−4− | −6− | 教師。

● やまとなでしこ☆ダイナマイト --- −5− ●

「冷たっ……!」
 すっごいやんわりした夢の中にいたのに、いきなり身体中に冷たさを感じて、俺は悲鳴をあげる。
「あれ……ここ?」
辺りを見回してみると、俺はなんでだか服を着たままお風呂の中にいたんだ。ううん、正確には、浴槽の中じゃなくて、浴室。つまり、身体とか洗う場所に座らされて居たんだ。そして、目の前に特大の存在感を発している英吏が、シャワーのノズルを握っていて…。
「俺の部屋だよ」
「英吏…」
目の前に居たのは、シルクの黒いパジャマを身にまとった、英吏で。
 なんと。この学校の中には教師の部屋まであるのか。ってか、それにしてもすごすぎなんだけど……。本当に英吏の部屋?
 いや、疑ってるわけじゃなくて、何て言うか…作りが、少女趣味。
 ううん、これこそ英吏って感じなんだけどさ。
「あの、俺…どうかした…?」
上手く思い出せないんだけど…。うーん、それにしても身体がなんかベトベトするし、甘い匂いが…。
「どうした…だって?」
あれ?英吏……なんか怖くない?しゃべり方。何て言うかさ、低いって言うか、厚いって言うか。
「俺が聞きたいね。なんで、京なんかにその身体を開いていたのか…」
京…。
 その名前を聞いて、俺は少しずつ今日の出来事を思い出し始める。
 そうだ、俺お腹が減って、学校探索に出て、ラウンジ発見して、中に入って…!?
「京…って…料理長さん……のコト…」
そうだ。なんだかわかんないけど…襲われたんだっけ…俺。
 どれだけ泣いたかわかんなくて、あまりに怖くて、俺、気を失っちゃったんだ。
 だって、だって…まさか身体に生クリームなんてぬってきて、あんなことするなんて思わなくて…。ああっ!
 思い出すだけで、なんか恥ずかしいって言うか、嫌。あんなの嫌だよ、俺。
「料理長さん…ねぇ。あんなことされといて、ずいぶん丁寧な呼び方するんだね。君は。それとも、悦んで足開いてたのかな?」
「なっ!」
俺は座りこんでいた身体を無理矢理に立たせ…それでも俺のほうが英吏よりずいぶん小さいから下から眺める形になっちゃうんだけどさ…営利を睨んだ。
 嬉しそうだった?俺が?
 ふざけるなっ!
「何言ってるんだよっ。冗談じゃないぞ」
「ああ、冗談じゃない」
俺は本気で怒ってるのに、それ以上に英吏は俺に腹を立ててるみたいだ。
「君が淫らに夜を過ごしているのを、俺は冗談ですますはずがない」
「み、淫ら…って…」
何言ってるんだ、英吏は。本当。
 そんな単語、どうして今出て来るんだよ。
「淫らじゃないとしたら何?官能的とでも言ったほういいかな?男を知らないような顔して、俺まで騙しこんで、今夜は京に相手してもらおうってのか」
英吏はそう言いながら、俺の顎をくいっと細い指で掴み、上に顔をあげさせる。
 それでなくても、俺は気持ちで負けるのが嫌で、英吏を睨んでたから、首をあげていたのに、さらに持ち上げられて、喉がぎゅって圧迫されて、ちょっとキツイ…。
「何に怒ってるのかわかんないってばっ」
俺は本気でそう言ったのに。
「君はそうやって男を落すんだね」
英吏の答えは、全然俺の的をはずしてて。
「お腹が減ったから、京にご飯を作ってもらっただけだよ…?」
それ以上のコトされるなんてわかってたら、絶対、絶対ラウンジなんていかなかったよ!
「そう言えば、夕食の席にでていなかったね。俺は君をずっと待ってたんだけど」
恨みがましいような目で言われて、俺はちょっと引き黙る。
 で、でも…そんなこと言われても、約束なんてしてなかったわけだし、第一歩けなかったんだよ俺は。英吏が……あんなこと…するせいで。
「英吏のせいだからなっ!俺は悪くない!」
むしろ、ご飯が食べれなかった俺は、起こる立場じゃないのか?
「俺のせい?」
英吏は初めて、怒りが見える表情を少しだけ崩した。
「歩けなかったのっ!」
「……それがどうして俺のせいなんだ?」
英吏はさも嬉しそうに口をほころばせて笑った。
 俺のせいで歩けなくなった……原因は一つしか思い出せない。
「言ってごらん」
俺は顔を真っ赤にして、うつむいた。
 でも、英吏の指と言葉はそれをゆるさない。
 い、言えるわけないだろ!あんなこと初めてだったんだから。
 ってか、なんて言ったらいいかわかんないし。
「さぁ……」
さも楽しそうに鋭利は問いただす。
 言って…。お願いだから、その可愛い口で言って。
 そして、俺を安心させて。
 君が他の男に触られてる場面を見て、痛んだ俺のハートを慰めて。
「わかんない…けど」
「どうしてわかんないんだい」
なんか、小学校低学年の教師と生徒みたい。
 今の英吏にさっきみたいな恐怖は全然感じなくて、むしろ俺とのやりとりを楽しんでるみたいだ。
 理不尽…。俺はそんな言葉が頭に浮かんだよ。今、まさに!
「だから……どうしてって言われても…わかんない…」
「わかるだろう。自分の身体のコトだ」
なんて可愛いんだろう。耳まで真っ赤だ。
 今、君を押し倒したら、君はどう思うんだろう。
「足に力が入らなかったのっ」
は、恥ずかしい。だって、英吏が俺にした行為のせいで、俺の足がたたなくなったってコトは、つまり……一つしか原因はなくて。
 友達との会話で、まぁ、本当に少しは聞いた事があったんだ。すごいことしちゃうと、足とか震えちゃって一日くらい使い物にらななくなったりするって。
 ってことは…俺と英吏がしちゃったことって…そのすごいコトなのかな。
「俺の愛撫はそんなに気持ち良かんだ。君、すごい良い声で鳴いてたもんね。感じたんだね」
うっとりとした目で、何か思い出すように英吏は微笑んだ。
 否定できないから、恥ずかしい。
「知らないっ」
俺が顔を背けると、英吏は俺を抱きしめた。
 あ……。俺、今すっごい格好なのに。
 身体はクリームとさっき英吏にかけられた水でびちょびちょなのだ。
「汚れる…」
俺は英吏を身体から離そうと、その厚い胸板をそっと押しやった。
 けど、そうすればそうするほど、英吏の腕には力が入って、逃げ出せなくなってしまった。
「英吏ぃ……」
俺が名前を呼ぶと、俺の首筋にその顔を埋めてくる。
 チクンって少しだけ痛んだから、何かなって思ったけど、俺の視界にはそこは見れなくて、鏡で見ようにも、鏡は俺のちょうど背中にあって。
「俺に感じたんだよ、君は」
「?」
「だから、俺意外にその身体を開くことは許さないからね」
あの……身体を開くって、どういう意味?
 さっきから思ってたんだけど。
「なんで?」
 他にいくらでも聞き方があったのに、なぜか口から出たのはその三文字で。
「君は俺のものになったから」
 不機嫌そうに英吏はそう言った。
ちょ、ちょっと!なってないよ!
 否定するように、今度は本気で英吏の腕の中から逃れようとすると、英吏はまた少しムッとした顔になった。
「なぜ俺から逃げようとするんだ」
なんでって…。だって、だって…変なことするじゃん!
「俺が怖い?」
「え……」
怖くは……ない。うん、そういうんじゃなくてさ。
 なんだろ、ぴったりな言葉が浮かんでこないや。
 何て言うか、えーと……。
「ど、ドキドキする……かも」
「どこが?」
「……ここが…」
俺が自分の心臓のに手を重ねるようにすると、英吏はその上に手を置いた。
 ドキッ…。
 心臓がさっきよりも早足になったのを俺は感じて、身体を竦める。こんなに心臓が急ぎだしたのは、去年のマラソン大会で学校の周り10キロ走った時以来だ。
 なんで…?運動してるわけじゃあないのに。
「本当だね、すごく……伝わってくる」
「なんで…?」
もどかしいような、じれったいようなこの感じ。なんだろう。
 今日は、北条にも京にも英吏と似たようなことされたのに、心臓がこうなったのは、本当は英吏だけなんだ。
 そりゃあね。あとの二人のときもドキドキしたんだけど。だって、人に身体をあんな風に触られたのは初めてだったんだもん。
 でもさ、なんか英吏は違う……。
 触られるだけじゃなくて、見つめられてもドキドキしてくるんだよ。
「君が俺を好きだからだよ」
「ぇ……ええっ!?」
な、なんだよ……それ。
「ち、違うっ!」
大人しく腕の中に納まっていた俺が急に慌て出したせいで、英吏はちょっと怪訝な顔をした。
「違わないよ。君は俺を好きなんだよ、俺が君を好きなように…」
「ぇ?」
さっき言われたコトもびっくりしたけど、俺は再び目をまん丸にした。
 英吏が俺を好き…?
 ってか、俺も英吏も………男だし。
 じょ、冗談だろっ。
 黙りこんだ俺を見て、英吏は苦笑した。
「恋愛ってしたことない?」
………わぁるかったね。高校生にもなって彼女の一人もいないで。女が怖いのに、そんなもの出来るわけないじゃん。
「女と男がするモノ…じゃないか」
それくらい俺だってしってるぞ。
「それも違う」
英吏は優しく首を振った。
「愛し合ってる者同士がするものだよ」
英吏は極上の笑顔で、俺の耳元に囁いた。
 それがあまりに優しくて、綺麗で、胸がキュンって鳴いた。
 英吏って……やっぱ…格好良い。
「でも、俺……よく、わかんな…い。逢ったのだって、今日じゃないか」
そう。出会ったのは今日。
 女だらけのここに来て、男である英吏を見て安心して倒れちゃったんだ。
 でも、よく考えてみれば、いきなり意識を失うなんて、俺いままでなかった。いくら、安心したからって言っても、その場にへなへなって崩れ落ちるくらいだった。
 なんだか、英吏を見たらほっとしたんだ。
「愛する二人に時間は関係あるのかい?」
英吏に断言するようにそんなことを言われると、否定できなくなる。
「でも、俺…っ」
なんでだろう。涙が急に出た。
 なんだかドキドキが最絶頂に達してて、俺は上手くしゃべれない。
 何が言いたいんだろう。こんなの初めてで、頭が混乱してる。
 戸惑いを隠せない俺の唇に、英吏は優しいって言うよりは、ちょっと強引に唇を這わせてきた。
「んんんっ」
頭が混乱してるその上に、英吏の熱が入りこんできて、ますますくらくらする。
「んーんっ」
やめてっ!何も考えられなくなるじゃないかっ。
「……っ」
少し逃げるように口を開けると、英吏のか俺のかわからない蜜が、端から零れ落ちる。
 英吏はそれを舐めて、口の中に戻していく。
 そんな行為が恥ずかしくて、恥ずかしくて…。
 俺は頑なに口を閉ざそうとする。
 どうしてこんな強引なんだよ。もうちょっと考えさせてっ。
 俺が強くそう思った瞬間、俺は英吏の下唇を思いきり噛んじゃったみたいだ。
 いきなり俺の口の中にも、鉄っぽい味が入りこんできて、俺はがむしゃらに突き放す。
「ぁ………えい…りぃ」
今のはあからさまに俺のが悪かった。
 唇を噛んじゃったうえに、突き放してしまったのだ。
 英吏は少しうつむいて、その細く長い親指で下唇の真っ赤な血をぬぐうと、キッと視線を俺に向けた。
「君を感じさせ達かせてあげたのも俺。愛してると告白したのも俺。それにドキドキを感じたのは君だ。なのに、なぜ!?俺を拒むんだ!」
大人な感じの英吏の感情を表にした態度に、俺は一瞬身を怯ませた。
 英吏は俺の腕をがっちり掴むと、床にその身体を押し倒した。
 強い力…たった四歳しか違わないのに、英吏の腕の力を振りほどけない自分に、俺は悔しくて、悲しくてたまらなかった。
「やめろっ!離せっ」
腕を払おうとすると、痛くなるだけで。
 英吏は強引に、俺の首筋にその顔を埋めてきた。
 何度もくっつけられて、離される。
 そのたびに、チクリという小さな痛みを感じたり、ざらっとした舌の感触がしたり、蜜が滴るような水の感触がした。
 そのたびに小さな反応をする俺に、英吏は少しだけ笑った。
 その顔はっすごい怖い笑顔なのに、なぜか俺は……きれいだなって思った。
 一瞬だけど…。あとは恐怖が勝っちゃったよ。
「やぁぁっ!」
ビリビリってものすごい音がしたと思うと、俺のべたべたなパジャマは、ボタンごと左右に開かれた。
「俺が着せたモノじゃないね」
やっぱり…あのフリフリ少女趣味パジャマは英吏だったのか。
「俺は女じゃないっ」
「似合っていたのに……まぁ、京にいいように汚されるみたいだったから、着替えてもらえて…ね」
英吏は再びシャワーのノズルを持ち、俺に冷水を勢いをよくかけてきた。
「ふぁっ…あっ……冷っ…」
頭から、つま先までぐっしょりになる。
 そのかわり、甘い薫りは俺から溶け落ちて排水溝に。
 俺、甘いモノは好きなんだけどなぁ…って流れ落ちていく、生クリームをぽや〜っとする記憶の中で見ていたら、英吏に首を強引に違う方向へ向かされる。
「痛っ……っ何……?」
怯えきった身体からでてくるのは、震えた擦れ声で。
「あんな男の作り出した物を、名残惜しそうに見るんじゃない」
「え?」
聞き返した俺を無視して、英吏はシャワーの勢いを最大にして、左手を使って、俺を洗い始めた。
「んっ……」
髪の毛を、頭のてっぺんから撫でるようにすいていく。真っ黒な俺の髪を、さも愛しいように一本一本洗っていく。
「ひゃっ、ぁっ」
その手が、流れるように胸を這うせいで、俺は先刻の英吏との行為を思い出す。それだけで、身体は焼けるように熱を帯び出す。
「京が好きなのか…?」
「へっ…あっ……」
不穏な指先は、俺のずぼんにかかる。
 確かに……ずぼんもクリームでデロデロなんだけどさぁ…。
 それよりも、俺はさっきの英吏の言葉が気になる。
「それとも…俺が君を慈しむ前に君の身体にその愛撫の痕を残したヤツが…?」
「違うっ!」
「なら、どうしてっ!」
「……ぇ?」
「君は京には…そんなパジャマ姿なんて無防備な姿をさらすんだ!お腹がすいたなんて、夜中に頼るんだっ。なんで……名前を教えるんだ」
 え…?名前?
「俺は君に、その口から名前すら紹介されてない…」
英吏は悲しそうに、俺のぺったんこの胸にその顔を埋めた。
 それって…どういうこと?
 名前なんて…。
「京に教えておいて、なんで俺に教えない」
「英吏…」
「俺だって君をその本当の名前で呼んであげたい。君のその存在をあらわす偉大な言葉で、君を拘束したい…」
英吏の俺を抱きしめる腕に力が入る。
 英吏……英吏…。
 心の中でその名前を俺は叫んでいた。
「…ははっ」
俺はこんな状況下なのに、笑いを抑えられなくて、思わず笑ってしまった。
「英吏…英吏…」
英吏のサラサラの頭を撫でてやると、今度は英吏がきょとんとした顔になった。
 ああ、もう…コイツ…可愛すぎ。
 年上で、背なんかも俺よりずっと高くて、がたいもいい。その上さっきまで俺を襲っていたコイツを、俺はなんだか可愛いって思っちゃったんだ。
 撫でるだけじゃたまらなくなって、俺は恥ずかしさも忘れて、頭をぎゅっと抱きしめる。
 そして、よく聞こえるようにって思って、耳元でそっと囁いてみた。
 呼んで!
 俺の名前。
「根本…ココロ。俺の名前はココロ……だよ」
耳元で今一番聞きたかった言葉を好きな人に囁かれて、我慢できる男がいたら教えて欲しい。
 そんなことしらないココロに誰かそれを教えて上げるべき…。じゃなきゃ、英吏の貪欲に走り出したココロを求める欲望は、止まるってことをしらないんだから。
 案の定、英吏はむさぼるような、荒のような口付でそれに答える。
「んぁ…っ、ふっ…ん〜んっ」
な、なんだよう〜っ。俺、名前呼んで欲しくて言ったのに。
 英吏は舌を喉のほうまで絡ませてきて、口の中の全てを突いてくる。たまに、身体がズクンってするところがあって、身体をねじると、英吏はそこばっかり何度も弄る。
 気分が遠くなる。
 心地が良い。
 どきどきする。
 さっきまで感じていた感情の波が、いっせいに大集合したみたいだ。
 そんなキス。
「ココロ…愛してる…一目惚れだよ…」
生まれて初めて、名前を言われて俺、こんなにうれしくなってる。
 どうしよう…。おかしいって。
 涙が…出てくる。
「どうしたの?ココロ」
「ふっ…んんっ…俺…ぅ…ひっ…嬉しくて…」
見上げて、涙目でそういうと、英吏は俺の目の端に、その長い熱い舌を突けて、全て舐め干してしまった。
「ああ、なんて可愛いんだろう。ココロ……どうしよう、俺はどうしても君が欲しいよ。君が嫌って言っても…監禁してでも、無理矢理にでも振り向かせるよ」
監禁って…。
 その言葉に俺は少し苦笑する。けど…。
 けど、英吏にココロって呼ばれるのは、すごく心地よくて。
「名前…も一度よんで…?」
小さい子みたいってみんなは笑うかもしれない。こんなおねだりして。
 でも、でもさ……もう一度呼んでもらえたら、何かが変わる気がしたんだ。俺の中の何かが…。
「ココロ」
胸がドキンって言った。叫んだよ。今。
 心が、この人を好きって囁いたんだ。
「ねぇ、ココロ……」
再び呼ばれて、俺は早く自分の言葉をあらわさなくちゃって、焦ってろれつがまわらない。
「英吏ぃ…す…きぃ」
「ぇ」
「愛してる…俺もぉ…、俺…」
続きが言いたかったのに、それ以上は再び唇を塞がれて言えなかった。
 「や、やだっ…何?何するの…」
下着も全て脱ぎとられて、俺はお風呂の中で叫ぶ。叫び声は反響して思ったより大きな音になっちゃったけど、英吏はそんなこと気にしてないみたいだ。
 俺は、自分の甘い声が響くのがいやで、口を噤み手で押さえ込む。
 苦しいけど…それどころじゃないもんっ!
「駄目だよココロ。それじゃあ、ココロの甘い声が聞こえないじゃないか」
「うわっ…あっ!」
両手を掴まれたと思ったら、ガッと開かれて、俺は英吏とバッチリ目があっちゃって、いたたまれない気持ちになった。
「あのさ…何…するの?」
未知への恐怖と、大好きな人と触れ合ってるドキドキと、張り詰めてくるソコと……。
 これを混乱と呼ばなければ、何をそう呼ぶのだ!と怒鳴りつけたい心境のココロはためらいがちな、上目遣いで英吏に問いただす。
 英吏は口元にいやらしいニュアンスを醸し出す笑みを浮かべると、ココロの首筋に熱いキスをする。
「……っちょ、ちょっと…英吏…っ」
またも声が響いちゃって、俺は慌ててトーンを下げる。
 だって、だってさ英吏ってばいきなりそんなことするんだもん。
 びっくり…しちゃうだろ。
「ねぇ、ココロ。私は限界なんだよ」
「限界………?」
「ココロが欲しくて欲しくてたまらないって思う…俺の欲望が…さ」
一人称が【俺】になった。
 つまり…本心?
 えぇぇぇ!俺が欲し…い!?そ、そんな、こっ恥ずかしいこと言うなよな〜!
 うわぁっ!俺絶対今、真っ赤になってるって。
「英吏ぃ……」
助けを求めるように名前を呼んでみたけど、英吏はもうするって決めてるみたいだ。
 でもさ、でもさ……男同士じゃん俺ら。
 どうやって…するの?
「あの…俺、知らない…んだけどぉ…」
「俺が教えてあげるよ。なんてったって……教師だからね」
そういえばそうだったっけ?
 忘れるよ…こんな外見してて、見たまんまの性格してるから。
「で、でも……」
緊張で身体をこわばらせると、英吏はひょいっと俺の身体を持ち上げた。
 うん、それはやっぱり、お姫様だっこで。
 で、でも俺………裸なんですけどぉ。
「じゃあ、ココロに教えやすいようにベッド行こうか?」
「え、え、ええ〜!?」
お願い…今日はもう許して!
 告白なんてしたのも生まれて初めてで、まだ興奮覚め止まない…って状態なんだからさ。
 一人でほのぼの余韻に浸らせてよ〜!
「俺、そろそろ寝ないと明日の講習…」
「平気だよね?こんな夜中に京に会いに行く時間があるくらいなんだからね」
そう言っている英吏の顔はピクリとも笑ってない。
 さっきまで超ご満悦だったのにさ。なんだよっ。
 ってか、まだ気にしてたのか……ソレ。
 しかも、なんだか取り違えてない?俺は、お腹が減ってラウンジに行っただけで、京に会いに行ったわけではないんだけど…。
 そう、決して京に会いたかったわけじゃなくて、メインはご飯!
 う、うーん…ここまで言うと、京になんか失礼かな?
 襲っては来たけど…その前までは良い人だったし、ご飯までつくってくれちゃったし、俺結局後片付けちゃんとしてないじゃん。
 きっと、京がしてくれたんだろうな〜……。
「俺の腕にいる間は他の男のことを考えないでくれないか?」
「ぁ……」
俺の頭の中が読まれちゃったのかな?
 英吏はすっごい俺様なヤツなのに、こういうときって…なんでこんなに…切ない表情するかなぁ。
 本当……可愛いやつ。
「ハイ……」
ココロが大人しく返事をすると、それでも疑いがはれないけど、なんとか機嫌が直った英吏にベッドにまるで卵を置くかのように、優しく置かれる。
 ズン…。ギシ…。
「んっ……」
二人分の重みを伴ったベッドのきしむ音が妙にリアルで、ココロはますます目を瞑った。
「大丈夫だよ」
英吏はココロの耳の中にその熱を帯びた舌を注ぎ込みながら、囁く。
「ふっ……」
ココロの手と、肩と、足とが一瞬にして、可愛い反応をする。
 怯えたように硬くなっていたその肢体が、やんわりと英吏の愛撫に動くのだ。
 その様子があまりにもかわいらしく、愛しくて、英吏はジッとココロを見つめてしまう。
 ただ愛撫に反応し、声を振り絞っていたココロは、急に止まったその快感をもたらす指の動きに、思わず目を開く。
「おはよう、僕の恋人……」
寝てたわけじゃないっ!
 ってか、寝られるわけないじゃんっ。
 恥ずかしかっただけ………。
「恥ずかしい…なんで見てるんだよ」
だって、英吏の見てる場所ってのが……俺の下半身…なんだよ〜!?
 しかも、ずーっと。
 見てるだけ!
「だって、可愛いんだもん。見ないと損でしょ?」
損とか得とかそういう問題じゃぁ…。
 こんなただ見られてるだけなら、触られたほうがマシなんだけどぉ。
「意地悪っ……」
ふてくされたように、俺は顔を横にぷいっと向けた。
 もうっ!なんて意地悪なんだ英吏は!
「見てるだけなんて嫌だっ」
あまりに怒ってたから、そんなことを口走っちゃったけど…。
 言った瞬間に、後悔したよ。
 だって、英吏の顔がすっごいすっごい嬉しそうになったから。
「ひゃぁっ…何!?…何して…」
英吏の身体の熱が、急に深く感じると思ったら、英吏は身体を全て下にいる俺に密着させてきて…その手で、俺のジュニアを縦になぞった。
「感度がいいね…本当に誰かに触らせたこと…ない?」
「あるわけ……」
そう言おうとして、俺はハッと口を開けたまま、何も言えなくなっちゃった。思い当たるフシが一つだけ…脳裏に鮮明に浮かんだんだ。
 それは今朝の保健室のでのこと…。
 そう…あいつ…北条 宮だよ。
 俺、あいつの手の中で…達っちゃったんだ…。
「……言ったよね俺。俺の腕の中にいる間、他の男のことを考えるなって…」
「あっ…」
大きなため息が俺の頬に振りかかる。
「君という子は……」
「ご、ごめ……」
慌てて言ってみたけど、全然効果なかったみたい…むしろ、冷たい英吏の表情にサラに磨きがかかったみたいに、英吏は怖くなって。
 英吏の右手が、俺の両腕を捕らえ、俺の頭上で一まとめにされて固定される。
 フルで力を使ってみても、右手だけの英吏に歯も立たない…。
 なんか、男として…悔しいよ。これ。

「誰だ」
問いただす声にさえ、余裕が感じられない。
「痛っ……」
無意識に手に力が篭る。
 ココロのゆがむ表情にも、俺の欲望は納まらない。
 誰なんだ…一体。
 さっきの一瞬にして全てを思い出したかの表情。
 あんな表情をさせたヤツがこの世界にいる…。それが俺以外ってのが嫌なんだ。
 ココロの身体にキスマークを残した、万死に値する男がいるのは頭では理解していた。
 けど、ソイツが俺のココロのココまで触って、達かせたのかと思うと、本当に腸が煮え繰り返るような気持ちになった。
 嫉妬。
 おさえられない嫉妬の波。
「誰なんだ…一体。君に快楽を与えて、ココロを達かせたヤツはっ!」
使ってない左手が、ココロの右耳をかするんじゃないかってくらい近い位置にドスンと落ちる。
 さすがにベッドだから、ものすごい音とかはしなかったけど、当たってたら絶対痛いはずだ。
 ココロと英吏はしばし無言で見詰め合ったけど、先に口を開いたのはココロだった。
「どうしたんだよ…いつも余裕いっぱいのくせに……」
さっきの英吏の行動で少し落ち着かない心拍数を抑えつつ、ココロは平常心で聞く。
 しかも、目元はほんのり笑顔で。
 英吏は目を見張った。
 だって、英吏を怒らせちゃったのは俺で。
 わかんないけど、俺だって英吏が俺以外にこんなことしてたら悲しくなっちゃうんじゃないかな?
 英吏もただ……きっと悲しかっただけ。
「余裕なんてないよ。君の前じゃね…。ねぇ、誰なんだい。教えてくれ。君を嬲ったやつが誰か知りたいんだ…」
「知って……どうするんだよ…」
英吏は間髪入れず。
「ココロには言えないようなこと」
な、何するんだ…一体。
「だ、駄目!駄目。そんなことするんだったら…って何するかわかんないけど。と、とにかく教えらんないっ」
だって、俺が言ったら、俺が悪役みたいじゃん。
 北条を売り飛ばす悪役。
 うーん…?そうなると、英吏は悪の大王?
 う〜わ〜!それっぽい。
 って、そんな状況じゃなくて!
「言いなさい」
言いませんってば!
 俺はふくれっつらで、英吏に無言の返事をする。
 だって、北条だって悪いやつじゃなかったもん。
 うん、や、やっぱり襲ってはきたけど…。
 で、でもでも、良い人だよ!保健室の先生だし。
 あれ?関係ない?
 ま、まぁ…いいとして。
 それに、俺、もし北条が悪いやつでも良い人でも、今の英吏には絶対暴露しないよ。
 だって、本気で【俺には言えないこと】を実行しそうなんだもん。
「なんで?どうしてその男をかばうんだ。まさか、ココロから、してってお願いしたんじゃないだろうね」
「な、なんでそうなるんだよっ」
馬鹿か、コイツ!
 そんなこというわけないだろう〜!好きでもないやつに。
 いや、嫌いでもないけどさ。
 あ〜も〜!そういう好き、嫌いじゃないってこと!
 恋愛感情の好きはないもんってこと!
「じゃあ、恋人の俺に、セクハラしてきた男の名前くらい言えるよね」
「………」
「言わなきゃ、ココロのここ…酷いことしちゃうよ?」
ここ…?
 英吏がどこのことをいってるのかわからなくて、俺は英吏の見ている…左手で触っているその部分を見てみた。
「あんっ…!な、何…どこ触って…」
もちろん……ソコ。
 しかも、さっきからの執拗な英吏の愛撫と、視線で羞恥に落とし入れられてる俺は、なぜか感じてるみたいで……その、英吏が握っている部分も、むくむくと大きさを増すばかり。
 もう既に、達きたい…くらい、なんですけど。
「ねえ、誰だい?」
怖い声音が、ココロの脳に直接入ってくる。
 それと同じに、扱く手のスピードが増し、熱いくらいにそこを何度も何度も上下運動させていく。
「あ、ぁ、ぁあっ…ひゃっ」
急に始まった、過激なほどの刺激に、ココロはただ喘ぎ声を漏らすだけ。
 こんな状況で上手くしゃべれるわけ…ない。
「ココロ…言ってくれよ」
「ふっ…んんっ……嫌…」
声を抑えるなんて、もう無理。ココロは弾けるように動く両足を隠そうともせず、ベッドに打ちつける。
 好きな人の手が自分のソコを扱いている…。
 そんな感情が、さらにココロの幼い欲望を掻き立てた。
「強情だね、顔に似合わず。そうだね、そんなココロには……」
捩れるくらいの快感に溺れるココロの耳元で、表情をゆがめていた英吏の言葉が急に途切れる。
 え…いり…?
 擦れる声で、その愛しい相手の名前を呼ぼうとした瞬間、思わぬところに衝撃を受け、ココロは身体を反らす。
「痛っ…っきゅっ…ああっ」
男の人差し指は、ココロの蕾みの中にグイッと押しこまれていた。
 これをやったのは、二回目。なのに、ココロのそこは、進入してきたその異物を拒むかのように、ヒクヒクと狭い内壁を締めつけていた。
「ひゃんっ、あ、はっ…怖いっ」
鼻に掛かったような、乾いた声で、ココロは涙目で叫ぶ。
 一度やったことあるからといって、慣れる感覚でもなかったし、それに、一回目だって、やられたのは今日。
 あ、もう12時まわってるから、昨日か。
 ううん、そんなこと関係ない!とにかく、辛いし、怖いし!
「ココロ…君はどうしてもいわないつもりなんだね」
悲しそうな英吏の顔が急に視界に飛びこむ。
 そんな顔しながらも、中に押しこんだ人差し指の蹂躙はそのままってのが叶様って感じなのだけれど。
「んっ……そ、だよ…だって…あぅっ」
九の字に曲げられた、いやらしい動きをするその指は、ココロの中の前立腺を突つく。
「だって?」
はっ、はぁ…。
 答えられるわけ…ないじゃんっ!こんな状況で。
 せ、せめて指抜いてぇ。
「ふぅ…はっ…んぁ…」
零れる涙が、口から零れ落ちる唾液と混ざり合って、俺の顔がしっとりしてくる。
 その様子は、顔に精を放った時のような、雰囲気を醸し出していて、なんとも言えず官能的だった。
 英吏の雄がググッと体積を増す。
「泣かないで…ほら、聞かせてくれ。だって…なんなんだい?」
「だ…って…、名前…言ったら、英吏…その人に酷いことする…ぅっ」
「当たり前だね。恋人にそんなことしたヤツにはそれなりの制裁ってものがある」
「けど…」
英吏の舌が、俺の目じりにたまる大粒の涙をすくい飲んだ。
「けど?」
「英吏が…殴っちゃったら、英吏が悪くなちゃう。……英吏が…悪いんじゃないのに」
俺が悪いわけでもないとは……思うけど。
 でも、誰が悪いかもわからないんだもん。北条だけ責めても、なんかおかしいよね。
 それに、触られただけであって…別に、他には何も…なかったわけだし。
「ココロ、君はなんて、本当に愛しいんだろう」
「恥ずかしいって…ば」
ポッと火照った顔もまた可愛い。
 そう囁き、英吏はほっぺたを慈しむように撫でる。
「わかった…忘れるよ。君に免じてね。でも、これからそんなことがあっちゃ駄目だ。いいね?もし…そんなことがあったら君もお仕置き…だからね?」
ゾクンって、耳の後が動く。
 英吏の声って、心臓が震えちゃうような、すっごい美声なんだ。
 ただでさえそうなのに、こんな色っぽい顔で、俺のことを思いだながら、身体を重ねながら、そんなことを言われちゃったせいで、俺のジュニアはグンッって急に…大きくなっちゃって。
「ぁ……」
自分の身体の変化なんて、真っ先にわかるよ。
 思わず声を漏らしてしまった、自分にカンパイ?
 英吏はニヤッと笑うと、右手で扱きを再開し、上下だけじゃなくて、先端の亀裂をなぞるようにしたり、ぎゅっと握ってみたりして、俺を快楽へ連れていこうとする。
「駄目…っ、そこ…やだぁ」
そして右手は……いまだ俺の中に入ってて、二本に増やされたソレを、掻き回す様に、俺の中を弄っていく。
「はぁっんっ!」
甲高い声が、頭がおかしくなるような感覚に、ついて来れずに、悲鳴じみている。
「やっ…え…英吏ぃ…」
「気持ち良い?」
「わ…わかんな…」
そうは言ったものの、俺のジュニアはすっかり上を向いて、ヒクヒクとうごめいている。
 達かせてください!
 俺にすら、そう言ってるのが目に見えてとれた。
「英吏っ…英吏……」
沸き起こる、おかしな気持ちに、涙がとまらない。
 身体の中が痒い…?疼くの…。お願い、助けて。英吏っ!
 大好きな人の名前を、ひたすら呼びつづける。
 だんだん、意識が遠のいてく中で、その名前と、自分の名前を呼ぶ声だけが聞こえる。
「あああっ!」
ドクンっ!
 波打つような音が、嫌に耳に飛び込んできた瞬間、白濁とした欲望の証を、ココロは英吏の胸に放っていた。
 
 その後。
 初えっちに持ちこみたかった英吏殿の思惑とは別に、絶頂を迎えてしまったココロは、すっかり気持ち良くて、心地よくて。
 もともと、夜中に自室を抜け出したから始まったこの冒険。
 そろそろ体力的にも限界で。
 それに、大好きな人の暖かなぬくもりを直に感じられる場所にいて、安心しないわけがなかったから。
「ん………〜…」
 眠いよ…。
 コトを終えて、片付けるためシャワーにタオルを取りに行って戻ってくると、ココロは既に爆睡。
 しかも、その白い肌に裂かせた愛撫の数々の痕や、そのおいしそうな身体を隠そうともせずに、ベッドになげだしていた。
 乱れたシーツの中にあるそれは、ますます官能的で。
「……まったく…今日だけ…だから、ネ」
 明日は、君が気持ち良いって泣き叫ぶくらい、俺のもので、達かせてあげるから。
 呟きには、そんな恐ろしいニュアンスを込めていた。
 英吏は手にしていたタオルをバスルームに戻し、再びココロのベッドに戻ってくると、寝ている姫に、何度も口付だけのキスをしながら、起きる時はディープキスなんて呼び名じゃ納まらないくらいのキスで、起こしてやろう。
 そんなことを考え、一人微笑し、英吏はココロを抱きこむように、眠りについた。
 こうして、ようやくココロ君LLC女学園の長い初日が幕を閉じたのだ。

続く。
−4− | −6− | 教師。
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