−9− | −11− | 教師。

● やまとなでしこ☆ダイナマイト --- −10− ●

英吏が怒ってるのは、わかってたけど。俺は…これ以上何もしたくなかった。英吏がいてくれれば、今の俺は十分満たされてて、あんな………変な絵を描かれたことなんて、さっさと忘れたかった。
 しかも、あんな格好で…。
「ね…英吏…約束破ってごめん」
そんな考えの俺だから、口からでたのは、夕方になったら英吏のとこいくって言う約束を破ったって、それだけ。
 英吏は無言で俺を見た。
 英吏の目が、何を言ってるのかよくわかんなくて、型を竦めて英吏に抱きついた。
「部屋……戻って良い?」
抱きかかえられて、運ばれてる身でそんなこと言うのどうかと思ったんだけど…。今の俺の格好ってずいぶんな格好だし。一応かつらは咄嗟につけてみたけど、鏡見てなかったから、ずれちゃってるかもだし。それに、身に着けているのは、加賀美のシャツ一枚だし。シャワー浴びて、綺麗になりたい…。
「英吏…駄目?」
いつもなら、いいって言うのに。その時の英吏は、言わなかった。
 決して、了解という言葉は言わなかった。
 その代わりに、俺の部屋は素通りされた。
「英吏」
咎めるように言っても、英吏は無言だった。
 だんまりくらべでもしてるのかっ!って聞きたくなるくらいに。
 終始口を閉ざしたままの英吏に連れてこられたのは、英吏の自室だった。
 先生たちはみんなそれぞれ、生活スペースを学校内のに持ってるんだ。これがまた超でかくて、豪華で、そして最高の施設になってる。キッチンとか、ベッドとかお風呂とかもちゃんと入ってて、防音も何気にされているみたい。
 なんで?
 って突っ込むのはやめにしとこう。
 ここはLLCだし。
 加賀美の自室もたぶん、あそこじゃない。あそこはアトリエって感じだったし。
 そういえば俺、なんだかんだ言って、英吏のしかみたことなかったり〜?うーん、どんなんなんだろう、他の部屋って。
 ま、でも…俺は寮の部屋のがまだ居心地いいけど。
 だって、ここって…ホテルみたいで、なんだか…ね。
 人が生活してる感じに見えないんだもん。別に、装飾品が悪いってわけじゃないけど。
 普段なら、ここはベッドに乱暴に置かれる展開。
 なのに、英吏が向ったのは、ムダに豪華なシャワールーム。
 真っ白を強調されてつくられたバスタブは、女の子受けするような香りと、金の装飾品で飾られていて、可愛いって形容詞があう。
 たぶん、英吏の趣味じゃないんだろうなって思うけど。
 大人三人くらいらくらく入れそうな巨大なバスタブには、すでにお湯が張られてて、バラの入浴剤を入れているのか、ものすごい花の香りで埋め尽くされてた。
 英吏は俺をお風呂に優しくいれる。
 服は着たまんまだよ。一応、かつらは、シャワールームの前の脱衣所に慌てて置いてきたけど。
 あんな長い髪を乾かすのって、結構大変なんだ。
 その仕草が、妙に優しくて、俺はすごく戸惑った。
 怒ってるんじゃ……ないの?
 どうしていいのかわかんなくなって、俺は不安そうに英吏を覗きこむ。
「うわっ……」 
すると、頭上から大量のバラの花の首の部分だけを落とされる。もちろん、花の部分だけだから、棘とかの心配はないんだけど、あんまりに大量で、それが湯船を埋め尽くして、少しピンクかかってたお湯が、すっかりばら色にそまった。
 花びらがパラパラと散って、俺の身体に吸いついてくる。バラに溺れそうになって、俺は、何か言わなきゃって思う。
 その前に英吏が口を開いた。
「そのバラ…。君にあげようと思って、さっき買ってきたんだよ」
「え」
そう言って、花の部分だけない、白い包装紙に綺麗にラッピングされたバラの花束を見せつけられた。
「あ……」
なんだかそれは少し可愛そうな感じがして、俺は立ちあがって花束を抱きしめる。ううん、花がないから花束じゃないのかもしれないけど…。
「君が来たら、バラをあげて、シャンパン開けて…バラに包まれる君を抱きしめて、抱こうと思ってたんだ」
ロマンティックな事を、恥ずかしげもなくしゃべる英吏は、さまになっててカッコイイ。そのへんの男…俺とかがいったら、爆笑モノの言葉なんだろうけどさ。
「英吏…俺、本当約束破ったのは悪いと思ってるんだ。ごめん。あのね、でも、呼び出しされて…まさか、ね、あんな遅くなるなん…」
「違うよ。ココロ」
ピシャリと優しい口調でなだめられる。
 子供を相手にしてる教師って感じだ。
 でも、悲しそうに下がった眉毛は、取り繕うにも、取り繕れないらしく、英吏の本当な気持ちなんだなって思う。
「俺は君がこれなかったことを咎めているわけじゃない」
そりゃ、そうなんだろうけど…。
「愛してるよ」
唐突にそう言われて、俺は真っ赤になる。
「お、俺だって!」
負けず劣らずの気持ちで叫んだつもりだった。けど、英吏は冷笑をして、フッと切なそうにいう。
「違うよ」
そう俺の言葉を否定しながら、ジャブジャブと英吏も湯船の中に入ってくる。
 高そうなスーツは一瞬のうちにお湯につかり、あ、と言う間に英吏は俺の後ろに回りこみ両足の間に俺を入れて、抱きこんだ。
「君が思っている以上に……ずっと、俺は君に事を愛してるんだよ」
「英吏ぃ…」
ここまで他人に思われた事があっただろうか。
 友達でも、親戚でも、まして家族でも、誰か一人でも心に残るこんな温かい言葉をくれた人がいただろうか。
 答えは否。
「俺はね、それなりに裕福な家で育って、それなりの顔だちで、それなりの成績も収められて…………それなりに生きてきたよ」
うーーーん。自慢?
 いや、英吏にしては、謙遜してるほうかな………一応。
「そんなんだから、友人も恋人もいらなくても寄ってくる一方で」
胸がいきなりズキンってした。
 そ、そうだよね。英吏にだって昔の恋人くらいいるよね。俺、何考えてんだろう。俺が初めてなわけないじゃんね。こんな格好良くて、優しくて、最高な英吏なのに…。
 でもさ、でも…嫌だな。胸が痛い。
「欲しいおもちゃも、人も、地位も……昔の俺にはなかったんだ」
全て、簡単に手に入ってしまったから。
 そう付けたして、英吏は俺の首に顔を埋めた。
 英吏の吐息が、くすぐるように肌に振りかかり、俺を煽る。
 さっきまで加賀美のアトリエでされていたことを思いだし、ドクンドクンと俺の中心部分の血が騒ぎ出す。
「でも今、何に変えても欲しいって思ってしまうものができたよ。なんだと思う?」
「……」
そんなあからさまに言われて気付かない俺じゃない。
 俺なんだよ。それ。
 何に変えても欲しいものって、俺なんだよ。きっと。
 俺の自惚れじゃなかったら、きっとそう。
 でも、そんなこと言えるはずがない。俺は恥ずかしくなって、口が隠れるくらい水面に潜る。
 プクプクプクと言う音共に、泡が水面に浮かび出てくる。
 そんなココロはのぼせたわけじゃないのに、全身がばら色に染まっている。
 そんな俺を見ても、何も言わない英吏は、今だ俺を抱え込んでいるだけだ。
 言わなきゃ駄目ってことなのな。
 もう、間違ってても攻めるなよ!
「……………俺?」
は、は、は、恥ずかしい〜……。
 俺は再び水の中にもぐろうとしたのを、英吏にさらに強く抱きこまれ、それすらできなくなる。
「あたり」
そりゃ、そうでしょ!他の人とかいったら、俺、きっと…………。
 …………どうしたんだろ。
 きっと、胸が痛くて何もできなくなっちゃっただろうな。
「ココロ、愛してるよ」
さっきより一重みも二重みも何かを含めたような、英吏の美声に俺は聞き惚れてしまってすぐに答えが返せない。
 どうしたら、英吏が思ってるくらい、俺も英吏を好きなんだって伝えられるんだろう。言葉じゃ駄目だ…。言葉じゃ…。
 ココロは強引なしぐさで首をぐるっとまわして、英吏の唇に口付た。
「…愛してる…よ。俺だって…ちゃんと」
今の気持ちを精一杯表現した言葉だった。
 わかってるかなぁ……。きっと…俺は、英吏が思っている以上に、英吏の事を好きになってること…。
 不器用なその幼く、つたない言葉を、英吏は理解してくれたようだった。
 ココロの姿勢が辛い事を察すると、ぐるっと抱きかかえるココロの身体を持ち上げ回し、ココロの両足を自分の両脇に開かせて、向き合うように座らせる。
 英吏はそのまま、ココロが唯一身に着けているワイシャツのボタンを外しにかかる。
 その自然な流れに、ココロはただ身をまかせていた。
 さすが、天下のココロくん。ここでちょっとでも、数分前のことを思い出して欲しかったところです。
 だって、ワイシャツの下に隠れた身体には…。
「…!?」
英吏がいきなりその双眸を見開くから、ココロは驚いてしまった。
「な、何?」
英吏が見つめつづけている自分の身体を、ココロも慌ててみてみる。
 ひぃ…っ。
 これって、これって…。
 そう、その身体にあったのは、さっき大きなリボンで縛られていたことを物語っている痕がきっちりついていた。
 よくみると、手首や首にもちゃんとついていて、ココロはさーっと青冷める。
「何もない…ねぇ」
さっき加賀美のアトリエで吐いた俺の言葉を、見下すように繰り返す。
「……これはっ」
これは…って入ったのは良いけど、後が続かないよう。
 し、縛られてた…ってばれてるだろうのに、いい訳したら、また怒りそうだし。
 う、うーん…。
「遊んでて…」
く、苦しい。
 にこっと笑って言ったつもりが、頬はピクピクと引きつっている。
「へぇ…ココロは加賀美と何の遊びをしていたんだろうね」
英吏はそういいながら、あと下半身を隠しているボタン二つを外しにかかる。そこで、俺はハッとした。
 ヤバイって思った。
 なんでかっていうと…。
 俺、加賀美にリボンを解いてもらってない場所があと一箇所だけあるんだ…。あまりの出来事の連続で忘れてたけど…。
 ああ、もう駄目。ばれる。そして、怒られる。
 ココロは観念して、目を閉じた。
 そして、やっぱりって思った言葉が振ってくる。
「これは………?」
そう、英吏が言っているのは、俺のその…下半身。
 うう…。まきつけてあるままなんだよう。リボン。
 ピンクのリボンでラッピングされた俺のソコは、妙な刺激をさっきまでうけてたせいで、ピクピクうごめいていた。
「あの…だから…これは、その…え、英吏あのねっ」
「いい訳無用っ!」
そう言って、英吏は後から俺を押し倒した。
 俺は慌てて目の前の壁に手をついて、なんと水の中にダイブだけは避けた。
 でもよく考えると、その態勢って…けっこう…恥ずかしいってか、ヤヴァイ!
 だって、俺ってば英吏に背中を向けて、英吏にお尻だけ突き出してるかっこうになってるんだもん。
 まあ、お尻は一応お湯の中だから…何もされないと思うけど。
 セックスについて今だ経験の薄いココロは、そんな勝手な思いこみで、多少胸をなでおろしていた。
「加賀美に触られた場所を洗ってあげるよ」
「う、うん…」
加賀美に触られた場所ってくらいだから…ここだよね。そう思ってココロは自分の下肢を見て、ゴクリと喉の音を出す。
 ど、どーしたらいいんだろ。
 今だ結ばれたままのソコを見ながら、洗ってもらうんならこの態勢はまずいかな、と思って姿勢を変えようとする。
「違うよ」
「へ?」
 英吏に腰をガッチリと掴まれ、後向きのままでいるよう命令される。
 こ、このままでいいの?
「あ、ちょ…英吏ぃ」
「何?」
英吏の死角になっているであろう場所なのに、英吏は後から俺自身をむぎゅっと包む。そして、戸惑うことなくリボンシュルシュルと外してしまった。
「ふーん…可愛いリボンだねぇ」
まだ『何もされてない』と言ったこと根にもってんのかよ…。
 だって、あの時、俺が英吏にそう言わなきゃ、絶対喧嘩してたじゃないかぁ!そんなの俺、嫌だもん。
 英吏は外したそのリボンで俺の両手首を縛る。
「へ?」
「今日はレッスン2だからねぇ…ココロ気持ち良すぎて自分で弄っちゃこまるから、ここは縛らせてもらうよ」
「え、な、何!?ちょっと、英吏やだっ、やだっ」
「なんで?縛られるくらい、ココロにはなんでも無いんだろう?」
なんでもないはずがあるわけないっ!
 振りかえって、上気した目で訴えてみても、英吏はそれ以上どうしてもくれない。
「さ、洗おうか」
「ん」
英吏はそう言って、手前の俺自身をもう一度握る。
「んぁ…ふっ…」
「ここも…だね」
そう言って、てっぺんの亀頭を人差し指で何度も遊ぶ。
「あぁあんっ」
バスルームと言う場所は嫌でも声が響く。
 ココロは思わず縛られた両手を口にやって、ぎゅっと恥ずかしい気持ちを耐える。
 けれど、英吏はそれを許さず、ココロの口元から手を外させると、左手の刺激を強めた。
 お湯と、英吏の手の温かみとが混ざり合って、気持ちいいくらいの温度と快感の波がココロを襲う。
「あっ…はっ…英吏…もう、綺麗だから…」
「まだまだだよ…ほら、こうやると…」
「ああぁっ…ひぅっ」
 左手で扱きあげながら、英吏は右手で手近にあったボディシャンプーのノズルを押す。中からどろっとした白い液体が流れ込んできて、英吏の手いっぱいに広がる。
「ココロ、ちょっとお尻浮かせて」
止まらない左手の扱きあげに、はぁはぁと息をあげながら、ココロは分けもわからず腰をあげる。
「ここも…汚れてないか、ちゃんと調べてあげるね」
「…ん?」
英吏がどこのことを言ってるのかわからず、不思議そうな声をあげるココロの、真っ白い後が開かれる。
「な、何してるんだよ英吏…。そこは…あぁん…使って…な…いぃ〜!」
「どうかな。わからないじゃないか。ほら、ちゃんと見せて」
「んんっ」
英吏はそう言って、ココロの蕾の中を覗きこむ。
 そこは、バラ色の肉壁が、少しの乱れも見せずきゅっとすぼまっていて、ヒクヒクと蠢いていた。
 あまりの可愛らしさに、英吏は思わず感嘆のため息を漏らす。
「やだぁ…っ」
「そうだね…汚れてはいないみたいだね」
確かに、ここを使われた形跡はない。
 と言うか、初めから英吏は、ココロはここは使わせていないと言うことはわかっていた。だって、ココロを抱いたのは今だ俺だけ。
 純真培養ココロなら、他の男にもし抱かれてしまったら、隠せないはずだし…。
 それなら、なぜこんなことをするか。
 まあ、英吏の趣味でもあったり、なかったり…。
「まあ、でも一応。綺麗にしてあげるね」
「へ…あっ…何?え?」
左手の刺激が強くなり、先走りの蜜がポタポタと湯船を汚す。ココロはそっちに気をとられ、英吏がどうするかみていなかった。
「あっ、ああ〜っ!」
英吏は先ほど出したボディーソープをココロの秘所へと押しこんだ。
 ボディソープは潤滑剤の役目を果たし、ココロのキツク締まったそこにもなんなく英吏の指を挿れてくれる。
「ここは…汚れてないかな?」
英吏はココロが指に嫌悪感を抱いてないと悟ると、ココロの中を蹂躙し始める。
「んっ…汚れてる…わけ…な」
「じゃあ、こっちは?」
指をくいっと曲げて、ココロの内壁を弄くる。
「ぁっ……ないっ…汚れてないっ…からぁ」
「よしよし」
英吏はそう言うと、二本目の指を押し込む。
「んぅっ…」
お腹のあたりまで、指を挿れられた圧迫が襲う。
 ぐちゃぐちゃと言う音がココロの耳にまで聞こえてきて、ココロは下をうつむき、羞恥に悶える。
「ん…やぁ…も、お願いっ…」
「ん?どうしてほしいの?」
どうして欲しいときれても…。
 俺、どうしてほしいの?
「ちゃんとお願いしないと駄目だよ」
達きそうなところで、確実な刺激を止められてしまった前と、指で遊びに遊ばれて疼くうしろ…。
「ふぅ…お願い…英吏…お願いだからぁ」
言葉にするのがあまりに恥ずかしく、ココロは涙目で訴える。
 しかし、英吏は首をうんと振らない。
 も〜っ!言えってことなのね!
 最悪!英吏のすけべ!えっち。傲慢!何様だよっ。
「…………達きたい…っ」
嗚咽を含ませながら、上がる息で、本当に小さな声でココロが訴える。
「達くだけ?」
「え…」
これだけじゃまだ駄目なの?
 今ですら、恥ずかしいのに…。
「それはこっちのことでしょ。こっちはいいの?」
そういって、英吏は右手を蕾の中でなんども動かす。
「あぅっ…ひゃぁん」
「ね、ココロはこっちもしてもらいたいんだろう?」
「ふぅ…っ…うっ…」
涙がポロポロとココロの頬をつたり、水面に落ち、輪をかくように広がっていく。
「さあ?」
「英吏の………挿れて……」
「挿れて、その後は?」
「弄って…」
「どんな風に?」
「ふっ……ぁ…ぐ、ぐちゃぐちゃにっ……っ」
そこまでしゃべると、ココロは全身の力が抜けたように、ガクッと身体を落とす。
 そんなココロの頭を優しく英吏は撫でる。
「よしよし、良い子だね」
「もっ…早くぅ…」
ココロはこれから指を抜かれてベッドに運ばれるものだとばかり思っていた。だからなぜか英吏がなかなか移動してくれないのに、動揺した。
「ね…ベッド行くんじゃないの?」
「レッスン2だといっただろ。レッスン2はお風呂でえっち。もちろん、湯船の中で…だよ」
な、な、なんだってぇぇぇ!
 ココロがそう叫びたくても、叫べないうちに、肩を押され、水面に身体の全てが入ってしまった。
「あっ…」
お湯の中で指が引きぬかれる感覚に、ココロは眉を寄せる。
「出来な…」
「大丈夫だよ」
 こんなとこで、挿れたら…挿れちゃったら…お湯はいっちゃうじゃん。
 そんなの…やっ…だよ。
「ココロ、ちょっと力を抜いてね」
「んんっ…あああっ」
英吏の熱棒が、お風呂の中で犯ることによってますます温度を増していて、ココロの中を攻める。
 英吏が腰をずんっと押しこむたび、お湯も一緒になって体内に入ってくる。温かい異物感が、ココロの頭を犯す。
「英吏っ…熱い…熱いようっ」
溶けてしまうような、ものすごい感覚に、ココロは中の英吏をぎゅっと締め付ける。
「ああ、ココロの中も熱いよ…情熱的だ」
お湯が一緒にココロの中に入ってきて、英吏の欲望を中へ中へと導く。
 ヒリヒリするような強い感覚に、ココロは既に弄られてない前を反り返す。
「あっん…ひゃあん…英吏っ…強いっ…」
「痛いのかい?」
痛みはないようにやってたつもりだったけど…そう思って、英吏はココロを気遣うように身体を撫でながら聞く。
 ココロは首を横に振って、それを否定する。
「違…痛…んじゃんくて…あっ」
「どうしたんだい?」
頭の中がすでにぐちゃぐちゃで、焦らす程優しく攻めてくるやり方に、身体がもどかしいほど英吏を欲する。
 ココロは自分たちの振動で動きを止めない水面をもがくように、掴もうとするけど、水は掴めない。
 助けて。もう…駄目。
 お願い。どうにかして。
 息も絶え絶えで、視界が乱れる。頭が真っ白になって、正気じゃいられない。
 ココロは必死になって、自分の欲望を言葉にする。
「もっとぉ……」
涙目でそう叫んでいた。
「!?」
あまりの強い感覚に、頭が朦朧としているのか、普段のココロからは飛び出さないような言葉が、あの可愛い口から発せられる。
 ココロの中に打ちこんでいる英吏のソレがグンッと大きさを増す。
「ひゃぁっ…英吏っ…英吏っ…」
「ココロ…愛してるよ…」
「んっ…俺も…英吏が好きぃ…」
英吏はココロの身体を抱き上げ、身体を繋がったまま反転させる。
 顔が見たい…。ココロの顔を見て、抱きたい。
 そう思ったのだ。
「ああっ…ふうっ」
お湯がお腹の中をいつもより圧迫する。
 熱い…。欲望とお湯の熱が溶け合わさって、ひとつになって、英吏と俺を溶かしているみたいだ…。
「ん……ココロ…」
ココロは掴むモノがなくなって、英吏の首を抱きしめ引き寄せる。
 英吏はそれをちょっとはがすと、ココロに口付る。
 ヌルッとした感覚が、ココロの歯をこじ開け、中に入ってくる。
「ぁ…英吏っ…りぃ…」
「ココロっ…」
二人は口付たまま、絶頂に達し、ほぼ同時にその精液を放っていた。
 ココロはぐったりとしてそのまま気を失ってしまったため、自分の放った欲望まみれのお湯に浸かっていた…という恥ずかしいシーンは、見ることがなかったことは、彼にとって、幸いだったかもしれない。
 加賀美との事は………まぁ、後にしましょう。その寝顔に免じて。
 英吏はそう苦笑しながら、ココロを自分のキングサイズのベッドへと運び、抱きしめて眠った。
朝起きてからも英吏はそれでも加賀美のことをねちねちといいつづけていた。
 普段男らしくて、かっこいいのに、どうして、こうこんなことにはうるさいんだか!
「もう、納得してよ。本当になんもされてないってばぁ」
「ココロは、ソコをリボンで結ばれることくらいなんでもないんだろうけど、俺はそうじゃないんだよ」
キチッとおろしたてのワイシャツとダークグレーの足長な足がますます長く見えるスーツに着替え、俺の横たわるベッドサイドに椅子を持ってきて座り、格好よくコーヒーを飲み干しながら、英吏がツンと言う。
 いや…だから…あれは、あれで…って言ってもムダ?
「なんでもなくない…です」
諦めた俺はまったく動かない肢体を柔らかな肌触りのブランケットでぎゅっと包む。
「…まったく、君は」
英吏が呆れたようにため息を一つつく。
 なんだよ!その言い方っ。
「男を誘うのがうまいんだから…」
「誘ってないってばっ」
ってか、俺男なのに!女を誘ったら蕁麻疹で死んでるとは思うけど、男だって誘いたくなんてないっ。
 英吏意外の男に触られるのは絶対に嫌って思うもん。
「麻薬の花みたいだね」
そういいながら英吏は俺の寝るベッドに腰掛け、俺の汗でべたつく髪をかきあげる。
「試したら止まらない…。これなしでは生きられないって感じてしまうよ」
「麻薬って…」
はまったのは俺なのに。
 恋愛なんてしらなかったのに、英吏に側に居て欲しいって思っちゃったのは俺。
 英吏を好きになったのも俺。
 だから、たぶん……虜にさせられてるのは、俺なのに。
「俺はさしずめ、君に捕らわれた蜜蜂か…」
英吏の長い指が顎を撫でる。
 その指の感触一つ一つも性的なニュアンスがとれて、ドキっとする。
 英吏なら、蜜蜂より女王蜂って感じだけど。
「味見させて……」
「ちょ…英吏…も…だ……んっ…」
舌で唇を舐められる。
 くすぐったいくらいの優しい刺激は、ココロの弱いところを確実につき、快楽へと誘う。
「だめ…学校始まっちゃうって…ばぁ」
「もー………少し…」
絡み付く舌先は、唾液を含ませ次第に口元へと移動してくる。他の生き物のようなその動きは、ココロの頬に暖かな温度を感じさせ、唇をこじ開ける。
「んんっ」
ココロはダメっという合図を出さなくちゃと必死に口を閉じ、英吏のネクタイを引っ張る。けど、強引なのは英吏のお得意なもののヒトツ…と言う感じに、ココロの抵抗なんてなんのその、唇を甘噛みしてみたり、ココロの身体のラインをそっと撫でてみたりで、だんだんと気持ちを揺るがしていく。
 もちろん、大好きな人に触られて、もどかしいキスをされて、感じないココロではないけど…。
 真面目なのもココロの短所で、長所だった。
「だっ……だめっ」
少しの隙間を見つけては、口内に侵入を謀ろうとする英吏をドンッと突き放して、ココロは自分の方がマクラのほうに身を崩してしまった。
「強情なんだから…ココロは。君だってえっちしたくなってきたでしょ?」
かーーーっ!
 ココロの頭が沸騰状態にまで上り詰める。つまり、図星。
 けどけどけどけどけど!
 したい、からって、してたら・………だめだってば。
 それに…ほら。
 俺・・………初めてが英吏だったし…だから…その…。
 テクとかないじゃん。
 英吏が飽きちゃったら…とか考えると…。
 怖いし。
 こんな風に、ぎゅーってするのとか、キスとか…すっごく嬉しいけど、英吏の特別なんだってすっごく嬉しいけど…でも、そのぶん、飽きるのが早くなるんじゃないかなってすっごく怖いんだ。
 俺、英吏が大好きだから。
「英吏意地悪だ」
「それは誘ってるのかな?」
「誘ってないっ!」
俺はベッドからいっそいで飛び出て、トビラへと向う。
 そうそう、制服はどうしたって思うかもしれないけど…。
 みんな英吏の趣味をお忘れじゃない?
 …そう。英吏の趣味は女の子の服をデザインしたり、コーディネートすることなんだよね。もちろん、制服もいっぱいそろってるわけで。
 俺は身長にぴったり合う制服をひっぱってきてもらって、着付けまでされてしまってたのだ。
「俺はね!」
「ん?」
俺がひっぱったせいで乱れたネクタイを器用に結びなおしながら、英吏は優しく尋ねる。
そんな顔されちゃうと…何も言えないじゃん。
 もう。
「英吏すきだけど、えっちばっかりしてくる英吏は嫌だ」
この言葉にはさすがに英吏は驚いたらしい。
 すぐさま俺のもとへとかけよると、俺の顔を両手で挟むように持ち上げて、目線をあわさせた。
「俺とセックスするのが嫌だったのかい?」
心底心配そうな顔で、真面目にそんなことを聞いてくるから、俺は恥ずかしさでどうにかなっちゃいそうだった。
「そ、そういうことじゃなくて…」
ってか、こんなとこで、そんなこと大声で言わないで欲しいんだけど。
 俺はすでに片手でドアを開いてる途中だったんだ。
 つまり、声……廊下に漏れちゃうんですけど。
 幸い、ここらへんは教師の自室棟だから、それしかないんだけどさ。でも、でも…数メートル先には、宮の部屋だったり、京の部屋があるわけで…。
 やっぱり………………聞かれたくない!
「じゃあ、どういうことなんだ」
俺の後ろの少し開いているドアに、英吏がドンッと両手をついた。俺の耳のすぐそばを突いたせいで、冷たい風が俺の横を過ぎる。
 英吏はいいよね。だって、もてるだろうし、カッコイイし。自身たっぷりで、それに見合うくらいの人気も、容姿も、頭の良さだってなんでもなんでも持ってるんだもん。でも、俺は違うんだってば。今は妹の替わりに女子校になんか通ってるけど、普段はすっごい普通の男子高校生だし…。
 英吏にはわかんないよね!どーせ。
 俺がこんな不安感じてるなんて。
「……英吏にはわかんないよっ」
俺はそう言うと、英吏の腕をすり抜けてドアを抉じ開け、廊下に飛び出た。
「ココロっ!」
後で英吏の叫んでる声がする。
 けど、けど…。
 英吏にとって俺はえっちだけの対象でもかまわない…かまわないけど…それすら繋がりがなくなっちゃうのが怖いのに、そんなのわかってないんだからっ!
 英吏なんて…。
 でも、本当。そう思うと、英吏と俺ってなんなんだろう。恋人…なんだろうけど…。
 でも、もし、この二週間が終わっちゃったら…どうなるんだろう。
 俺は自分の部屋の前までたどり着いても、そのドアを開ける事ができなかった。
 ピタリと思考が止まる音がした。
 どうなるんだろう。
 ヒトミが帰ってくるまであと1週間と3日。
 俺は自分の手で、指で数字を示しながら数える。あと、それしかない。
 英吏の側に居られるのが…それしかない。
 どうしよう…。
 そう思うと、不安が押し寄せてくる。
 ゴツン。
 暗くなっていく思考の俺の頭を重たいドアが小突く。
「いって!」
おでこに激痛が走り、俺は擦りながら退く。
「ココロさん、おはようございます」
「あ、う、い、西園寺!」
そう。俺の部屋から出てくる人物は二人しかいないんだ。俺か、コイツ西園寺雪。
 もちろん出てきたのは西園寺で。
 今日もその綺麗なんだけど不思議で、理解不能な容姿の持ち主である西園寺は朝帰りした俺を不穏な笑みで見つめてる。
 俺はこれが………苦手。
 なんだかどこまで知られてるか…わかんないから。
 で、でも…俺からは何も言ってないから…ばれてはないと…思うんだけど。
「朝ご飯にいきます?」
でも、話しかけてきた言葉は、普通な朝の会話で。
「あ、うん行こう!行こう!」
そういえば…と鳴り出したお腹は、警告を鳴らしてる。
 
 LLCの食事はラウンジにて、超三ツ星シェフ和泉京太郎作ってくれる、最高のメニューになってる。俺は、今日のメニューをお盆に乗せて、なるべく目立たない奥の席を選んで座る。
 最近わかったんだけど…なぜか俺は他の女の子たちに見られてる気がする。
 自意識過剰かな〜なんて思って、普通にしてたんだけど、それでも気になる視線は止まらない。
 西園寺は周りに何か反感を買う立場には見えないし(むしろ、裏番…)…。ってことは、俺、っていうよりヒトミ?
 うーん、アイツなにやらかしたんだか。まあ、お兄ちゃんの寛大な心で許してあげましょう。何もないなら…いいんだけどね。本当。
「ヒ・ト・ミ、ちゃんと食べてる?」
「うっ」
スパゲッティーを食べようとしてた俺の背後に、急に甘い声と重たい体がのしかかる。声の主はここのシェフ長、和泉京太郎さん。
「京…重たいよ…っ」
「ごめん、ごめん。どう、美味しいかな。本日のお勧めパスタのお味は」
京は和風美男子って言葉がすっごく合う。美麗とか言う言葉も。なんて言うか、身のこなしも本当に雅を思わせるのだ。
 そして、そんなにきれいなのに…。
「今日のはね、あの夜、君の甘い蜜とクリームの甘い味を思い起こすような……」
「わぁぁぁぁっ!」
変態だったりする…らしい…ってか…否定はしない。
 慌てて京の口をパンで塞げば、周りの女の子がチロリと睨んだ気がした。
 うるさかったから怒られたかな…。
 俺は女の子が苦手で、そんな視線を感じるとすぐに萎縮してしまう。
 イスに大人しく座りなおすと、パンを皿に戻した。
「ね、美味しい?」
なおもニコニコしながら聞いてくる京を無視して、俺は、その俺の……をイメージしてつくったといわれるクリームパスタを掻きいれるように食べる。
 最後の一本を飲みこみ、俺は苦しくなって、側にあった水を飲む。
「は〜っ!」
まったく!美味しいも何もないっての。
 あ、味なんて…考えたくもない。
「ごちそうさまでしたっ」
慌てて席を立とうとした俺の肩を、京は押し戻すように席に座らせる。
「ダメダメ。君はまだここにいなきゃ」
「へ?」
 俺が目をパチクリさせて、首を上に向けると、京が微笑んでいた。
「今日の講習内容を知らないの?」
「今日の…?」
向かい席に座っていた西園寺も食べ終わったのか、すっかり整いきった様相できっぱりと告げる。
「今日は、調理実習ですよ」
なぬ。
 そういうことか!
「ってことは……ここってこと?」
「そういうことです」
「そういうこと」
俺は力なく肩を落した。
 つまり、今日の先生は京太郎なのだ。
「じゃあ、このエプロンと三角巾身につけて準備しててくれるかな」
そういうと、やはり教師なので忙しいのか、キッチンの方へと去っていく。渡されたエプロンはと言うと………。
「うっ…」
絶対、絶対嫌がらせだ。
 白地のシルクで出来たスベスベの布には、いくつものアンティークレースが縫い付けられていて、どう考えてみても手作りのソレは、ところどころに京のセンスが光っていた。
 別名………若奥様風味。
 三角巾も同じ布地で作られた、レースフリフリのメイドさんのソレのようだった。
「よくお似合いですよ」
目の前で着々とライトブルーで揃えたエプロンと三角巾を身につけた西園寺が、淡々とそんな恐ろしいことを言ってくれる。
「嬉しくともなんともないんだけど」
「そうですか」
黒いゴスロリ調の制服に、そんなフリフリのエプロンはやっぱりよく似合い、ココロにもよく合っていた。
 周りをみると、そんなレースタップリなエプロンを身につけた生徒が何人かいたが、ココロがやっぱり一番のようだった。
「あ〜ら、根本さん。そんなエプロンでお料理なんてできるのかしら」
聞き覚えのあるその意地悪を含めた声の主は…。
「道明寺……」
 プールの時にいちゃもんを付けてきたあの女だ。
 俺の服装を咎めながらも、道明寺もずいぶん高そうなエプロンをしている。よく覚えてないけど、テレビや雑誌でみかけるブランドのマークが点々とついていた。
「まあ、見物だわね」
そう言い残すと、高笑いをしながら去っていった。
 俺の身体にうっすら出はじめた冷や汗には、気付かないでくれたらしい。
 うう。どうして、関わりを持とうとしないのに、かかわらなきゃいけなくなるんだか。俺って。
「はーい。みんな〜、可愛く準備はできたかな?」
赤いたすきでまとめた深緑の着物に、黄緑色の帯を締め、白い腰までのエプロンを身につけた京がキッチンから出てきた。
 外国チックな外装のLLC女学園ラウンジが、急に料亭にでもかわったように空気が引き締まり、きゃあきゃあといつもは騒ぐクラスの子たちも、目を奪われたようだった。
「うん、うん。可愛い、可愛い。じゃあ、本日のメニュー。スコーンです」
されど、京のつくった見本が出されると、その美味しそうな匂いと、見栄えにラウンジのいたるところから、騒ぎ声が聞こえてくる。
「じゃあ、さっそく作ろうか。テーブルのフタをはずして水場を準備して…材料はここから計ってもっていってね。わからないところがあったら僕に質問して。はい、始め」
「ココロさん、お料理はお得意なんでしたっけ」
テーブルのふたをはずして、誰もいない場所に置こうとしてた俺に、西園寺がなにげなく言う。
「あー、うん…複雑な生活環境からというか、なんというか、無理矢理覚えさせられたから…と言うか…。それなりに出来るよ。料理好きだし」
「そうなんですか」
「え、何か問題でもあった?」
不適に微笑みながら、ミルクの量を測っている西園寺に問いかけるが、別にという返事のみ。俺はまぁ、どうでもいいかと思って、小麦粉を貰いに、京の所へ走った。
「ヒトミは…料理ヘタなんですけど」
これはクラスの人、全てが知る事実だった。なんてったって、四月の入学したての頃、初めての調理実習で、ガス爆発を起こしかけたのだ。
「まぁ…大丈夫でしょう」
西園寺はそういいながら、牛乳をボールへと注いだ。
「京〜!小麦粉300グラムって…」
ココロが大きめのボールを持ちながら叫ぶと、キッチンにひっこんでいた京が残念そうに顔を出す。
「なんだ、ココロくんが貰いに来たのは小麦粉なの?ミルクならたっぷりあげたのに」
俺の。
 ココロの手からボールが激しい音たてて落ちる。
「京っ!」
顔を真っ赤にさせながら、肩を上下させて怒ると、さも面白そうに京は笑った。
「冗談だよ」
「当たり前だろっ」
「ミルクは直接お口にあげるよ」
真面目にそんな答えが返ってきて、ココロはサーーッと青ざめる。
「いらない、いらない、いらない!」
ものすごい勢いで拒否すると、京はつまらなそうに唇を尖らせた。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。英吏のは喜んで飲むんでしょ?上の口でも、下の口でも」
「こっちの口では飲んだことなんてないっ!」
言い返せば、下の口ではあるって断言してるこの発言に、ココロが気付いたのは数秒後。茹ですぎたタコくらい真っ赤になったココロに苦笑しつつ、京はココロの分の小麦粉を新しいボールに入れた。
 英吏…どうしてるかな。
 そういえば、朝はちょっと言いすぎちゃったかな。
 英吏が何かいったわけでもないのに、俺が勝手に思いこんでどなっちゃったんだよね。やっぱり、俺が悪いよね。
 謝らなくちゃ!
 スコーン…あげに行こうかな。
「ね…京」
「ん?」
「英吏って甘いモノ平気だっけ?」
京太郎は、何か悟ったような顔になるとニヤリと微笑んだ。
「ん〜…どうだったけかなぁ〜」
教えるのを渋っているのだとわかり、ココロは頼み込む。
「頼む〜。ね、教えてよ!京〜」
必死の形相で頼み込むその目は、潤んで輝き、も〜…食べちゃいたい感じだった。
「…仕方ないなぁ…俺も優しくなったよ、本当」
人知れず京太郎はため息をつく。
「で?」
「そうだね、嫌いじゃないけど、あまり甘いのは好きじゃないはず。甘さ控えめなら丁度いいんじゃない?スコーンでも」
「お、俺は別に英吏にあげるなんて…」
慌てて否定してもバレバレなので、京はハイハイと適当に流した。

 「うわぁ〜!根元さんのおいしそう」
干しぶどうと乾燥苺の可愛らしいトッピングはもちろん、誰よりもフンワリと妬きあがったスコーンは、クラスの誰が見ても、美味しそうだった。
「えへへ。そっかなぁ」
自分では甘いものは結構好きなんだけれど、今回は英吏好みのために砂糖控えめで、チョコレートを抜いたスコーンになってる。ちょっと挑戦だったんけれど、みんなに良い評価を貰えて、ココロは有頂天だった。
 これなら、英吏にも上げられる…。
「ヒトミーっ」
「え?」
キッチンから、何やら声だけで京に呼ばれ、ココロはラッピングキットで器用に包むんだそのスコーンをテーブルの上に置いて、京のところへと行く。
 そこに現われたのは、道明寺詩織その人。
 ちなみに、調理実習で失敗して恥じをかくとおもっていたのに、なぜか大成功してクラスのみんなの尊敬をかっていたココロに、怒りの念がこみ上げていた。
 ココロが英吏のお気にだということは知ってる道明寺は、どうしてもどうしてもココロのことが許せなかった。
 道明寺は熱狂的な英吏ファンだったのだ。
 ピンク色の袋に包まれたスコーンを誰にもみられないうちにエプロンのポケットに突っ込むと、そのままゴミ箱へ移動し、奥底へと捨ててしまった。
「ふん…あんたが悪いんだからね。根元ヒトミ…」

 「あれ…?」
西園寺がすでにエプロンを脱いで、たたんでいる最中、ココロは不思議そうな声をあげる。
「なんですか?」
「…俺のスコーン、ここになかった?」
そう。置いていたはずのピンクの包み紙は、もぬけの殻。
「おかしいな〜…」
ココロはテーブルの下に潜って探してみるが、そこにもなくて。
 当たり前。ココロのスコーンはすでに焼却炉へと移動していた。
 どうしよう…あれ、英吏にあげようと思ってつくったのに。せっかく心こめてつくったのに…。
 ココロは焦る気持ちを抑えきれず、クラス中の人に聞いてみるが、みんな知らないというばかり。
 おかしい…一目でわかるように目立ついろのラッピング用紙選んだのに。
 昼食もここで食べて、後片付けして、そして今。このラウンジを出入りしたのはこのクラスの人しかいないし…。
「私のあげましょうか」
あまりに落ちこんでいるココロを見かねて一応言ってみるが、顔に似合わず超甘党の西園寺のスコーンには砂糖が通常の3倍は入っていた。
 作る工程から見ているココロは苦笑しながら、それを丁寧に断る。
「んでもやっぱり、俺が作ったのじゃないとなぁ…」
「誰かへプレゼントですか?」
「え」
ポポポとココロの可愛らしい頬が、ピンク色に染まる。
 恋する少年。そのまんまって感じで。
「どうかしたの?ココロ」
「あ、京…」
「ココロさんのスコーン、なくなってしまったんですよ」
口篭るココロのかわりに、西園寺がいつまでたってもラウンジを出ていかない自分たちの状況を説明する。
 ココロの容姿と、最近の教師陣の特別扱いを行使すると、読めない展開ではなかった。けど…当の本人はまったく気付いてないご様子。
 これが世に言うイジメなんだけどねぇ…。
「どうする?英吏にあげるんだよね」
「あ…え……うん…」
諦めた様子のココロは耳を赤くしながらも、コクンと首だけで頷いた。
「じゃあ…九時過ぎくらいにもう一回おいで。ラウンジをそれまでに空けといてあげるから、もう一回作っちゃいなさい」
「ありがとお!京」
ココロは京に抱きついて、その喜びを表現する。
 これに他意はないとわかっていても…京は考えられずにはいられなかった。
 これ以上はちょっと。
 苦笑しかかる京から、西園寺によってココロが剥がされる。
「ココロさん、そろそろいかないと。掃除が始まります」
「あ、え、今日俺たちだったんだ?うん、わかった。ありがと!京。じゃあ、九時にくるね」
ココロは自分のエプロンをぐるっと一まとめにすると雪より先にドアの外にでる。
 雪はドアで一回立ち止まると、くるっと半回転して京に向きなおした。
「お体にお気をつけを」
そう言い残し、去っていった。
 京にしては珍しく、言いようのない気持ちになったのは、言うまでもない。

 掃除が終わり、夕飯も食べ、ココロは所在をもてあましていた。
「図書館って…」
さりげなく切り出すと、西園寺は妙に乗り気に、そして本当に残念そうに答える。
「金曜日は五時までなんです」
既に時刻は七時を過ぎていた。
「あ、そうなんだ」
ココロは制服のままでベッドに横たわり、何度も読み返した本を再び開いた。
 時刻が八時半を回ったので、ココロは洗濯しなおしたふりふりのエプロンを抱えると、ラウンジに向った。

 ココロが来ない。
 英吏は机に向い、テスト採点のためつけていた目がねを外しながら時計を見た。
「…八時…」
今日は朝、喧嘩わかれをしてしまったから、終業時間が終われば会いに来てくれると思ったのに。ココロの来る気配はいっこうになし。
 でも…自分から会いに行くのも気がひける。
 だって、どういうことだ!
 えっちしてくるから嫌い?
 そんなこと言われたの初めてだったし…。どう対処していいのかわからないのだ。
 英吏はふたたび机に向い考え始める。何がいけなかったんだ。そして、どうしてココロはあんなに怒ってたんだろう。
「はぁ」
恋とは感慨深いものだ。
 いまさらながらそんなことを実感し、英吏はココロに会いたい衝動を抑えながら、ココロが来てくれるのをいまか、いまかと待っていた。

「できた〜!」
ココロが本日2回目のスコーン作りを終えたのは、時刻も遅い11時過ぎ。
 ラウンジに来たときには側にいた京も、朝食のしこみ…とキッチンのほうへひっこんでいる。
 ココロはさっきと同色のラッピング容紙に同じように包むと、真っ赤なリボンをかけた。そして、六つ作ったうちの二つは袋に入れず、皿に盛り合わせると、京へとメッセージを添えて、ラウンジを後にした。
 時計を見ればすでに就寝時間。
 でも、ココロは今日中に英吏に謝りたかった。
 だから、少しも躊躇せず英吏の部屋へとダッシュで向かっていた。
 エプロン姿のままで。
 ピーンポーン。
 いきなりの大きな音に、英吏はハッと降り返る。
 ココロだ。
 本能がそう囁いていた。
「ココロっ」
開いたと同時に声が飛びこんできて、ココロは一瞬、慄き後退する。
「英吏!」
なんで英吏…俺だってわかったんだ?
 なかなか中に入ってこないココロを、英吏は紳士的に促した。されるがままに部屋に入り、ココロは唐突にスコーンを英吏の胸へと突き出す。
「はい…これ」
「…?」
英吏は何もわからず、とりあえず袋の中を覗きこむ。
 中からは焼き立てのスコーンの良い薫りが、鼻をくすぐるように薫ってくる。
「…・・・・・・・・・・・・・・……ココロが作ったの?」
恥ずかしそうに頷く。
「俺の…ために?」
再び頷くその華奢な白い首。
 英吏はスコーンがつぶれることなんておかまいなしに、ココロを抱き上げた。
「なんてすばらしいんだ」
「ちょ…ちょっと英吏!せっかく作ったのに…」
「ああ…そうだね。でも、君が悪いんだからね」
「俺…?」
首に顔を埋められ、生まれ始める快感をココロは理性で耐える。
「だって、えっち嫌いとか言ったままでてくし、それに…全然会いに来てくれないし」
「だって…それは…その」
理由が理由だけに、はっきり言えずにいるココロに英吏は聞き返す。
「だって?」
「………謝ろうと思って…スコーン…調理実習でつくったんだけど…あげようとしたら、なんかなくしちゃうし…それに…その…えっちのこと…は」
ココロは英吏にこのことは話してもいいのか戸惑った。
 だって、もし…本当に…そんなことが起きちゃったら…生きていけない。
 こんなに英吏が好きで、たぶん、ううん絶対一生好きだけど、英吏はそうだとは限らないってわかってるんだけど…でも口で言われちゃったらきっと、ショックで本当にあけくれる。
「…言わなきゃ…ダメ?」
「言わなきゃダメだよ」
優しく咎められて、ココロはしぶしぶしゃべり始める。
「てくにっく」
「は?」
さすがの英吏様、いきなりな会話にちょっと驚きの表情を見せる。
「てくにっく…ないもん…俺」
「セックスのって…ことかい?」
「………だって」
恥ずかしさのあまり叫び口調で続けようとしたその口は、英吏のキスによって塞がれる。
「ん…だって…んぁ…」
「し…だまって」
英吏は熱い、熱い、えっちの途中にしてくるような深い口付を何度も何度も角度を変えてしてきた。
 とろけるような舌先が、ココロの口内の舌を突つき、弄る。
 弾けるような刺激がココロの性感帯を触るたび、身体中がピクンと跳ねる。
「英吏…や…待って…お願い…っ」
こんなキスをされるからこそ、何も知らない、出来ない自分が嫌になる。必死に抵抗し、なんとか手で押しやる。
「気にしてるんだ」
英吏が甘えるように、口が触れ合うスレスレで囁く。
 唇の声を発することで震える振動が微かに感じ取れ、くすぐったいような感じになる。
「気にしなくて良いんだよ」
「で、でも…」
英吏は無言のままにココロの手を取ると、それを自分の下肢へと導く。
「ぁ……」
英吏のソレはすでに形を変え始め、盛った雄へと変化していた。
「ね?心配なんていらないんだよ」
「…どして…?」
それでも不安で尋ねると、英吏は当然と言い出す。
「当たり前だろう。ココロが可愛い顔して側にいてくれるだけで、俺は欲情するんだから」
「で、でも…」
「でも?」
「飽きちゃったり…しない?………俺なんかで…」
言ったとたんに涙が溢れそうになった。
 怖かったコトを言葉にするって結構勇気がいらうんだ。
 けど、そんな俺の頭を撫で、英吏は優しく話し出す。
「馬鹿だね、ココロは」
「な!だって…心配になるじゃんっ…俺…なんか…べつに…何もないのに」
「ココロだからって理由じゃダメ?」
「ぇ…?」
「君がいいんだよ。他の誰でもない…君。ココロしか愛せないんだ」
「………ずっと?」
「ずっと」
「一生?」
「一生」
ココロは嬉しさのあまり、自分から英吏にキスをしていた。
 触れるだけじゃない…自分から舌をちょこっと出して、英吏の口に入れてみようとした。けどやっぱり初めてのココロには上手く行かなくて、ココロのたどたどしい態度に性欲を触発された英吏にさらに深みへと連れていかれる。
「じゃあしてもいい?」
「へ?」
英吏…それって…。
「えっち」
やっぱり…。
 していいって聞かれると…答えにくいんですけど。
「君への愛を、身体で伝えたいんだけど、伝えてもいいだろうか、お姫様」
「……お気に召すまま…どうぞ」
恥ずかしそうに言うココロは、超絶可愛くて。
「今夜は寝かせないよ」
「ぇ」
二人は甘い甘い世界へとおちていく。
 ココロの小さな悩みのおかげでご満悦な英吏様は、ココロがお願い、お願いと掠れた声で切願してなお攻め続け、どうせ明日は土曜日で学校はお休みだし…と言い、一晩中寝ることを許さなかったのは言うまでもない。

続く
−9− | −11− | 教師。
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