はそんな泉の耳に自分の熱く火照った唇を押し当て、舌を進入させてくる。
「ふっ……」
泉は赤くなっていた耳に別の温かみを感じ、鼻にかかった息を漏らす。
「素直に感じなよ…」
北斗は舌を耳から抜き差ししながら、甘く囁く。
 北斗の声が発せられるたびに、熱を帯びた吐息が耳の辺りや、首筋にかかり、泉はだんだんと体が熱くなってくる。
「ぁ…やっ…」
北斗の唇が首筋に移動し、顎のラインから鎖骨にかけての白い肌に赤い痕を残していく。泉は恥ずかしさのあまりしゃがみこもうとするが、北斗は左腕をしっかりと泉のお腹に回し、それを許さない。
「ん〜っ…はっ」
北斗の右手がいやらしく泉の胸をもみ始める。泉はその手を払おうと思うのだが、体が震えてうまくできない。変な位置に倒れこまないように支えていることがやっとだった。
「泉のここ…かわいい…。まさか陣内とかに触らせてないよな…」
なんでそこで先輩の名前が出て来るんだよ。
 泉は激しくなる北斗の愛撫で、それを口にすることができない。すぐに否定しない泉に北斗は疑惑を感じ、ますます泉の体を弄りにかかる。
「ひゃっ…ぁあん」
泉の胸元で怪しく動いていた北斗の手が、いきなり泉のジュニアを握りにかかる。北斗が握る前から半勃ち状態だったそこは、その暖かな強い刺激のおかげで、ますます膨らみ始める。
「なんだ…泉もやる気まんまんじゃないか…」
北斗の荒い呼吸の中からそんな意地悪な言葉が聞き取られ、泉は泣きたい気持ちになる。
「やだ…やだってばぁ…」
自分の体が嫌だって言ってないのが悲しい。これじゃ、ばれちゃうじゃないか。俺の気持ちなんて…。こんなの恥ずかしすぎる。
「ほら、こうするともっといいだろ…」
北斗がそこをきゅっとさっきより強く握り、人差し指と親指の先で転がすように遊ぶ。
「っあ、んん〜…あ」
泉は必死に壁に手をかけ、北斗の拘束から抜け出そうとする。が、その態勢は腰だけを北斗にさらけ出すようになっていて、誘っているようにしか見えない。
「大胆だな…泉は」
北斗の嬉しそうな顔が目に浮かんで、泉は自分の今の状態がどんなに恥ずかしいポーズであるかを思い知らされる。
「やだってば…こんなのっ」
そんな泉の懇願の声も聞かず、北斗は泉の下肢の高さに自分の顔がくるように立ち膝の状態になる。そして、泉をくるりと自分の方に向かせると、泉のジュニアを目の前に幸福そうに微笑む。
「かわいい…泉に何でも教えて上げたくなる…」
泉のジュニアの周りのいたるところに軽いキスを繰り返ししながら囁く。
「お…俺が…先生…だぞ…」
泉はこのさいどうでもいいような指摘をする。
「そうだね…でも、泉はこういうことは詳しくないみたいだから」
そう言いながら、泉のジュニアの先端の先走りしている入り口に熱いキスをする。さっきまでしてたのじゃなくて、ディープキス。口にしてるなら、もうメロメロに腰がたたなくなっちゃうようなあのキスだ。
「はぁんっ!」
刺激の強さに、思わず泉は頭を後にビクンとそらせる。そして、もう止めてくれといえなくなった口から、誘うような喘ぎ声をひたすら吐きつづける。
「ふぅ…はっ…んっ」
北斗は快感に酔いしれてきた泉のそこをいっきに口に銜える。北斗の口内は欲情したおかげで唾液が溢れていて、熱も最高潮で、そんなのにいきなり包まれてしまった泉のジュニアは上に勢いよく跳ねあがる。
「ぁっ、あっ、あ…」
震える声が浴室を飛び交う。意地悪なくらい反響の良いこの部屋では、泉の喘ぎ声は耳に嫌でも大きく聞こえてくる。
 まあ、それが聞こえて嫌がってるのは、この場にいる二人中一人なんだけど。
 北斗は、さくらんぼのくきもちゃんと結べるその舌を器用に動かして、泉の気持ちいところだけを誘う。泉があんまりこういうことに経験がないことは、初めてこういうことをした時にわかっていた。むしろ、恐がってるような印象があったから、優しく優しくやってやろうと、一応ながら考えていたのだ。
 北斗に、感じるところだけを攻めつづけられて、泉のソコは元気良く昂ぶっていく。
「あっ…もう…駄目ぇ…達く…」
泉は北斗のエンジェルリングが見えるんじゃないかと思うほどきれいな髪を、思わず握ってしまう。
 北斗はそれは、泉が感じている証拠だとわかると、ますますその行為に夢中になる。泉が自分ので悦になり、自分の行為で達きそうになっている。その事実が、実は一番北斗を欲情させていた。
「ああんっ…あ」
北斗が舌でソコを混ぜるように舐めまわした瞬間、泉は最高潮に達し、北斗の口内に白濁としたそれを全て吐き出してしまった。
 泉は羞恥のあまり、何もしゃべることができず、北斗が自分の体をシャワーで洗い流してくれるのを、あまりはっきりしない意識の中で見ていた。
 北斗は泉の体を清潔なタオルでキレイに拭き終わると、再びブランケットに包みこみベッドにお姫様だっこで運んでいった。
 なんで、あの泉が抵抗しないかというと、泉は抵抗しようにも腰が立たなくてどうにもならなかったのだ。
 俺、なんで北斗に助けを求めちゃったんだろ…。駄目じゃないか、こんなの。北斗を利用してるだけじゃないか。
 泉は広すぎるベッドの広すぎる枕に顔をうずめ、静かに涙を流した。
 北斗がその日泉にそれ以上かさなかったのは、昨日のことで落ちこんでいるであろう泉を慰めるためだけにやったことであったし、泉があまりにもぐったりしてしまったので、もちろん一回で終わるつもりなどない自分の欲望を受け取るにはさすがにきついかな、と判断したからだった。
 まあ、いい。時間はたっぷりあるんだ。
 北斗は泉の部屋を出たあと、ドアを背に勝ち誇った顔をした。
 泉は、少し数時間もしないうちに目覚め、再びシャワールームへと行き、今度はしっかりと鍵を閉めると、簡単にシャワーをすませ、北斗が言っていたクローゼットの中から黄色かかったワイシャツと高貴感じを醸しだすダークグリーンのスーツのズボンを取りだし身に着けた。クローゼットの中にはもっとラフなものもあったのだが、さすがに着る気になれなかった。
 最後に金の水玉模様の入ったスーツと同じ色のネクタイを締めると鏡を覗きこんだ。
 これからどうなるんだろ…俺。まず、仕事探さなきゃだろ…それにアパートも…。
 泉は髪の乱れをささっと直すと、指折りしなきゃならないことを考えていた。うしろにあの方がいることもしらずにね。
「何を考えてるんだ」
不機嫌そうな声がいきなり聞こえて、泉は鏡にうつった自分のうしろを見て慄く。
 なんで北斗がこんなところにいるんだ〜!俺は確かに鍵はしめたはず…。
泉は金魚のように口をあけたまま何もしゃべれずにいると、北斗はその長くいやらしくのびたキレイな指にやめてある銀色のリングをまわし始める。
「俺はこの家の人なんだよ。鍵なんてもってるにきまってるだろ」
そのリングの先には無数の大小異なる鍵が…。たぶんこの家の全ての鍵穴の鍵を北斗は持っているんだろう。
 それじゃあ、鍵の意味なんてないじゃないかっ。
「で、何を考えてたんだ」
北斗は泉に詰め寄る。
 このパターンはまずい。咄嗟に頭の中に冷や汗が走る。泉に学習能力はあるようだ。
 とにかく会話がなりたつところに連れていかなきゃ。
「ちょ、ちょっと待て!場所を変えよう…」
 泉は北斗の腕を掴むと、狭い洗面所から泉の寝ていたベッドのある部屋に連れこんだ。けれど、すぐにベッドが目に入り、ここもマズイと判断し、まだ開けたことのない赤い縁取りのされているドアの赤いノブを右に回す。
 とりあえず覗いてみて、おかしな部屋だったら閉めちゃえばいい。
 ってか、おかしな部屋ってなんだよ!
 自分で自分を突っ込みつつ、泉は中を覗く。もし、本当におかしな(?)部屋だったら、そのまま北斗に連れこまれて、逃げ出すどころじゃないと思うんだけどね。泉の頭はそこまで働いてないみたいだった。
 その部屋は、泉が寝ていた部屋と同じ位広く、同じ位立派なつくりになっていた。一つだけある窓は出窓でキレイなレースカーテンと春色のフリフリの少女趣味なカーテンがつけてあって、寝室とまったく同じシャンデリアはほこり一つ付けず輝いている。そして、壁にはやっぱり本か何かで一回は見たことのある絵がかかっていた。
 さっきの部屋と明らかに違うところといえば、巨大なキングサイズのベッドの替わりに、ダークブラウンで統一された、勉強机と椅子二脚あるところだ。
 ここなら変なことにもつれこまないだろう…。泉は心の中でそう考えた。甘いです泉さん。男は犯ろうと思えば、広い場所でも、ベッドがなくても、立ってでもできちゃうものなのよ。まあ、浅い性知識しかない泉には想像できいだろうけど。
 泉は寝室よりは百倍ましだ、と北斗の腕をぎゅっと掴んだままその部屋に足を踏み入れれ、勉強机の前に設置されている赤い絨毯生地のふわふわのクッションがついているダークブランの椅子に北斗を座らせ、自分もその横にある同じ型の椅子に腰をおろした。
 「で、何を考えてたか話してくれるかな」
北斗はその長い足を組み、偉そうな座り方をする。高校生っていうより、どっかの国の王子様みたいな。いや、こいつの場合、絶対そっちのほうがあってるって。
「いや、えーと…だから、これからの事とか…さ」
泉は思わず言葉を濁す。だって、なんか北斗不機嫌モード炸裂なんだもん。へたに言ったら、絶対怒ってきそうなんだもん。
 案の定、北斗はその泉の言葉にムカッときたみたいだった。
「これからって…?」
「だから、仕事のこととか、家のこととか…」
泉は指折りさっき考えていたことを告げる。北斗が何も言わなくなったので、こわごわと上目遣いで見つめると、北斗はマジ怒りに達したような目になっていた。
「家ならここに住めば良い。ここは今は父の所有のものだが、俺しか住んでないし」
「住むって言ったって…」
その理由がない。メイドにでもなれっていうのか?冗談じゃないぞ。
 その申しでを拒否しようとするが、北斗の言葉に消される。
「名目がないって言うんなら、俺の住みこみ家庭教師になってくれればいい」
「家庭教師だって?」
いきなりな展開に泉は頭がついていかないみたいだ。
 それに家庭教師なんて…。あれ以来、その職には近づこうともしなかった。その言葉を耳にするだけで、体を冷たい空気が覆った時期もあったくらいだ。
「ああ、そうすればいい」
北斗も突然の思い付きだったみたいだが、これはいいと一人納得している。
 北斗にしてみれば、家には泉が住んでくれて、その上泉の授業がマンツーマン状態で聞けるわけで、いたれりつくせり、盆と正月が…といった展開だった。
「い、嫌だ!」
泉は全身でそれを拒否する。
 泉の頭の中に二年前のことが生々しく蘇る。
 そう。この家にきたときから、泉が感じていた違和感。この家の感じ、俊介の家の感じに似てるのだ。昔のヨーロッパあたりのお城風というか、貴族風味というか。だから、どうしてもかぶってしまうのだ。あの時のイメージと。
 けれど北斗にしてみれば自分のいいとおもって出した案を、きっぱり否定されてしまい怒らないわけがなかった。
 北斗は泉の唇を強引に奪う。いきなり進入してしてきた唇に、泉は思いきり歯をたてる。
「んんっ!」
「痛っ…」
北斗は口のどこかを切ったのだろう。痛そうに顔をゆがめ、泉から視線をそらす。初めてキスしたときもこうやって北斗の口を切ってしまったが、ここまで北斗は痛がってなかった。それは、北斗も初めてのときはそれくらい抵抗されるかなと覚悟していた上だったからで…。自分の愛撫にあそこまで感じ、今まで何回も絶頂を味わっている泉が、キスをここまで拒否するとは思ってなかったものだから、ダメージは大きかった。
「あっ……」
泉は北斗に傷をおわせてしまったことで急に冷静さを取り戻す。
「お、俺……」
いてもたってもいられなくなって、椅子からたちあがろうとする泉の手首を北斗は固く掴む。
 けれど、その視線は泉を見ていない。
 その沈黙が泉の恐怖を煽った。
 泉は何度も、何度もその手から手首を抜き取ろうと痛いくらいに自分の腕をひっぱり続ける。北斗はそのたびに、掴む手の握力を上げていく。
「北斗…北斗…離してくれよ…」
「……そんなに俺をたよるのが嫌なのか」
北斗はその黒くまっすぐな瞳を泉に向ける。泉は困惑する。だって、北斗の目は何か責めているように感じたから。
「陣内にはすぐに相談しに行くくせにっ」
北斗は立ちあがると、泉の正面に立つ。北斗のほうが身長が高いから、泉は今度は見上げる形になる。
「どうしてお前の話にはすぐ先輩がでてくるんだよ…」
「泉がいつも側にあいつの存在をちらつかせるせいだろっ」
再び泉に熱い口付けをする。ねっとりとした舌が泉の口内に入りこむ。今度はさっき流れたのであろう血の味もして、なんだか北斗を直に感じる。
 俺の中に北斗が入ってくる…。そんな感覚に泉は襲われる。
 唇は隙間を与えないくらいに吸いついてきて、呼吸すらも奪われる。口元が熱い。唇が熱い。喉が熱い。その先が熱い!
 舌の先をのどの奥まで突っ込まれて、快感よりも苦痛が襲う。さっきキスしてくれた北斗と本当に同一人物かと思ってしまうほどの違いに泉は戸惑う。
 痛いくらいに乱暴に口内を犯されて行く…。あまりの恐怖に泉の目から雫が滴りはじめる。
 こんなの嫌だ!嫌だよ…北斗。
 涙は頬をつたり、首筋できらりと光る。北斗はそれを手でふき取りながらも、無理やりな口付けをやめようとはしない。
 酸素が注入されなくて苦しくなってきて、泉は北斗の背中をばんばん叩く。
 苦しいんだっば〜!離れてくれ!
 北斗がやっとのことで唇を一瞬離す。その隙をみはからって泉は北斗から顔をそむけると、必死に呼吸をする。
「それとも…そんなに俺に授業をしたくないのか」
「…は?」
泉は酸素不足でくらくらする頭でその言葉を聞いたので、あまりよく理解できない。
「その他大勢のやからに見せるのに、俺には見せたくなって言うのか…」
「な、何言って…」
「そうだよな…二年前の俺のことなんてまったく覚えてないくらいだもんな。よっぽど嫌だったんだろ」
はっきりと覚えていないことだけれど、嫌な事じゃないことは確かだった。じゃなければ、家庭教師に嫌悪を抱いている自分が、そのまま教師になろうだなんて思わなかったはずだ。
「違う!俺は…」
そう言いかけたが、俺はどうなのか自分でよくわからなかった。思わず黙り込む。北斗は泉を冷ややかに見つめると、泉の手首からようやく手を離した。
 ようやくこの屈辱的な行為から開放されたと思ったのもつかのま、泉を軽々と肩に抱えると、北斗はそのまま寝室へ向かう。
「やっぱり泉には教育が必要みたいだ…素直になるように、体に教え込む…」
北斗の口元が冷笑する。泉は全身を固くこわばらせる。その言葉の恐怖を全身で感じ取ったのだ。
「嫌だ!北斗…嫌だ…」
何度も北斗の背中を叩くが、微動だにしない。その背中は、もう容赦しない、と語ってるようだった。こうなったら泉は従うしかない。あまりの恐怖と情けなさに、泉の小さな体は静かに震えた。
 北斗は泉をキングサイズのベッドに乱暴に投げ捨てた。
「うわっ」
泉は顔を思いきり枕にぶつける。痛くないのに思わず大きな声が出てしまった。
「泉…まず何を教えて欲しい…?」
北斗は怪しい意味を帯びた言葉を甘い声で囁きながら、自分もベッドにあがってくる。泉は逃げようと思って、足を取られるベッドの上ではいつくばるが、やっぱり北斗に止められる。
 北斗は泉の体が震えていることに気付き、優しくその背中を撫でてくる。
「気持ち良くして上げるだけだよ…何を恐がってるのさ」
「恐がってなんかないっ」
泉はどうにか自分を保とうと虚勢をはる。でも、内心はバクバクだった。
「じゃ…いいんだよね?」
北斗はそういうと、しっかり着こんだ泉のネクタイとワイシャツをはずしにかかる。
「な…ダメ…」
泉は慌ててその手を掴まえるが、北斗は簡単にネクタイを首から抜き取ってしまった。
「ぁ…っ」
その瞬間、ネクタイの端が泉の首筋をいやらしくかすめ、泉は不本意ながら声を漏らしてしまう。慌てて口元に手をやるが、北斗にはしっかり聞こえちゃったみたいだ。
 恥ずかしすぎる!こんなの襲われてるのと同じなのに…。感じてるって思われちゃったんだ。いや、感じてるんだけど…。うわ〜っ、わけわかんないよっ。
「喘ぎ声は出してもいいんだよ」
「違うっ…んっ」
からかうように言う北斗に否定しようとした瞬間、北斗は泉の首筋に顔を埋めてくる。
 キスをしてくるのかとか、舌を這わせてくるのかとかいろいろ考えたんだけど、北斗は黙ってそのまま押しつけているだけだ。
 かえってそのほうが泉はドキドキしてしまった。
「ほ…北斗…?」
「泉…いい香りする…」
北斗は少しだけ、泉の首から顔を浮かせると目を閉じて言った。
「え…ああ、さっきシャワー浴びたばっかりだからだろ」
泉はそんなこと言われたの初めてだったから、なんだか照れくさくて、恥ずかしくてどうしていいのかわからなくて、とりあえず洗ったからだと答えておく。
 北斗がそういう意味でいったんじゃないことくらいちゃんとわかっていた。
「うん…でも、違うな。安心できる…泉の香りがする…」
「何言ってんだよ…」
そんなセリフを直に聞かされ、泉は真っ赤になる。そんな北斗の香りも泉に流れ込んできていて、北斗の香りのほうがずっといいと思った。少し高貴な大人な香りがする。香水でもつけてるのかな、でも、全然嫌な香りじゃない。北斗の子供っぽいのにそれを隠すように大人びる態度と、ばっちりあっていた。
「食べちゃいたくなるよ…」
北斗は泉の首を舌で軽く舐める。アイスクリームでも舐めるように、優しくって言うか、欲しくて欲しくてしょうがないみたいに。
「あ…ぁ」
泉はたった一回の刺激で、すでに体を火照らせ始める。北斗は舌を首筋から顎にかけて、舐めっていく。そして、泉の唇に押しつけるように自らの唇を合わせる。
「くふぅっ…んんっ」
泉はそっと触れるだけのキスにもどかしい感覚を覚える。いつもの苦しいくらい強引なキスに慣らされたせいか、これだけじゃ満足できない体になってしまったみたいだ。
 泉は瞳を潤ませて北斗を見る。
 抵抗してるはずの人間にこんな目で見られて、北斗は心の中でひそかに微笑む。そしていっきに舌を遣い、唇をこじ開けると、口内から溢れ出す蜜ごと全て泉の中に注いだ。
「はぁっ…ん〜ん…北斗ぉ」
激しい口付けに泉の思考回路はショート寸前まで跳ねあがる。
 北斗は言葉通り泉を調教するように、何度も何度もキスを繰り返す。舌を遣い、唇を遣い、唾液を滴らせ、熱を伝わらせる。
「んっ…ぁん…」
泉の口から溢れる蜜がこぼれると、それをぬぐうように北斗は自分の指に絡めていく。両手で泉の顔を支えて、角度を変えて、再び深い口付けをする。
「んんっ…〜っあ」
北斗の気持ちが痛いくらいに伝わってきて、涙が溢れてくる。
 こんなキス…俊介とはしたこと…ない。
 頭の中のかぶっていたイメージがぼんやりとしてくる。
 泉は北斗のくれる熱いキスに必死に答えようとする。北斗はそれに驚き、嬉しすぎて、泉をギュッと抱きしめる。
「愛してる…」
その囁きに、泉はまだ素直に頷けない。北斗はそんなのおかまいなしに、泉のワイシャツのボタンをきようにはずし、上から下まで上半身に赤い印を残すくらい強く吸い上げていく。
「ぁっ…あっ…」
時折漏れる快感の声に、北斗は悦に入り、泉にさらなる愛撫を加えて行く。指の全てが器用に泉の性感帯を弄り、泉はますます羞恥に溺れることとなる。
 北斗の指は胸の突起を意地悪く弄り始め、それにすら泉の体は素直に悦ぶ。
「あっ…やだっ…そこっ」
やっぱりまだ体の関係には嫌悪感が残る。泉は真正面に北斗に向けていた体を横にくねらせる。
「泉はここ…こうやるのも好きだよな…」
北斗は泉の胸の赤みのまして勃った場所を親指と人差し指で軽く持ち上げ、何度も繰り返し指を擦り合わせるようにまわす。
「はぁんっ…」
漏れる熱い吐息の間から、今までになかった声が聞こえてくる。泉のそのかわいい喘ぎ声は北斗を昂ぶらせていく。
 北斗は泉の胸を右、左と交互に激しく愛撫を加え、最高まで出した舌をねっとりと這わせていく。
 泉はあまりの急な快感に、表情すら淫らに乱れ始める。
 北斗がそこに吸いつくたび、泉の体はベッドの上で跳ねた。ベッドのきしむ音が、自然と耳に入ってきて、今の二人の行為の激しさを物語っていた。
「あっ、あん…」
ここまでくると、さすがに別のところも反応してくる。泉は、早くそこにも直接的な刺激が欲しくて、本能的に腰を浮かせている。
「泉もわかってきたじゃないか…」
北斗は泉の下肢に手を滑らせ、ベルトをはずしにかかる。あのクローゼットの中には、普段着の泉を見るために、スーツじゃないのもいれといたのにこれを選んできた泉に少し笑ってしまう。
「泉…なんでこれ着たの?他のは気に食わなかった?」
「え…?ぁ…っ」
下半身の反応しているそこの目の前で普通の会話をされても、上手く答えられるはずが無い。泉は少し北斗を睨む。
「…俺は…先生なんだから…やっぱり…スーツがいいかなって…」
「今は俺が先生だけどね」
泉は真っ赤になってブランケットにしがみつく。
 なんて恥ずかしいことをさらっといってのけちゃうんだぁ!こいつは。
 泉が涙まで流して真っ赤になっているのに、北斗は泉のズボンをスルスルと脱がしてしまう。泉の両膝を立てさせると、北斗はその中に上半身を挟めた。 
「ほ、北斗っ」
泉はその北斗の体を押しかえそうとするが、やっぱり出来ない。今ほど力の無い自分をのろったことはないだろう。
 北斗はそれまで泉の胸の上で遊ばせていた手を滑らすように下半身に下げていくと、泉の勃ちあがったそこを、唯一隠しているブリーフの上から握る。
「やっ、はぁっん」
泉は驚愕の声を出す。それは、泉を焦らすのに十分な行為だったので、泉はすぐにそこを元気にさせてしまったのだ。
「早いよ…まだ…もうちょっと我慢な」
北斗は泉の頬に軽くキスすると、ブリーフを膝まで下げる。十分に上を向いているソコが北斗にばっちり見られてしまい、泉は唇を噛み、目をしっかりと瞑ってしまう。
「ほら、ちゃんと見なくちゃ…かわいいよ」
北斗は泉のものを上下に激しく扱きにかかる。そうでなくてもすでにヒクヒクいっていたそこは先走りの蜜を流し始める。
「はっ…あぁん。やだ…見たくないぃ〜」
泉は依然として目をがっちり閉じたままだ。北斗は泉が嫌でも目を開けてしまうくらい感じさせようと、そこを口に含む。泉のものがどんなに猛っていても、所詮はジュニアサイズなので、北斗の口の中にスッポリ収まってしまう。
 根本を回すように指で扱かれ、先から道中にかけては舌と唾液で遊ばれて、泉はすぐにでも達っちゃいそうになる。
「ああん…はぁん。もう…だめぇ」
北斗は口の中で抜き差しするように、寒暖の差を作る。それがいい感じに泉のジュニアの性感帯を突く。
 北斗がソコを浅くしか咥えていない瞬間だというのに、泉は自分の欲望を吐き散らしてしまった。
 北斗の胸の辺りと、顔に白いしぶきがかかる。
 その光景に泉の方が顔を赤めて、嫌な顔をする。
 だって、これって…あの…変態のする行為みたいじゃないかぁ。なんてことを俺はしたんだぁ。
「ご、ごめん…俺…」
自分でするときですら、それがあまりいいもとと思えなくてさっさとティッシュで片付けてしまう泉だ。それなのに、他人のものを顔にかけられて気持ちいいはずが無い。泉はすぐさま謝る…が、北斗はというと、これは結構つぼだったみたいだ。
 何がいいんだか…よくわからないよ。泉は思わず呆れてしまう。
「おいしい…」
北斗はそう言いながら、顔にかかったぶんを手でぬぐいながら舐めていく。
「泉も舐めてみる…?濃厚で、甘くてそれで栄養もあるんだよ」
泉は引きつった顔で、勢い良く首を横に振る。
 ご冗談でしょ。
 北斗もまあ一応冗談の域だったみたいで、ひたすら泉の残り物を指に絡ませ舐める行為を繰り返している。
 泉はとりあえず、ベタベタの体をきれいにするためにシャワーを浴びたくて、震える足でベッドから降りようとする。
 北斗は自分の唾液と、泉のミルクで濡れた手で泉の足を痛いくらいに掴まえる。
「何っ?」
まさか止められるとは思ってなかったので、泉はびっくりして北斗に向きなおす。けれど、北斗にしてみれば、泉の行動のほうがわからなかった。
「どこ行く気なんだよ…まだ終わってないぞ…」
そう言われて、泉はビクッとする。そうだ…この行為には続きがあるんだ。俺はそれが嫌だったんじゃないか。
「お願い…離してくれぇ」
それまで素直に北斗の愛撫を受けていたのに、いきなり本気で拒否されて、北斗はムカッとする。
 さっきまではあんなに良い顔して自分の愛撫を欲しがっていたのに、これはあんまりじゃないか?
「許さないって言ったろ」
いきなりトーンがまた下がって、小悪魔な声になる。
「やだやだやだ」
泉は、ほふく全身でべっどから抜け出そうとする。しかし、そんな泉の下肢には北斗がしっかりと存在しているんだから、逃げられるわけがなかった。
 再び、容赦しないよ…と睨まれて、泉は泣き出したくなる。
 自分の考えが甘いのはわかってる。自分だけ愉しんで、何も返さないのは理にかなっていない。それはわかるんだけど。どうしても…できないんだよっ。
 泉の頭の中に俊介の盛った顔が蘇ってくる。必死に呼吸を整えて、それを消し去ろうとする。
 けれど、その葛藤の間にも北斗は泉のジュニアの置くに、濡れて準備の出来た指を推し進めていく。
「ひゃぁっ」
冷たい指が、秘所の付近をなぞっただけで、泉の感情は弾け飛んだ。
「やだぁ、やめて…恐いっ」
素直に恐いことを認める泉。しかし、北斗はいいかげん我慢の限界だった。
「どうして俺を受けれ入れくれないんだっ」
どうしてって言われても…。
「俺を好きなら、欲しがってみろよっ!」
怒った表情で怒鳴られて、泉は体をこわばらせ、固まらせる。
 そんなこんなで恐くて動けないのに、大人しくなったと判断した北斗は人差し指をつぼみを開くように無理やりに突っ込む。
「あああっ…痛っ!」
泉の頭の中がなってはならない状態にまで上り詰める。
 二年前にトリップし始めたのだ。
 恐いという感情だけが、体を包み込む。裏切りと体の痛みが蘇る。泉は北斗と今ベッドにいることも忘れて、喉がちぎれるかと思うほど叫ぶ。
「やめてくれっ、俊介!」
 一瞬にして空気が変わったことに、泉は気付かなかった。ただ、痛かったつぼみの中から急に指が抜き取られる、生々しい感覚だけはわかった。泉は必死に涙目で呼吸をする。そしてやっと、目の前の人物が誰なのか、さっき叫んだ名前は誰のものなのかを思い出し、ハッとする。
「………俊介って誰だよ…」
北斗の凄みの聞いた声が襲いかかってくる。
「ぁ…っ」
泉は声にならない声をあげる。
 泉が口篭った上、こんな愛する二人の行為の最中に、他の男の名前を呼ばれた北斗は、理性を無くした獣とかした。
「覚悟はできてるんだろうな…」
泉の耳元で、聞いたことのない声がする。
 泉の二年前にトリップしたての頭は、まだ北斗と俊介をごっちゃに見ている。
「しゅ…」
再び、俊介と言いそうになった泉の口を北斗は食いちぎる勢いで奪う。
「んんんっ!」
頭がハッキリしない上、ますます混乱させるキス。キス。キス。泉はもうろうとしながら、そのキスをされるがままに受けていた。
 そんな泉の意識を蘇らせる勢いで、北斗は、さっき泉はひとさし指一本挿しただけで痛がったのに、いきなり三本指を押しこむ。
「あぁああーーっ!」
泉の目から大きな水の粒が零れ落ちる。それが、どんなに泉が痛がっているかを語っていた。
「俺を見ろっ!」
北斗はうつろな目の泉の頬を叩きながら、指をぐりぐり動かす。
「やんっ、あっ、ああっ」
泉は体を右に左によじりながら、痛みから開放される態勢を探す。けれど、見つけたら見つけたで、北斗が指を上に動かしたり、まわしたりするもんだから、ほとんど意味が無い。
「くっ、ふっ、あぅっ、やだぁ」
泉は苦痛の声を漏らす。北斗は泉の快感を誘うというよりは、むしろ痛みを伴う突きかたをする。
 泉が他の誰かの名前を呼んだのが、本当に憎らしかった。そして、その上、こんな時に思い出される俊介の影を泉の体の中に見出し、それを追い出すつもりでもあった。
 ――――俺を見てっ、泉…。
 北斗は自分の欲望に猛ったものをジーンズから抜き出すと、大きく勃ちあがったそこを広がった泉の後孔に性急に突き入れた。
「あーーーっ!痛いっ、痛いっ痛い」
指とはケタ違いの圧力と痛みに、泉は涙すら流せない。北斗は最奥まで自分のものを挿入するため、泉の腰を持ち上げる。
「ああっ、んぁぁあっ」
 泉は痛みで朦朧とする視界と、思考の中に俊介じゃないものを見る。
「俺を見ろっ、泉…。愛してるから…俺を見ろよっ」
遠くで声がする。
 誰…?俊介…?俺の中にある、この圧迫はなに…?俊介なのか?
 恐かった。体も、心も痛かった。けれど、俊介はこの行為をしなかった。今、自分の中にいるのは、俊介なんかじゃない。
 この痛みは俊介のくれた痛みじゃない!
「ほ…北斗ぉ…」
泉は久しぶりにその名前を呼んだ。北斗の目が笑ってる気がした。ああ、けどもうあんまり考えられない…。
「泉…好きだ…愛してる…」
そう目の前の北斗は泉だけに聞こえる声で言いながら、腰の律動を繰り返す。
「北斗…ぁあんっ、北斗…」
このこは俊介じゃない。俊介じゃないんだ…。
 体を繋いだことではじめておもいしらされた。俺が恐かったのはえっちをすることじゃなくて、恋に落ちることだったんだ。また、裏切られるって考えて。
 でも、きっと北斗は大丈夫だ…。なぜか泉の中でそんな安心感が広がった。だって、北斗の言ってくれるアイシテルは、俊介とは重みが違ったんだ。ズンと胸にくる。
 ああ、幸せってこういうことなんだな…。泉は北斗を体の中で感じながら、暖かい涙を流す。
「ぁっ、ああっん…」
北斗の欲望が泉の前立腺を突き、泉の中で苦痛以外の何かが生まれる。
「感じて…俺を欲しがって…」
「あっ、あっ…北斗ぉ!」
泉は自分が何を欲しがれば良いのか、どうすれば北斗の望に答えられるのかわからず何度も北斗の名前を呼びながら、泉の首に抱きつく。
 北斗にはそれだけで十分だった。
 北斗は泉の秘所から自分の欲望を、抜き差しするくらい激しく上下に揺さぶりをかけた瞬間に、北斗は泉の中に北斗の存在を示す全てを放っていた。
 泉はその下腹部に飛び込んできた熱いミルクを体全身で受けとめた。
 「泉…泉…。大丈夫か」
「んん…」
泉は北斗に軽くおでこにキスされて、あいまいに答える。体が何か乗っかっているように重い。泉は一番大きく圧迫を感じるお腹の部分を抑えながら体を上げた。
「うわぁぁ。北斗っ」
目の前にいきなり北斗がいて、再び驚く。今の今まで、体の重いわけをまったく忘れていた泉は、全てを思い出しカーッとなる。
「驚きすぎ…泉」
北斗はクスッと笑いながら、泉にコーヒーを渡す。泉はそれを両手でしっかり握るとゴクゴクと一気に飲み干した。ずいぶん前に煎れて来たのだろう、コーヒーはすでにぬるくなっていた。
「泉体は平気?」
「…平気じゃない…けど聞くなよ。恥ずかしいっ」
「はいはい」
泉はコーヒーカップを北斗の方をみないようにして、つき返す。北斗はそれを受け取ると、ベッド脇のミニテーブルにそれを戻した。そして、今度は真剣な目つきになった。
「それで…俊介って誰」
「……」
泉は黙り込む。けれど、それはどう説明したらいいのか迷ってるだけで、いままでみたいに逃げようとしてるわけじゃなかった。
「…昔の…恋人…かな」
自分ではそう思っていて、裏切られたのだから、言葉にして認めるのはかなり厳しかった。けれど、隠すわけにもいかない。
「恋人…」
北斗はその響きがいやに耳についたらしい。泉は慌てて弁解する。
「で、でも、こ、こんなことはしなかったんだからなっ」
こんなことって何って聞かれなくてよかった。説明なんてできるわけない。
「わかるよ。泉の反応見てたら」
「う…」
泉は恥ずかしさでちょっと言葉に詰まる。
「で、めちゃくちゃに裏切られて恋愛不信だったの!俺は。それを北斗は無理やりな方法で治してくれるんだもん…まったく困ったやつ」
泉は北斗の頬に軽くキスをした。
 北斗にはどんないいわけより、これが一番聞いたみたいだ。
「お褒めのお言葉をいただきまして」
そう言うと、北斗は泉に優しいキスをした。
 泉が今まで味わったキスの中で、一番優しかったのに、一番感じちゃったのは言うまでもない。
 「こ、これはなんだー!」
泉はシャワーで体をきれいにして着替えたあと、勉強机の引き出しの中から出てきた泉のアパートの権利書を見て北斗に怒鳴る。
 北斗はしれっとした態度を崩さない。
「何って…泉が住んでたアパートの権利書だろ…」
「お、お、お前が持ち出してたのかっ」
「ああ」
ああってお前…。
「まさか…授業妨害もお前の仕業って本当だったのだか」
「ああ、あれね。みんなにちょっと良い話しを持ち出したら、あっさり授業にでなくなってくれたんだよ」
どんな交渉をしたのか知らないが、この男の大きさをしり、泉はポカンとする。
「ついでに言うと、サイフを盗んだのも、靴を隠したのも、仕事を首にしたのも、君の大好きな先輩をハワイの姉妹校に送ったのも僕なんですよ、先生」
北斗はにーっこり凶悪な笑顔で言う。
「な、なんでそんなことっ」
泉はあまりの急激な告白に壁際まで後ずさりする。
「だって、こうでもしないと泉俺に頼ってこなかっただろ」
「そ、それは〜…」
泉はそう言われると何も言えなくなる。
「な、だろ。だから、これは当然の行いなんだよ」
なんか俺丸め込まれてない?
「違う!おかしいぞ!俺は学校に戻るからなっ」
泉は自分のスーツを着こんで、出ていこうとする。
「なんでだよ、仕事なら俺の家庭教師でいいじゃん」
「よくないっ!人がどんなにがんばって先生になったと思ってるんだ」
泉は横暴な北斗の態度に呆れてしまう。
「しかたないな…じゃあ、先生にだけは戻してあげる」
「なんだその言い方。俺は先生なんダゾ」
泉は食ってかかる。どうせ負けるのにね。
「みんなには授業するのに、俺は泉の授業聞けないなんてずるいだろっ」
そんな理由だったのか。ただの子供のわがままじゃないか…それじゃ。泉はプッと吹き出す。
 けれど、すぐに子供の顔から大人の顔になって、北斗は耳打ちする。
「ま、俺は泉にベッドの中で教えてあげてるんだから、おあいこかな」
泉が真っ赤になって、この部屋を飛び出していったのは言うまでも無い。
完。

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