●● やまとなでしこ☆ダイナマイト --- −13− ●●
頭痛い…。
悩んで、悩んで、一人になりたくて逃げまわって、そしたら迷子になってて。昨日、なんとか寮の部屋に帰りついたのは夕方五時。
我ながらバカだと思うけど…。
その後、西園寺とも離れて食事して、爆睡。
俺はどうやら、悩むのに力を使いすぎたみたいだった。
平均睡眠時間が八時間きるとやばい俺なんだけど、長すぎるのも問題みたいだった。
頭は痛いし、腰も、腕も、足もなんか痛かった。
「ててっ…」
はぁ…昨日は講習もサボっちゃうし。
でも、今日はやっぱり出ないとダメだよな。うん。
俺はどうにか身体を奮い起こさせ、さっさち身支度を整えはじめた。
「ココロさん」
俺と西園寺の部屋は同室で壁はない。
だけど一応防音にはならないけど、カーテンみたいのがあって、一応見られないようになってるんだけど、そのカーテンの向こうからいきなり西園寺の声がして、俺は飛び跳ねた。
「な、なに?」
別に悪いことしてるわけじゃあないんだけど。なんとなくビクついてしまう。
「今日の一時間目ですけど…」
ああ、なんだ一時間目のコトか。
「うん、なんなの?」
「………図書館で習字です」
ビクッ。
俺の身体がさっきとは違う意味を込めて跳ねた。
図書館…。
俺が今、二番目に行きたくない場所と言っても過言じゃない。もちろん、一番行きたくないのは英吏の前なんだけど。
英吏が嫌いになったからとか、そういうんじゃないことは、ちゃんとわかってほしいんだけど。それすら、きっと英吏の前にたったら、上手く言えないだろうから。
でも、そうか…図書館。
どうしよう…俺、昨日…新さんに告白されちゃったんだよね。
どうしようって、今俺は英吏の恋人なんだから悩むこと…ないはずなのに。
「ココロさん?」
返事の無い俺に、西園寺は確かめるように名前を呼んで来た。
「あ、ああ、うん。わかった…」
行かない、とは言えない。
逢いずらくはあるけど。
だって、俺…昨日・…・・・・・・・・・・・・・・…キスまで、されちゃった。
そして、ちょっと…感じちゃった。
うわぁぁっ!違うってば、違う!あんなの違うんだってば。
これじゃあ、俺誰でもいいみたいじゃんっ。違うもん、俺…英吏とじゃなきゃ…。
あの時は、本当…ただ、新さんが…新さんが…。
英吏に少しだけ似てたから。
「お、俺…先行ってるからっ」
「朝ご飯はどうするんですか?」
「い、いらないっ」
ぐぅぅ〜…って腹の虫が可哀想にないてるけど。
とにかく、さっさと図書館行って、影のほうで本読んで落ちつこう!だめだ…俺、このままじゃ。
英吏と新さんは全く別人で。
なのに、なんで英吏と新さんは似てるように見えちゃうんだろ…。
俺はとにかく、図書館にダッシュで向った。
ココロが出ていってから、数分後。
コンコンコンコンコンコンコン…。
部屋のドアが荒荒しく叩かれる。
こんな無作法な叩き方をするのは、先生たちじゃない。そうすると、ドアの前にいるのは、普段別段話もしないクラスメイトや寮生たち・・・。
西園寺は一瞬ウザそうに顔を歪めるが。
ドンドンドンドンドンドンドン!!
鳴り止まないその騒音は、すでに公害。
はぁ、と大きなため息をついてドアを開けた。
「何か」
そこにいたのはやっぱりクラスメイトたちで。先頭を率いているのは、道明寺詩織・・・もとい、英吏崇拝者その一だった。
嫌ということを隠そうともしない顔で聞けば、詩織は血相を変えて部屋の中にずかずかと進みいる。
「ヒトミは!?・・・根元ヒトミはどこっ」
「ちょ、ちょっと、何してるんですか、勝手に・・・」
ヒトミの生活スペースだけでなく自分の机や、ベッドの下までを荒らされ、なんのことなのかわからない西園寺は道明寺たち女子十数名を追い出そうとするが、怒りに怒っている彼女たちの形相はすさまじいものがある。
一体どうしたというのだ。
「・・・・・・・・・・どんなに探してもヒトミは出てきません。それより・・・何があったのか説明してくれませんか」
普段の西園寺のペースで詰め寄ると、さすがの道明寺も怯えを見せ、ぐっと息を詰めた。
「これよっ。これを見なさい」
道明寺はずっと握り締めていたせいでくしゃくしゃの学校新聞を西園寺に投げつけた。勝ち誇ったように、そしてかなり怒りモードな道明寺からそれを奪い取って見ると、さすがの西園寺も血の気が引くものがあった。
「根元・・・ヒトミの真実。彼女を罰せよ・・・?」
一面記事の驚くような悲惨なタイトルに、西園寺は道明寺を見つめ返す。
道明寺の目は、続きを読みなさい・・・と促している。
「・・・我が学校の人気教師である叶 英吏先生に最近、掟を破り手を出した生徒がいた。その名前は根元ヒトミ。顔だけは可愛いと評判だったが、どうやら男癖はそうとうのものらしい。隣町のB工業高校の男子生徒はこう語る・・・なんですか、これ」
今にも破り捨てたい衝動をどうにか抑えた。
ヒトミは確かに派手な顔だちだし、髪も天然で栗色だったためか目立つタイプだったけれど、男をとっかえひっかえとか言う人ではない。それは、同室である自分が一番よく知っていることだ。
「そこはもういいわ。どうせ事実よ。それより・・・裏を見なさい。あの子の男好きがはっきりするわ・・・そして、他の疑惑も、ね」
西園寺が黙って紙を裏返せば、そこには新堂とキスをしているココロの写真が生生と載っていた。
「・・・」
口がただついたような軽い口付けなんかじゃない。お互いの舌が蕩けるように混ざり合って、唾液がこぼれ、身体の芯が疼くような、そんなエッチなキス。
「ほら見なさい。いいわけなんかできなくなるでしょう。それに・・・わたしたちは、ものすごい秘密を見つけたのよ・・・あなたも驚くと思うわ」
そのココロと新堂の熱烈キスを収めた写真の下に、スケッチが一枚載せられていた。それは、黒髪の少年・・・でも顔はヒトミにそっくりな少年。つまり、ココロさんが淫らに乱れ、縛られている絵が描かれていた。
あまりの衝撃に、フォローの言葉が出てこない。
・・・・・・道明寺たちは、一体・・・どこまで気づいたというのだろう。
「驚いたでしょう、根元ヒトミは男かもしれないのよっ。男!」
なるほど・・・そう解釈したのか。さすがにココロという兄がいるなんて、思いもよらないだろう。しかも、双子でもないのにこんなにそっくりなんて、誰も・・・想像もしない。
そうなったら、誤魔化しようもある。
西園寺はその新聞を縦に破りすてた。
「あなた方、朝から冗談は止めてください」
「なっ、私たちが嘘を言っているというの!?」
「だって、あなたたち、ヒトミがプールに入るところを見てるでしょう。あれのどこが男性の身体なんです」
そう。夏休みの始まる前の体育の授業は、ほとんどがプールだった。ヒトミはちゃんと女の子の身体の線が綺麗にでる、今流行のパッションカラーの水着に着替え、その授業に参加していた。
「うっ・・・」
そういえば、そうよね・・・。なんて声が回りからあがり始める。
男性が女子高に入り込むなんて、まずありえない、という常識が一応あるのだろう。詩織の取り巻きたちは、一瞬気まずそうに顔を見合わせ、うつむいたり、隣の人と話したりしている。
「う、うるさいっ!」
拳を振り上げ、道明寺は呼吸を乱しながらそれを一喝する。詩織を怒らせるとどうなるか、なんてちゃんとわかってるお取り巻きたちは、ピタッと声を止めた。
詩織はすぐに西園寺に向きなおすと、右手の人差し指で、西園寺の鼻の頭につくんじゃないかってくらい近くを指した。
「覚えてなさい・・・いつかしっぽを掴んでやるんですからっ」
そういうと、お取り巻き集団を部屋に残し一人でずかずかとラウンジの方に行ってしまった。
「し、詩織さんっ・・・」
荒らしたベッドもそのままに、台風一過は二人の部屋を去っていった。
やれやれ・・・どうしたものでしょう。
西園寺は読めなくなってきたこの先の展開を、ふと考えていた。
「あ・・・これが、校内新聞に出たって事は・・・」
学校内に散らばっているということで、つまり、英吏さんの目にも止まったんじゃ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
どうやっても、ココロの人生にトラブルはつき物らしい。
図書館に着いたココロが、そこがおかしいなって思ったのは入って数秒。すぐに声をかけてくる新堂の姿がない。
授業の準備でもしてるのかな・・・?
まぁ、会いにくかったからいいんだけど。
そう思いながら、本を物色し始める。
えーと、昨日はどこの本棚まで見たんだっけかぁ・・・。新さんが変なことするから忘れちゃったじゃん。
ココロは官能小説ゾーンを見ないように通り越して、あの恐ろしい小説コーナーにたどり着いた。
うわっ・・・そうだ、ここ・・・なんか変な小説がいっぱいあって・・・、新さんに誤解されちゃったんだっけ。
そんなこんなで真っ赤になっていると、急に図書館のドアの方でガチャンという音がした。新堂が帰ってきたのだろうか・・・。それにしてはドアが開いた音ではなかった。えーと、むしろ・・・。
「鍵をかけた音がした・・・?」
そう囁いたのは、ココロじゃない。
だって、声はココロの耳元で、甘く聞こえたのだ。
「え、英吏っ」
振り向かなくてもわかるその美声は、やっぱり英吏。
ここ数日・・・避けまくってたせいで顔を見たのは本当に久しぶりだった。うわぁ・・・やっぱりかっこいい。なんてこんな状況で、不謹慎にもそう思ってしまう。
「私じゃ不満だったかな」
苦笑いしながら、英吏が言う。
「な、何言ってるんだよ・・・」
「何って?だって、君はどうやら私じゃない誰かをここで待っていたらしいからね」
もしかして、それって・・・新さんのこと言ってるのかな。
だとしたら、それは間違いだよ!俺は新さんを待ってるためにここに来たんじゃなくて、次の授業がたまたまここだし、それに本読んで落ち着きたい気分だったからで。
そう説明しようとしたのに、その前に英吏が微笑みの消えた顔を俺に近づけながら、恐音で囁く。
「図星」
「ち、違うってば。英吏、何か誤解してる」
俺が新さんを待ってたなんて、そんな事実ありえない!
どうして、どうして急に英吏は新さんなんて心配し始めたんだ?どうして・・・。
俺がわかんないって顔をしてたら、英吏にあごをすくわれる。
「いつまでそんな風に俺を騙すつもりなんだい、子猫ちゃん。それとも・・・黙ってたら許してくれるとでも思ってる?」
「?」
なんの話だ。本当に。
「君もずいぶん強かになったものだね」
なに、その言い方。まるで、俺が悪いみたいじゃん。勝手な難癖つけてるのは英吏なのに・・・。
「ふざけるなよっ、英吏。何言ってるんだよ一体。わかるようにちゃんと話せよっ」
強気に出ると、その肩を強く握られ、本が天井まで山積みな、その本棚に強く打ち付けられる。
頭を強く打った衝撃で、上のほうから本が数冊落ちた。
「っ・・・痛っ」
「ああ、痛いだろうね。けど、私の痛みなんて君にはとうてい理解できないのかな」
英吏の痛み・・・って?
「君に避けられてるし・・・・・・君から説明を受けるまで良い男を演じているつもりだったのに、もう限界だよ」
英吏を避けていたのは、別に英吏が嫌いなんじゃなくて・・・そうじゃなくて、そういうことじゃなくて、ただ、英吏が好きで仕方なかったから。
だったら、逃げることなんてないじゃないって思うんだけど。そうじゃなくて。
このままだと、雰囲気とか、その場の感情とか、なりゆきだった・・・とか言って終わっちゃいそうだったから。
だって、あと・・・数日しか俺はここにいられない。
そしたら終わってしまうような恋だったら、嫌だもん・・・。
「心配事も相談できないようなほど、俺は頼りにならない?君が悩んでいることなんて、お見通しだよ」
「・・・英吏、違う。違う!俺は・・・・・・」
英吏はそのまま俺の制服のスカートに手を差し込んで下着を下ろした。
「なっ!」
唐突にそんな行為にもっていかれ、俺は思わず大きな声で拒絶する。
「言っただろう・・・限界だって。まさか新になびいてるとは思わなかった・・・けどな」
「あ・・・新さん・・・?」
やっぱり、新さんのことを言っていたんだ。でも、なんでその名前が出てくるのさ。
困惑気味に英吏に縋れば、英吏は高そうなブランドスーツの胸ポケットから、一枚の紙を取り出す。その紙を見せ付けられて、俺はタイトルを読み始める。
「が、学校・・・・・・ん・・・新聞・・・?」
その間も英吏に握りとられた自身を強く握られ、だんだんと呼吸がおかしくなってくる。久々に触れ合っている感覚に・・・ちょっと貪欲に英吏を求めてしまう。
「ああ、そっちはまあいい。裏を見なさい。君は、知っていることだけどね」
そういいながら、英吏がその紙を翻せば、嫌でも目に止まってしまう写真がバンと張り出されていた。
「ひゃっ」
その瞬間、顔が凍りついた。
だ、だって・・・その写真ってのは、俺と新さんのあのキスシーン。
俺の張り詰めた顔は、英吏の逆鱗に触れたのか、思い切り強くソコを握られる。
「痛っ・・・・・・え、えいりぃ・・・っ」
気持ちいを通り越すようなその痛みに、身体を何度も本棚に打ち付けてしまう。強い支えがあるわけではないその本棚は、俺が揺れるごとに激しく揺れた。
「ああ、痛くしているんだもん。痛くなかったら、おかしいね」
そういいながら、真っ黒のスカートをまくし立て、俺の下半身のみを裸にする。上の方はちゃんと着たまま。ボタンもレースも乱れていない。しかし、それがさらに恥ずかしさを誘う。
「俺は君のなんなんだ・・・?言ってごらん」
英吏の一人称が、俺に変わると同時に、俺の口の中に英吏の細くて長い指が三本入り込んできた。
「んぁっ・・・っ・・・英っ」
いくら細くても英吏の手は大きい。そんのが急に入り込んできたら、しゃべられるものもしゃべれない。
舌を動かせば、英吏の指を一緒に舐めてしまい、熱くなってしまう。
「おや、俺が君のなんなのか・・・いえないのかな?そうだよね、君はどんな男ともキスができる淫乱なんだから、特定の男なんていないんだよね、きっと」
英吏の指が淫らに口腔を犯す。喉の奥まで突けば、嗚咽とともに唾液が零れ、英吏に舐め取られる。
「うぁ・・・英吏はっ・・・あっ・・・ああっ」
大きなものを銜え込んでいるせいで上手くしゃべれない。
「早く」
それでも命令口調名英吏の言葉には逆らえず、とめられなかった涙を流しながら、必死に捲くし立てる。
「俺の・・・ぁ・・・恋人っ」
「ああ、そうだったんだ。一応、君もそう思っててくれたんだ」
酷い。酷すぎる。
がんばって言ったのに、英吏の暴君様は終わらない。どうして、どうして!?俺、言われたとおりに言ったのに・・・。
「俺はね、君以上にきっと・・・・・・・・・・・そう思っているんだよ」
「ぇ・・・あぁっ・・・ふあっ」
やっと手放された口から取り出した指で、今度はおへそのあたりと、太ももあたりを撫でまわし始める。
「君が他の男と口付けている写真を見せ付けられた俺はどう思ったと思う・・・?」
英吏の問いかけに答えられるはずがない。
だって、もし、それが逆で、俺が英吏のキスシーンなんか見ちゃったら、たぶん、胸が張り裂けちゃう・・・。
「嫉妬で狂いそうだった」
「え、英吏、あのね、これは・・・っ」
「言い訳なんか聞きたくない」
英吏は冷たく俺をあしらうと、俺を上から強く押した。
転ぶまいと両膝をつき、立ち膝のようになった俺の目の前で、英吏が自らのベルトをはずし、ズボンを少し下ろし、下着の中から、生々しいその猛ったモノを取り出した。
こんな明るい場所で、目の前で見せ付けられたのは初めてで、ココロはカッと顔面を真っ赤にした。
「そう、君がいつも欲しいって強請っているものだよ」
「お、俺、そんな・・・っ」
「舐めなさい」
一瞬、英吏が何を言ったのかわからなかった。
「舐めるんだ」
再び言われて、俺に口でそれを弄れと言ってるんだと理解する。
「む、無理っ・・・お願い・・・っごめんなさい・・・英吏許してっ・・・ひっく」
顔に押し当てられ、その熱を感じ取り、切羽詰ってココロは泣きじゃくる。欲望を帯びたそれは、ココロの唇にあたり、グンッとまた少し大きくなる。
「許さないよ。ほら、舐めるんだ・・・ココロ」
「英吏っ・・・・・・・」
恋人である英吏が気持ちよくなることなら、なんでもしてあげたいって思うけど・・・。こんな怒ってる英吏に無理やりやれって言われて、やることはできない。
そんなの恋人みたいじゃないじゃないか。
「これ以上、俺を怒らせないでくれ・・・」
英吏は恐く呟くと、指で口を無理やり開き、後ろに突っ込むときのように強引に口内に挿れてきた。
「ふっ・・・・ぁうっ・・・っ」
初めて含んだそれは、恐怖を感じてしまうくらい大きく太くて、泣いている今鼻呼吸ができないため、ものすごく辛い。
「っ・・・んっんんっ」
「そうそう、しっかり舐めるんだ」
英吏は俺の後頭部を抑えて、自分の下半身により押し付けながらそんな身勝手なことを言う。
必死にそれを追い出そうと舌で押しやっても、ただただ英吏は喜ぶだけで・・・。
逆効果みたいだ。
「ココロ、もっと奥まで舐めてくれないか。それじゃあ、たりない」
「んっ・・・・・ぅぁっん」
喉の奥にまで英吏を感じて、俺自身もぐんっと大きくなってしまう。
恥ずかしいっ!人のを舐めて、こんなんなるなんてっ。
俺がもぞもぞと膝をすり合わせたことに気づいたのか、英吏はフウンと軽く笑った。
「一人で勝手に気持ちよくなって、ずるいんじゃない?ほら、こっちの奉仕もがんばる・・・」
再び頭を押さえつけれて、英吏が俺を突き上げる。
ずいぶん銜えっぱなしのあごが、悲鳴をあげている。
ガクガクと痙攣のように震えてきて、中の英吏を刺激する。
瞳からは涙を流し、口からは唾液をこぼし、下肢からは先走りの蜜を滴らせている俺の淫らな姿を上から下から食い入るように、見る英吏の目は満足気だ。
酷いよ・・・英吏!あんまりだよ。
「達きたいのかい、ココロ」
わけもわからず我武者羅に頷く。
この状況で、達きたくないわけがない。頭が可笑しくなりそうだよ・・・英吏助けてっ。
自分を酷く扱うのか英吏なのに、英吏じゃなきゃこの疼きをとめられないのだ。
泣いて哀願するココロを眺めていた英吏は、ココロの口の中から、準備の整ったソレを抜き出す。
「んぁっ・・・はぁっ、はぁっ」
急に呼吸が楽になり、貪るように酸素を味わう。
「達きたかったら、それなりに態度を示しなさい」
ま、まだ何かしなきゃいけないの・・・?
態度って・・・?
「足を開脚して、それを抑えるんだ。俺にココロの中がちゃんと見えるようにね」
「!?」
そ、そんな・・・そんな恥ずかしいことしなきゃいけないの?
俺は戸惑って、すぐに行動に移すことができなでいる。
けれど、英吏は俺を床に座らせ、見下ろしているだけだ。
「っ・・・ふっ・・・こ、こう・・・?」
恥ずかしさを押さえ込んで、ココロはその可愛らしい蕾を英吏に見せる。そこはピンク色の楽園で。ヒクヒクと襞が蠢くのが見える。
「もっと開いて」
「んっ・・・・・・も、もう無理ぃ」
限界まで広げられたココロの足は、苦痛で爪先立ちになっている。英吏はココロの身体の間に入り込むと、その入り口に燃え盛った自身を押し付けた。
「ぁっ・・・え、英吏っ」
ちょ、ちょっと待って・・・っ!
な、そこにいきなりは無理、無理だってば!
「良い子にしてるんだ・・・平気だから」
ふと英吏が普段の英吏に戻った気がしたけど・・・。やってることは鬼畜三昧だ。
だって、ローションを使ってもいない、慣らしてもいないその恥部にいきなり英吏の大きいのを突っ込んだのだ。
身体が悲鳴をあげないわけがない。
もともとそこは、ソレを受け入れるための場所ではないし・・・。
「あああっ・・・・・痛っ・・・いっ」
予想通り、ココロは大きな悲鳴をあげた。
「はっ、ああっ、だめ、英吏・・・もっとゆっくり・・・」
「・・・・・・・・・ココロ・・・ちょっと我慢してっ」
「ああっんっ痛っ、ふあぁん」
背中に押し付けている本棚がいっそう激しく揺れて、本が数冊また降ってくる。
「ココロ・・・ココロ・・・」
そんな声で呼ばないで・・・っ。酷いことしてるくせに、どうして、甘い声出すのさ・・・。切ない声あげるのさ・・・。どうして、英吏っていっつも・・・。
新とキスしたであろう場所で、ココロを屈服させ自分のものだということを刻み込む。それが、英吏の今できる嫉妬の開放方法だった。
そうでなかったら、誰かを絞め殺してしまいそうで。
嫉妬という、強靭の縄で・・・。
「ひっ・・・え、英吏ぃ・・・ああっ・・・も、ああっ。もう・・・」
普段より突き上げを激しくしたこともあってか、ココロの顔から苦痛の色がなかなか消えない。
ココロは必死に終わりを願う。
けど。
「まだまだ・・・だよ。俺の嫉妬はこんなものじゃない」
「あああーっ」
再び腰を抱え上げられ、最奥まで突き上げられる。途中、前立腺を掠ったことで、ココロの中がきゅっと窄まる。
あまりの強い快感に、涙がとめどなく溢れ、おかしいくらいに酔っている。
掴むものがなくて本棚に身を任せれば、落ちてきて開かれた数冊の本に目がいってしまった。
「ぁっ・・・!」
一瞬ココロの意識がソチラにむいたことで、英吏もムッとして、そちらを見てしまう。
だって、その本は・・・。
「へぇ・・・ココロ、こうやってされるの・・・好きなの?」
そう、その本は男の子と男の子のベッドシーンが描かれた小説本。
落ちた拍子に開いたのだろう、見えているカットで、男の子がもう一人の男に無理やり後ろを犯されている。
「ち、違っ・・・っ」
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
一瞬、意識がそちらにいってしまったのは、仕方のないこと。
だって、英吏と俺が今、本の挿絵のようなことをしてるんだって思ってしまったから。
「じゃあ、こっちの・・・みたいに縛られるのとか好きなのかなぁ」
左に落ちた本を見れば、裸にされた男の子が天井から伸びたロープに腕を縛られ、身体を男に舐められている。
「嫌っ・・・嫌ぁっ」
わざとココロの羞恥を誘うようなことをして、英吏はココロに刻み込もうとする。自分という存在を。自分という男を。
繋がったままのそこをきゅっと締め付け、ココロは自ら喘ぎ声をあげる。
「ひゃあっんっ、ああっ、あ・・・・・・」
男の子たちが男と交わっている絵や小説の中で、犯される感覚は、普段と比べ物にならないもので。
「も・・・許してぇ・・・ああっ・・・」
「許さない、一生離してやらないっ・・・ココロは俺のモノだ・・・」
「ああっ」
言葉と絵と熱望で刺激され、ココロはあっけなく欲望を吐き出すと、意識を飛ばした。
同時に英吏の嫉妬の波も注ぎ込まれ、英吏という男の存在を痛いほど感じていた・・・。
英吏に手酷く抱かれたのは、初めて抱かれたあの日以来だった。
こんなの・・・激しいんじゃない。ただの強姦じゃないかっ。
倒れたココロを、英吏が図書館にほっとくわけがない。英吏が運んだのだろう。ココロが次に意識を取り戻すと、そこは保健室で。
涙でぐしゃぐしゃになった顔をシーツで抑えると、再び涙が溢れてきた。
「英吏ぃ・・・英吏ぃ・・・。俺、英吏が俺を好きなのか、わかんなくなってきたよ・・・っ」
誰もいない保健室で、ココロは泣きじゃくった。
昼を知らせる、エリーゼの為にが軽快なリズムで鳴り出す。
それと同時に、お腹がすいたのも自然と思い出して、ココロはしかめっつらする。
人間はこんなときでさえお腹がすくらしい・・・。
こんな時がどんな時かって?そりゃ、もちろん、気分がむしゃくしゃな時。
「ココロ、具合はどうだい?」
カーテンで仕切られたベッドに寝ていたココロは、いきなりソレを開けられ話かけられ、ドキンとする。でも、声の主はココロが思っている人物ではなかった。
「ん、平気。ごめん宮。もう出てくね」
そう、そこにいたのは宮。ここの住人・・・っていうか、養護教諭だから保健室にいてあたりまえ、か。
「気にしなくていいから、休みなさい。君は少し疲れているようだし・・・」
珍しく先生っぽいことをいう宮に、俺はちょっとクスクス笑ってしまう。
だって、宮ってば、外見もそうだけど先生とか、医者って感じじゃないから、どうしても小難しいこと言うと、なんか背中が痒いっていうか。
「まぁ・・・・・・・・・・笑えるだけの元気があれば、大丈夫かな」
俺のおでこの熱を自分のおでこで測りながら、まじめな顔で囁く。
別に熱で倒れてたわけじゃない。俺はさっきまでここで号泣してたから。
英吏に無理やりされて・・・泣いてたから。
ううん、違う。
英吏にされたことが恐かったとか、痛かったとか、辛かったとかで俺は泣いてたわけじゃないんだ。
た、確かに・・・痛かったし、恥ずかしかったし・・・それでも泣いちゃったけど。
本当の理由はそうじゃなくて。
英吏の気持ちがわかんなかった・・・から。
一方的に強いられて、貫かれて、快感を起こされる感覚。
指一本足りとも力が入らなくて、腰が砕けて、俺という人物全てが犯されるような、そんな恐怖の感覚。
それが、嫉妬・・・できたって、英吏は言ってたような気がするけど。
どうしてだろう、俺にはそう思えなくて。
なんで思えなかったのかっていうと、俺はやっぱり自分に自身が無いせいなんだと思う。
男なのに、女々しいなって自分でも思うほど楽観的になれなくて。
俺の初めての恋だから・・・。
俺の初めての恋愛だから・・・。
だから、わかんないんだ。恋人が何を望んでいて、恋人が何を考えてるか。
別に、英吏たちみたいに恋愛の達人になりたいわけじゃない。いっぱい恋人つくって、いっぱいえっちして、いっぱい恋愛して・・・なんて望んでるわけじゃないんだ、俺は。
ただ、好きな人に好きって言ってもらえるて、それが当然だって思える自分になりたい。自画自賛なわけじゃなくて・・・俺、だって、英吏が俺の何がいいのかわからないんだもん。
泣き虫だし、恋愛初心者だし、女の子みたいに胸があるわけじゃないし、可愛い性格してるわけでもないし、テク・・・とかないし、楽しい話ができるわけでもないし。
うわ〜っ!もう、なんだよ、俺。本当にうじうじして・・・最悪じゃん。
はぁ・・・でも、本当英吏が俺のどこが好きなのかわかんなくて、英吏が好きなのは本当に俺なのかも自信がなくて。
「なんか、前にもこんなシチュエーションあったね」
宮が悩む俺の頭を撫でながら、思い出したように言う。
そう、最初のとき・・・。
英吏と出会って、英吏の傍にずっといたい、英吏をもっと知りたい、英吏を気になりだしたとき、俺は大人な恋愛を英吏に身体に先に教え込まれてしまい、保健室で宮に諭されたのだ。たった一週間前の出来事が、もう遠い記憶の中みたいにボンヤリ浮かんでくる。
「また、シャワー手伝ってあげよっか?」
「!!」
そ、そ、そうだったぁ!あ、あのとき、直接洗われるのはさすがに拒否したけど、ドア越しに助言されながら、自分の中に入ってる英吏の白濁とした液を掻きだしたんだっけ。思い出さなくても、赤面モノ・・・はう。恥ずかしすぎる。
「いらないっ」
手の小指を動かしただけでピキンと激痛が走る身体に鞭を打って、ベッドから抜け出そうと思えば、宮に軽く押し戻される。
それは、押し倒す・・・じゃなくて、ベッドに寝てなさい、って感じで優しく。
いつもの宮と違う感じに、俺はクエッションマークの連続。
「?」
「お腹すいてるでしょ。運んできてあげたから、ここで一緒に食べよう?」
LLC女学園では、五教科(はたして、ちゃんと教えているかは危ないところだけど)、ラブレッスンの他に、レディーとしての礼儀作法も一応教えているらしく、食事の配達なんかは一切しない。レディーたるもの食事はキッチンで、という決まりがあるらしい。厳しいんだか、そうじゃないんだか変な校則ばっかりがありそう・・・、ここ。校則をあとでチェックしたら楽しいかもしれない。
「で、でも、それってルール違反・・・」
「場合によってはいいでしょ。それに、一緒に食べようっていっただろ?俺も・・・ってことで運んでもらったから、心配要らないよ」
「で、でもさぁ・・・!」
そう言って宮が持ってきてくれたプラスチックのお盆の上には、絞りたてオレンジジュースにフルーツサラダ、焼きたてクロワッサン、カニクリームグラタンに、小さなデザートまで乗っかってる。
思わず俺の腹の虫が我慢できずに、ぐ〜・・・。
「ね、食べるでしょ」
あまりに出来すぎた面白い展開に、宮は笑うことを隠そうともしない。
俺は真っ赤になりながら、否定する余地の無いことを理解する。
うう、恥ずかしい。
「シャワーも、おしゃべりも食べたあとで十分でしょ。人間、スポーツとセックスの後にはものすごい疲労がたまってるからね。体力つけなくたちゃだし・・・それに、泣いたあとは、喉も渇くでしょ?」
「・・・いただきます」
これ以上、無理に拒絶したら、もっと卑猥な話になりそうで、俺は慌ててフォークを掴んでグラタンのマカロニを口に入れた。
「ごちそうさまでした」
俺よりずいぶんゆっくり食事をとっている宮はさすが養護教諭って感じ。
うーん、やっぱりLLC女学園の先生たちも教免って持ってるものなのかぁ。
「さて、シャワーにする?」
俺のと自分の食べた皿をお盆にまとめて、廊下のキャスターに乗っけてから、宮は揶揄うように俺に言う。
「しないっ」
俺はデザートの甘い余韻すら吹き飛ぶくらい、きっぱりと否定した。
でも、自分一人ではいれるほど、体力が回復しているわけでもないんだけど。
俺はベッドの上で、ふとんをぎゅっと握り締めて、改めて現在の時間に気づいた。
「お、お昼!?」
何を今更って感じで、目の前にいた宮は呆れたように返してきた。
「今食べたのがお昼ご飯だって気づかなかったのかい?」
「・・・き、気づいてたんだけど・・・」
で、でもお昼ってことはさぁ・・・。
「講習終わっちゃったよね」
行きたくなかったんだけど、行かなかったとなると、やっぱり気になっちゃう。
「新堂 新・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・の事?」
ドキン。
俺の背中に、嫌な汗が流れた気がした。
顔色が変わったのがすぐにばれちゃったんだろう、宮は俺の頬を軽く右手で触って緊張をほぐそうとする。
「学校新聞・・・見たの?」
恐る恐る聞くと、宮は小さく頷いた。
やっぱり。
あれって、全校に回されたのかな。
だとしたら、道明寺さんとかきっと怒ってるんだろうな。
あの子も、英吏の事好きだから。
「君が新堂にキスを迫ったとは思えないけれどね」
「ち、違うっ!」
そういえば、そんな内容で書いてあるんだっけ。
忘れてた・・・。
思わず背中を起こそうとすれば、忘れかけていた痛みが下半身に走る。
「・・・・・・っ!」
普段、ここまで身体が痛くなることは無い。
たぶん、変な姿勢だったのと、無理やり挿れられたから・・・どっか怪我したのかも。
「ココロ、落ち着いて。俺はちゃんとわかってるから」
君が英吏に恐いくらい惚れいてることは。
自分で言ってて、少し空しくもなるけれど。
「でも、新堂にだけは関わらないほうがいい」
「・・・な、なんで?」
そういえば、新堂が自分以外と接触しているところを見たことがない。ずっと図書館にいるためかとも思ったけど、もしかして、会わないようにしてるの・・・?
「君にとって、良い人物とは思えないな。あいつは、手段選ばずってヤツだから」
「で、でも悪い人には・・・」
見えなかった、と言おうとした口をむにゅって潰される。
こう、ほっぺを両側から、むにゅって押されて。
「君の人生の中で、悪い人に見える人物に会ったことあるかな?」
「うっ・・・」
そういえば、俺、特にめちゃくちゃ嫌いとか、悪い人だなぁとか思ったこと無いかも・・・。
どこまでもお人よしで、性格のよすぎるココロに、宮はちょっとだけため息をついた。
「君のそんなところも、すごく可愛くていいと思うけど・・・人を簡単に信用しちゃダメだよ。羊の皮を被った狼だっているんだからね」
「新さんはそんなんじゃないっ」
何か誤解してない?
新さんは、そんな悪い人じゃないっ!
だったら、俺の身体を無理に触ってきた宮のほうが、ずいぶん狼じゃないか!
「君が知らないだけだよ」
宥めるように言われるのはもっと、腹がたつ。
俺を幼稚園児か何かと勘違いしてない!?
俺は高校生男子だぞ!飴を変な人にもらったり、知らない人に着いていくような子供じゃない。人の判断くらい、自分でつくよ。
それなのに・・・みんなしてっ!
「新さんは優しいよっ!・・・・・・英吏や宮なんかよりずっと!」
思わずもれたその言葉は、ココロ口にするにはあまりに酷い言葉だった。
宮にしてみれば、本人を目の前にしてその優しさを疑われたのだ。
言った瞬間に、後悔の念が生まれるものの、ここまできたら謝るわけにも行かない。
「君が落ち込み悲しんでいる隙間に入り込んで甘やかす、それが本当に優しさかな。俺には付け入っているようにしか見えないんだけど」
宮の口調もさっきよりも厳しくなった気がする。
「・・・・・・」
言葉に詰まってしまった。
もう、何が正しくて、何が間違っているのか全然わかんない。ぐっちゃぐちゃだよ。
身体は疲れてるし、痛いし、動けないし、そんな今、考えた俺の結果って正しいのかもわかんない。自分で判断つかないこんな状況で、俺、立ち往生してる・・・。
動けない・・・。
「俺は付け込まれてなんか・・・」
揺らいでいる胸の奥を隠すように、俺は制服の胸を掴んだ。
黒いそのワンピースはくしゃっとしわになり、さっきまでくしゃくしゃにされ、着たままでの強引な行為を思い出して、俺は苦々しい思いになる。
「いない・・・から。大丈夫だよ・・・・・・ごめん、俺、宮に八つ当たりした」
優しくないわけがない。
宮は俺にずいぶん気を使ってくれてる。
だって、人気養護教諭様の保健室には、休み時間のたびに少女たちが往来しているはずのなのに、昼休みだという今、お客は誰一人来ない。
たぶん、人払いしているんだ。俺の為に。
そんな宮に、優しくないなんて言っちゃった俺って最低じゃん・・・。
「ごめん」
素直に謝りつづけるココロに、怒りなどわくはずもない。
もともと、本心からそういったんじゃないことくらいわかってたし。
「わかってるよ」
宮の手があったかくて、それが頬やおでこ、首に触れるたびになんだか本当にホッとした。
あんなに泣いたのに、涙が出てくる。
俺、どこまで嫌な人になれば気がすむんだろ。
最低だよ・・・。
「俺、英吏に好かれる資格なんてない、ね。こんなんじゃ・・・」
どうしてだろ。最近になって、自分の嫌なところが次々見えてくるようになった。それが、自信を無くさしてる原因なのかもしれないけど。
情けなく言った俺の言葉に、宮は何か急に真顔になって、背中を強く二、三度叩いた。
「い、痛いよ、宮っ」
まだ身体動かすだけで、全身ピリピリするのに・・・。
「バカなこという君が悪いんだ」
拗ねた子供みたいに、宮はもう一度俺におまけの一発を食らわせる。
「バカっていうなよぉ〜…」
自分でもこれでもかぁっ、てほどわかってるんだからさ。
プゥって頬を膨らませれば、そのピンクに火照った頬を宮の両手によってつぶされて口から空気が漏れる。
こう、両頬をむにゅっとね。
「人を好きになるのに、資格や条件がいるのかい?」
宮の言うことは正論だ。
「君は、英吏のそんな条件なんかを好きになったのかい?」
「……ち、…がう…」
違うよ。そんなんじゃない。
いきなり胸がキュンってして、ああ、俺はこの人が好きなんだなぁって、思ったんだ。
「だろう?」
「で、でも……………英吏はそうじゃないかもしれないじゃん」
そういって、また口を膨らませれば、今度は結構強く、また宮に潰される。
ううん、これってきっと…叩かれたんだ。
だって、頬がヒリヒリしてるもん。
「ライバルの事をこんな風に言うのはどうかと思うけど…」
そう前置きして、宮は断言した。
「英吏は君が思っている以上の男だよ」
ココロは、何も言えないまま保健室をあとにした。
俺って、英吏の何を見てたんだろ。
ココロは寮に向う途中で、大きなため息をつきながら、そんなことを考えてた。
物語の主役なんかじゃない。
好きになって、恋愛して、えっちしたら終わりなんて、ハッピーエンドになるわけがない。俺は恋愛小説の物語をやってるわけじゃないんだから。
「やあ、ココロさん」
後から急に声をかけられた。
でも、自然と驚かなかった。
もしかしたら、こんな展開を期待してたのかも。
「…………新さん」
振り向いた背後にいた新は、本を抱えニコニコしている。
「どうしたんですか?今日は授業にいなかったですよね」
「………具合が悪くて…」
適当に誤魔化してさっさといなくなろうとしてたのに、新はそれを許さない。何気に行く先を邪魔して、道を塞いでいる。
「そうですか。大丈夫ですか?」
「は、はい…」
ずっと下を向いて、まったく視線を合わせようとしない俺を、新は笑った。
「そんな警戒しなくても、もう何もしませんよ」
「っ…」
そんなこといわれたら、まるで俺が期待してたみたいじゃないかっ!
ココロは顔を真っ赤にさせて、グッと顔を持ち上げる。
「でも、なんだか大変なことになってしまいましたねぇ」
あ、学校新聞………見たんだ。
でも、当事者なのに、新さんだって…。
「僕としては嬉しいですけどね。君と既成事実が出来てしまえば、僕と君は晴れて恋人ですから」
あ、相変らず強引と言うか…なんというか。
「俺は…英吏が好きなんですっ」
震える声で言えば、ますます新は笑った。
「その英吏が君を好きじゃなかったら?」
「ぇっ?」
思わずホンネで聞きかえす。
英吏が………俺を…好きじゃない?
「君は男の子だよね。新聞でも危うくバレそうだった」
確かに、俺は男だよ。
十七年間、男で生活してきたし、戸籍でもちゃんとそうなってるさ。何回も、何回も間違えられたことあるけど、俺はれっきとした男だよ。
「じゃあさ、英吏はゲイ?」
「……」
うーーーーーん…。男の恋人がいたことがあるみたいだけど、女の子の恋人もいたことあるんだよね。じゃあ、ゲイってわけじゃあ、ないのかな。
「…違う、かも」
「そうですよね」
満足そうに新は微笑む。
一体何が言いたいのさ…はっきり言えばいいじゃん。
「英吏って、もしかして君にヒトメボレしたんじゃないですか?」
確かに、そんな事言ってたかも。
…………いいえ、言ってました。
英吏の言葉の全てを、俺ちゃんと覚えてるもん。
囁いてくれた甘い言葉も、………鬼畜たっぷりなえっちぃ事も。
後者は忘れたくても、忘れられないって言ったほうが正しい気はするけど。
答えがない俺を見て、答えを見出したのだろう新が、勝手に話を続ける。
「やっぱり…そうですか」
「な、何がやっぱり…なのさ」
じりじりと間合いを狭めてくる新に、俺はヤバイと感じつつも聞かずにはいられなかった。だって、新さんは、俺なんかより英吏のことをよくしってるから。
俺の背中が冷たい壁にぶつかった。
「ヒトメボレってことはですよ、つまり、顔を好きになったんじゃないんですか、それって」
え…それって…。
なんか…。
「もし…もしだけど、君の顔が好きっていうんなら、君じゃなくても良いんじゃない?」
わざと俺の耳に息がかかるくらい傍でしゃべる。
耳朶に少しだけ舌が触れて、ぎゅって目を瞑ってしまった。
「で、でも…俺の顔は俺だけだもんっ」
言いように言い包められてたまるか、と俺も言い返すんだけど、そんなの予想済みだったみたいで、すぐに言い返された。
「そうですか?君は、ある人にそっくりだと言われませんか?」
そう言われて、俺はハッとする。
もしかして、新さん…。
「気付きましたか?君と同じ顔で、君よりずっと我々の傍にいた人の事を」
俺がすぐには名前を言いたくなくて、黙っていると新さんはさも可笑しそうに笑った。そうだ…俺は忘れてたんだ。ある事に。
「いるでしょう?君より英吏を知っている人、そして英吏も君より深く知っている人を」
嫌だ。
そんなわけ…ない、ないじゃないか。
やめてくれっ!
「根元…ヒトミさんという人物が」
「違うっ!」
新が言い終わらないうちに、大声で叫んでいた。
「違う…そんなわけない!そんなわけっ」
ココロの身体は震え、瞳は泣き出しそうに潤んでいる。
新はそんなココロの頬に優しい触れるだけの口付をすると、哀れんだ顔をした。
「可哀想に。君はヒトミさんの代わりをさせられてたんじゃないですか?」
「………っ!」
そんなわけない、そんなわけないっ!
俺は首をちぎれるほど左右にふる。
零れそうになった涙が、衝撃で溢れ流れて頬を伝う。
「違うっ!そんなわけっ……」
受け止めきれない数々の情報は、俺の頭の飽和量を超えている。
もう、わかんないっ!
みんな勝手なことばっかし言うんだもんっ。
わかんないよっ。
走り出そうとする俺の右腕を掴み、新さんは胸の中に引きずり込んだ。
「ふっ…んっ…ひっく」
「泣いてくださって結構ですよ。でも、ちゃんと受けとめてください」
そんな無理だよ。無理だよ…。
俺は…ヒトミの代わりなの?
ううん、考えれば最初から考えられたコトじゃないか。でも、きっと一回もそう思わなかったのは、考えないようにしてたから。
「っ…あっ…ひっく、新さん…俺、俺っ…」
新さんにぎゅっと抱かれて、こんな所で泣いてたらまた写真とかとられちゃうのに、俺は新さんの身体を押し返せなかった。
俺は、ヒトミと背格好、顔まで似てるって言われてる。
本当は、男と女が恋愛するのが普通なんだよね。
英吏はわざわざ俺なんかと付き合わなくても…いいんだ。
むしろ、煩わしいこといっぱいじゃない。男の俺と付き合ってても。
おおっぴらに言えないし、デート…あんまりできないし。
「っ…んっ…ふぅっ…」
涙が溢れてきて止める事が出来ない。
代わり?
代役?
そんなわけない、そんなわけない、と思いつつも、涙は止まらなかった。
「詩織さぁ〜ん。どうやって根元ヒトミを処分するんですかぁ?」
詩織シンパが詩織の機嫌を損ねないように、慎重に聞く。
道明寺詩織の英吏好きは学校でも有名で、恐ろしいくらいの溺愛ぶりと称号までついている。
でも、その子の心配に反して、詩織はご機嫌だった。
「ちゃんと考えてるわよ」
絶対、許すもんですか…。
まずは、英吏様との仲が壊れてしまえばいいんだわ。そして、それには、あの噂を利用しない手だてはない。
「あたしは英吏様のほうをやるから。加奈子たちはちゃんとそっちをやるのよ」
自分の右腕…と一目置いている親友の加奈子には作戦をもう伝えている。
その名も…。
「『暴いて、奪って、ラブラブぶち壊し大作戦』!」
道明寺が言いきると、周りからは大きな拍手が起こった。
「説明は加奈子、あんたからしなさい。決行は明日。みんな間違えるんじゃないわよっ」
道明寺はそういうと、高笑いしながら廊下を歩いていった。
その夜、英吏も、ココロも、道明寺も眠れぬ夜を過ごしたのは、言うまでも無い。
続く。
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