欲情☆発情★ボイス

−3− −5− 小説。


−4−


次に目が光を感じたのは、お昼過ぎだった。今日のスケジュールを思い出し、朔也は身体を思いっきり起こす。下肢から感じる激痛に顔をゆがめる。いそいで予定表を見たいのに、そこまで歩けないと身体が叫んでいる。足も腰もガタガタだった。記憶は嫌になるくらいハッキリしていた。自分が何をされたかも、それの原因も。ただいつのまに運ばれたのか自分を優しく包んでいるのは、鍵を掛けたはずの寝室のベッドの上だった。朔也は鍵を普通にずぼんのポケットに入れていたことを思い出し、自分の頭をたたく。つめが甘い自分にほとほと愛想がつく。けれど、そのベッドを見て激怒するはずの相手の姿はない。
「吏人…?」
自分の家の、自分のベッドの上のなのに淋しさが襲う。吏人に酷いことをされたはずなのに、艶をましたその声で何度も名前を叫ぶ。
「吏人っ、吏人っ」
シーツを身にまとって寝室を飛び出すと、その男はソファの上ですやすや寝こけていた。シャワーを浴びた後なのか少し髪が濡れていて、このままじゃ風邪を引いちゃうと思って、いそいでタオルを持ってきて頭にフワリとかける。そんなことをしても全然起きる気配がなくて、吐息一つ立たせず眠っている吏人にいささか不安を抱く。朔也はそこにしゃがみこみ、吏人の寝顔を覗き見る。少し色素の薄い前髪の中には、やはり茶色掛かった長いまつげが大きな目をいっそう引きたてていた。母親にだろうか?幸四郎はかっこいいが、吏人とはタイプが違う。吏人がコンピューターの似合うインテリタイプなら、幸四郎は真夏の海の家の店主ってイメージ。吏人は小さい頃から幸四郎とは離されて暮していたらしい。吏人が言うには、早くに妻を亡くして育て方がわからず捨てるようにここの事務所に預けられたんだって。でも、違うと思うな。だって、幸四郎さんって言えばすごくすごくいい人だもん。オレの知る限り、最高の父親像が幸四郎さんだ。まあ、自分の父親が最悪だったぶんそう見えるのかもしれないけれど。たぶん、吏人と吏人のお母さんがそっくりだったから、見るのが辛かったんだろうな…。どうして接して良いのかわからなったんだろうな。あれ…?それじゃあ…まさかオレのお父さんも?いや、違う。幸四郎さんは息子を無理やりに芸能界にいれたわけじゃないし、商品化したわけじゃない。オレは必死に首を横にふる。吏人は小さい頃に幸四郎の古いなじみである白河百合に預けられたせいか、百合さん(オレにとっては今は社長さん)をめちゃくちゃ慕ってる。そりゃ、お母様って言うより神様みたいな。たぶん吏人が頭を下げるとしたらこの人だけじゃないかな?ねっからの王様気質だからね。オレにとって吏人は最愛。そんな最愛の人の慕ってる人を騙してしまおうとしている自分がちょっとだけ嫌になる。けど、もう後にはひけない。俺は吏人の頭をなでなでしながら、吏人の目の前で囁く。
「ごめんね…愛してる」
「それは本当っぽいな」
いきなり目の前の死人の用に寝ていた男に手首をとられ、驚きの声をあられもなくあげる。
「ひゃあっ!!」
「そんなに驚くなよ…」
オレはさっき呟いてしまった自分の本音が恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして怒る。
「た、狸寝入りしてたなっ」
「誰も寝てるなんて言ってないだろ」
吏人はオレの手を離すと身体を起こし、大きく伸びをした。俺はしゃがんでた身体を奮い立たせ、怒りと恥ずかしさで身体を震わせる。
「吏人のばかっ!最悪〜!!」
「はいはい…でも、それは嘘だな。さっき愛してるって言ったもんな」
にんまりと微笑む吏人。さっきまで激怒してたやつとは似ても似つかず…。いまさら言ってないなんて良い訳もできないわけで、俺は羞恥に顔をゆがめる。
「起きろよっ。仕事だろ」
俺は吏人がその長すぎる足からお腹のあたりまでにかけてあったブランケットを端っこをひっぱって取り除くと、吏人を追いたてるように立たせた。
「はいはい…さすが仕事熱心な朔也君。でも君のほうが準備に時間掛かりそうだね〜」
そこまで言われて初めて自分がシーツしか身にまとってないことに気付き、再び耳まで真っ赤に染めると、朔也は身体をふるふる震わせながら無言で寝室にダッシュした。それを見て吏人が一人、嬉しそうに微笑んでいたなんて誰も知らないんだけど。
 「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
事務所についたのは一時ちょっと過ぎ。今日は八時にはここにいるはずだったのに。朔也は申し訳なくて何度も何度も優一に頭をさげる。
「そ、そんないいよ、いいよ朔也君。三時まで今日はボイスレッスンだったんだし…。体調悪かったんでしょう。吏人から聞いたよ」
うっ…。心配そうにみてくる優一に本当に頭があがらない。吏人はもともと謝る気なんてさらさらなかったみたいで、壁に寄りかかって朔也の謝る姿を観察していたが、憎らしそうに朔也が睨んできたのに気付き、肩をすくめる。
「朔也…もういいじゃないか。優一も良いって言ってるんだし」
「お、お前も少しは悪いと思えっ」
吏人がべったりと朔也のわきを固めるようによりそってきて、それをイヤイヤするようにバタバタしながら叫んだ。
「俺がいつ謝らなくちゃいけないことをしたっていうんだ。俺はお前の起きるのを待ってて遅くなったんだぞ」
しらじらしく語るそのきれいな顔を粘土細工みたいにぐちゃぐちゃにしてみたい衝動にかられる。いや、本当にはしないけどさ。もったいないじゃん。
「〜っ!!」
視線で怒りを訴えているのだが、吏人には誘っているようにしか見えなかったらしい。優一に隠れてこっそり軽い口付けをする。
「ふっ…」
唇と唇が溶ける様にひとつになって、もっともっとっていう欲望が生まれる。吏人はさすがにここじゃまずいと思ってそれだけで身をひくが、目の前で朔也が激かわいい反応をとっちゃったりしてるから悪いんだ。本当にこの場で襲っちゃうぞ?だって、朔也ってばただの触れ合うだけのキスだったのに、ゆでだこみたいに真っ赤になって、ちょっとうつむいて視線を絶対会わせないようにしてるんだもん。
「お前…声だけじゃなくてそんなポーズで誘う技も覚えたのか」
少しムっとした気身の吏人の声に、え?っという表情を向ける。
「なんの話しだよ?」
それだよ。その表情だよ…と思いつつ何もわかっていないこのおとぼけちゃんにこれ以上は何を言っても無駄だと判断した吏人は朔也を肩にひょいっとかつぐと、ボイスルームへとつれこもうとした。
「な、なにすんだよっ」
密室であるボイスルームにこんな形で連れて行かれそうになり、少々慌てた朔也に吏人は悪魔な笑みをその唇に浮かべる。
「何?ボイスルームでボイスレッスン以外の何をするきなの朔也は…」
今度は朔也の身体中が真っ赤になってたなんて、朔也を抱えている吏人以外は知らないことだ。
「優一…じゃあスタジオ入りまでの時間ボイスレッスンしてるから…」
「ああ、朔也君体調悪いんだろう…気をつけて。今日の撮影は生放送のあのミュージックカフェの撮影なんだからな」
「はいはい…」
そして二人はボイスルームに消えていった。
 「き、緊張する…」
生の歌番組は初めてなせいか、朔也の緊張は最高潮だった。まだリハーサルすらしてないのに。いやそれどころかまだスタジオについて5分とたっていなかった。身体にのりでも貼ったようにかちんこちんの朔也の背中から腰にかけてのラインを吏人はなでなでして安心させようとしてくる。それが一〇〇歩譲ってまったく下心のない行為だとしても、何もこんな往来の場でしてくれなくても…せめて楽屋でとか。だって、さっきから視線が痛いんだ。すれ違う人の…さ。はう…いくら俺達がホモだって設定になってるからといって本物と思われちゃうのは痛い。いや、本物…の中の本物だったりしちゃうんだけどさ。
「いい、いいよ…やめろって…平気だから…」
吏人のその愛撫がだんだん腰から下の方へ、それが前の方へと下がり出して不穏を感じた朔也は吏人の手をがしっと止める。それ以上触られたら、未熟な朔也のジュニアが反応してしまう。もちろん、これから生歌番組の撮影を待っている朔也としては避けねばならぬ事態だった。けれど、これからのことをもんもんと頭の中で進めていた吏人様としては不本意でならなかった。なぜ止められなくちゃいけないのだ。いつの間にか目の前に来ていた楽屋のドアを開け、朔也を投げ込むように押し入れる。朔也はよろっと身体を不安定にされ、段差に足を奪われトシンと軽い音を立ててしりもちをつく。
「り、吏人!!」
今度は不機嫌な声を出したのは朔也だった。その怪訝そうな顔にいきなり激しく熱を帯びた唇を這わせてくる。生々しく火照った吏人の舌が乱暴に朔也の口内を犯す。それは口内から歯の裏から、喉までどんどん進入してくる。朔也は息苦しさに畳に爪をたてて、吏人にそれを伝える。
「ん〜んっ…ふっ」
吏人はよっぽどご立腹なのか、朔也のその苦しむ姿を見ても熱烈なキスを止めはしなかった。そして、2分にもおよぶ長いキスから開放された朔也ははぁはぁと酸素を思いきり吸いこんだ。2分近く十分な酸素がなかったせいとあまりに強引でえっちなキスだったため朔也の脳はくらくらしていた。だから、吏人の抑えつけがとれてもすぐに立ちあがれずにいた。そんな朔也を見て、吏人は再び乗っかってくる。
「誘ってるのか?」
「馬鹿っ」
朔也は吏人のちょっと茶色いさらさらの髪をかきあげるように押し上げる。吏人もそれ以上は冗談だったみたいで、真っ赤になった朔也のほっぺを耳をカリっと強く一回噛んだだけだった。
「痛っ〜」
いきなりの耳の痛みに顔をゆがめる。急いで手を当ててみると、指にちょっと赤い血がついてくる。
「うわ!何すんだよ吏人」
「何って…印。それともキスマークの方がよかったか」
印!?ってかキスマークなんてとんでもない。だって、今日着る衣装ってばものすごいんだ。俺の方は天使をイメージしてて、上は白いふわふわのノースリーブで広く開いたU字ネック。胸元に天使の羽の形をしたシルバーアクセなんかつけてて、格好いいんだけど悪魔をイメージしたって言う吏人の黒で統一された、ネクタイまでしっかりしめたスーツ姿に比べると女の子っぽくてなっとくいかないところだ。そ、そんなことはさておき、とにかくあのノースリーブでキスマークなんてつけられた翌日の週刊誌は、噂の二人やはり…で埋まるに違いない。朔也は慌てて首を横に思いっきりふる。そんな朔也を見ながらクスクス笑う吏人にむかっときた朔也は、ドアをふさいでいる吏人を押しのけて廊下にでようとした。
「おい、逃げる気か?もうすぐメイク俺達の番だぞ…」
「トイレだよっ」
呼びとめられた瞬間握られた手首をブンブン振って振りほどくと、乱暴にドアを開け閉めして出ていった。その朔也の全身が照れて真っ赤だったのが吏人のつぼにはまったなんて誰もしらない。
 吏人なんて、吏人なんて、吏人なんて〜!!ずんずんとわけもわからぬ方向に歩きながら頭の中でその言葉を繰り返していた。なんなんだ一体。仕事には不真面目で(いや、やるときはちゃんとやるんだけどさ)えっちで、強引で…でも好きで?変なの…オレ。どうしてあんなやつ好きなんだろう。あんな王様気質のわがまま気質なやつ。おれってマゾじゃないよね??違うよ…痛いのやだし。はあ…。あれ…?そういえば…オレ吏人から好きって言われたことない…?あれ?ない…気がする。どうして…だろう。オレ何回も好きとか愛してるとか言ってるのに。もしかして、こんなに吏人がオレに意地悪するのって、どうでもいいから?好きでも嫌いでもなくて、ただのペットみたいな感じ?手軽に手が出せる。朔也の頭の中に余計な感情が出来てくる。それはわけもなく悲しくて重たくて、胸のほうまで移動してきては朔也を苦しめた。胸の辺りをぎゅっと握ってうつむいて、なんとか早くその痛みを取ろうとする。けれど、絶え間なく針の先でつつかれるような痛みは止むことはない。窮屈な胸を抑えつつ、小走りで角を曲がろうとした瞬間、ドンっとあちら側から来た人に思いきりぶつかって、相手の方を倒してしまう。朔也は自分の胸の痛みを感じつつも、お仕事第一朔也君。慌てて相手を起こそうとする。
「大丈夫ですか!?すみませんっ、すみません」
何度も頭を下げて相手の顔なんか見てなかった朔也はその後の相手の言葉に驚きおののく。
「その声…朔也じゃないか…もしかして、ミュージックカフェに出るのか?」
「え?」
この芸能界で新人ほやほやな朔也の声を聞いただけでだれだかわかる芸能人なんて一人しかいない。
「鞠也!?」
そう、目の前にいたのは朔也の実兄鞠也だった。艶やかな黒髪をかきあげながら立ちあがると、鞠也は朔也のおでこにその手をあてて、なでなでした。
「そうか…今日の新人って朔也たちのことだったんだな。それじゃあ、オレ達なんて影になっちゃうな」
「何言ってるんだよ。マリファナの人気はどこもかなわないって雑誌に書いてあったぞ」
「そうでもないさ…朔也のCD明日発売だっけ?きっとすごい売れるよ」
「だといいけど」
照れ笑いする朔也のほほに自分の手の背をあてて、少しだけ撫でるように朔也を甘やかす鞠也。鞠也は誰にでも甘いが、朔也はやはり特別だった。自分と鞠也のタメに白河プロに乗りこむときめたとき何度とめたことか。けれど、言ったことを替えない性格も全てちゃんと把握してる鞠也だからこそ、それをゆるしたのだ。
「大丈夫だよ…朔也の声前から特別よかったけど最近すっごく色っぽくなったし…」
「えへへ…そうかな?」
「まさか、本当に丹羽吏人くんとつきあってたりする?」
白河プロに入ると決めたのは許したが、吏人とどうにかなることを許したわけではない。ここは一番気になるところだった。まさか兄貴からこんなことを聞かれるとは思っても見なかった朔也は過剰な反応を示す。それだけで、事実ですと告知してるようなものだ。
「な、な、な、なにゆってんだよっ。あ、あんなの、え、え、営業用…」
ろれつがまわっていない舌で必死に否定する朔也を見て、鞠也は全てを納得して肩を落す。こんなにかわいい弟をまさかあの男にこうも簡単に捕られるとは…。
「いいって、朔也否定しなくても」
「ほ、ほんとに違うんだって」
さっき自分の胸をいためていた感情が戻ってきて、朔也の目頭を熱くする。朔也の目から涙がこぼれたのを察知すると、鞠也は慌てたように覗きこんでくる。
「朔也…まさかあいつに酷いことされてるのか…」
涙がとめどなく溢れ答えられなくなり、必死に首を横に振り否定する。違う…違うんだ。
「じゃあ、丹羽君に無理やり突き合わされてるとか…?」
朔也の肩を握りしめていた手に力が入る。けれど相変わらずかわいい実弟は首を横にふるだけだ。
「違う…オレが勝手に吏人を好きで…」
涙ながらにその切ないうちを必死にうちあける朔也を鞠也は優しく抱きしめてやる。そのぬくもりのなかに吏人を探して、朔也はぎゅっとし返す。けれど、その斜め後には不穏な空気を持って睨みつける一つの物体があった。
「朔也」
低くて、恐いくらいセクシーな声が廊下にそっと浸透する。その声の主はもちろん吏人様。朔也と鞠也が実の兄弟なんてしらない吏人には浮気現場目撃の他なにものでもなかった。だって、朔也と一緒に暮しているのは十中八九この男鞠也なはずなのだ。声の方向を見ないうちから、朔也はびくっと身体を反応させる。ちょうど声は朔也の背中からしていた。つまり鞠也と吏人が対面する形になっていたのだ。どんなに鈍感な朔也でもその異様な空気には気付く。確かにそこはピリピリしていた。その空気を壊してくれたのは朔也と鞠也のマネージャー優一だった。
「朔也君!朔也君!」
そんな空気にも気付かず、ずかずかと三人の中に入りこんできた優一に朔也は花束を贈りたい気分だった。
「どうしたんですか?優一さん」
鞠也の体から離れると、優一のほうに小走りで近づいた。
「朔也君の準備の方が時間かかるから先にやっちゃおうってメイクさんとスタイリストさんが朔也君を呼んでるんだ。急いで行ってもらえる?場所はわかるね?」
「えーと…あっちでしたっけ?」
優一が今走ってきた方向を指差す。行き先決めず歩いていたため、メイクルームの場所もわからなくなってしまった。前に優一に何度も説明されたのに。
「違う、違うあっちだよ」
「う、うん、わかった」
あいにくメイクルームは吏人を通り越した方の階段をあがったところだったみたいだ。吏人のわきを吏人と一回も目を合わせないようにして通りすぎようとするが、その瞬間再び手首を力強く止められる。そして、抵抗する暇もあたえず鞠也や優一の前だというのに強引に唇を奪ってきた。
「っ!!り、吏人…っ」
必死に吏人をはがそうと試みるが、なかなか濃厚な唇はそれを許さない。朔也の快感を誘いながらのキスは、引離そうとする朔也のココロを揺れ動かす。
「やめ…っん〜んっ!!ふぅっ」
やめてくれっ!ここは往来の場で、目の前には兄貴も、優一さんもいるのに。朔也の初恋は吏人で、恋にもキスにもいろんなテクニックにも弱い朔也は、人前でキスなんて考えられなかった。だから、こんなにも濃厚なキスを人に見られて羞恥で真っ赤になっていく。
「んんっ…はぁ…はっ」
吏人の口から朔也の口へと甘い蜜が溶けこんでくる。そして朔也の蜜は吏人へと混ざっていく。その不思議な唾液の感触に、頭がぽーっとしてきたころ、急に口を離される。名残おしそうに朔也が甘い最高のセクシーボイスをこぼしても、見向きもしなかった。その冷たい態度にようやく現状を思い出し、自ら体を離す。
「な、なにしやがるんだぁ」
口元に流れ落ちる蜜を着ていたTシャツの袖でぬぐいとる。怒鳴る朔也にやはり冷たい目を向けると、ため息交じりで廊下の奥を指差した。
「さっさと行けよ…」
ムカッ!!こいつのこの態度はなんなんだ〜!さっきはあんなキスしといてっ
「行くよっ!吏人の馬〜鹿っ」
子どもじみた罵倒を投げすてると朔也は廊下をかけていった。その場にいる男三人は三様で。一人は冷たい表情で偉そうな態度を保ち、一人は驚きで顔を真っ赤にさせ、一人は冷たい表情の男を心でも目でも睨んでいた。
「優一…お前も早く行けよ。オレはあとからいくから」
「あ…うん、うん。じゃあ、スタジオで…」
優一は真っ赤にした顔を隠すように、朔也を追いかける形で消えていった。吏人はしばしの沈黙の後、その場を立ち去ろうとしたが、それをまさかまさか鞠也に止められた。
「君…丹羽吏人君だね。よくも朔也を傷つけてくれたね…」
吏人は普段怒らない人が怒るとめちゃ恐くなる…ってあれの典型的だった。もうごうごうと燃える焼却炉みたいに、消えることがなさそうだ。
「なんだかあんたのみたいな言いかただな」
「…君は朔也をわかってないよ」
「だから、お前に何がわかっるっていうんだよ」
「全部だよ。朔也のことなら全部わかる」
兄としてのセリフだけれど、はたから聞けば独占心の強い恋人の発言に聞こえたのだろう。吏人はガッと壁を右手の握り締めたこぶしで叩く。それこそやぶき割る勢いで。
「譲らないぞあいつは…」
「だから君はわかってないんだよ…」
そういうと鞠也は踵を返し、グループなのに一人一人専用個室になっている自分の楽屋に戻っていった。吏人はわけがわからずその場に立ちすくんでしまった。
 「で、君がシンデレラボーイ野ノ原朔也くんだね?」
「は、はい…そのようです」
司会のお笑いコンビテリー&ドリーのテリーが聞いてくる。つい一時間くらい前までイロイロあった上、あれ以来吏人と話すチャンスがなかったから、今吏人が隣で仲良さげに座ってるのもなんか妙だし、その上緊張が戻ってきちゃって、朔也はいっぱいいっぱいだった。その上、ドリーは一番突っ込まれたくないとこをつっこんできた。
「それで〜?二人は本当に恋人なの?確かに吏人君はかっこいいし、朔也君はかわいいけど。どうなのさ、そこんとこ」
からかい半分、興味半分といった感じでドリーは朔也にぐいぐい近づきながら聞いてくる。
「あっ…え、と…」
朔也が超美声の焦り声を出すもんだから、スタジオ中、観覧客からスタッフまでちょっと頬をそめちゃったり。司会のドリーも、なんだか〜な雰囲気に冗談なしで赤くなってたり。そんな朔也の肩を吏人は軽く抱いて引き寄せる。
「あんまりからかわないでくれよ…まだなれてないんだから」
キャーーッ!!観客の女の子たちの心から飛び出して聞こえてきた声だ。内心ぎゃぁ!!なにすんだぁ!だったんだけど…。でも、さっきのこともあるし、営業中だし。朔也はハハハと作り笑顔ですりぬけようとする。俺が営業用って割りきってるのと同じことを吏人にやられてたなんて思うとものすごく悲しくなってくる。朔也は本番中なのに何度も下を見てしまいたくなった。早く終わってしまえばいい。早く帰りたい。そして鞠也にいっぱいいっぱい相談したい。できればこのはいりかけてしまった洞窟を引き返してしまいたい。朔也はこぼしそうになる涙を必死にこらえ、営業スマイルと美声でスタジオを圧倒した。
「じゃあ、曲いってもらいましょうか。丹羽吏人、野ノ原朔也で明日発売シングル“Say you love me”」
観客のわーー、と騒ぐ声の後私語が一瞬にして消えあたりをピアノの伴奏だけが包む。今日歌うのは、カップリングになっている二人のデビューシングルをピアノ伴奏だけにアレンジした静かなものだ。そのぶん、吏人と朔也の声がよく響く。歌いだしは吏人。吏人の声が会場内に響き渡った瞬間、あちらこちらでため息がこぼれる。誰が聞いてもかっこいいと思う声。朔也はその声を聞いてトクンと体中の血液が騒ぎ出すのを感じる。この声が好き。声の主が好き。吏人が好き。そんな感情がわきあがってくる。そして、それは悲しいかな自分の声にもなにがしかの反応を出したみたいだ。いつもより透きとっているような朔也の声は、吏人に重なるように歌いだし、会場をさらにどよめかせた。吏人も驚いたようで、思わず朔也を見つめてしまった。明らかに今日の声は最高だった。落ちついていて、それでいて艶かしい。男心をくすぐるような、発情を誘うような…。けれど、少し悲しげにも思えた。あちらこちらで、女の子の甲高い声がする。週刊誌でホモカップルという印象を埋めつけられて、余計な想像でもしたのだろうか。朔也はやけくそでサービスに吏人に近づき傍らで歌う。吏人もそれに悪乗りするように朔也のマイクに近づき、それで歌う。朔也は吏人のキレイな顔をこんなときながらじっくり見る。長いまつげ、艶やかな唇。透き通る目。思わず触れたくなるような髪。朔也は切なくなって、いっそう歌にそれを反映させる。
「Say you love me…」
朔也の最高な歌声で最低な歌収録は最後を迎えた。しかし、会場とテレビの前の視聴者は最高潮の悦に達したことはゆうまでもない。
 「朔也…待てよ…どこいくんだよ」
収録後、足早に自分の前を去っていこうとする朔也に投げつけるように問いただす。
「仕事終わったんだから…どこいってもいいだろ。一人になりたいんだ…」
「収録前の話は終わってないぞ」
「お願い…一人にさせてくれ」
朔也は吏人の視線を感じつつ、ある場所を探す。その場所は一つ。唯一何もかもを話すことの出きる人物がいる楽屋だ。そう、鞠也の楽屋。場所は知っていた。だって、そこは別世界だったから。トップアイドルはさすが違う。朔也は放心状態で鞠也様とかかれたドアをノックする。
「―――はい?」
しばしの沈黙の後、中から懐かしい声が聞こえる。朔也はそれが聞こえた瞬間、その場に泣き崩れてしまった。
「朔也!!」
あひる座りで声を隠さず泣く最愛の実弟の姿を確認すると、鞠也は驚きの声をあげる。一応あたりを見てみるが、幸い誰もいないようだ。
「…中にお入り…」
優しく中に入るように促されるが、思うように体が動かない。自分の思いが体重に加わったのか、泣いたせいで少し微熱っぽいせいなのか、起きあがらない体を鞠也に抱きしめられる形で支えられ立ちあがらせてもらう。すぐさま中に入ったが、二人は大切なことを忘れていた。ここは報道マンの大勢いるテレビ局で、ここはそいつらがうはうはとエサを探している穴場だってことも。そして、そいつらの中の一人が今しがたカメラのシャッターをきり、鞠也の楽屋のドアに聞き耳をたてているなんて。
 「何か飲む…?」
鞠也から手渡されたタオルをぐしゃぐしゃの顔に押さえ付けたままで、無言の状態をキープしている朔也に気遣いながら聞いてみる。
「いらない」
「じゃあ、どうしたいんだい。僕のかわいい弟君は…」
「わかんない」
「吏人君に何かばれた?」
朔也は首を横に振った。
「じゃあ、吏人君にふられた?」
これはないか…と思いつつ言ってみた。しかし、予想とはずれ朔也は首を振るのを止めてしまった。
「本当に…?」
「…わかんない」
また涙が溢れてきて、既に濡れているタオルに再び顔を押し付けた。
「オレは吏人にとってなんでもないんだよ…そう思ったらわかんなくなった」
「朔也…」
「早く親父に復讐をとげたい…。そして、俺きっぱり芸能界やめるんだ…もう疲れたよ」
震える小さな手で抱きしめてくる弟の頭をそっとなでてやる。
「その時は…俺も一緒だよ…一人にしないから」
「兄貴…」
朔也は恋愛とか、仕事とか全てを忘れ、直彦への復讐を達成するためだけにがんばろうと再確認した。そのために今の自分がいるんだ――。もちろん、吏人のことも忘れてしまおう…忘れてしまいたい…。鞠也の腕の中は優しい暖かさが心地よくて、一人眠りに入った。
 “人気アイドルグループマリファナの鞠也と新人歌手朔也は実兄弟だった!?”
“フジプロの息子朔也くん白河プロでデビュー。フジ社長の思惑か”
“野ノ原朔也実は藤朔也でした!?”
翌日の新聞、雑誌の見出しはすごいものだった。どこも一面は朔也一色だった。誰もまさかこんなこと予想もしていなかったので、自分たちのマンションで新聞を読んだ鞠也・朔也、自分のマンションのリビングで朝のニュースを見ようとおもってつけたテレビで見、知らされた吏人、それぞれの事務所の社長室で己の目を見張った直彦、百合。それぞれ開いた口がふさがらなかった。ただ一人、丹羽幸四郎だけは面白くなってきたな…とにやけてはいたが。 
「藤社長!これは本当ですか?」
「鞠也君!朔也君!でてきてよ〜!兄弟なんでしょう」
「白河社長これについて何か意見はございますか!?朔也君に騙されていたということなんでしょうか」
あちらこちらで報道陣の声がとびちる。昨日行われていたという偉い政治家様のお職事件はどうでもいいのか?と内申つっこみをいれたくなる朔也だ。なんとか白河の事務所まで移動すると、車入り口からそっと入りこみ、二人用に設けられたあの部屋へ逃げ込んだ。すぐにでも百合に状況を説明しにいきたかったのだが、そうもいかないようだ。事務所の入り口には確認しただけでも30人以上の報道陣が押しかけてるし、一般ファンからの電話がひっきりなしに事務所の電話動かしていた。抗議、疑問、不信、罵倒、いやがらせまで。スタッフはみんなばたばたと足音を立てて走りまわっていた。朔也はソファに身を投げ出すと、頭を抱えた。全部俺のせいだ…。まさか、こんなことになるとは思わなかった。どうしよう…。おれがただ親父に復讐したかったから、親父を認めさせたかったから。俺のわがままで。ちょっと伸びすぎた髪を両手でかきあげ、ため息をつく。ガチャ…。久々に聞いた足音以外の音に体中をびくつかせる。すぐさま顔をあげると、そこには吏人が――至上最悪の表情でたっていた。
「吏人…」
今度は別の意味で体がビクビクする。吏人の手には今朝の各社の新聞すべてと、雑誌が乱暴に掴まれていた。そして、それを朔也に力の限り投げつけた。その痛さに体をただただ縮こませる。
「痛っ…!!」
「朔也が何か隠してると思っていたが…こういうことか」
吏人は朔也の下がりぎみの顔を顎に指をやりぐいっと上向かせると、顔を最高まで近づけた。
「お願いだから…俺の話しをきいて吏人」
「いまさら何を聞くって!?」
「だから…説…明…っん」
いきなり噛みつくようなキスに襲われ、言葉をさえぎられる。口の中をどんどん吏人に侵食されて、苦痛の声をあげる。
「くっ…ふっ、やっ、嫌っ」
「百合さんを騙して…俺の気持ちを弄んで…実はフジの人間でしたってか!?たいしたやつだな…お前も」
吏人の舌は朔也を嫌でも快感につつんでしまう。襲われているというこの状況なのに体が反応するのが悔しくて悲しくて、自分の話しを聞こうともしない吏人に怒りの感情もでてくる。
「やだっ、やだっ…絶対しないってば…話しを聞いてくれっ」
だけれど、そんな朔也より傷ついたみたいな顔をして吏人は朔也の服を剥ぎにかかる。焦って出てきたため、薄手のTシャツ1枚に、ダンスレッスン用のジャージだった朔也はすぐに全てを脱ぎ捕られてしまう。
「説明して…俺をこれ以上…追い詰めるって言うのか!?」
執拗な愛撫に体は仰け反り、火照り、吏人の声はどこか遠くに聞こえる。
「はぁっ…は…?な、何て言って…?」
朔也がもう一度いってくれるように、吏人の首に手を回し顔を近づけ求めるが、朔也の欲求にはなに一つ答えないと決めたらいし吏人はそれを無視し、指先で朔也の胸の突起物をひっかき弄りはじめる。
「ぁあっ…!!」
「何が目的だ…俺を落したって何にもなりゃしないだろ…それとも愛するお兄様のためライバルを弄んでやろうって寸法かっ」
違う、違うんだ。朔也は涙が溢れてきた目をみせるまいと手で目を隠しながら首を必死に横にふる。
「鞠也は…関係なっ…ふっぁあん…」
鞠也の名前が出た瞬間、吏人は朔也のジュニアを痛いくらいにぎゅっと握る。それでうけた痛みに朔也は体を横によじる。
「兄弟にしてはスキンシップがはげしいみたいだね…ベッドも一緒みたいだし」
それはただ、スキンシップの乏しい藤家の反動のようなもので、吏人が思っているような関係では絶対無い。でも勘違いされる要素はいっぱいある。朔也は鞠也が兄だと隠していたわけだし、一緒に暮してるのも隠そうとしたし。朔也が否定しないでいると吏人はその艶のおびた唇を体に吸い付ける。痛いくらいに何度も何度も。朔也の体はすぐにピンク色のしるしでいっぱういになってしまった。それは意地悪なくらいに首筋に集中していてどんなタートルネックな服でも見えてしまいそうだ。
「り、吏人…お願いっ…もうっ…」
朔也はじぶんが強姦されているんだと自覚する。だって吏人は自分の犯りたいようにだけ犯り、体をぶつけているだけだ。まったく自分を求めていない。朔也はそんなの嫌で、どんなに無理やりでも前みたいに自分を求めてしてくれるほうがいい!朔也はこんなのやめてくれるよう懇願する。だが吏人は顔を朔也の下肢にまで移動すると、そっちに集中しはじめる。
「俺がどんな思いで今朝のニュースを見たかわかってるのか?」
朔也の既にたちあがったジュニアを手早く扱きながらも、達かせないように根本を指で固くしめつける。
「ぁっ…り、吏人ぉ…」
「小悪魔だな…朔也は」
ひくひくと達くこと求めているそこと、涙ながらにいやがりながらも求める、そんな辱めに満ちた顔を交互に見ながら、吏人は皮肉のように呟く。そして、朔也の足を持ち上げ自分に秘部をさらけ出すようにさせると、もう滴り始めているそこを抑えつつ、細長く洗練された自分の人差し指と中指、薬指をいっきに朔也の中へとねじりこんだ。
「くっあぁ…痛っ…ふっ」
もう何度も吏人のものも受け入れているとはいえ、濡れていない指をいきなり3本も入れられて苦痛の声をあげる。吏人はそれを何度も何度も自分のそれみたいに寸前の抜き差しをしながら、くの字にまげて、知り尽くしている朔也の性感帯を突いてくる。
「あっ…んん〜っ!!」
慣れて来たのか朔也の声が快感の喘ぎになったのを確認すると、吏人は自分のものをタイトジーンズからとりだし、朔也のジュニアに擦りつける。吏人の燃え盛って硬くなったそこを敏感な場所につけられて、それが妙にいやらしくて朔也はピクンッと無言の反応をしめす。
「お前が誰であろうと…誰のものであろうと、何をたくらんでいようと、誰にも譲る気はない…こうやってお前が俺を求めている以上は…」
朔也の中の熱い締め付けを感じて吏人は囁く。それが愛しているからの独占欲なんて鈍感な朔也には何一つ伝わってないなんて。朔也が欲しいのはたったひとつ。ダイレクトな愛の言葉なのだ。それさえいってもらえれば、今の全てを投げ出しても吏人のそばにるのに。吏人は朔也の中から指をググッと急に抜き出す。物欲しげにうずくそこにねっとりとした舌をいれて、次にいれるものの準備をする。こんなに酷いことをしていても、吏人は朔也を壊す気なんてまったくなかった。だって、これは愛ゆえの行動だから。
「ぁあっ…吏人、吏人、吏人ぉ」
思考が混乱してくる中で必死に世界で一番愛しい名前を呼ぶ。
「朔也…いくぜ…」
吏人も世界で一番愛しい人の名前を呼び上げ、自分自信をねじ込む。そして、吏人が朔也の中に白濁としたそれを放った瞬間、朔也も絶頂を迎えたのだった。


−3− −5− 小説。


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