誘惑ハニー×ハニー

-4- -6- 職業。


-5-


「蜜―っ」
「わっ、あっ!アア―ッ」
 どて。
 激しい光と、大きな声に驚き蜜は神行寺の部屋の大きなベッドから転び落ちる。自分が今裸だったことを思い出し、慌ててブランケットを拾い纏おうとしたが、毛布が見当たらない。
 大きな声を出した張本人である、神行寺の甥の久遠と永久が蜜を温めていたブランケットを掴みがっかりしたような声でしゃべる。 
「なんだ、服着てんのか」
「アイツなら、絶対洋服与えないで逃げさせないようにしてると思ったのに」
「ぁ……」
 裸だと本人ですら思っていたのに、その身体には蜜の身体のサイズにぴったり合う絹のパジャマが身につけられていた。
 自分で着た記憶がない以上、誰かに着させてもらったんだろうけど、久遠や永久でない限り、一人しか思い当たる人物はいない。
 奏也……。
 蜜はその人物が頭の中によぎり、パァッと顔を赤くする。
 昨晩受けた嵐のような出来事は、嘘ではなかったのだと再確認してしまったのだ。
 それ以前に、腰や身体に痛いというよりは鈍い感覚がある。自分の身体なのに、上手く表現できないそんな体調のわけは、どう考えても昨夜の濃厚な神行寺の告白のせいだった。
 蜜の脳内に神行寺が進入し、頬をピンク色に染めたのを久遠や永久が見逃すはずがなかった。
「蜜、お前まさか――」
 久遠がハッとしたように切り出そうとすると、音もなくドアが開き不機嫌顔の神行寺が入ってきた。
「ゲッ!奏也」
 久遠と永久が同時に同じ言葉を発する。
 右腕と左腕でそれぞれ顔を覆うポーズまで一緒で、双子なのだなと蜜は再確認してしまった。言動、行動、服装、髪型、性格にいたるまでここまで似ている双子も珍しいのではないかと思う。いや、もしかしたらよく知れば全然違う一面を持っているのかもしれないけれど。
「ここには入るなと言っておいたはずだが」
 寝室を指差して、神行寺は腕組みをしてドア枠に背中を預ける。
 そんな仕草や、ふとする瞬きの瞬間なども様になっていて、例え料理を作っていなくても、シェフの制服を身に纏っていなくても、只者ではない雰囲気をかもし出している。
「蜜の香りがしたから来たんだよ……っ」
 永久は久遠の服の端を引っ張りながら、そう言った。
 蜜は自分の香り、と言われ少し首をかしげる。
「俺の香り?」
 自らの右手の人差し指を鼻腔近くに持っていくが、特別何か香りがするわけではない。まして、ドアの外にいたのであろう永久や久遠が感じると言い張るような、そんな鋭い香りを発しているわけではない。
 ただ、神行寺だけは眉の間に皺を寄せ、小さくため息をつき、「やれやれ……」と珍しく本気で困った顔をした。
「蜜、気づいてないんだ」
 久遠は蜜のベッドに腰を置き蜜の脇に座ると、蜜の頬を撫でた。
 まだ中学一年生なはずなのに、永久も久遠もすごく綺麗な顔立ちをしていて、大人顔負けの魅力ある姿を近くに寄せられ、蜜は思わず照れて顔を俯かせる。
「な、なんのこと……それって、奏也さんが言ってたことと何か関係が……あるの」
 平凡な生活を送っていた蜜にしてみれば昨日は怒涛の一日だった。そんな中で神行寺は何度も何度も、蜜は何億分の一人だなとど突拍子もないことを言っていた気がする。
 自分の代わりなんて何百人といると思っていた蜜だけに、その言葉に救われた部分があるといえばそうだ。
 しかし、そんな根拠も証拠もない話しを信じられるほど甘ちゃんではない。
「蜜、なんでそんなヤツに赤くなるんだ」
「ぁっ、奏也……さんっ…」
 神行寺は話題よりも、蜜が久遠に触られ赤くなっている方が気に食わなかったらしい。蜜を後から羽交い締めのように抱きしめると、久遠との間をとった。
「クソ奏也!」
 久遠は不満そうな顔を隠そうともせず腕組みをしてベッドに倒れこんだ。
 今まで蜜はどんなに綺麗な芸能人たちを見ても、ドキドキしたりミーハー心が出る事は無かった。それは無意識に一つ壁を張っていたこともあるだろうし、あまり頓着しない性格が幸いにも予防線となっていたのかもしれない。
 しかし、この神行寺たちは別だった。
 久遠にしても永久にしても、もちろん……奏也にしても、別に際立って美しい衣装を纏っているわけでも、化粧や香水などをつけているわけでもないのに、ドキドキしたり、身体の奥底から、胸が疼いてしまいそうになる。
 もし、自分からそんな何か香りが出ているのだとしたら、神行寺たちもそうなのではないだろうかと蜜は思った。
 香りは感じないけれど、独特の雄のフェロモンのようなものが溢れ出しているような感じだ。
 もちろん、それは着飾ったりしたものではなく天然のもの。
「蜜。俺の方が若いんだから、そんなやつより気持ち良くさせてやれるぜ」
「ぇ」
「あー!ずるいぞ久遠。やるんだったら俺も混ざるからな」
 自分を取り囲んで交わされる会話に、蜜は苦笑を零す。
 自分が中学生のときなんて色恋沙汰にまったく興味は無かったから少しだけジェネレーションギャップを感じる。
 今時の中学生ってみんなこうなのかと思うと、それはそれで違った意味で未来を心配してしまうけれど。
「あの、それで……俺…」
 香り、とは一体なんなのかを聞こうとした蜜の言葉を遮り、神行寺は蜜を抱き上げた。
「じゃあ、行くとするか……蜜」
 蕩けるような神行寺の声で言われても、蜜はそれどころではない。
 お姫さま抱っこのような形で抱えられるなんて、羞恥以外の何物でもないのだ。まして、ここには自分と神行寺以外に、自分よりも年下の久遠や永久がいるというのに。
「奏也さんっ…ちょ、降ろしてくださいっ、俺一人で歩けます」
「本当かい」
「えっ……」
 神行寺にニヤリと笑われ床に降ろされる。
 素足で触れた久々のフローリングの感触が冷たく心地よいと思う前に、蜜はそのままペタンと座りこんでしまった。
「ぇ、あっ、あれ…っ」
 動揺する蜜に、神行寺はホラと言わんばかりで再び蜜を抱き上げた。
「どうして、俺……」
 何故だかわからないけれど腰と足にまったく力が入らなかった。こんなことは今までに一度も無いから、病気とかけがとかではない。
 だったらなんでだろう……。
 困惑する蜜に、神行寺は蜜の耳元で妖しく囁く。
「昨日の夜、蜜初めてなのにちょっと激しくやりすぎちゃったからね」
 昨日の夜……。
 そう、男との恋愛など毛頭頭になく、まして自分が男にとって恋愛対象にされるなんて考えたこともなかった蜜の身体を触り、弄り、舐め、目くるめく快感へと誘ったのだ。
 今まで女性とのセックスもしたことがなかった蜜にとって、それは強すぎる快楽でもあった。
「ぁっ、貴方は……っ」
 恥ずかしがることもなく、照れることもなくいけしゃあしゃあとそんなことが言える神行寺に、蜜の方が恥ずかしくなって顔を火照らせた。
 頭上で交わされる卑猥な言葉と、蜜の表情にもイライラしてきた久遠はベッドから立ちあがると、永久の手を引っ張った。
「行くぞ永久。クソ奏也なんて待ってられっか」
「あ、うん。早く来いよ蜜っ」
 永久は蜜を招くように手を動かすと、先に部屋を出ていった久遠の後を追うように出ていった。
 扉の外では不満そうな顔をした久遠が、神行寺の部屋の壁をけりつづけている。
「腐れ奏也め……俺だってあと2年したら蜜ぐらい抱えて歩けるんだからなっ」
 2年たったところでまだ中学生なのだから、そんなに変らないだろうと思いながらも永久は久遠のイジケルような台詞に同調する。
「そだよ。それにさ、俺たちのが可愛いし、カッコイイし、セックスだって才能あるしさ、蜜を泣かせて喘がせるのだって絶対上手いよ」
 可愛い顔して久遠や永久がこんな会話をしているなんて、蜜は知らない。
 どんなに可愛くたって、まだ中学生だって、神行寺という恐ろしく性欲の強い一家の血を引いていることに変りは無いのだ。
 自らで歩きたいのに、それは敵わないことで、蜜は自分の愚かさに肩を落とす。
「じゃあ、行こうか蜜」
 蜜を再び抱えなおすと、神行寺は軽々と蜜をガレージの高級車まで運んでいった。

 蜜が車に乗っていたのは一時間もかからないくらいだった。
 車の中で久遠や永久に服を着せ替えされ、またも遊ばれてしまったおかげでまったく時間を気にしなうちに、外側からドアを開かれた。
「お待ちしておりました、神行寺様」
 ドアを開いたのはきちんと作法を学んだホテルマンの人のようだ。
 けれど、相手がどんなに偉かろうが綺麗だろうがおくさない蜜は、その人にニコッと笑いかける。
「すみません、ありがとうございます」
「は……い、いえ」
 お客様に微笑まれ、お礼を言われることなどない立場の男はあまりの蜜の綺麗な顔に思わずドキッとして、言葉をたどたどしく発した。
 そんな蜜と男のやり取りを見て、久遠と永久は蜜を押しのけて外へ出ると蜜の手をとった。
「離れろ、お前なんかが触っていい人じゃねーんだよ」
「し、神行寺久遠様、永久様……申し訳ありません」
「ちょ、二人とも!」
 強引に右手を久遠、左手を永久に引っ張られ車から出される。
 二人のあんまりな態度に、蜜は顔をしかめながら二人を咎める。
「駄目だよ。人によって態度をかえちゃ……」
「なんでだよ。あいつは向かえるだけが仕事のくせに、蜜に色目つかってんのバレバレじゃん」
「ああ言うのにいちいち挨拶なんてする必要はないんだよ。じゃないと蜜、いつかそこらへんのやつに犯されるよ」
「お、犯されるって……っ」
 二人はせっかく助けてあげたのにといわんばかりの顔で、蜜を見ている。
 蜜は暴言の過ぎる永久の口に人差し指を当てると、あの笑顔で微笑んだ。それにはさすがの二人も言葉を失う。
「人に上も下もないよ。それはただ人が勝手に決めたルールなんだから。神様から生まれた俺たちはなんにも違いは無いんだよ。だから、そういう風に人を見ちゃ駄目だよ、やっぱり……」
 蜜は昔自分が言われた言葉を思い出しながら言った。
 小さい時、永久たちぐらい裕福な子供は自分の周りにはいなかったが、蜜にとって、普通に生活し普通に親のいる家庭がどれほど羨ましかったかわからない。
 そんな人達を羨み妬んでいると、その人は言ったのだ。
 人は皆平等だ、と。
「だから、ほら謝っておいで」
 久遠と永久は少しだけプーッと口を尖らせると、ホテルマンに向き直った。
「ごめんなさい」
 二人が声をそろえて言うと、ホテルマンは恐縮したように冷や汗流しながら両手を降った。
「と、とんでもございません」
 大の大人の男がこんなにも気を使う『神行寺』っていったいなんなんだろう。
 蜜は場違いな場所に足を踏み込んだ気に、胸がざわめく。
「珍しいこともあるな……お前らもやっと常識を身につけてきたのか」
 はたからそれを見ていた神行寺が、蜜の傍に身を近づけながら言った。
 久遠たちは今だ納得できないような顔で、神行寺にすごい形相で睨みをかけている。
「蜜のおかげで、あいつらも少しは大人になるだろう」
 神行寺は着替えを施した蜜のネクタイを結び直してやるフリをしながら、高級ホテルの正面玄関だというのに唇に軽くキスをした。
「ちょ、か、奏也さんっ」
「これ以上は後でちゃんとしてあげるよ」
 神行寺は蜜が深いキスを拒んだのを、勝手に解釈してしまっている。
「ああ、君はそういう服もやはり似合うな」
 灰色に少し茶色が混ざったような今年の新色のスーツは、蜜の髪を艶やかに見せてくれる。深い落ち着いた色のスーツとは裏腹に鮮やかな純白のブラウスはスーツと同じ色のネクタイと合わせて、魅力的に蜜の綺麗な肌を見せていた。
 まるで脱がしてくださいといわんばかりの喉から見える骨のラインが、いやらしく男を誘っているようにも見える。
 久遠と永久のデザインだけあって、ウエストのラインやお尻のラインがキュッと絞まっていて蜜の身体を美味しく際立たせている。
 そういう神行寺も、闇夜の色のスーツにシックなブラウスを合わせその長身で決まったスタイルを艶やかに見せている。
「そんなことないです」
 自分の本当の容姿をしらない蜜は、謙遜ばかりだ。
 しかし、神行寺はそんな蜜に何度も何度も君は美しいと告げていく。
「君はいつもそれだな……本当の自分を認めるのは怖いのかい」
「怖くなんて……」
 自分の姿なんてなんの価値もない、ただの一般の男だ。
 そうじゃなきゃ、この服を着てこんな場所にいたら、少しは浮いた気持ちも納まるだろうに、こころはただ場違いだと感じるだけだ。
 気落ち気味の蜜に、神行寺は首を傾げる。
「人ごみは嫌いだったかい」
 自分に気を使うような姿勢をとる神行寺に、蜜は慌てて否定する。
 確かに、人込みは苦手ではあったけれど。
「いえ、そんな……別に平気です」
 蜜の取り繕ったような笑顔をわかっていながらも、自分に合わせてそういってくれているのだからと神行寺は、そうか、と頷くと蜜に手を差し出した。
「さあ、行こうか」
「あの……俺、これからどこへ行くんです?」
 基本的な質問だが、誰も教えてくれなかったのだから聞くしかない。車の中ですら、あの久遠も永久も教えてくれなかった。
 神行寺は蜜の自ら差し出した小さな白い手をぎゅっと掴むと、綺麗な口元で微笑んだ。
「誕生日会、だよ……ただの、ね」
 ただの誕生日を蜜でも知っているような高級ホテルでやるだろうか。
 蜜は顔をしかめながらも、強引な神行寺に無理矢理腕を引っ張られ中に入ってしまった。
 まだ入り口に入っただけなのに、そこがどれほどのものなのかすぐにわかった。
 昔、家の評論家がその家の良さは玄関で判断できると何かで言っていたけれど、まさしくその通り。
 エントランスなのに天上は吹き抜けで蜜の住んでいたマンションよりも高いかもしれない。そしてその見上げた天井は、よく教会などについているステンドグラスで各々に綺麗な絵が描かれている。それよりも目を引いたのが大きな大きなシャンデリアだというのだから、驚くばかりだ。
 ここはまだ、どんな人をも受け入れる入り口に過ぎないのだ。
 足が自らは進むことを拒絶している蜜は、神行寺に掴まれた手を可愛らしくも無意識に握り締めてしまう。
「大丈夫だ、君は誰よりも美しいよ」
 まるで小さい子を宥めるように言う神行寺に、蜜は飽きれてしかし、それで緊張を解く。
「そんなこと……」
 蜜がどうでも言いという風に言っていると、そこに神行寺の名前を呼ぶ声が。
「神行寺様」
 呼びに来たのは先ほどとはまた違ったホテルマンだった。
 今度の人はきっちりブラックのスーツを着こんでいて、支配人のような人だ。
「談笑中申し訳ございません……実は、狗神様がどうしても神行寺様のお料理をお召しになりたいとおっしゃっておりますが……」
 初老の男はさぞ申し訳なさそうに告げた。
 それを聞いた途端、神行寺はあからさまに顔をしかめた。
「今日は俺は仕事で来たんじゃないはずなんだがね」
 どう考えても年齢的に偉い立場なのはその初老の男の方なのに、どうやら神行寺の方が位は上らしく男はペコペコと何度も頭を下げている。
「だいたい今日は連れがいるんだ――」
「奏也さん」
 蜜は思わず口を挟んだ。
 目の前の年老いた男が神行寺が首を縦に振らないだけで、ここまで肩を落としているのが哀れに思えて仕方なかったのだ。
 それ以上に年寄りをこんな風に扱う神行寺も許せない。
 蜜が突然会話に入ってきたものだから、神行寺もホテルマンの男もびっくりしたように蜜を見た。
「困っているんですから、助けてあげるのが礼儀ですよ」
 蜜が言うと、男はパアッと表情を変えた。
 しかし、神行寺の方はグッと言いたい事を飲み込んだようにも思える。誰に言われるより蜜に言われる言葉が一番影響力があるのだ。
「ありがとうございます……えーと、あの…」
「あ、上原です」
 蜜が恐縮気味にいうと、男は蜜の手をとって涙を流さんばかりにお礼を言う。
「上原様!ありがとうございます…ああ、なんとお礼を申したら言いか」
 様なんてつけられて呼ばれ、蜜はますます身を一歩引く思いだった。
 さっきから神行寺様と呼ばれても普段と変わりない神行寺を見ると、言われなれているように思えるが、蜜にとっては初体験のことだ。
 握られた手をどうすることもできず、ただ笑っているとその手を両断されるように神行寺に肩を引っ張られる。
「彼に気安く触れるな」
「も、も、申し訳ございませんっっ」
 神行寺があまりに凄みをきかせるものだから、男はさっきとは逆の意味で泣きそうになっている。
 蜜はそんな神行寺の身体を自分から突き放すように、腕で押しやった。
「奏也さん……俺は別に触られたぐらいで壊れたりしませんから」
「俺が嫌なんだよ」
 神行寺はそういうと、怯えている男を再び睨む。
「おい、君。彼も厨房に連れて行って構わないね」
「あ、はい、それはもちろんで……」
 男は即座に返事をしたけれど、蜜は首を振った。
「いえ、俺は外で待ってますよ……邪魔しちゃ悪いですから」
「邪魔なわけがないだろう」
 即答した神行寺の顔は、少し怒っているようにも見えた。
 それもそうだ。神行寺としては一秒だって蜜から離れたくないのに、さっきから蜜は自分と離れてもまるで平気な様子だ。
 むしろ、離れていきたいようなそぶりだ。
 そんなこと、絶対に許さない。
「いいから来るんだ、蜜」
 神行寺が強引に蜜の手首を痛いくらいに掴んだ瞬間、蜜の腰に四本の手が回された。
「蜜、厨房なんかつまんねーよ。俺たちと会場行こうぜ」
「久遠……永久……」
 神行寺は、またも現われた問題に額に手をやってため息をつく。
 その二人の登場で胸をなでおろしたのは蜜だった。自分が外で待つと言ったとき、神行寺は明らかにそれを許可する雰囲気ではなかった。しかし、久遠たちが自分を迎えにきてくれたのだから、行かせないわけにはいかないだろう。
 二人の手を腰から離し、目線があうように腰を曲げた。
「二人もこう言ってくれているんですから……俺は待ってますよ」
 神行寺が行ったあとで、二人には詫びをして外に出てけばいいのだ。
 やはりきらびやかな雰囲気や偉人溢れるこの場所は蜜には居心地悪いだけだった。
 テレビ業界も十分華やかな場所だと言われていたがここはまた違った印象を受ける美しさを秘めている。
 本物の宝石たちが石ころのように転がっていて、それを見て感嘆の声を漏らす人は少ない。みんなそれが当たり前だと思っているのだ。
 そんな人たちと一般人の自分が肩を並べていいはずがない。
 神行寺は再びうーんと唸り、最終的にやはり永久たちがいたせいだろう、厨房へは一人で行く事を了解した。
「じゃあ、会場で永久たちと待っていてくれ。俺もすぐに向かうから」
「はい、俺なら大丈夫ですから」
「ささ、神行寺様こちらへ……」
 男はもう一度蜜に頭を深深と下げると恭しい態度で、ふてぶてとした神行寺を厨房の方へと連れて行った。


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