激情らいおんハート

-2- 小説。 職業。


−3−


 ドアを開く音がした後、無言のまま僕はベッドの上に投げ出されてようやく腕と目の拘束を取られた。
 アルコール分とずっと目隠しされていたせいで、部屋の薄い灯りすら眩しく見えた。
 着いた部屋はご主人様の主寝室。
 ベッドメイキングは僕の仕事だから見なれた場所ではあるのだけれど、なぜか違うく見えた。
「……」
 ただ今は、目の感覚や腕の自由がどうのこうのじゃない。
 僕が気になるのは……怒っている僕の大好きな人のこと。
 目の前にいるのに一言も発しようとしないご主人様は、部屋に備えつけられている冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったボトルを取り出すと、一口飲んでフタを締めると僕の方に投げた。
 でも、それにも手をつけられずに動けないでいると、ご主人様はジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し僕の座るベッドに腰掛けた。
「……」
 時計の音だけが部屋を満たして、時間だけが過ぎていく。
 僕はどうしようもなくなって、思わず声を出した。
「あ、あのご主人様……」
「お前は自分が何をしていたかわかっているのか」
 低く、そして妙に落ち着いているご主人様の声だった。
 これを怒っているというなら、たぶん僕は初めてご主人様に怒られているんだと思う。
 こんな声聞いたのは……初めてだった。
「す、すみません僕目隠しされていて何をしていたのか……わからないんです」
 素直に伝えたけれど、それはご主人様の怒りに火を注ぐだけだった。
「わからない?わからない、そうか……なぁ、蒼冶、本当にわからなかったのか」
「ぇ……?」
 ご主人様の言っている意味がわからず、僕はやっと顔をあげてご主人様を見た。
「蒼冶、ベッドを降りなさい。そして、床に跪くんだ」
 さっきの岡田さんのようなことを言われ、僕は少し躊躇しながらもまだしっかりとしない足をどうにか立たせ、ゆっくりベッドの下に下りて、見上げるようにご主人様を見る。
 僕が戸惑っていると、そんな僕の目の前でご主人様はベルトを外し、ズボンを少し下げた。
「お前がさっき口に含んだのは、これだ」
「……っ!」
 薄暗闇の中で見せられた性器に、僕は言葉を失った。
 ショックという言葉一つでは表現できないほどの、感情。
 一瞬のうちに、胃の奥がムカムカとして嘔吐感を覚える。
「ぁ………」
「今日あったばっかりの男の雄をお前は舐め、そして口に含んだんだ」
 気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い。
 性にもともと疎い僕は、ただ一回だけご主人様と気持ちが通じ合った時に、ご主人様に自分のその部分を弄られ、精液を放ったことがある。
 しかし、その時ですら自分の勃起した部分には触れることもなく、恐怖と快感に溺れていただけだった。
 なのに、今日はその淫らな感情で隆起する部分を、まして他の男のソレを自分は口に含んでいたのだ。
 すぐさま近くにあったペットボトルの水を自分の顔にかけ、純白のワイシャツで顔を拭った。
「あっ……ぅっ……僕、僕……」
 動揺してうろたえる僕をご主人様はただ見つめているだけ。
 それが怒っているのだともっと伝わってきて、涙が零れた。
「ご主人様……僕……っ」
 知らなかったのだ、本当に。
 もし知っていたら、絶対に絶対にそんなことしたくなかった。
「お前のしたことは俺に対する不貞だ」
 ご主人様はそういうと、僕の後ろ髪を掴み、口の中に大きな大きなご主人様の雄を押しこんだ。
「ぁあっ……んぁ…っ」
 さっきの人とは比べ物にならないくらいに大きいご主人様のソレは口一杯にほおばっても、喉まで先が達してもまだはみ出るくらいで、苦しさは倍以上だった。
「っぅ……ご……主……人さまぁ」
「……お前は……俺がどれだけおまえを思っているか……それすら知らないとでもいうのかっ」
 腰を揺らされるたびに、喉の奥をいじられ、嗚咽がこぼれる。
「っうん……っ……くぅ……っ」
「俺が……お前にこういうことをしたいと思っていると、ちゃんとわかってあいつのコレを咥えたのかっ!?」
「っ……んーん……」
 ご主人様のモノが口内でどんどん大きくなって、反りかえる。
 ギシギシとキングサイズのベッドが揺れ、そのたびに僕の口の中は圧迫感に襲われた。
「お前を探してて、そんな光景を見せつけられた俺の気持ちが……お前に、お前にわかるか……」
 痛々しい声が聞こえる。
 ご主人様が……苦しんでいる。
 僕なんかが、あんなことをしちゃったから……。
「ご…めんな……さい」
「くっ……」
 口の中にどろっとした液体が流れ込み、口の中から大きなソレがゆっくりと抜け出た。
 真っ白な液体が口の端から零れて、どうしたらいいかわらかなくて飲みこむと感じたことのない味と量に、少し咳き込む。
 口の端の全てを飲みこみ、僕は悲痛な顔をご主人様を見上げた。
 ご主人様は僕に対して少し怒っていて、そして自分のしたことを後悔しているようにも見えた。
「お前は……どうしてアイツらの命令を黙って聞いていたんだ」
「……あの方々はご主人様のお仕事のお友達なのですよね、僕……ご主人様の為になりたくて……あの、それで……」
 僕は思っていたままを伝えると、ご主人様は僕を抱きしめてくれた。
「そんなことしなくていい……いや、絶対にしないでくれ」
「ご主人様……やっぱり僕じゃご主人様の手助けになれませんか……っ」
 ご主人様の腕が優しくて、僕は悔しくて涙が出た。
「そうじゃない」
 けれど、ご主人様は僕の背中を擦りながら落ち着いたいつものトーンの声でそう言ってくれた。
「仕事のことは、お前が二十歳過ぎたら手伝ってもらうつもりでいた。これから学んでいけば十分だ。ただ、今はお前をそんな世界にまきこみたくない……今日のことは俺のせいだ。お前が何かおかしいのを気取ったのに何もすることができなかった……」
「ご主人様のせいなんかじゃ……僕が、僕が勝手に……」
 結局……コトは全て悪いほうに進んでしまったみたいだ。
 僕が余計なことをしたばっかりに。
「僕ご主人様のためになりたいのに……」
 結局は迷惑をかけることしかできないのだろうか。
 大好きなのに。何かしたいと思うのに。
 そんな僕の頭を、ご主人様は優しく撫でると、唇に軽い触るだけのキスをくれた。
「もし、本当に俺のためを思って何かしたいと思うなら……もうこんな無茶な真似はしないでくれ、俺を嫉妬で狂わせないでくれ、いつかお前を壊してしまいそうで自分が怖い」
「ご主人様……?」
 語尾上がり気味の僕の言葉に、ご主人様は苦笑を返した。
「お前は俺のタメにちゃんとなっている……無理しなくても蒼冶が傍にいてくれるだけで俺は幸せになれるから」
「ご主人様ぁ……」
「じゃ、もう一回だけキスをしていいか。怖がらせてすまなかった……愛しているよ」
 ご主人様は僕に優しすぎる。
 そう思いながら、僕はご主人様のお願いをきくために、ご主人様の首に腕を回した。

 晩餐会から数日後、ご主人様が出勤されたあとで新聞を片付けようとすると、そこには『岡田コーポレーション、東山物産不正発覚株価暴落』の文字が一面で載っていた。
 まさか……ね。
 僕は驚きながらその記事をしっかり読もうと両手で新聞を持つと、ソレはひょいっと空中に飛んだ。
「ぁ!」
「蒼冶君、君に足りないのは政治の勉強じゃなくて、保健体育の授業だわ」
「真里菜さん!……ぇ、保健……ですか」
「そおよ。ちゃんとセックスの仕方もしらないと蒼冶君だって妊娠するわよ、そのうち」
「ぇえ!ぼ、僕は男ですっ……それに、妊娠って……」
 セックスという直接的な言葉は僕はどうも苦手で、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「貴久様はぼっちゃんの癖にねちっこいセックスしそうだもの。注意しないと赤ちゃんはできなくても、抱き壊されちゃうわよ蒼冶君。腰細いし……」
 壊される……という単語が、数日前あの夜に聞いたご主人様の意味不明の言葉を連想させ、蒼冶はボンッと音がするくらい顔を真っ赤にした。
 あ、あれって……そういう意味があったのですかぁあっ!?
「あれ、ね、なんか蒼冶君赤いわよ。どうしたの、大丈夫」
「……平気……です」
 全然平気じゃない思いを抱えながら、僕は本当に少し保健の勉強をしなきゃなと思った。

 終。


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