−1− | −3− | 教師。

● やまとなでしこ☆ダイナマイト --- −2− ●

「君…」
叶がそう言いかけたとたん、保健室のドアがガラリと開いた音がした。
 オレはそちらに気をとられ、視線をやると、またまたこれも男で驚いた。
だって、普通女子高の先生って女の先生が多いんじゃないのか??
「気がついたみたいじゃん……平気?」
しかも…また綺麗な顔とがっちりした女好きするたっぱをもってやがる。
 どうして、どうして神様は意地悪なんだ!
 おれに少しでもこいつらの身長をわけてくれぇっ。
 おれはそんなことを考えながら、曖昧に頷くだけの返事をする。
「英吏、お前まさか生徒を襲ったか〜?」
白い歯を輝かせながら、朝っぱらからすごいことを言う。
「まさか。…それよりお前、しばらく来るなといっておいたはずだが…」
叶は少し不機嫌そうに男に言う。
「ここはオレの部屋なんです」
「生徒をたぶらかす…ためのだろう?」
嫌味を交えたであろう発言に、養護教諭らしき男は笑いながら否定する。
「いやいや、一介の養護教諭であるオレ様は、叶大先生様にはかないません」
「あたりまえ…だろう?」
自信たっぷりの叶の声が頭に嫌に響く。
 オレにもこれくらいの度胸と自信があったらな〜。
 もう少し…あとちょっとは男っぽく見えたのかも。
 なんせ、今は女子高に妹の替わりに進入してもばれないくらい…女っぽいらしいから。
「それにしても…君…誰だっけ?英吏のお気にだったっけか」
「え…あ……」
オレはいきなり話題をこちらに振られ、あたふたする。
 そりゃそうだよ。
 初対面なんだもん。叶 英吏も…この白衣男も。
「まさか、僕のこと知らないとか?」
オレがあまりにきょとんとしてるもんだから、男は呆れたような声を出す。
 この男も格好いい顔立ちをしている。
 叶は王子様〜ってイメージだったけど、こちらは荒野をかけまわり女を口説く、さすらいのハンターって感じ。
 まあ、つまりはたらしっぽい。
 髪は染めたのか地なのかわからないけど、栗色で。短めに揃えてるせいで、耳に光るピアスがばっちり見えていた。
 服装も白衣の中はTシャツとジーンズで。
 ダークグリーンのスーツをビシッときこなしてる叶とは一味違った印象をうける。
 ―――が、一つだけはっきりしてることは…どちらも女にはよくもてる容姿ってこどだ。
「…さっき頭を打ってしまったらしく、一時的に物忘れが酷くなっているらしい…んだ。ね、ヒトミ君」
あれ?もしかして…助け船だしてくれた?
 いや、まさかね。だって、叶はオレが男でヒトミじゃないってことを知らないんだから。
「そうなの?」
白衣男に聞き返されて、俺は慌てて頷く。
 もう、そりゃあ力いっぱいあごを縦にふったよ。
「ふうん…。まあ、いいや。じゃあ、オレの紹介ね」
男は白衣をマントのように翻し、顎を少しだけあげて、ポーズを取った。
 普通の人がやると、ただの変な人なんだけどさ、こいつは妙に合ってて……。
「俺はこのLLC女学園の養護教諭、北条 宮。ほうじょう みや…だよ。思い出した?」
俺は今度は首を横に振る。
 思い出すわけがない。なんてったって、今日が初対面なんだから。
 喉まで出かかった言葉を俺はなんとか飲み込む。
 なんだか、このままここにいたら、俺は自ら暴露してしまいそうな恐怖を感じる。
俺は咄嗟にたちあがると、近くにあったボストンバッグを掴み、北条を押しのけ、ドアの方へかけた。
「…ヒトミ君?」
俺の異常な行動に、叶は目を見開く。
 女に逃げられたのなんか初めて…って顔だな。でも、残念でした。
 俺は女じゃないから、逃げちゃうよ。
「じゃ、オ…じゃなくて私、教室に行きます。介抱してくれてありがと。じゃなっ」
俺は脱兎のごとくがむしゃらに学園内を走った。

「はうぅ〜…ここまでくれば平気…かな?」
俺は今現在自分がどこにいるのかもわからないのに、とりあえず安心した。
 だって、なんだかキラキラセレブオーラがまとった男たちは、なんだか近くによっちゃいけない感じがした。
「根本…ココロさん?」
俺はビクッーとして肩をすくめる。
 だって、だって…俺は今ヒトミになりきってるのに…俺に声をかけた人は確かに『ココロ』って俺のことを呼んだんだ。
 額からおかしな汗が出てくる。
 怖くて後が振り向けない。
 足が震えてくるのを感じた。
 だって、声の主は………女。
「ヒトミから事情を聞いてるものですけど…私のこと聞いてませんか」
その言葉に俺はホッとして、その場にペタンと座りこむ。
 その俺の右腕をひっぱって立たせながら、女はにこりともしないで言う。
「ヒトミさんと同室の西園寺 雪です。…つまり、今日から二週間は私とあなたがルームメイトなんです」
「えええぇ」
女と同居っ!
「事情は聞いてますけど…私も寮に残るのでしかたないと思ってください」
「そ、そんなこといったって…」
「あなた本当にヒトミのお兄さん?あなたの方がずいぶん女っぽいわね」
「ば、馬鹿にすんなっ」
俺は西園寺の腕を払った。
 かなり力強くやったのに、そのポーカーフェィスは壊れない。
 うう…だから女ってやなんだよっ。怖い…。
「私のことも聞かされてない…ってことはまさか、あなた…何も詳しいことは聞いてないの?」
「え、あ…うん」
そう。俺はヒトミに二週間大事な講習があるからさぼれないと言われてきたんだもん。
「じゃあ、まさかLLC女学園の意味もわかってない…とか」
「あ、そうそう!俺不思議なこといっぱいあって…なんでここ男の先生がいるんだ?普通、女の先生ばかっかり…とかじゃないの?」
俺にとって、そうなってしまえば地獄に拍車がかかるのだけれど、この状況はどうもふに落ちない。
 雪は人知れずため息をついた。
 ヒトミ…あんた何か企んでいたわね。さすが私の親友……。
「LLCは何の略称かご存知で?」
「まさか」
「Love lesson class……」
綺麗な英語発音に、俺の耳はついて行けなかった。
「へ?も…もう一度言って欲しい…な〜…なんて」
「調教学校よ」
「は?」
今度は言葉はわかったけど、意味がわかんない。
「先生は私たちに、キスの仕方、キスのされ方、男の落し方、その気にさせる方法…それ以上…などなど…を仕込むのよ」
「はい?」
俺はもう一度…最後の問いかけをする。
「だから、愛の調教学校…なのよ…ここは」
「えええぇぇぇぇええええ!?」
HRが始まっているであろう学校の廊下で、俺は出る限りの声で叫んだ。
 パニックに陥っている。
 身体は動かなくなってる。あまりにびっくりしてショートしたみたいだ。
 つくづく俺の体って敏感に出来てるよな〜…。
 自分で呆れてものも言えないよ。
「落ち着いたかしら?」
俺はぶんぶんと首を横にふる。
 落ち着いた?落ち着けるのか?この状況で。
「でも、そろそろいかなくちゃ。講習会のHRももう終わってしまうし…三十分後くらいには、講習会が始まるわ」
「こ、講習会って……な、何やるんだ」
まさか…さっきの叶も、こんな学園だから、俺にあんな質問をしてきたのか。
 待て、じゃあヒトミはいつも、叶や、北条みたいなやつらと…あんな…あんなことしてるのかっ!?
「さあ……出てみればわかるわよ」
この女、なんでこんなしれっ、としてられるんだぁ!
「でたくないっ」
「じゃあ、あなたなんの為にここにきたのよ。講習会出るためでしょ。ヒトミの替わりに」
そりゃ…そうだけど。
「でも、やだっ。俺は男だぞ、なんで男なんかといちゃいちゃしなきゃいけないんだっ」
「現代の恋愛に、年齢、性別、身分なんてものは障害にはならないと思いますけど。それに、ココロさん、女性嫌悪症なんでしょう?よかったじゃないですか、相手が男の方で」
「よくないっ」
何言ってるんだ…西園寺は。
 あいつらは俺を女であるヒトミだと思ってやったんだぞ、男だってばれたら…殺されるような気がする…。
 とにかく、あんな…キスとか…俺、絶対、絶対いやだっ!
「ま、あなたがよくなくても、よくても、講習会には絶対参加ですから。さあ、先に寮の方へ案内しましょうか。荷物持てます?」
「ば、馬鹿にすんなっ」
いくら俺が女性嫌悪症でも、女に荷物を持たせるような非礼、無礼なヤツじゃない。
 俺は西園寺の手から、自分のボストンバッグを引っ張りとると、精一杯の強がりで立ちあがった。
「じゃあ、行きましょうか」
相変らず西園寺はニコリともせず、俺の前を歩き出した。

 「逃げられちゃったね〜…珍しい…というか、初めて?」
LLC女学園養護教諭、北条 宮はさも面白いものをみたように話す。
 話しかけられたはずの叶 英吏はそれには返事をせず、質問で返す。
「宮…根本ヒトミ…を知っていたか?」
「ん……普通程度ね」
「ああいう子だったか?」
「いや、ここの学園にくる子たちと大差なかったはずなんだけどねぇ」
さっきの子はどうもうぶに見える。
 おかしいな〜……あんな子、学園に入学できるわけがないし、ってか、入れたとしても生活できていけないだろう。
 なんてたって、LLC女学園。
 朝から晩まで、ハートとえっちな色が飛び交っている学園だ。
「俺は、アレが気に入った」
「へ?」
北条は叶の言葉に初めピン、と来なかった。
 けど、一人称が俺になっていることに気付き、ハッ、とする。
 こうなった英吏は…つまり、本気モードなのだ。
 学校にいる間は、絶対、私、って自分のこと言ってるくせに。
「英吏…今、お前、気に入ったって言った?」
「ああ……」
「叶 英吏殿ですよね?」
北条はおちゃらけて、確かめるように言う。
「……ああ、確かに俺だ。だが、どうもおかしいみたいだな。欲しいんだよ、あの子が」
「生徒に最後までするのは、ご法度ですよ。叶先生さま」
「お前だって、何人にも手をだしているだろう」
「俺は後腐れないのしか、やんないもん。お前のは、違うんだろ」
「ああ、確かに……な。叶 英吏ともあろう俺が…本気みたいだ」
北条はまたまた驚く。
 この男、叶 英吏とは長い付き合いだ。二十年越しの付き合いと言っても過言じゃないだろう。
 家は隣同士で、親はそれぞれ会社社長をこなし、幼い頃から友達を限定される中で、唯一、イヤイヤではなく、側にいた友人だ。
 しかし、そんな北条も、こんな顔をする英吏を見るのは初めてだった。
 少し戸惑いが混じったようであり、嬉しそうであり。
「それと…一つ質問なんだが、アレに姉か妹はいるか?もしかして、それと入れ替わったとか。雰囲気からすると、そんな感じじゃないか?」
「姉…はいたけどもう大学生なはずだし………っ!」
北条は何かに気づき、その口を自らふさいだ。
 いつもは、こんなことに気付かない英吏様ではなかったが、今はココロのことが頭から離れなくなっているため、正常に脳が働いていないらしかった。
「まあ、調べとくよ。ほら、講習始まるんだろ」
「そうだな、また、来る」
叶は立ち姿すら美しく、保健室を後にした。
 北条はそれを笑顔で見送り、足音が気こなくなると、はやる気持ちを抑えつつ、保健室に似つかわしい、でかいデスクの上にあるノートパソコンを開くと、生徒の個人情報が入っているフロッピーを入れた。
 本当はこんなの一介の養護教諭が見れるわけないんだけど、さすがLLC女学園の養護教諭。生徒の相談役をうけることも多いので…と、学園長から直々にこれを渡されたのだ。
 ちなみに、ここの学園長、まだ二九歳という若さなのに、やり手な人で、つい昨年、引退を決めた前学園長からこの学園を任されたのだ。
 その前の学園長もこんな学園建てたくらいだから、めっちゃオープンな性格なのだが、その息子、堰荘院 新(せきそういん あらた)は、さらにすごい。
 なんてったって、自ら教師として紛れ込んでいるから。
 まあ、そのことは一部の教師にしかしられてない事実だったりする。
 しかし、学園長も若ければ、教師たちはもっと若い。
 最年少の英吏と自分から始まり、みんな二十代。
 さすがにうら若きお嬢様たちは、これくらいの年代がお好きらしい。
 高等部の生徒はさすがに、うっとうしく思うときもあるが、そういうときは大学部の方に顔を出せば、何人か勝手についてくる。それを相手にすればいいのだ。
 ここにいるかぎり、女に不自由はしない。
 まあ、本気になることも少ないけれど。
 なんてったって、自分たちの好きなように仕込み、自分たちこのみにつくりあげた貪欲なお嬢様かたには、あんまり魅力を感じなくなっているのだ。
 それに、生徒に最後までしちゃうのは一応、軽く止められてるしね。
「あった…根本…ヒトミ…」
そんなことを考えているうちに、ファイルの中から、根本ヒトミの名を見つけ、北条はクリックする。
 俺の記憶が正しければ……。
「やっぱり……♪」
北条の怪しげな笑みが保健室に妙にマッチしている。
 北条はパソコンの電源をそっと切ると、不穏な笑みのまま、放送室へと急いだ。

 「ここよ。この桜棟の3階、302号室があなたと私の部屋」
思っていたよりも寮は普通の作りで。
 想像していたのは、フリフリのカーテンのついた出窓がそこらじゅうについていて、床は真っ赤な絨毯に覆い尽くされていて、真っ白いドアに金縁のノブ……とか言うのを想像していたのだ。そう西園寺に言うと、
「そういうのは薔薇棟よ」
やっぱりあるのか…。ヒトミの持ってる少女マンガのうけうりの想像力で言ってみただけだったのに。
 まあ、そんなとこで生活するのは、疲れそうだから絶対やだけど。
「へえ……思ったより広いんだな。部屋」
「そうですね。ここは端の部屋ですし…この学校はプライベートを尊重してますから」
確かに、清楚なつくりのその部屋は、トイレやお風呂は二人で使うようになってはいる物の、ベッドが部屋の中央に隣あわせになるように位置されていて、その間に防音式のカーテンがあった。
「うん、やっぱ女子高だな。俺んとことは全然違う」
「ココロさんの学校にもあるんですか?寮。確か…男子校でしたよね」
「うん…すっごい汚かったから、俺入んなくて本当よかったって思ったもん」
「入るおつもりだったんですか」
「ああ、でも寮に入ってる友達とかに、お前は入るなって言われてさぁ〜…なんでだか」
襲いたくなるからでしょう。
 西園寺 雪は目の前の男にそう言いたくなって、なんとかこらえた。
 だって、言ってしまったらつまらないから。
 けれど……本当にヒトミと似てて、ヒトミと違う人だ、と思う。
 華奢で可愛くて、美人で…そこはヒトミとほとんど同じなんだけど、この人は見てるだけで…なんか………犯ってしまいたくなる…感じ。
 ピクピク反応する身体とか、くるくるよく動く目、必死になる性格、どこをとっても、苛めてやりたい、泣かせてみたい…という気持ちをそそるのだ。
 ただ、もし、私が男なら、で、あって。
 もう、天然男寄せフェロモンとかもってるんじゃないかな?
 って感じ。
「俺、こっちでいいんだよな」
防音カーテンを開いた先にある部屋に進みながら、甘い声が聞こえてくる。
…ふふふ…楽しみだわ…。
 恋愛に、歳も性別も、身分も国籍もないと博愛主義な西園寺 雪は、これからのココロの生活を想像し、一人ほくそえむ…。

『根本ヒトミ君…根本ヒトミ君…。今すぐ保健室に来て下さい』
いきなり寮に大音量の放送の声が響く。
 これはさっききいた声だ。北条だ。
「俺、なんか忘れものでもしたのかな…?」
ココロはヒトミのクローゼットに自分の荷物を押しこみながら、首をかしげた。
「あれ、でもこれってもしかして…講習でなくてオッケーってやつ??」
「そうみたいですね」
「うわっ」
独り言を呟いていたところに、いきなり背後から声をかけられて、ココロは飛びあがる。
「な、なんだよ…びっくりするだろ」
それに…あれだ…女性嫌悪症が発動しかかってる…。
 身体中がおかし…い…寒くなって、かゆくなって…気持ち悪くなって来るんだ。
 これじゃあ、呼ばれなくても保健室に行かなきゃならなくなる。
「まあ、しかたないですね。先生には私から説明しておきます。保健室へいってらして下さい」
「はーい★」
ココロはスカートであぐらをかいていたことも忘れ、スカートを翻し立ちあがると、保健室に向けてダッシュした。

続く。
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