−14− | 小説。 | 教師。

● やまとなでしこ☆ダイナマイト --- −15・ラスト− ●

「ココロっ!」
 空耳…?
 小さいけれど、重くて胸にズキンって突き刺さる声がした。
 その声の持ち主は…。
 まさか…。
 俺は、理不尽にも踊り舞い始める自分の胸を、制服のガクランの上から掴んだ。

 『先生方、ふざけるのはいいかげんにしてください』
 そう怒鳴ったヒトミの声は、LLC女学園全体に聞こえてしまうかのようだった。
『やっぱりこんなところにお兄ちゃん入れるんじゃなかった…』
 その呟きに、雪は違和感を感じた。
『ヒトミ。あなた、何か考えがあってやったんじゃなかったの?』
 何気なく言ったのに、ヒトミはキッと親友を睨んだ。
 そうとうなブラコンを隠してきたヒトミだが、実際この世の誰よりも、可愛い自分の兄を猫可愛がりしてきたのは、母、姉以上にこの娘なのだ。
『“考え”ですって〜?あったわよ、最初はね。最初はお兄ちゃんの女嫌いを直したかったのよ。だって、そうじゃなきゃ、お兄ちゃんは絶対男に襲われると思ったから。それで新先生に相談したの。そしたら、女性に囲まれた場で生活すれば直るでしょうから、ここに通わせなさいって。あ〜…もう、あの言葉信じるんじゃなかったっ』
 ヒトミは過去の自分を恨んで、地団太を踏んでいる。
 でも、それじゃあ…新とココロをくっつけようとして、ココロをつれてきたわけじゃないんだな。
『よかった』
 俺が思わず呟くと、ものすごいスピードで睨みの矛先はこちらに向かわされた。
『全っ然、よくないわよ!』
 さっきから思っていたけれど…この子、相当怒っているな…。
 でも、そんなの関係ない。
 俺は、ココロを追いかけなきゃいけないんだ。
 勝手に告げられた別れに納得なんかしてない。あの子は何かを勘違いしてる。今、それを説かないと…きっと、一生後悔する。
 どんなに女々しいと思われてもいい。
 こんなの天下の叶 英吏様じゃないと言われるかもしれない。
 そんなの関係のないことだ。
 俺にはココロの存在だけがフルカラーで、モノクロの世界に唯一咲く大輪。
 失ってしまえば、俺の青い目が輝いている意味はなくなるだろう。俺の女好きする唇が、言葉を発する意味を無くすだろう。
 なぜなら、それはココロを愛でるための目であり、そして、ココロに愛を囁くための口なのだから。
『すまないね』
 謝り方も尊大だったせいか、ヒトミはますますご立腹。
『何を謝ってるんですか』
『君を怒らせている原因は俺だから』
 英吏は切れ長の目を細め、髪を掻き揚げた。
 その仕草は、その場にいた誰もを魅了させ、一瞬時を止まらせた。
『俺はココロの恋心を奪ってしまったから…ね』
 さよなら、が本心じゃないことくらいわかる。
 ココロがもし、俺のことを本当に嫌いになって“さよなら”をするのだったら、あんな一瞬の拙い言葉で終わらせるはずが無い。何度も何度も言葉を考え、俺を傷つけない最良の言葉を選び、そして尚、間接的に表現していただろうから。
 ココロと過ごしたのはたった二週間だけれども、その間にココロと言う人物に自分ははめられてしまったから。
 あれは麻薬。あれは奇跡。あれは希望。
 恋愛を何の感情も持たずこなしてきた俺への唯一の光だ。
 その光を、未来への道標を失うわけにはいかないのだ。
 身勝手だって思われるかもしれない。ココロは嫌がるかもしれない。けれど、ココロは俺にとって、かけがえのない人物なのだ。
『……あたし先生嫌いよ。言っとくけど、認めもしない』
 ヒトミはそう言い断ってから。
『でも、ここで引いたら、殺してやるから』
 雪から受けた説明は、ヒトミをどれほど驚かせ、痛めつけたかわからない。
 だけれど、その説明は鮮明で。
 あの女性嫌悪症の兄の初めての本気の恋なのだとわかった。
 お兄ちゃんが好きで、だからムカツクけれど、本気の恋愛を…喜ばずにはいられないから。
『その命令、謹んでお受けしよう。義姉上』
 英吏が自然の流れでそういうと、ヒトミの頭のこめかみのあたりには、筋がピキッと走る。
『……で、新先生…は、一体何をしたんですか』
 とりあえず、恋愛馬鹿に陥っている英吏は置いといて、台風を起こした張本人を睨みつける。
 新はいつもの笑みで、ニコニコと笑っている。
『僕はココロくんが欲しいとヒトミさんに言ったでしょう?実行したまでです』
『な!ヒトミくん…!ココロをこんなヤツに渡そうとしてたのか!?』
『出来るもんなら、してみてって言ったのよ…あたしは。お兄ちゃんは馬鹿でアホでどんくさいけど、ちゃんと一応人を見る目くらいあると思ったから。…でも』
 それまで黙っていた雪は、落ちていたテープレコーダーを拾うと、再生ボタンを押した。
『俺が愛しているのは・・・・・・ヒトミくんなんだ・・・』
 英吏の叫ぶ声が、廊下に響いた。
 英吏は自分の声がしたのに驚き、そして、ココロの真意を瞬時に悟った。
 これは、あの時の…。
 新は依然ニコニコとその声を聞き、雪は、訳知り顔で納得した。
ヒトミは顔色一つ変えずその言葉を聞いた。
『そうか…貴様、これをココロにっ…』
『どういうことです?先生』
 怪訝そうな顔で聞いていた雪が、英吏に問うと、英吏は新を睨んだままで適当に答える。
『…道明寺くんが俺がヒトミくんに執着していると言うから、言ってやったんだよ。俺が好きなのはヒトミくん…今現在、LLCにいるヒトミくんだって。つまり……ココロだって言ったんだよ…。それを、コイツは!!』
 殴りかかろうとする英吏を新は嘲笑した。
『まだまだ子供ですね、英吏は。あれくらいで惑わされるんですから』
『いいんだよっ。俺の恋愛が子供であろうと…。俺の恋愛はココロと二人で育んでいくものなんだから…』
 そう…それでいいのだ。
 この男に引け目を感じていた自分を壊す。
 もう、この男に屈したりしない。
『何もかもくれてやる、兄さんっ。けど、けど…ココロは譲れない』
 英吏が新に向かって叫ぶと、みんな雪とヒトミは目を丸くした。

 「ココロッ!」
 また声が聞こえた気がする。
 嘘だ…嘘だいるはずがない。
 だって、今日は平日で、しかも…夏休みも終わったんだよ。
 でも、どうしよう…幻聴かな。
 心の中で、まだ吹っ切れてない。
 ううん、まだ、じゃなくて、きっと一生吹っ切れない俺の思いが、その幻聴に共鳴する。
「ココロッ!顔を見せてくれっ」
 いてもたってもいられなくなり、ココロは授業中だってことも忘れて、立ち上がり教室の一番後ろの窓を開ける。
 クラス中の視線が背中に集まってる気がしたけど、今はどうでもいい!
 後でどんなに恥ずかしくなるかわかってるけど、今は本当…なんでもいいんだ。とにかく、この胸の衝動をどうにかしたい。
「ココロっ!」
 ココロの教室。二階の二年四組の窓を開けば、丁度正門が見える。
 そこには、真っ赤なスポーツカーを置き捨て、窓という窓にむかって自分の名前を叫んでいる英吏の姿が。
――――英吏!――――
 心臓が壊れる。
 咄嗟に姿を教室のカーテンで、英吏から遮る。
 爆発するくらいドキドキが起こる。
「おい、ココロ?どうしたんだよ…」
「ココロ君?」
 教室の中から、心配そうなクラスメイトと先生の声がする。
 このまま隠れていたら、英吏は帰るだろうか。
 もう、夏休みの秘密の出来事なんてなかった事として、帰ってしまうのだろうか。
 例え、英吏がここにきた理由が別れ話でも、なんでも聞かないと…俺は一生英吏の声をもう二度と聞くことはなくなっちゃうんじゃないかな。
 それでいいの…?
 心の中で、もう一人の自分が問い掛ける。
 わかんないよ。
 わかんないよ。どうしたらいの?
 カーテンから少しだけ顔を出した瞬間、その瞳は英吏の瞳と合った。
 視線がぶつかった瞬間、それだけで壊れてしまいそうだった。
「ココロっ!」
 英吏の声が、一直線にこちらにぶつけられる。
 英吏にも自分の存在がどこにいるか、わかられてしまったらしい。
 隠れてちゃダメだ。
 心の中で後押しされる。
 ココロは、一生分の勇気を振り絞って窓から顔を出す。
「英吏……何してるんだよっ!ヒトミはもう帰ってきたじゃないか…」
 叫んだ瞬間、各教室の窓が次々と開いた。
 俺の声と、英吏の声を聞きつけたせいみたい。
 恥ずかしさでどうにかなりそうだったけど…でも…。
「君は誤解してる。俺の言葉を信じてくれ」
「英吏の言葉を信じたから、わかったんだよ。英吏が好きなのはヒトミなんだろ!?もういいから…わかってるからっ」
 誤解も何も…俺はこの耳で。
「ココロは俺の真の言葉と、テープレコーダーの声とをどっちを信用するって言うんだ」
「!?」
 テープレコーダー!?
 どうして、その事を英吏が知ってるんのさ。
 だって、あれは…新さんが…。
「俺が愛しているのはココロだけだっ!」
 英吏が恥も外聞もなくそう叫ぶと、クラスメイト、先生、他の教室の人たちが一斉にドッとなる。
 ココロは耳まで真っ赤にして怒鳴る。
 何言ってるんだよ、英吏…。
 今、そんなこと言われたら……信じちゃいたくなるじゃんか。
「止めろよっ!止めろっ!こんな所でっ」
 ここは普通の男子校で。
 男の俺に、英吏がそんな事を叫んだら、冗談になんかならない。
 英吏が世間的に批判的な目で見られてしまうじゃないか。
 止めてよっ。もう気休めで愛の言葉を囁くのは。
「どこでだって言ってやるさ。俺が世界で一番好きなのは、男のココロだ。顔が似てるだけの、どこかの誰かじゃない…。根元ココロだ!」
「嘘だっ。だって……俺はヒトミとそっくりなのに、なんで女のヒトミじゃないのさっ!面倒くさいだけじゃないか、俺なんか好きになっても。馬鹿だし、可愛くないし、男だし、恋愛したことないし!」
 ヒトミと自分を比べれば、劣るところばかり見えてくる。
 何一つ良いところなんて、見当たらない。
「周りの事をいろいろ思って悩むココロは馬鹿みたいに可愛いんだ。恋愛に、性別なんて関係ない…!君が恋するのは、俺だけでいい。お願いだ、ココロ。そろそろ好きって言ってくれ」
 英吏はココロの教室の真下まで走ってくると、両手を広げた。
 熱い涙がこみ上げてくる。
 どうしよう、どうしてもこの人が好き。
 どうしようもなく、この人を愛してる。
 ヒトミになんかあげられない。
 ココロの返事なんか一つだ。
 涙で潤む瞳を黒い学生服で拭うと、窓に足をかけた。
「ココロ、ちょっと何やってんだよ!」
 後ろから、その行為を引き止める声がする。
 ココロはでも振り返らない。
 何が起こってもいい。
 ココロは二階の窓から、英吏の胸へとダイブした。
 いくらココロが軽いとは言っても、二階の窓から飛び降りればその圧力プラスで重さは倍以上になる。
 けれど、英吏は受け止められる自信があった。
 飛び込んでくるココロを見止めた瞬間に。
「英吏っ」
 ココロを抱きしめた瞬間、その温かみが胸に染みた。
 人って言うのは暖かい、そして、愛すべき生き物なのだ。
「おかえり…ココロ」
 英吏の声が震えてる。
 きっと…英吏もドキドキしてたんだね。俺以上に。
 俺、英吏はずっと俺なんかより遠い存在だと思ってた。生きた長さにしても、頭の出来にしても、恋愛の数にしても。
 でも、今はすごく身近に感じられるよ。
「ただいま英吏」
 ココロは英吏の首筋に顔を埋めた。

 英吏の車に乗せられ、つれてこられたのはもちろん…LLC女学園。
 降りてからずっと繋がられている手を引かれ、導かれたのはあの、桜の木の下。
「俺はね、ある人にずっとコンプレックスを持って生きてきたんだ」
 英吏は唐突に話始めたけれど、俺は何も言わずそれを聞いていた。
 英吏の声が聞きたい。
 英吏の話が聞きたい。
 今は、何よりも…。
「力も、人徳も、地位も、他人からの評価も。全てがそいつの方が上でね。そして、両親の愛も…そいつに注がれたよ。当たり前だよね、すごいって言われてたんだから」
「両親って…もしかして英吏の兄弟なの?その人」
 英吏の家庭の話を聞くのは初めてだ。
「兄さ」
「お兄さん…」
「そして、兄は頭が良かった。俺から何もかもを奪うのは全て計算だったんだよ。だから、俺は全てを捨ててくれてやった。両親も、金も、与えられた地位も、そして、名前も」
「名前?」
 名前を捨てるって??
 どういうこと?
「堰壮院 英吏。俺の前の名前だ」
 せきそういん…って、あれ…どこかで聞いたことあるような。
 俺がそういった顔をしていたのがわかられたのかな。
 英吏はちょっと笑って、答えた。
「ここの学園長の名前だよ」
 ああ、なるほど…学園長。
「が、学園長!?」
 って、ことは、英吏は学園の関係者なの?
 え?は、初耳だよ。
「そして。学園長の名前……覚えてるかな?」
 え、と…学園長の名前は確か…。
 あれ…?
 あ、まさか…。
「あ…新…さん…。まさか、新さんって…」
 LLC女学園学園長の名前は…。
 堰壮院 新。
 新さんだ。
 まさか…。まさか…。
「あの人の道楽もどうにかしてほしいね。本来教職にはつかなくて言い学園長なんて役職についているのに…まったく」
「じゃ、じゃあ…新さんと英吏って」
「血の繋がった兄弟さ。最も、俺は叔母君の家に養子に入ったから、苗字は違うんだけど」
 そうか…だから、新さんと英吏ってどことなく似てたんだ。
 兄弟だから、当たり前じゃん。
「だからね、ココロ」
 繋ぎっぱなしの手を、自分の口元にまでもっていって、軽く口付けをした。
「俺は、また…大切なものをアイツに獲られるんじゃないかって…俺の人生の中で一番大切なココロをアイツに奪われるんじゃないかって、気が気じゃなかった…」
 それって…ヤキモチ妬いてくれてたってこと?
 俺の…ために?
 実のお兄さんに。
「お…俺も…英吏はヒトミを好きなんだって…思って、嫌で嫌で…どうしようもなくて、諦めようとしたんだけど、出来なくて…っ」
 実の妹であるヒトミに嫉妬してた。
 今ならわかる。
 あれは嫉妬。
 醜い…醜い俺のヤキモチだ。
「俺が好きなのはココロ。君だけだ。俺の未来を全て君に捧げると誓うよ」
「俺が好きなのは……英吏だよ。一生…英吏以外の人なんて…好きになるはずないだろっ」
 過去も、未来も、現在も。
 英吏にあげるよ。
 ふいに、唯一繋がれている手が英吏の元へと導かれ、引き寄せられる。
「三度目の正直だ。永遠の愛をここに誓っても良いかな」
 英吏の返事を待たずに、ココロは英吏の首に両腕を回し、背伸びをして、口付けた。
 一秒にも満たない、触れるだけ、ううん、軽くぶつかっただけのようなそのキスは、たぶん、世界一のキス。
 英吏はそのココロの触れた唇を、今度は自分からココロに付けた。
「んっ……」
 今度のキスは、触れるだけじゃなかった。
 英吏の思いを伝えるべく、その熱を含んだ舌がココロの口内を傍若無人に行き来する。
「はっ…英吏っ…んぁっ」
 久々のキスはお互いの身体に火を点す。
 掌から、唇から、舌から、唾液から、お互いの零れんばかりの思いが伝わり、キスだけじゃ受け止めきれない。伝えきれない。
「…ココロ…」
 掠れた声が耳元でした。
 英吏のセクシーボイスは、桜の木下で、切なく響く。
 英吏が何を望んでいるのかわかる。
 自分もそれを望んでいるから。
 この伝説の桜の木の下で、ぎゅってして欲しい。
「英吏っ…んっ…あっ…」
 ココロの学ランのボタンをキスをしながら、外していく。
 プチ、プチ…と言う音が、耳に響き、脱がされている今の状況に飲み込まれていく。
 きっとこれは、良い夢。
 醒めた後のことなんて、その時考えよう。
 ココロはその身を、英吏に任せた。
「あ…英吏っ…だっ…ダメっ」
 上着を脱がすと、英吏は次にその手を下肢へと伸ばす。
 英吏と触れ合わなかった間、ずっと手付かずだったココロのそれは、キスだけで
すでに勃たちあがっていて、先走りの蜜で光っていた。
 急に恥ずかしくなり、英吏に静止を頼むけれど、そんなのお構いなしに、英吏は地面に両膝をついた。
「ああっ…嫌っああ…そんなの…英吏っ…」
 ココロのそれを口に咥えると、塞き止めることもせず、欲望のままに扱いていく。
 年若いココロのソレは、与えられる激情に身を任せ、上り詰めていく。
「気持ちいい?…ココロ。気持ちいいよね。だって、ここもう張り詰めてる」
「ふっ…あぅん…ああっ…英吏っ」
 英吏のココロを煽る言葉は、ますますココロを高みへと追いやる。
 抱き合える喜びが、二人を悦ばせる。
 ココロの初恋は英吏で。
 きっと、英吏の初恋もココロ。
 何もかもかなわないと諦めてきた相手に、これだけは譲れないと宣戦布告した。
 あの兄が、もう何もしてこないとは思えない。
 けれど、ココロは渡せない。
 何に変えても。
 俺のものなんでもあげる。
 だけど、ココロはダメ。
 ココロは俺の。俺はココロの物だから。
「やっン…ダメっ…いっちゃう…出しちゃうからっ…」
 そういって頭を押しやろうとするが、その力は快感の前ではあまりに小さい。
 英吏はココロに与えられるがままに、刺激を与えていく。
「あああっ!」
 一層ココロの可憐な声が響いた瞬間、英吏の口内に、ココロの欲望は放たれていた。
 英吏はそれをゴクンと喉を鳴らし飲み込むと、口元を拭った。
「ごめ…英吏…」
 謝るココロに、英吏は首をかしげた。
 愛しい人の何もかもを食べてしまいたいと思うのは、男の性なんだけどな。
「謝らなくていいから、誘って欲しいな」
 冗談めかして言えば、ココロは戸惑ったようだった。
 けれど、次の瞬間には、英吏の手をとり。
 さっきココロのそれを舐めて扱いていたように、英吏の指を丹誠に舐めていく。
 ココロの拙い舌の動きが、英吏を悪戯に煽る。
「んっ…ぅ…んっ…はっ…」
 ぴちゃぴちゃと言う音と共に聞こえてくるは、ココロの荒れた息遣い。
 理性の糸もこれでは切れてしまう。
 ココロの口からねっとりと濡れた指を取り出し、英吏はココロの身体を抱え、桜の木に押しつけた。
 そのまま深い深いキスをする。
 欲望のままに唾液は溢れ、ココロの口元から零れ落ち、それが卑猥に光る。
「辛かったら言って……」
 英吏はそう言ってくれたけど。
 辛いはずがあるわけなかった。
 英吏と離れて生きている以上に、辛いことなんて俺にあるはずがなかった。
 それは身体的な距離じゃなくて、心の距離。
 ついさっきまで世界の果てよりも遠かったその距離は、今は触れられるほど傍にいる。
 俺の唾液で濡れた英吏の指が身体の中に、入り込む。
「んんっ…っ」
 そこを使うのは久々だったし、立ったままの体制は結構力が入り、緊張が解けない。慣れていない身体は少しだけ悲鳴をあげた。
「ふっ…ぁうあん」
 けれど、英吏はそのたびに、ゆっくり押し進め、ココロに負担がかからないようにと、慎重に内壁を広げていく。
 暖かく、情熱的な締め付けをするソコは、英吏の指を必死に咥えこみ、ヒクヒクと締め付けてくる。
 それが欲しいと言ってくれているようで、英吏は自分の雄が張り詰めていくのを感じる。
「ごめん…ココロ…俺も余裕がない…みたい」
 首筋にキスをしながら、耳元で囁かれて、囁かれたココロのが顔を真っ赤にする。
 だって、嬉しいから。
 それって、好きって証拠でしょ?
 いつまでも、余裕たっぷりの英吏じゃ、嫌。俺ばっかりおかしくなって、ぐちゃぐちゃしてるのなんて恥ずかしいもん。
「英吏っ…好き」
 恥ずかしくて、すぐやってイイヨ、なんて言えないココロは、英吏の首に手を回し、自分へと引き寄せる。
 それを合図に、英吏はココロの腰を抱えなおし、自分のズボンのジッパーを緩める。
「ああっ……ン…ひゃあっ」
 英吏の左りの手が、Tシャツの上から胸の突起を撫でる。
 煽られて尖ったソコは、白いTシャツごしにピンクになり、英吏を誘う。
 英吏はそこに噛み付き、軽く噛んでいく。
「いやぁんっ…それ…ダメぇ」
「気持ち良いだろう。もっと溺れて…見せて、俺だけのココロを」
 Tシャツ越しというのが、変にストイックで。
 してることは大胆なのに、まるで焦らされているような。
 その感覚にココロが眩暈を覚えはじめた頃、英吏はココロの蕾に入れていた指を三本へと増やす。
「はぁっ…はあっ…」
 さっきよりも苦痛を伴わないココロの喘ぎ声が響く。
 中の指をぐるりと回せば、ココロの感じるポイントを付き、ココロの肢体は激しく仰け反る。
 それを見計らったように、英吏は指を抜き、自身のココロへの愛のせいで見境のなくなった欲望を突き刺す。
「ああぁんっ!」
 ココロの口から甘美な嬌声が漏れる。
 苦痛にも似たその声には、それだけではない響きが入っている。
 濡れた瞳、欲情した頬。喘ぐ唇。
 理性の弾け飛んだ英吏は最奥まで、それを押しこむ。
「ふっああんっ…英吏っ…ああっ」
 欲望に全てをゆだねた二人の身体は、何よりも正直で。
 お互いの全てを語っている。
「…ココロ、君を抱くのが…少しだけ怖いよ」
 弾けそうな思考の合間に、英吏の切ない声が聞こえる。
「な…に…?なんて言って…?」
 英吏はココロを抱きしめながら、繋がった部分に緩い抜き差しを加える。
「俺の思いが全て伝わってしまうから…どれほど俺が君を愛しているかを…わかられてしまうから…」
「ひゃあっん…っあ」
 キャンディのように甘く。
 ワインのように深い思い。
 俺だって…英吏を同じように愛してる。
 ううん、英吏が思う以上に愛してる。
 きっと、お互いがお互いを思う以上に…。
「英吏っ……一生愛してる」
 喚くように言えば、英吏の下半身を絶頂へと連れていく。
 コントロールをつかなくしたのは、ココロ。
 思うが侭に動くそれに正直に、英吏は追い上げをかけるため、ココロの腰に激しく突き上げる。
 若草揺れる夏の桜の木が、二人の情事を表すように、激しく揺れる。
 それは風のせいか、愛のせいか。
「二人で一生分の夢を見よう…」
 英吏はココロに口付た。
 その瞬間、ココロの身体から二度目の欲望が放たれ、そして中にも英吏の愛情が零れんばかりに広がっていた。
 桜の木さん。
 三度目の誓いを受け取ってください。
 きっと、一生分のキス…だから。

  手をつなぎ、桜の木から出てくれば、LLC女学園の門には、西園寺、ヒトミ、京太郎、加賀美、宮がこちらを見て、待っている。
 先手切って叫んできたのは、ヒトミ。
 叫んできた…というか、ココロを奪ったと言うか。
 英吏の手から、絶交をするようにわざとココロの手を切り離し、所有物のように後から抱きしめた。
「いーい?先生。言っとくけどあたしは、認めたわけじゃないですからねっ」
「ヒ、ヒトミやっぱり…英吏の事……」
 ココロが自分を抱きしめる妹を、振り返れば、ヒトミは呆れた…というか、信じられないとばかりに、顔を歪めた。
「あのね、お兄ちゃん…何が悲しくて、叶先生なんか好きになんなきゃいけないのよ」
 ヒ、ヒトミ……それはあんあまり言いすぎじゃないですか?
「じゃあ…俺、英吏を好きでいてもいいの?」
 ココロのあまりに可愛らしい言葉に、さすがのヒトミも、もう何も言えなくなったらしい。
 肩を大きく動かし、ため息をつくと、やっぱり睨みの矛先は英吏へと向いた。
「まだまだ邪魔しますからねっ」
「どうぞ。どうせココロと俺は一生一緒なんだから」
 英吏はムキになって、ヒトミからココロを奪い、胸の中に納める。
 抱きしめただけで真っ赤になるココロの反応が可愛くて、みんなの前だけど思わず耳朶を噛んでしまう。
「あっ…ちょ…英吏っ」
 ヒトミたちの前なんですけど…。
 もう〜っ!
「そうですか。なら、ここに就職するといいですよ。ココロ君の高校卒業後の就職先はぜひLLC女学園へ。どうせ、雇用管理は僕の仕事ですから」
 そう言いながら、学園から歩いてきたのは今回の台風一家。新堂新こと、堰荘院新学園長。
 英吏の俺を抱きしめる腕が、いっそう強くなった。
 けれど、相変らず新さんはニコニコ顔で。
「そうだねぇ、それがいいんじゃない?僕もココロ君に美味しい料理が作れるわけだし」
 京が空気を読まず、新の案に賛同すると、加賀美も頷いた。
「ああ、君に合う服をデザインしようかと思っていたんだ…ふふふ、そうだね、面白い。ぜひ、私の助手にでも」
「それを言うなら、保健室の先生だろう?白衣を着たココロはさぞ、そそる事だろうなぁ」
 み、宮まで…。
 英吏とヒトミの気持ちがはじめてシンクロするのをココロは感じた。
「先生……あたしは先生を認めないけど…虫たちから守る分には、認めてますから…よろしくお願いしますよ」
「了解ですよ…義姉様」
 俺の就職を巡って、華やかになっていく四人と、なぜかタッグを組みつつある二人。そして、それを見守るやっぱり不思議極まりない少女を俺はそれぞれ見て、何気なく呟いた。
「俺……LLCに就職しよっかなぁ…」
「!?」
 七人の視線がいっきに俺に集まる。
 あれ…?俺そんなに変なこといったかな?
「だ、だって…そしたら、ずっと英吏の傍にいられるでしょ?」
「ココロっ!」
 か、可愛すぎる!
 思わず抱きしめればヒトミに引き剥がされそうになる。
「ちょ、ちょっと先生!?約束はどうなったんですかっ!」
「よし、じゃあ…手続きの容易をもうしましょうか。楽しみですねぇ」
「新センセっ!」
 ヒトミの困惑ぎみの声が響く。
 きっと、母さんたちにも報告がいって、大変なことになるんだろうな。
 俺の人生は英吏と出会ってから波乱万丈になることが義務付けられたみたい。
 でも、きっと…。
 その先は、きらめくような幸せが待っているんだろうな。
 もちろん…英吏と一緒の未来が。
完。

−14− | 小説。 | 教師。
Copyright (c) 2004 tanakaoukokukokuounakata All rights reserved.
 

-Powered by 小説HTMLの小人さん-

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送